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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第13章 小休止編

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第279話 見習い魔女

 偽名であるがノワールと名乗った魔女の少女。そんな彼女との会食を吸血姫の女王フィオナの城で開始した三柴達天道財閥の護送支援部隊。そんな彼らはまず自分達の自己紹介を行うと、三柴は改めて彼女に対して協力を明言した。


「以上が貴方の護送に際して天道財閥の中心となる面子です」

「……」


 三柴の言葉に対して、僅かな間ノワールは沈黙を保つ。が、それにメデイアが肘鉄を食らわした。


「ご、ごめんなさい……」

「そういう事は私がやります。未熟者がそういう事はしない」

「す、すいません……」


 どういうわけか謝罪したノワールに対して、メデイアはため息混じりだ。これに理解が出来ないのは三柴達天道財閥側だ。が、これは仕方がないといえば仕方がない。

 メデイアはノワールを未熟者と言ったわけであるが、ノワールでさえ彼ら側からすれば天と地ほどの差がある。と、そんな二人の会話にスカサハが楽しげに口を開いた。


「メデイア。お主少し会談の腕が悪くなっておるのう」

「あ、あら……?」

「しばらく念話は使っておらんかったからかのう。口に出ておったぞ」

「……」


 スカサハの指摘にメデイアが思いっきり頬を朱に染める。どうやらつい癖で、という所だったらしい。彼女とて王女として過ごしていた頃ならまだしも、そこから離れて久しい。色々と彼女にはリハビリが必要そうだった。


「ま、それでも気付いたのは儂らのみという所であったが……ははは。もうしばらくお主はリハビリと術式の調整が必要そうというお主の判断は間違いではなかったのう」

「……すいません……」


 ぽそぽそとした様子でメデイアが謝罪する。というわけで、スカサハがあっけらかんと今の一幕の裏を語ってくれた。


「そこの小娘が魔術を展開し、この話に裏が無いか確認しておったのよ。が、それは儂やフィオナからしてみれば児戯に等しい……数千年ぶりの会談に出るにはちと調子が取り戻せておらんか。最近仲良しこよしの相手ばかりで感が鈍っておったか?」

「……返す言葉もありません……」


 メデイアは非常に恥ずかしげに項垂れる。まぁ、そういう事らしい。魔術を使えば嘘を言っているか言っていないか確認出来るそうで、実際に確認していたらしい。

 が、それがおそまつな魔術だったので気付かれる可能性を鑑みてメデイアが掣肘したというわけであるが、そもそも口に出してはおしまいである。中々にドジっ子っぷりを発揮してくれていた。


「あらあら。メデイアちゃんがドジっ子っぷりを披露してくれた所で……彼女の横の子がノワール。彼女が言った通り偽名ね。この世には名前で使う呪い(まじない)も多いから、これは私からも勘弁してあげて頂戴、と言わせてね」

「あ、いえ……それにまぁ、今までの彼女の状況を考えれば仕方がない事でしょうし……」


 メデイアのドジを楽しげに笑うフィオナの執り成しを受けて、三柴が偽名について――ついでに先の一件についても――何も言わない事を明言する。そしてこれはそうだろう。今の今までほぼ孤立無援状態で隠れ忍んでいたのだ。疑われても無理はない。それにフィオナも頷いて話を続ける事にした。


「そうね……さて。それで一応ここからの話は私達からさせてもらうわ。無論、それについてはこの子も同意済み。私達の指示に従ってこの子は動く。貴方達はあの子……ブルーに従って日本国内での彼女の支援をして頂戴な。流石にあの子達も勢力としては大きいけども、どうしても数が居ない。大半はあの子達が抑えるでしょうけど……どうしてもね」


 実情を語るフィオナはため息混じりだ。やはりここらネックとなるのが相手の数だ。更に言えば今回カイトが動かせる勢力も限られている。対して相手は世界の過半数を動かせる。兵力差が圧倒的なのだ。

 いや一応言えばカイト側も確かに世界中では多いし、現に彼に協力するとしている勢力は多い。が、日本国内だけに限れば今回は『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』のみとなってしまう。利害の一致する天道に協力を求めたのは至極当然の話だった。


「ま、当然の判断といえば当然の判断よ。そこら、あれは大局的な視点は優れておるのう……いや、当然といえば当然ではあるが」

「そうよねぇ……まぁ、そのおかげでの現状とは言えるのだけど……」


 フィオナもスカサハもカイトの根回しの存在は聞いていた。故に彼のその点については称賛しか述べられなかったらしい。今の今まで時間稼ぎが出来ているのだって実はカイトが裏で動いているからだった。

 彼が利益を一緒にしている各国の上層部に根回しして、ルーマニア政府への圧力をかなり弱めていたのである。浬達の動きを察せられなかったのは、この根回しが忙しいからだ。それこそ各国の重役達との会合の為、日本国内を留守にしている事も多かったらしい。


「まぁ、それは良いわね。で、とりあえず話を本題に戻すけど、ひとまず欧州側についてはあの子に一任しなさい。こちらについては問題が無いわ」


 一転真剣な目で話を始めたフィオナは改めてヨーロッパ各国については問題が関わらない様に明言しておく。下手に関わられても今度は日本側で不備が出るだけだ。なら、ヨーロッパに関してはカイト達の手腕を信じてもらう事にして彼らではどうしても手の足りない日本側をなんとかしてもらうしかなかった。


「というわけで、貴方達は基本として日本を中心に動きなさい。それについては綿密にあの子と打ち合わせして頂戴」

「はい」


 フィオナの指摘に三柴ははっきりと頷いた。一応聞いた話では一度あの大阪の上空にある『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』に入ってしまえば安全らしい。あそこはフィオナの娘が治めている地だ。故にあそこに喧嘩を売るのは彼女に喧嘩を売ると同義になってしまうらしい。


「まぁ、それについては改めて言うまでも無いでしょう。ここらの表向きの話は一応は聞いているわね?」

「ええ、まぁ……確か貴方の勧めで日本に、という事になっているでしたか」

「そうなのよ……あの子(エリザ)は言うまでもなく一人娘。あ、最近良い相手見付かったから二人目作ろっかなー、とか考えちゃったりしてるのよ。だからそろそろ一人娘じゃなくなっちゃうかもしれないわねぇ。前の旦那とは相性……あ、夜とかじゃなくて肉体的な話ね? 肉体的に相性悪かったのかあの子しか授からなかったのは私としてもちょっと寂しいなー、とは思ってたし」

「は、はぁ……」


 楽しげにそんな事を言われた所でどう反応すれば良いのだ。三柴はフィオナの言葉に素直にそう思うだけである。なお、彼女の意図としてはこのセリフがエリザに伝われば面白いなー、との事で半分本気半分冗談だそうだ。と、そんな脱線したフィオナに対して、スカサハが口を挟んだ。


「脱線しとるぞー」

「あら。さて、そういうわけであの子の治める地に向かって貰う事になるのだけど、わかっての通り今回は私が娘に保護を依頼した形。そこからブルーが保護する事になった、と言う感じね。そして日本政府は知っての通り、あの子の影響を受けざるを得ない。あの子自身魔女を妻としている以上、道義としてこの子を売り渡す事は出来ない。しかもこれは裏世界の事。どの国も日本に文句を言えないという形ね」


 ここらは改めて説明されるまでもなく、三柴も他もしっかり理解している。なので改めて説明されたという程度だろう。そしてそれに問題がないのを確認すると、フィオナは改めて状況を擦り合わせる。


「さて……その上で更に話を進めると、ここで私も絡んでくる。当然だけど彼女は私の客人。そして私の客人である上、私がブルーに保護を求めた形。なのでもし騎士達が安易に浮遊大陸に足を踏み入れればその時点でヨーロッパ側で私が暴れても問題は起きない」

「問題しか起きない様な気もするがのう」

「そういうものでしょう? 問題を起こしたのが相手側である以上、こちらがリアクションしても当然というわけね」


 楽しげなスカサハにフィオナもまた楽しげに同意する。今はまだノワールはフィオナの庇護しかないが、日本にたどり着いてカイトの所にたどり着ければその時点で彼女は加えてカイトの庇護まで得られるわけである。

 この二人を同時に相手にするのは流石にどの組織も御免被る。この二人を同時に相手にするのはまさしく残りの半分を一度に相手にするに等しい。どんな組織だって勝ち目がないのだ。そしてこの時点でようやく天使達が介入可能となる。カイト達との全面戦争を避ける為、というわけだ。これが、彼らが書いている筋書きだった。


「まぁ、それ故になのだけど。奴らも全力で次は来るでしょうね」

「そうであろうなぁ……」


 一転気を取り直したフィオナの言葉にスカサハが同意する。そうして、彼らは会食を兼ねてそこらの話し合いを更に進める事にするのだった。




 会食からしばらく。彩斗達は再度客室に案内されていた。そうして彼らは先程までの事を語り合っていた。


「驚いたな……あそこまで幼い子だったとは……」

「見た所中学生……って所でしょうか」

「見た所は、だが……」


 桐ケ瀬の言葉に三柴は先程の会話には殆ど関わらなかったノワールの事を思い出す。背丈としてはメデイアとさほど変わらない様子で、場合によっては小学生高学年程度に見られても不思議はない。

 まぁ、流石に若干の女らしさが顕れている事を考えれば小学生には見られないだろうが、それでも大人や高校生には見えないだけのあどけなさがあった。


「あんな子をよってたかって追いかけ回して、か……」

「はぁ……」


 薫の言葉に彩斗が若干の苛立ちを滲ませながらため息を吐いた。確かに魔女の少女だとは聞いていたがあそこまで若いとは思っていなかったらしい。全員がてっきり高校生程度なのだろうと思っていた様子である。


「だがあれでも腕利きは腕利きよ」

「スカサハさん……は、早いですね」

「早着替えは魔術師にとって基本中の基本。習得しておいて損は無い」


 まだ会合が終わってから少しというのにもう何時もの軽装に着替えていたスカサハは彩斗の言葉に笑って魔術一つでドレスへと早着替えしてみせる。そうして彼女は指のスナップ一つで再び軽装に戻った。


「はぁ……それで、何か用事ですか?」

「いや。紹介と言うてもざっとした事しか言えんかったからのう」

「こんばんは」

「「「わぁ!?」」」


 スカサハの視線に釣られて上を見て、天井に逆さまに浮かんでいたフィオナに気付いた全員が思わず声を上げる。そんな彼女もやはり略礼服から着替えており、何時もの軽めのドレスだった。そうして彼女は驚いた事に気を良くすると、地面に柔らかに着地した。


「あらあら。いたずら成功ね……さて、それで彼女の事をもう少し詳しく教えておくわね。まず偽名については偽名で通して頂戴。これは変わらない。それで彼女の年齢だけれど、これも不詳としておいて頂戴な。あ、後それと出身もね」

「年齢も出身も、ですか?」

「わからんか? 年齢が分かれば何時生まれたか分かる。であれば、必然として魔女がまだ他に生きている可能性がどの程度かと言う事が分かる。そして出身が分かれば当然、そこを草の根を分けてでも探すであろう」

「「「あ……」」」


 スカサハから指摘されて、何故彼女らの誰もノワールの年齢について言及しなかったのかを理解する。当然だが彼女にも親は居る。そして彼女が何時生まれたかで親が何時までは確実に生きていたかが分かる。それ次第では彼女の親もまた生きている可能性は非常に高かった。

 それ故、実は天道側には彼女の来歴は一切教えていない。親が生存しているのかいないのかも無論教えていない。現状で下手に動きを見せるともし生きていた場合にそちらまで勘付かれる可能性があるからだ。


「これについては儂やバカ弟子二号が対処する故、生存しているか否かについても一切問うな。儂らは決して語らぬ。こればかりはお主らが親の情を出そうと、仕方がないと理解せよ。あちらも親の情がある。しかもこちらは生命に直結する故な」


 相手が本気で殺しに来ている事は彩斗達も百も承知だ。それを考えれば、流石にここで教えてくれと言える事はなかった。もし生きているのであればそれが保護される事を祈るだけが彼らに出来る事だ。なので無言でスカサハの言葉に同意して全員が頷いた。


「そういうことねぇ……で、だからもし彼女に関わる人員には決して年齢は問いかけない事。そもそも女性に年齢を問いかけるのは駄目と思うのだけどもね」

「ま、それはそうよな……とはいえ、腕については未熟という所で良かろう。これは先にメデイアが言っておったしのう」

「そうねぇ……杖が無いと飛べないレベルじゃねぇ。まぁ、自力飛行も出来るらしいけど慣れてない様子ね」


 スカサハの指摘にフィオナは苦笑を浮かべ、同意するしかなかった。とはいえ、杖を使わないと飛べないわけではない。そこらを考えればやはり並大抵の力量ではないのだろう。間違いなく天道財閥の大半より頭幾つか上回っていた。と、そんな彼女は一転気を取り直した。


「まぁ、基本的にはさっきも言っていた通り協力については可能な限り協力する事を明言しているわ。なのでもし困ったことがあれば彼女に聞いてあげなさい。けれど、彼女のそういった私事に関しては一切聞かない事」

「はい。社長と会長にも必ずお伝えします」

「そうして頂戴な」


 三柴の明言にフィオナが頷いた。そうして、彼らは更に少しの間フィオナからノワールについてを詳しく聞く事になり、次の日の朝にはスカサハと共に日本へと帰国する事になるのだった。

お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日の21時投稿です。

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