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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第3章 騒動の開始編

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第42話 交わった道

 煌士の実験の報告会から、数日。この日は朝から休日で、浬と海瑠は外に出る事にしていた。まあ、その理由は簡単で、兄からご褒美があった、という事が海瑠の耳に入ってしまった、という事であった。それで拗ねられて、カイトが致し方がなし、と三兄妹揃って出掛ける事にした、というわけだ。


「むー・・・」

「いや、ほんとに悪い。お前もよく頑張った」


 不満気な海瑠に対して、カイトが苦笑気味に称賛する。あの時は服が破れただの汚れただのと不平不満を言う浬を宥めるための方便に近かったのだが、実行には移していたし、それがバレてしまっては致し方がない。

 ちなみに、カイトが一緒ならフェルもいそうなものだが、流石に彼女も兄妹の団欒を邪魔するつもりは無かったらしく、自宅で休んでいる、という事で一緒では無い。魔力については昨夜の内に補給をしたので今日一日遊んでも問題は無い、との事だ。


「でだ・・・じゃあ、どこ行く?」

「え・・・?」


 カイトに問われた海瑠が、目を瞬かせて首を傾げる。どうやら拗ねたは良いものの、何がしてもらいたいのか、というのは一切考えていなかったらしい。そうして、どうするか悩み始めた海瑠を横目に、浬がカイトに告げる。それは彼の服装の一部について、だ。

 浬が一緒なのはただ単にお昼は何処か高い所になりそうだ、と言うことを嗅ぎつけて、強引に兄に同行をねだったのである。女に甘いカイトであるが、同時に妹にも甘いのであった。まあ、実は密かに自分の買い物もねじ込めるかも、という魂胆が無かったわけではない。


「と言うか、サングラス外せば?」

「いや、これないと面倒が増えるからな」

「芸能人じゃあるまいし・・・」


 カイトは顔の印象を隠すために、大きめのサングラスを身に着けていた。まあ、似合っているのは似合っているのだが、同時にそれが逆に目立ってもいた。が、カイトとしては顔を隠す方を主眼としているので、仕方がない。


「で、とりあえず・・・どこ行く?」

「うーん・・・じゃあとりあえず、ゲーム欲しい」

「あいさ。じゃあ、とりあえずショッピング・モールに行くか」

「うん」

「おっしゃ」


 海瑠の望みを聞くと、カイトはサイドカーに二人を乗せて、バイクを走らせ始める。ちなみに、自分の目論見通りにショッピング・モールへ行くことになった海瑠が小さく歓喜の声を上げた事には、二人は気付いていないのであった。




 そうして出発から、1時間。とりあえずは海瑠の買い物は、終わった。


「これ・・・ほんとに良いの?」

「ああ・・・まあ、浬に買っといてお前にゃ無し、ってのもどうかと思うからな。安心しろ」


 海瑠が買ったのは、最新型のゲーム機のソフトを同梱した限定版だった。偶然売っているのを見かけて、良いな、と思っている所に兄が許可を出したのである。


「で・・・妹よ。お前も買う気か」

「うん」


 カイトは睨んで問い掛けたわけなのだが、まあ、効果は無かったらしい。普通ならばカイトの睨みとなるとドラゴンも素足で逃げ出す物なのだが、妹には血縁による特典なのかなんなのか、無効化する様な何かがあるらしい。


「妹が綺麗になってお兄ちゃんも嬉しいでしょ?」

「幾らオレでも妹が攻略対象にゃなんねーよ・・・はぁ・・・まあ、安いの選んだから良いんだけどな」


 まあ、それでも一応、浬もこの間の一件があるが故に遠慮はしていたらしい。カイトにねだったのは最近壊れて使い物にならなくなったらしい加湿器の安い物だ。デザインが良かったため気に入っていたのであった。この間のバイト代で買うか、と思っていたらしいが、ついでなので、とねだったのである。


「わーい、お兄ちゃん、大好き」

「現金な奴め・・・」


 嬉しそうに腕を絡ませてきた浬に、カイトは呆れる。現金な奴だ、とは思うが、カイト自身現金な奴だ、とは思っているので、兄妹が似ている証なのだろう。


「まあ、そう言っても海瑠。お前流石にそれバイト代で買ったとしても高すぎるから、フェルの家というかセーフハウス置いとけ。で、そっちでやれ。まあ、時々あいつがやってるだろうが、そこは諦めろ」

「お兄ちゃんの方がやってそうだけどね・・・」

「否定はしないな」


 海瑠の呆れた様な言葉に、カイトが笑って同意する。居候のティナも然りだが、カイトもかなりのゲーマーだ。というのも、彼らの母親が実は重度のゲーマーで、そこから遺伝していたのである。

 ちなみに、彩斗も少しは出来るので、結局ゲーマー一家、なのだろう。なお、それだけゲーム三昧だというのに、家族揃って視力は1.5を超えていた。


「さて・・・じゃあ、これで良いか?」

「うん!」

「よっしゃ・・・じゃあ、何処かで飯でも食って帰るか」

「・・・計画通り」


 カイトの言葉に、浬がほくそ笑む。この流れを理解していたからこそ、ついて来たのである。実は加湿器についてはさほどどうでもよくて、こちらの方が重要だった。

 とは言え、目論見通り、とは行かないこともあった。それは何処かのホテル等ではなく、ショッピング・モールのレストランだった。まあ、それでも良いレストランはレストラン、なのだが。


「げ・・・」

「あ、会長、空也さん、詩乃さん。こんにちは」

「おや? おぉ! <<魔眼(デビル・アイ)>>では無いか!」

「やあ、久しぶり」

「お久しぶりです」


 レストランに入って席に案内された三人だが、そこで、浬と海瑠は見知った人物と顔を合わせる。それは空也と煌士、詩乃の三人組に、高校生ぐらいの女の子、だった。

 女の子はかなりの美少女で、スタイルは整っており、顔立ちは凛とした美少女だった。髪型はいわゆる姫カットと呼ばれる物だ。服装は普通の洋服だが、ごてごてしい感じでは無く、シンプルに纏められていた。そんな女の子が、知り合いの様子の空也達に問いかける。


「知り合いか?」

「あ、はい。実は彼女らとは先のしれ・・・いえ、試験でお世話になりまして・・・」

「ああ、なるほど」


 空也は思わず試練と言いそうになって、試験と言い直す。それに、女の子の方も隠しているのだ、と大体を把握したらしい。そうして、女の子が自己紹介した


「やあ、はじめまして。私は御門 刀花。そこの桃女で生徒会長をしているよ」

「あ、どうも・・・天音 浬です。あ、こっちは弟の海瑠で、こっちは・・・兄、いえ、あの、従兄弟のえーっと・・・」

「ぷっ・・・」


 浬のなんとか言い訳を試みようとする態度に、刀花がおもわず吹き出した。まあ、嘘を言う事に慣れていない浬だ。あたふたとするのは仕方がない。そうして、そんな浬を横目に、刀花がくすくすと笑いながら、助け舟を出してくれた。


「いや、良い。彼とは知り合いでね」

「まあな。久しぶり」

「???」


 至極平然とサングラスの男と挨拶を交わした刀花に、今度は空也達が首を傾げる。刀花個人としてなのか、陰陽師としての知り合いなのか、と疑問だったのだ。


「それで、どうしたんだ?」

「まあ、色々とな。ちょっとあって飯でも食いに行くか、となっただけだ。親御さんにゃ言ってるから、誘拐とかじゃないぞ?」

「根に持つな」


 カイトの言葉に、刀花が笑う。少し前に詳細を知らない者達から刀花の一件を誘拐だの何だのと言われている事を、カイトも小耳に挟んでいたのであった。それを揶揄しての一言だ。


「で、お前こそどうしたんだよ。こんな所来るのはお前の趣味じゃないだろ?」

「ああ、実は彼らから相談を受けていてね。まあ、立ち話や私の家、というのも何だからな。ここを指定させてもらった」

「どうせ一度来てみたいな、と思っていたんだろ?」

「・・・否定はしないさ」


 カイトの揶揄に、刀花が少し照れた様子でそっぽを向く。どうやら当たりだったようだ。どうやら刀花は見た目和風美人なのに、結構大衆文化に染まっている様子だった。


「相談か。オレも協力してやろうか?」

「いや、そういう類では無いさ」

「そうか。じゃあ、こっちは適当に飯食ってるから、相談は好きにしてくれ」


 相談を受けているのなら、長引かせるのは問題だろう、と判断したカイトは、それ以上突っ込んだ事を聞くこと無く、メニューを見る事にする。

 まあ、実際に組み合わせからどんな相談を受けているのか、というのは把握していたし、内容についても聞き耳を立てて盗み聞きするつもり満々、だが。そうして、兄妹達が昼食選びに入ると同時に、相談が再開される。


「えっと・・・今のは?」

「ん? ああ、ちょっとした知り合いでね。恋人、というのでは無いぞ?」

「ああ、いえ・・・そういうことが聞きたかったのでは無く・・・」


 刀花の揶揄に、煌士が首を振る。ちなみに、流石に彼も目上の女性を相手にあのアッパーテンションで応対するわけも無い。更には向こうがこちらの援護をしてくれるかもしれない存在なのだ。心象を損ねないためにも、口調には気をつけていた。


「知っているさ。さて・・・関係を語るのに、少しだけ、頭の中を整理させてくれ」

「はぁ・・・」


 関係を語るのに頭のなかを整理する、と言った刀花に対して、煌士達は首を傾げるが、それに従う事にする。そうして刀花が考えるのは、カイトについて言及するか否か、だった。

 既に煌士と詩乃はフェルの正体の一端を知っているため、カイトを知る可能性のある立場、ではある。とは言え、教えて良いかは、分からない。さらに言えば空也も居る。どうすべきかは、悩ましい所、だった。


「ふむ・・・まあ、私の古い知り合い、という所だな」

「はぁ・・・あの・・・もしかして・・・彼は・・・」

「ん?」


 何かの可能性に行き当たったらしい煌士が何かを言おうとしたらしいのだが、言葉に出来ない様子があった。そんな様子に、刀花が何処か懐かしげに笑みをこぼした。

 ちなみに、煌士が何故カイトの事を知らないのか、というとそこまでは教えてもらえていないからだ。カイトにしても語る必要はないか、という判断で語っていなかった。


「なるほど。何か封印が施されているな」

「わかるのですか?」

「え・・・?」


 今まで全く匂いもしなかった幼馴染の封印に、空也が目を瞬かせる。一切気付けなかったのだ。


「そうか。そういうことか。なら、私も少し手を施しておこう」

「つっ!」

「何を!?」


 空也に向かっていきなり呪符を投げつけた刀花に、詩乃がおもわず問いかける。だが、呪符は空也の顔にぶつかっただけで、そのままひらひらと落ちていって、何も変化はもたらさなかった。


「いや、すまないな。簡易だが、君にも封印を施させてもらった」

「は・・・?」

「ああ、君は聞いていないのか? 私は<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>に保護されている、と」

「ええ、それは聞いています」


 刀花の問いかけを、空也も認める。ここに来るにあたり、覇王から資料が送られてきていたのだ。刀花の来歴というかバックボーンはそれなりに理解していた。そうして、刀花が先ほどの言葉を撤回する。


「実は彼が、その<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>だ。その正体は彼らの兄で、彼はその使い魔だ。よく出来ているだろう? 一見すると人間にしか見えない。おまけに自律型で、当人が異世界にいても問題なく行動する」

「おいおい・・・当人に許可無く正体をバラすか? まあ、空也だから良いんだけどな」


 刀花の言葉を聞いていたカイトが、食べていたジェノベーゼパスタから顔を上げて告げる。そうして、カイトがサングラスを上げて、空也がびっくりする。

 ちなみに、カイトが空也だから良い、というのは彼が自身の親友の弟で自らにとっても弟分であり、既に魔力を知り、そして巻き込まれているが故に保護対象に入っていたから、だ。

 何時かは正体が露呈する可能性があったし、守るためには知っておいて貰う方が良いだろう、という考えからだ。刀花もそれを把握しているが故に、簡単にバラしたのである。


「カ、カイトさん!?」

「ん? 空也、どうしたの?」

「え? いえ、えぇ?」


 カイトが普通に座っていた事に急に驚いた空也を見て、浬が問いかける。が、そんな浬が平然としている事もまた、空也には驚きの対象だった。

 そうして、目を白黒させる煌士達と共に空也が何を聞いて何を問えば良いか判断しかねていると、カイトの方が行動に移った。


「えーっと・・・」

「おい、一度席動かすぞ」

「あ、うん。海瑠、一回立って」

「あ、うん」


 カイト達三兄妹は席を刀花達の席に横付けすると、会話に参加する。


「あの・・・本当に、カイトさん、なんですか?」

「ああ。久しいな、空也。一段と腕を上げたようだ」

「あ・・・ありがとうございます」


 カイトからの称賛を受けて、空也が少し嬉しそうに感謝を述べる。実は彼が目標としている兄の親友というのが、カイトなのであった。そうして、そんな空也を横目に、ようように復帰してきた煌士が問いかける。


「いや、待ってください・・・彼らの兄が・・・あの世界最強と言われる<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>?」

「なんだ、聞いていなかったのか?」

「世界・・・最強?」


 世界最強とまで言い張った煌士の言葉に驚いたのは、浬と海瑠の二人だ。こちらは兄という存在を知っていても、その実力については疑問符がついていたのである。そんな浬に、煌士の方が疑問に思った。


「知らないのか?」

「えっと・・・正直お兄ちゃんはお兄ちゃんだ、としか・・・」


 幾ら世界最強と言われようとも、浬達にとってはぐーたらな兄だ。信じられない方が当然だった。そんな疑問符を掲げ合う一同だが、刀花が割って入って、強引に話を進める事にする。


「で、だ。まあ、それは置いておこう。というわけで、カイト殿。どちらにせよ空也くんは守るつもりだったんだろう? こちらの二人もお願い出来ないか?」

「まあ、しゃーないわな。二人も一緒なのに、守ってやらない、という選択肢は無い。まあ、そっちのガキンチョの方の親父さんとは今のところ協力関係だしな。お前経由で持ち込まれた、つーことで、恩を売っておこう」


 刀花の申し出に、カイトが了承を示す。元々彼にとって空也は保護対象なのだ。そして煌士の父親である覇王とは、国防という意味で協力関係、だ。断る道理が無かった。それに刀花が頷いて、安心させる様に告げる。


「そうか・・・というわけで、この街に居る間は、安心して良い。彼が居るからな。まあ、空也くんは学校が少々離れた所なので不安ではあるが・・・君は移動は護衛付き、なんだろう?」

「あ、はい。少し遠いので、自宅から車を回してもらっています」

「なら、安心だろう」


 空也の返答を聞いて、刀花が頷く。こうして、結局刀花からの護衛を貰おうと思った煌士達一同はなぜか偶然に出会った更に上の庇護者による守護を得られる事になり、一方そんな庇護を遠の昔にもらっていた浬と海瑠は兄達が密かに会話をしている最中に、勝手に高い物を注文して、支払い時に兄を呆れさせる事になるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。ようやく道が重なります。

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