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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第2章 神々の試練編

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第32話 セーフハウス

 バイトという名のゼウスの試練を終えた翌日。彩斗は休日にも関わらず、朝から仕事だと言って大忙しだった。まあ、大忙しの理由は単純に彩斗が近年滅多にない全力で運動した所為なのだが。

 一応こうならない様に筋トレ等は行っていたのだが、予想以上の激戦になってしまったため、体全体に負荷が掛かってしまったのである。


「あ、いたたた・・・」

「はい、湿布」


 全身筋肉痛の彩斗の足に綾音が湿布をペタペタと貼り付けていく。


「お父さん、休みなよ」

「いたた・・・何や昨日の件で社長が聞きたい事がある、言うとってなー。まあ、10時頃に向かえ送ってくれるから、なんとか行ってみるわ。あいたたた・・・」


 苦笑した海瑠の言葉に対して、彩斗が痛みにこらえながら答える。ちなみに、社長の呼び出しは呼び出しなのだが、本当の理由は明日からの儀式の準備の打ち合わせである。と、そこに浬が起きて来る。


「お母さん、ご飯あるー?」

「あ、ちょっとまってね。彩斗くん、湿布後は自分でお願いね」

「おーう、すまん・・・いたた・・・っと、こんな所でのんびりしとるわけにいかんな。用意しよ・・・少し休んでから・・・」

「お父さん、その筋肉痛だと用意時間掛かるよ?」


 パタパタと綾音が台所へ向かい、浬の分の朝食を用意する。そして朝食を食べながら父の惨状を笑っていると、スマホに着信がかかってきた。それにスマホを取り出した浬だが、表示されたアドレスに見覚えはなかった。


「・・・あれ? 誰だろ・・・」

「でなくて良いの?」

「うん・・・知らない番号だし、いっかな」


 もし何かあって知っている人だった場合は留守電に残してくれるだろう、と考えて浬は居留守を使う事にする。そうして案の定、着信が鳴り終わってすぐに留守電にメッセージが入った。


「誰だろ」

『向かえに行く』


 録音されていたのは短く要件だけを伝えたメッセージだった。誰か名乗る事はなかったが、声で誰かわかった。


「あ、フェルちゃんか」

「どうしたの?」

「ウチに来いって昨日言ってたから、それで向かえに行くって・・・おかあさーん! ちょっと友達来るから、出掛けるねー!」

「あ、うん! いってらっしゃーい!」

「まだ行かないって!」


 綾音に出掛ける事を伝えて、浬は少し急ぎ足で食事を食べ始める。


「さって、用意用意っと」


 別に友人の家に行くのだから、昨日の様に気合の入れた服装で無くても良いだろう。浬はそう決めてラフな格好に着替える。そしてそれが整って暫くすると、家の呼び鈴が鳴る。それに少し慌て気味に浬が部屋から出ると同時に、彩斗がスーツ姿で玄関に現れた。


「あれ? お父さん今から仕事?」

「おう・・・って、浬はどっか出掛けんのか?」

「うん・・・そろそろ向かえが、って先どうぞ」

「あ、悪いな」


 彩斗は浬に向かえが来る事は知らなかったし、浬は彩斗に向かえが来る事は知らない。なのでどちらも歩いて行く物だと思っていた為、彩斗が先に出て、向かえが自分でなかった事に気付いた。


「おや?・・・えっと、誰や?」

「うん?」

「あ、お父さん! ごめん、その子私の友達!」


 続いて玄関で靴を履いていた浬が、玄関を出た所でフェルに気付いて首を傾げている彩斗に気付いて声を上げる。


「なんや。俺の向かえやなかったわけか」

「ごめんごめ・・・あれ? 誰?」


 彩斗の苦笑に浬も苦笑して、フェルの横に居るサングラスを掛けた高身長の男性に気付いて、首を傾げる。


「ああ、こいつか・・・っと、その前に自己紹介をしておかないとな。初めまして、彩斗殿。私はフェル・シル。こっちは私の留学先の保護者の様な物だ」

「初めまして」


 一応会ってそのままというのもどうか、と思ったらしいフェルが横の男性の分も含めて自己紹介を行う。それを受けて男性の方も頭を下げたので、彩斗はそれを笑って受け入れた。


「っと、こりゃご丁寧にどうも。これからも娘となかようしてくれるか・・・っと、悪い、俺の向かえも来たわ。じゃあ、浬、あんま迷惑掛けたアカンで」

「はーい。いってらっしゃい」

「おう」


 暫く雑談でもしようか、と思ったらしい彩斗だが、フェル達の後ろに天道家の使用人が運転する車が乗り付けた為、挨拶半分にそちらに向かう。そしてそれを見送って、浬がフェルの前に出る。


「フェルちゃん、おはよ」

「ああ、おはよう」

「で、あの・・・誰?」


 挨拶そこそこに浬は横のサングラスの男を指さす。それを受けて、フェルが楽しげな声で男に告げる。


「だそうだ」

「ま、仕方ないだろうな。とりあえず、さっさと行くぞ」


 そう言って男は家の前に止めたサイドカー付きの大きめのバイクへと向かう。どうやらフェル達はこれに乗ってきたらしい。そんな男の背に、フェルが楽しげに声を掛ける。


「全く。まだ楽しむ気か」

「悪いか?」

「え・・・あの・・・えっと、誰?」


 どうやら自分も知っているらしい、それは理解出来た浬だが、一向に誰なのか判別しない。とは言え、既にフェルも歩き始めていたので、浬も歩き始める。そうして、家の玄関から出た所で、男がサングラスを外さずに答えた。


「・・・オレだ。カイトだ」

「えぇ!? おに」

「おっと。誰かに聞かれると拙い。特に母さんが誤解するだろ」


 お兄ちゃん、と言おうとした浬の口をカイトが塞ぐ。こうなる事を予想していたので、家から遠ざかったのだ。もし万が一聞かれれば厄介な事になりかねないのだった。そうしてカイトは浬が頷いたのを見て、口から手を離す。


「こいつ運転出来るのがオレだけでな。人型を取らないと動かせないからな」

「免許は持ち合わせていなくてな」


 バイクに跨ってカイトとフェルが答える。つまり、ここまで浬を迎えに来る為に、わざわざ人の形を取った、ということだった。


「まあ、この身体だと魔力の消耗が激しいから、あまりやりたくは無いがな。それに、この身体でもし顔バレすると面倒過ぎる」

「ふーん・・・」


 浬はフェルとともにサイドカーに乗り込んで興味なさげに答える。そもそも今のカイトは公には行方不明だし、彼の本体にしても地球にはいない。バレれば厄介だというのはすぐに分かった。

 まあ、そう言うカイトなのだが、実はサングラスの下は浬が良く知る顔では無く、数日前に見惚れた写真の男の顔なので、サングラスをしなくても滅多な事では誰にも気付かれないのだが。

 そうして暫くカイトはバイクを走らせて、天神市の中心部へと移動する。そして、とある高層マンション群の一つにバイクを停車させた。


「ここがセーフハウス兼私の家だ」

「・・・え?」


 ぽかん、と浬が口を開けて高層マンションを見上げる。それは30階建ての高層マンションだった。しかも、少し前に出来たばかりのマンションである。


「・・・え?」


 あまりに信じられなかったので、浬がもう一度マンションを見上げ、横のフェルを確認する。


「ここの最上階だ。ついてこい」


 そんな浬を笑いつつ、フェルとカイトは移動を始める。当然、出入り口はオートロック付きの上、住人が持つ鍵を使わないと目的の階層にまでエレベーターで行けないという厳重な管理が為されている建物だった。なので、置いていかれれば確実に追いつけない。ちなみに、エレベーターで行けないだけで、一応きちんと非常階段も存在している。


「あ、ちょっとまってよ!」


 慌てた様子で浬がフェルに付いて行き、扉をくぐって中に入る。そうして入った所は高級ホテルもかくや、という高級感あふれるロビーだった。


「こ、こんなとこよく借りられたね・・・」

「それは当たり前だろう。カイトの持ちビルだぞ?」

「え・・・?」


 フェルの言葉に浬が後ろを歩くカイトを見ると、カイトは口端を歪めて不敵に笑っていた。そうしてカイトは少しだけ鼻を鳴らして、自分の実情を話す。


「これでも幾つかの企業の重役だ。これぐらいのビルは幾つか持っている」


 そう言うとカイトは懐を探り、幾つかの社員証を取り出した。それらは全て、カイトの名前――と言っても偽名だが――が書かれている物だった。これらはカイトの本体が必要と思われる社員証について、地球の使い魔側へと送ったのだ。


「・・・アルター社社主? EOSS顧問?・・・EOSS?」


 とりあえず見えた社員証の名前を上げていった浬だが、ふと、引っかかる物があって首を傾げる。


「お前が一日一回確認しているサイトの運営会社は? お前が毎日確認している歌手とモデルの所属事務所は?」

「・・・あぁーーー! 『Sun・Set・EntertainmentOffice』!」


 浬が思い出して大声を上げる。どこかで見た、では無く、毎日見ていたのだ。指摘されて浬はエリザとエルザの所属事務所の名前を思い出す。そこの事務所の略称が、EOSSなのだった。


「エリザもエルザもオレの部下だ。なら、その事務所がオレの手が入っていた所で可怪しくはないだろ?ヨーロッパにも伝手があるからな」

「危うくひらひらの服を着せられて珍妙な踊りをさせられそうになったな」

「るせ」


 フェルの言葉にカイトが少しだけ恥ずかしげに認める。とは言え、本題からずれたので、本筋に戻す。


「そういった役員の報酬とかいろんな伝手で手に入るお金でこういった建物を買ってるんだよ。まあ、これはもともと計画されてたのを計画段階で買っただけだけど」

「・・・買ったって・・・幾ら?」

「・・・聞きたいか?」

「・・・うん」


 ここで値段を聞くあたり、兄妹よく似ていた。それに、カイトが記憶を探る。そうしてエレベータが最上階に到着した所で口を開いた。


「んー・・・建築費こっち持ちにしたから総額で1億ぐらいだったかな」

「そんなお金あるんだったら私達にもっとちょうだいよ!」

「そんな金ねーよ」

「持ってんでしょ!」

「だからねえよ! ここ上層階全部セーフハウスとかホテル扱いなんだからしゃーねーだろ!」


 楽しげな会話を繰り広げる二人を見て、フェルが非常に楽しげな表情を浮かべる。そうして、彼女が口を開いた。


「裏世界において魔王とも覇王とも畏れられる男も、結局は人の子か」

「あ?」

「ふふ・・・何。貴様の新たな一面が見れて良かった、というだけだ」


 フェルは傲慢な中に、見た目相応の笑みを見せる。それは、同性の浬さえも見惚れる笑みだった。


「行くぞ。こっちだ」


 兄妹そっちのけで楽しげな笑みはそのままにフェルは歩を進める。そうして到着したのは一つの豪華な一室だ。部屋は品の良い調度品で整えられていて、質素ではあるが、同時に決して貧相にはなっていなかった。総じて、シンプルに纏められた品の良い部屋だった。


「・・・へー、これがフェルちゃんの部屋?」

「まあな。調度品等は前の宿泊者も使ったが、悪くはない。座っていいぞ」


 ソファに腰掛けてフェルが浬に告げる。ちなみに、部屋に戻った時点でカイトは鳥の姿に戻り、自身が省エネモードと呼んでいる意識も大半を沈めた状態に落とした。

 この使い魔は自律行動可能に人型形態、その他主の居ない状況でも自然界から魔力を得られると言う超高性能である代わりに、意識を保つのにも魔力を必要とするのである。


「とりあえず、昨日はご苦労だった」


 浬が席に腰掛けたのを見て、フェルがまずはねぎらいの言葉を掛ける。昨日のMVPは色々あるだろうが、浬だ。フェルとてそれを把握しているのでねぎらいの言葉を贈ったのである。


「あ、うん。ありがとう・・・結局赤字だけど・・・」


 思い出した浬はため息を吐いた。確かに、荒垣の言うように成功したということで色を付けてもらえていたが、帰ってから綾音に指摘されてズボンのほつれに気付いたのであった。


「ああ、そうだ。その件だ、今日貴様を呼びつけたのは。おい、カイト。魔力を渡してやるから、人にもどれ」

「あいよっと」


 フェルの言葉を受けて、カイトは意識を浮上させて人型に戻る。別に自然界から魔力を吸収出来る、というだけで、別口でも魔力の補給は可能なのだった。

 そうして、カイトはフェルの所にまで歩いて行く。そして歩いて行ったカイトは、そのまま腰を屈めてフェルとキスした。


「って、二人共何やってんの!」


 イキナリの事に、ただ呆然と兄とクラスメイトのキスシーンを見ていた浬は大慌てで止めに入る。こんな物を見せられて一帯どのような反応をすれば良いのか全くわからなかった。


「む・・・」


 そんな浬に止められて、口を離したフェルが少しだけ不機嫌そうに浬を睨む。


「言っただろう。単なる魔力補給だ。貴様さえ居なければ、別の方法もあったのだがな」

「じゃあそっちでやってよ!」

「・・・良いのか?」


 別の方法がある、という所だけ意識に留めて他は流してしまっていた為に浬が言った言葉に対して、フェルが悪辣な笑みを浮かべて問いかける。そんな笑みに気付くこと無く、浬が大声を上げて了承を示した。


「今のよりはマシなんでしょ!」

「そうか。では、遠慮な」

「って、なんで脱がそうとするの!」


 では、遠慮無く、とカイトの服に手をかけようとしたフェルに対して、再び浬が怒鳴る。まあ、フェルにしてもそれは始めから想定していたことだ。なので楽しげな笑みを浮かべながら、理由を告げる。


「古来から言うだろう? 魔術的な儀式には性交が良い、と」

「せい・・・こう・・・?」

「わからんか? セックス、またはエッチだ。もしくは合体やせい」

「きゃー! もう言わなくていいから!」


 一瞬頭の中で理解が追いつかずに停止したのを見てフェルが更に畳み掛けたが、再起動を果たした浬は大慌てで顔を真っ赤に染めてフェルの口をふさいで強引に止める。

 口をふさがれたフェルだが、そんな浬の対応にさえ楽しげな笑みを浮かべていた。そうして、浬が手をどけた所で、笑いながら問いかける。


「だから、きちんと良いのか、と聞いただろう?」

「うぅ・・・」


 どうやらその場面を想像してしまったらしい。浬が顔を真っ赤に染めて俯いていた。


「くくく・・・まあ、良い。落ち着いたら買い物に行くぞ」

「昨日言っただろ? ご褒美だ。服を買ってやる」


 フェルの言葉をカイトが補足する。そうして、浬が落ち着くのを待って、三人は再び出掛ける事にするのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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