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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第4章 訓練の開始編

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第49話 訓練の開始

 フェルの案内によって、新たに天神市郊外の一軒家を隠れ家として手に入れた浬達。そこで、とりあえず自らの腕前を披露する事と相成っていた。

 とは言え、ここで疑問が出たのは、浬達4人だ。彼女らの力量なぞ、その鍛錬についているフェル達が一番よく理解していた。


「えっと・・・私達も? 必要あるの?」

「お互いがどの程度なのか、というのは全員が知っておかなければ、問題だ」


 浬の問いかけに、フェルが一度見せる事を促す。お互いがお互いにどの程度なのか、というのを把握しておけば、アドバイスをし合えるのだ。となれば、教えを請うだけでは無い練習方法も出てくる。フェルはそれを選んだのである。


「えっと・・・じゃあ、私から・・・」


 フェルからの言葉を受けて、それなら、と浬が目を閉じて意識を集中する。魔力を出す程度ならば、もう問題は無かった。


「こんな所、かな」


 浬は紅に染まった虹色の魔力を生み出すと、それを操って適当に思いついた形――目の前に泊まっていた小鳥――に練り上げる。

 別に彼女らは煌士達の様に魔法陣を扱えるわけでもないし、魔術を使いこなそう、という想定のもとで鍛錬をしていたわけではない。呪いを解呪するのが、目的だ。この程度しかできていなくて当然だった。


「虹色・・・初めて見る色ですね」

「気にするな。数億人に一人かその程度で現れる極稀なだけだ。特別な事は無い」

「ふむ・・・そうなのか?」


 まあ、出現率がそんなのだから、当然、煌士達三人は見たことが無かった。それ故、疑問に思ったらしい煌士がフェルに問いかける。どうやら学者肌である彼はそこの所に疑問があったらしい。それに対して、フェルが道理を説いた。


「一つ聞くが・・・お前らは全員同じ色か?」

「む?・・・いや・・・確かに。全員別の色、か。なら虹色、という色と捉える事も出来る、か・・・?」


 問われた煌士は、自らで推測を組み上げる。誰もが別の色だ。ならば、虹色、という色があっても良い様に思えたのである。


「そもそも、緑色紫色にせよ、原色では無い。ならば、それは別の色が組み合わさっている、とも取れるのか・・・いや、失礼。続けよう・・・では、次は我輩が」


 自らの推測で鍛錬の腰を折った、と思ったらしい煌士は、次に自分が、とかって出て、自らも魔力を生み出す。色は白色だった。どうやら小鳥の姿を練りだした浬に触発されたらしく、自らも腕を振るわねば、と見事な猫を作り上げる。繊細さで言えば、浬以上だった。


「ふむ・・・腕前は見事、か。才能はあるな」

「ありがたい」


 どうやら初心者にしては、まあ見れるレベルだったらしい。フェルの称賛を受けて、煌士が感謝を示す。そして、主がやったのだから、と次は詩乃が挙手する。


「では、次は私が・・・」


 彼女は落ち着いた明るい紫色の魔力を練って、煌士の物よりは繊細さは低いが、犬を創り出す。


「猫よりも犬派です」

「うむ。まあ、悪くはない・・・では、次だ」

「では、私が」


 フェルの言葉を受けて、空也が名乗り出る。そうして、彼はここ数日欠かさず練習をしていた竹刀を創りだして、それを一気に実体化させるまでに至らせる。流石にここまで先んじていた事には、繊細さでは誰よりも先んじていた煌士も驚きの声を上げた。


「なっ・・・」

「ほぉ・・・見事だな。実体化までさせられるか」

「・・・」


 フェルの称賛だが、空也には答える余裕は無いらしい。現に一筋の汗が額から流れ、それが落ちたのをきっかけとして、実体化した竹刀は消滅した。まだまだ集中をしなければ、実体化には至れていなかった。


「はぁ・・・」

「ふむ。まあ、実体化が出来る、というのは良い筋だ。が、まだまだの様子だな」

「はい・・・」


 流れた汗をハンカチで拭い、空也がフェルの言葉を認める。そうして、フェルが一つ思慮して、更に問い掛けた。


「ふむ・・・貴様、竹刀の実体化は良いが・・・再現度はどうだ?」

「? どういうことですか?」

「いや、重さ、大きさ、強度、全ての再現は出来ているのか、と問うているのだが?」

「はぁ・・・一応、全てを再現してみよう、と考えて居ますが・・・」

「なら、一度その状態で渡せ」

「あ、はい」


 フェルからの指示を受けて、空也はもう一度集中して、魔力で作り上げた竹刀を実体化させる。そうして、集中状態の空也からフェルは竹刀を受け取って、それを振るってみせた。


「ふむ・・・重さ、強度、大きさ・・・良く出来ている。どうやら適正があるらしいな。もう良いぞ」

「はい・・・ふぅ・・・」


 再び流れた汗を拭いながら、空也が思わず床に腰を下ろす。とりあえず出来る事を、ということで今の自分が出来る最大の所を披露したのだが、それ故、疲労度も尋常では無かったのである。そうして、空也の力量に納得したフェルに対して、煌士が少し興奮気味に問い掛けた。


「適正とは如何なるものなのだ?」

「ん?」


 煌士が疑問を持ったのは、フェルの告げた適性がある、という言葉だ。重さや大きさ等を確認した上での発言なのだから、必ず何かの意味があるのだ、と判断したのである。


「そうだな・・・今、こいつは竹刀を魔力で創り出してみせたが、これは普通は出来る事ではない。普通は何かが足りず、まともに使える物は作れない。これが、普通だ。まあ、当然だ。魔力とは所詮、鉄等の物質ではない。如何に利便性の優れた魔力であろうとも、鉄等として実体化することは容易ではない。が、極稀にだが、それが出来る奴が居る。それが、そこの小僧だった、というわけだ」

「む・・・ということは、我輩では出来ない、という事か?」

「さて・・・貴様の適正を見ない事には、なんとも言えん。が、出来ると思うか?」

「ふむ・・・」


 フェルに問われた煌士は、意識を集中して、魔力で竹刀の形を創りだそうとしてみる。そうして、これは一応、成功した。が、次からが、問題だった。


「・・・む? 重さは・・・む・・・む・・・むぅ?」


 煌士が竹刀を創りだそうと思っても、重さは思い出せないし、大きさも曖昧な大きさでしか思い出せない。強度に至っては思い至るまでにもたどり着いていない。そうしている内に、悩みに反応したのか、竹刀の形だった魔力は雲散霧消する。


「そういうわけだ。物凄い練習量を誇った奴だけが、普通は出来る事だ。まあ、時折それでも例外が現れるがな。歴史上数人、というレベルだ。今の時点でそれでは、貴様に適正は無さそうだな」

「むぅ・・・まあ、致し方がない。空也はそもそも十数年以上竹刀に触れている。その練度に我輩が敵うはずも無いな」


 少し残念にしながらも、煌士は自らでは無理だ、という事を納得する。幼馴染として、煌士は空也がどれだけの練習量を誇っているのか、というのを客観的な事実として、理解している。そしてそれは実績として、空也は世界大会レベルという結果で現れていた。

 それと頭脳派として研究に勤しむ自らを比較しよう、とは如何に天才と言われる彼とて露とも思っていなかった。そうして、そんな煌士に頷いて、フェルは空也に再び視線を戻した。


「そういうことだ。とは言え、今の練習量で竹刀を創り出せた貴様だ。おそらく、刀や剣全般を創り出せるだろう。要領は同じだからな・・・貴様、前に刀を持った際に、冷たさか何かを感じていないか?」

「え、あ、はい。返って来る感覚に、何か冷たい物を感じました」

「やはりな。おそらく、適正があるが故に、感覚が鋭敏になっているのだろう。練習次第だが、妖刀魔刀、聖剣魔剣の類にならなければ、刀も創り出せる様になるはずだ」


 空也からの返答に、フェルは彼の適正についてを教えてやる。ちなみに、この時点で空也が何故あの謎の男に狙われたかをフェルは把握したが、どうでも良い事なので黙っている事にしたらしい。教えた所で狙われるのは一緒、だからだ。


「さて・・・では、次は誰がやる?」

「あ、じゃあ・・・」


 そうして、次に手を挙げたのは、鳴海だ。そうして、彼女が魔力で編み出したのは、筆だ。先ほどの言葉を聞いて、ずっと嗜んできた物を、と思ったらしい。


「実体化は無理」

「ふむ・・・む。そういえば、貴様。筆で速記も出来たか?」

「え? いや、まあ・・・うん・・・え、待って。どうして知ってるの?」


 鳴海は問われた問いに頷いてから、何故知っているのか、という事に驚く。誰にも語った記憶は無かったのだ。


「気にするな」

「そんなの出来るわけないでしょ!」

「はぁ・・・ただ単にハッキングしただけだ。私では無いぞ。英国に居るハッカーに頼んでな」


 鳴海の怒声に、フェルがうざったそうに真実を告げる。別に隠している事でも何でも無かった。


「え、英国のハッカー・・・」

「マーリンと言う名だ。まあ、知り合いの魔術の弟子でな。奴に頼んだ」

「ん? マーリンという名の魔術師・・・? それはもしや・・・あの伝説のアーサー王のマーリンでは無いか!?」


 フェルから出された名前に、煌士が大興奮で問いかける。まあ、アーサー王伝説では必ず語られる名だ。興奮するのは仕方がない。とは言え、彼女が語ったのは、その当人では無かった。


「その名を継いだ魔術師だ」

「おぉ・・・!?」


 当人では無いのだが、煌士にはどうでも良かったらしい。そうして、そんな煌士の所為で、結局ハッキングの件については有耶無耶のまま、そして更に何故速記について問い掛けたのかも不明のまま、次に進む事になった。


「まあ、あたしはこんなもの、だよ」


 次は侑子だ。彼女は特段魔術的に秀でた技量は無く、運動神経が高い、という程度だった。なので魔力を球にするのが精一杯な様子だった。そして次は、海瑠の番だ。


「・・・こんな所?」


 繊細さでは、一番上手だったのは彼だ。まあ、魔眼という特殊な力を持ち合わせていた事と、兄という特殊な存在に誰よりもいち早く魔力の手ほどきを受けていたおかげで、細かく操る事が出来たのである。が、その年数にしては、腕前としては普通程度、だった。


「・・・まあ、貴様らは普通か。が、まあ、身体能力の高い木場はともかく、魔眼しか取り柄無さそうだな、貴様は・・・」

「うぐぅ・・・」


 改めて戦闘向きの才能は無い、と明言されて海瑠が落ち込む。そうしてそんな海瑠を横目に、フェルは一同の訓練内容を考え始める。


「さて・・・どうするか・・・」

「あの・・・一つ良いかな?」

「なんだ?」

「結構真剣に考えてくれてるよね」

「む? そういえば・・・そうか」


 鳴海の指摘に、フェルがふと気付いた。各人の適正を考えたり改めて全員の力量を見たり、と確かに、妙に気合が入っていた。それに、小鳥状態のカイトが答えを与えた。


『こいつ、その昔にゃむちゃくちゃ多くの弟子を訓練したからな。血が疼いた、という事だろうさ』

「ふん・・・まあ、そいつらとは比べ物にならないほどに低練度だがな」


 カイトの言葉に、フェルが頷く。その昔、という事なのだから、おそらく彼女がまだ何処かの集団に所属していた頃の話、なのだろう。と、そんな所に、御門がやって来た。


「はぁ・・・お前もやる気か」

「ん? ようやくのお出ましか。どうした?」

「はぁ・・・転校生が急に来る事になってな・・・そのやり取りで忙しかったんだよ」


 少し疲れた様子で、御門が告げる。急に、という事なのだから、彼らの情報網には無かったのだろう。であれば、ここまで彼も疲れるのも仕方がない事、なのかもしれない。


「で、それがどうした?」

「それが、厄介な奴と言うかなんというか・・・はぁ・・・」


 非常に疲れた様子で、御門がため息を吐く。と、その更に後ろから、一人の少女が顔を出した。流れる様な金糸の髪に、整った肉体。美の女神と見紛うばかりの顔。だというのに、凛とした雰囲気は、武人のそれ、だった。

 まあ、それもそのはず。彼女はギリシャ神話にありては美の女神とタメを張れるほどの美しさを持つ、戦女神だった。つまり、女神アテネであった。まあ、彼女が入ってくる、というのだから、御門が疲れるのも仕方がないだろう。


「ルル殿。お久しぶりです」

「ああ、アテネか。ああ、貴様が転校生なのか」


 フェルの言葉を受けて、アテネは持ってきていた紙袋を差し出した。手土産、というわけである。


「ええ。そういうわけですので、挨拶に伺わせて頂きました。こちら、一応の進物になります」

「え・・・?」

「ほぉ・・・ギリシアワインか。当たり年の物だな。確かに、受け取った」


 フェルの言葉を認めたアテネに、全員が絶句する。まあ、誰もが知る神様だ。それが転校というか転入してくるとは、誰も思わないだろう。そうして、アテネからの手土産にごきげんなフェルが、アテネに告げる。


「ああ、そうだ。どうせ貴様も同じ考えだろう? 手を貸せ」

「もとより、そのつもりです」

「やれやれ・・・まあ、お前ら・・・こいつら神様達の中でも超スパルタで有名だから、頑張れよー」

「え・・・ちょっ・・・」


 疲れた様子で片手をひらひらと振って隠れ家から去って行く御門に、一同は何も言えぬまま、それを見送るしか無かった。彼は帰って女でもナンパして寝る、との事だった。


「では、はじめましょうか」

「え、あ・・・はい」


 急に入ってきて音頭を取り始めたアテネに、一同は頷くしかない。そうして、アテネとフェルという師匠を得て、一同は訓練に入るのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回は来週土曜日21時です。

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