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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第3章 騒動の開始編

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第44話 式神達との戦い

 唐突に現れた男によって、奇妙な結界の中に囚われた浬達。そうして、男が去り際に投げ捨てたのは、いわゆる、式神と呼ばれる紙で出来た使い魔の一種、だった。


「式神? っ! 来るぞ、全員、大急ぎで逃げるぞ!」


 煌士の声が、誰もいなくなったショッピング・モールの中に響き渡る。逃げ場は多いが、同時に、逃げ道は無かった。結界の内側に囚えられている事は簡単に理解したのだが、同時に、そこから抜け出す事が出来ない事ぐらい簡単に理解出来たのだ。


「空也! 逃げるぞ!」

「っ!」


 戦うべきか、逃げるべきか。なまじ刀を渡された所為で悩んで足を止めた空也に対して、煌士が声を荒げる。式神達の力量がどれほどの物かはわからないが、勝てる見込みはそもそもで無いだろう。


「ええ!」

「空也、殿を任せる! 詩乃! お前はナイフを取り出して、空也と共に殿を務めてくれ! 我輩が先に行く!」

「かしこまりました」


 空也と共に、詩乃が殿を務める事にする。浬と海瑠の姉弟に殿どころか戦う事を期待するのが間違いだ。彼らは逃げるだけで手一杯で、戦うのは出来ない。


「海瑠! あんたの魔眼でどうにかなんないの!?」

「できたらやってるよ! でもなんにも見えないよ!」


 後ろから迫り来る式神達から逃げながら、浬が海瑠に問いかける。この状況下で頼れるのは弟の魔眼だけ、というのがなんとも情けない事だが、それしかないのが事実である以上、仕方がなかった。


「使えない!」

「うるさいよ!」

「・・・意外と大丈夫そうだな」


 逃げながら姉弟喧嘩を行う浬と海瑠の姉弟に、煌士が少しだけ頬を引き攣らせながらも、安堵する。何が一番厄介なのか、というと、パニックを起こされて隊列を乱される事だ。そうなれば、戦力の分散が起きて、一気にノックダウンだろう。彼の言葉が確かなら生命までは取られないだろうが、それは望む所ではなかった。


「あー、もう! こんななら、もっと高いの買ってもらえば良かった!」

「ホントだよ! あ」

「なんだ、どうした!」


 いきなり立ち止まって声を上げた海瑠に、煌士が問いかける。彼の魔眼は信頼するに値するのだ。こんな状況下で止まったのだから、何かがある、と考えてもよさそうだった。


「こっち! 回りこまれてる!」

「っ!」


 立ち止まった海瑠は姉の手を引くと、一目散にショッピング・モールの曲がり角を曲がって、吹き抜けの逆側の通路へと走る。そしてその言葉が確かである事を示すように、煌士の後ろから、式神達の大群がわらわらと現れた。


「さすが<<魔眼(イビル・アイ)>>! 道案内は海瑠に任せよう!」

「あ、はい!」


 まさに魔眼というべき利便性を発揮して自らの危機を回避してみせた海瑠に、煌士が歓喜の声を上げる。不謹慎だが、楽しくて仕方がなかったようだ。まあ、そんな彼らだが、一つ忘れていた事がある。それは他ならぬ海瑠の体力の事だ。


「ぜぇ・・・ぜぇ・・・も、もう無理・・・」

「ほんっとにだらしない! ほら!」

「ちょ、もう無理・・・」


 ゆっくりと速度を落とした海瑠の手を、浬が引いて走り始める。まあ、敢えて言うまでも無い事かもしれないが、海瑠は体力が無い。

 それに対して、この場の海瑠以外の面々は体力は並の中学生どころか高校生と比較しても良いぐらいの体力を持っている。それと全力疾走でタメを張ろうというのは、まあ、無理だったのである。


「お姉ちゃん・・・その先、アウト・・・」

「は!?」

「ちっ・・・ダメだな。ジリ貧は変わらない、か・・・二つ先の右の商店に逃げ込め!」


 どうやらまた回りこまれていたらしい。海瑠の言葉にそれを察した浬が焦り、煌士がこのままではスタミナ切れになって無抵抗のままタコ殴りになるだけ、と気付いて籠城を決める。

 二つ先の店にした理由は、そこの店の出入り口に扉があったから、だ。ファッション系の店の様に扉のないオープンな店舗だと敵が入り込みやすいので、少しでも入り込める場所の少ない店を選んだわけだ。そうして、店に入ると同時に、浬が海瑠を突っ込んで奥に吹き飛ばす。


「ほら、海瑠!」

「うわ! はぁ・・・はぁ・・・」


 どうやら海瑠の体力的にも限界だったらしい。強引に奥に移動させられた海瑠は、そのまま店の床に倒れこんで、息を荒げる。


「空也、詩乃! そこらの棚でバリケードを作るぞ!」

「ああ!」

「わかりました!」


 煌士は空也と詩乃が店に逃げ込んだのを見ると同時に、陳列物を入れる棚を強引に倒して、即席のバリケードを作り上げる。結界の外の店に影響が出るかどうかは分からないが、非常事態だ。そこの対応まで考えている暇は無かった。


「これでなんとか・・・なってくれませんね!」


 バリケードを作って一件落着、と言うわけにはいかず、空也が顔を顰める。確かにバリケードは一定の役割を果たしてくれて扉が開かない様に固定しているが、式神達はそれを強引に突き破ろうとしているのか、轟音が鳴り響いていた。


「さて・・・どうするか・・・」

「煌士様。籠城を選んだのは良いのですが、救援のアテはあるのですか?」

「正直に言って、無い」


 詩乃の問いかけに、煌士が首を振る。籠城を選んだのはこれ以上は逃げきれない、と体力的な物を考えての事だが、その後は考えられていなかった。そうして、スマホを確認していた空也が首を振る。


「スマホは・・・ダメ、ですね。圏外です」

「後は刀花殿が異常に気付いてくれるか否か、か・・・」


 煌士が息を整えつつ、頼みの綱を考える。それは当然、先ほど出会った刀花の事だ。刀花が選択肢なのは、あのカイトは使い魔だ、という話なので、そこまでの力があるかどうかは、分からなかった事が大きかった。そうして、一同は少しの間、休息を得る。


「海瑠くん。外の様子は見えますか?」

「あ・・・やってみます」


 少し休んだ事でなんとか体力が回復出来たらしい海瑠が、空也の求めを受けてメガネを外す。海瑠はそうして入ってくる光量に目を僅かに顰めるも、意識してバリケードの外を観察する。まあ、それでも幸いにして人が居なかったおかげで、そこまで負担が掛かるわけでは無かった。


「っ・・・人の形が見えます・・・えっと・・・それで、壊そうとしてる? 多分、剣か何かを振るって、壊そうとしてます」

「ちっ、やはり、か・・・」


 海瑠の言葉に、煌士が顔を顰める。とは言え、何も出来ないわけではない。出来る事は、あった。


「煌士、用意は?」

「もう少し掛かる」


 空也の問いかけに、煌士が地面に無数の模様を書き込みながら告げる。作っているのは即席の魔法陣だ。万が一に備えて魔法陣を描くための道具を持っていた事が、功を奏した。


「煌士様。術式の構成は?」

「紙だ、ということで火が効果的と思うが・・・どうでるかわからん」


 扉を取り囲む様に魔法陣を構築する煌士は、詩乃の問いかけに作業の手を止めること無く答えた。作る魔法陣は3つ。同時に使うわけではなく、三方向からの波状攻撃、というわけだ。


「良し! 出来たぞ! 今回も吾輩の自信作!」

「よろしゅうございます」

「うむ! では、右は吾輩、左は詩乃、正面は空也! 任せるぞ!」

「ええ」

「かしこまりました」


 煌士の指示を受けて、空也と詩乃が所定の魔法陣の上へと移動する。そうして、準備が出来た所で、煌士が海瑠に指示を送った。


「海瑠! すまないが、また頼むぞ!」

「はい!」


 海瑠の辛そうな顔を見て、浬が強引にメガネを掛けさせていたのだが、それを再び海瑠が外す。そして休んでいる間に煌士もメガネを外した状態での魔眼の使用が負担が掛かるのを聞いたが、現状、それに頼るしか手が無かった。

 そうして、暫くの間、式神達が扉を叩く音だけが、響き渡る。だが、それがある時、音が変わる。今まではガン、という金属を叩き合わせる様な音だったのだが、どぉん、という様な轟音に変わったのだ。


「・・・っ! 来ます! なんかむちゃくちゃ大きな棒で突き破ろうとしてます!」

「っ! 行けるな! 初手は全員同時! その後は10秒刻みに交代!」


 突き破ると同時に雪崩れ込んでくる事を想定して、煌士が指示を送る。そして、それから数秒。轟音と共に、バリケードが破られる。


「今!」


 三人が同時に、魔法陣に魔力を通して、扉に向かって火炎放射を放つ。どうやらそこまで悪辣な対処はされていなかったらしく、雪崩れ込んできた式神達は、それで消し炭になった。


「良し! なんとかいける!」


 消し炭になった式神を見て、煌士が満足気に頷く。実はこれがもし科学による火炎放射なら効果は薄かったのだが、その点、魔法陣だったことが、功を奏した。そうして、暫くの間、膠着状態に陥る。


「詩乃! 魔力はまだ大丈夫か!」

「はい!」

「空也は!」

「こっちもまだ大丈夫です!」

「よし・・・」


 問い掛けた煌士が、二人の返答を聞いて、安堵の溜息を漏らす。この調子で行けば、遠からず誰かは救援に来てくれるだろう、と思ったのだ。が、流石にそうは問屋が卸さない。次の瞬間、海瑠が悲鳴を上げた。


「うわぁ!」

「なっ!」


 扉を防備していた三人が、海瑠の叫び声に気付いて店の奥を振り返る。すると、どういうわけか、そこには式神が入り込んでいた。


「っ! どうやって!?」

「そんな事は後です! 煌士、詩乃さん! 少し任せます!」


 どうやって、という煌士の疑問に対して、空也は横に置いた刀を引っ掴むと、立ち上がる。入り込まれてしまったのだから、後は近接戦闘しか手は存在していない。そしてそうなると、後は空也ぐらいしか適役は居なかった。


「天道流剣術、天城 空也! 参ります!」


 空也は刀を鞘から抜くと、それで海瑠に襲いかかろうとしていた式神をなぎ払う。


「っ!?」


 どうやら、式神はそこまで高性能では無いらしく、空也程度の魔力を込めた斬撃で真っ二つに両断される。だが、それと同時に、空也からごっそりと魔力が持って行かれた。どれだけの力を込めれば良いのかわからず、刀全てに魔力を込めたのだ。


「こんなに重かったのか・・・」


 少しだけ息を荒くした空也が、顔を顰める。心を鍛えるための道具である竹刀とは全く違う、真実、人を殺すための道具。それがここまで違うとは、思いもよらなかった。重さも然り、魔力を通した際に使い手にフィードバックするその冷たさも然り、だ。

 塚原卜伝に言われたことが、実際に手にとって見て、よく理解出来た。空也が想像する以上に、全く違う物、だった。そうして、その次の瞬間。横合いから、紙で出来た手が、突き出される。


「っ!?」


 空也は目を見開いたが、咄嗟の判断で身を屈めて、それを避ける。


「二体目!? 何故!?」


 顔を上げた先にあった別の式神に、空也の驚きが響く。そこに、煌士の声が響いた。彼はこちらを少し離れた所から見ていたおかげで、何が起きたのか見れていたのだ。


「空也! 小型化して入ってきていたようだ! 他にも数体紛れ込んでいるぞ!」

「っ! なるほど・・・ですが、この程度なら!」


 幸いにして動きはそこまで機敏では無く、防御力にしても空也の持つ刀ならなんとか切り裂ける程度だ。なのでこのまま身動きの取れない煌士達を狙われるよりも、この場で始末を付ける事を選択する。

 そんな空也がこちらへの戦線復帰が無理そうなのを見て、煌士が顔を顰める。少しでも式神について知識があれば想定出来た事だったが、その知識の無い彼らにとって、小さくなって何処からか入り込んでくるとは予想外だった。


「ちっ・・・」


 どうするべきか。このままでは遠からず、敗北する。それは煌士の頭では無くても、簡単に理解出来た。幾ら息抜きとしてクールタイムを設けているとはいえ、煌士達は魔法陣を最大出力で使っているのだ。

 おまけに空也が抜けた事で、そのなけなしのクールタイムは一気に半減した。遠からず、魔力は底を突くだろう。だがその前に、空也が立っていた場所に、浬が立って、魔法陣に手を当てた。


「えっと確か・・・こうやって・・・はっ!」

「は・・・?」


 空也に変わって魔法陣に魔力を通した浬を見て、煌士も詩乃も目を丸くする。まさか彼女がこんな事が出来るとは思いもよらなかったのだ。


「で、出来たのですか!?」

「うん。魔力の扱い方習ってるし」


 平然と答えた浬に、問い掛けた詩乃も煌士も目を瞬かせるしかない。とは言え、よくよく考えれば、理解出来た事だった。カイトの正体を知っているのだ。それは即ち、魔力関連について知っていないと、おかしかったのである。


「で、これ、どうするの!?」

「とりあえず、耐えろ!」

「ちょ! それしかないわけ!?」

「ないっ!」


 煌士の返答に、浬がしまった、という様な感を出す。咄嗟に身体が動いたから出てきたのだが、ジリ貧なのは彼女から見ても簡単にわかったからだ。だが、三人が膝を屈する前に、攻撃が、やんだ。


「え?」

「いや、遅れてすまないな。外で妨害にあってね」


 外に屯していた式神達が一瞬で消し炭になり、更には火炎が切り裂かれて、巫女服姿の少女が現れる。こうして、浬達はなんとか、無事に救出されたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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