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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第13章 小休止編

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第277話 女王フィオナの地

 ルーマニアはトランシルヴァニア地方に到着した彩斗達が女王フィオナの招きを受け一触即発の状態だった騎士達とのやり取りから抜け出してしばらく。フィオナが現れた事で一転危地となってしまった場から騎士達を救い出したジャンヌ・ダルクというコードネームを与えられた少女は騎士達を連れて近くの街のホテルへと戻っていた。


「ありがとうございました、ジャンヌ」

「いえ……スカサハが動いた事を聞いてすぐに動いて正解でした」


 やはりあそこまで圧倒的に勝利していたのだ。空港で彩斗達を出迎えた騎士達は外の仲間達に情報を送る前に気絶させられてしまっており、彩斗達が到着する直前に目を覚ましたらしい。

 スカサハとしても護衛としての仕事がある以上、道中で襲われても面倒だし問題があるだろう。なので自身が護衛を務めている事も含めて隠蔽していたのであった。


「スカサハはまだしも、彼女が来た事がまず頂けない。彼女が来れば間違いなく女王が動く。可能性は低いとして考えていましたが……」


 まさか、スカサハ自身が動くとは。ここら、やはりどうしてもカイトの正体を知らないという所が付き纏う。普通ならこんな事は例えばクー・フーリンやフィン・マックールにでも任せてしまえば良いのだ。彼らであれば十分使者の護衛としても不足がない。

 それがまさか一番上(スカサハ)が直々に動くとは誰もが考えはすれど、常識を考えて想定していなかった。そんなジャンヌのため息混じりの言葉に、騎士達の幹部もまたため息を吐いた。


「スカサハも女王もどちらも神の子が生まれるより前に生まれている……懇意にしていても不思議はありませんか」

「はい……何よりかのヴィヴィアン、スカサハは一時懇意にしていたという噂です。何より、どちらもイギリスの出身。懇意にしていないと考える方が不思議です。そして何より、近頃あの妖精が懇意にしているブルーはスカサハの弟子……繋がりを考えれば無理のない事です」


 そしてブルーことカイトの配下にはフィオナの子・エリザが居る。どう考えても懇意にしていない可能性が見出だせない。騎士達は揃ってため息を吐いた。

 スカサハが動けばフィオナが動く。それは道理でしかなかった。なかったが、先に述べた通り常識を鑑みてたかだか使者程度に同行するとは思わなかったのだ。やはりここら時代の差という所なのだろう。


「……にしても。良いのですか?」

「やめておきなさい。おそらくルーマニアに居る間、天道の使者達には女王の見送りが出るはずです」

「見送りですか?」

「はい……今回の一件、間違いなくあの女王は使ってくる。あの女王は気まぐれに見せてその実滅多な事では道理にそぐわぬ事はしない。そして何より、あの女王は女王である事に誇りを持っている稀有な存在。故に我らも触らぬ神に祟りなしとここを封じたのは、貴方も存じ上げているはずです」


 ジャンヌは幹部に対してそう説いた。先にもフィオナ自身が言っていたが、彼女は彩斗達を女王の客、スカサハを友人と言った。であれば、その先も見通せる。故に幹部達も苦い顔だった。


「あそこで包囲したのが拙かったですか……」

「いえ、これは私が手出し無用の指示を徹底出来なかった事と、この可能性を極小と考えて切った事が間違いです。貴方達がそんな顔をしないでください」

「……申し訳ありません」


 考えればすぐにわかった話なのだ。だからこそジャンヌは即座に動いていたし、交戦を避けるというあの状況では最良の結末にたどり着けた。

 が、そもそももし手を出すのであれば来た時ではなく帰り道に襲撃を仕掛けるべきだったのだ。それを、今にして幹部達も理解した。スカサハが来た時点で往路での手出し無用だったのだ。


「とはいえ……これで面倒になったのも事実ですか」

「……ええ」


 幹部の指摘にはジャンヌも苦い顔で同意するしかなかった。先にはもし手出しをするのなら、と言われたがそもそも実はこの状況では手出しすべきではなかったのだ。それを、ジャンヌが指摘した。


「これで、女王は大手を振って戦力を外に出せる。客に手を出したのがこちらである以上、道理はあちらにある。無論、この話は天道を通じてブルーにも伝わる。あちらも戦力を供出するでしょう」

「……本部に増援の要請をしますか?」

「……」


 幹部の一人の問いかけに、ジャンヌは苦い顔で思慮を行う。当たり前だが動かせる人材というのは有限だ。どれだけ地球の総人口の半数という馬鹿げた数を抱えていようと、有限には違いない。

 しかもその中でもこの作戦に加われるのはごく一部だ。それをすべてここに持ってくる事は当然出来ない。包囲網は多重に張り巡らせている。一個抜かれれば終わりではあまりに危険過ぎる。

 何重にも張り巡らせ、どこか一つでも引っかかる様にするのが当然の策だろう。が、それでも一番内側の一番確実に捉えられる可能性のある場所を疎かにするわけにもいかないのもまた事実だ。


「……そうしましょう。シメオン様に事の次第を伝え、増援を」

「わかりました。すぐに動きます」


 天道の使者が来たという事はおそらくもうそう遠くない未来にはあちらも動き出すという事だ。であれば、もう一刻の猶予も無いのだろう。ジャンヌはそう理解していた。そうして、会談は本部からの増援を待つべし、と結論が出た事で終わりとなった。


「……」


 やっぱり厄介ですね。ジャンヌは忙しなく動く騎士達を見ながら、内心でため息を吐く。先にシメオン自身が言っていたが、ジャンヌは部隊の抑え役として任命されている。無論、幹部達の多く――多くであって全員ではない――がそうだ。故に彼女としては実は異族に対しては特段の悪感情を抱いているわけではなかった。

 どちらかというと異族と聞くや暴走しやすい配下の騎士達の方が面倒、もう少し考えてくれ、といった無思慮さから呆れ返っていたほどだ。


「……いえ、駄目ですね」


 ジャンヌはこの仕事が厄介な役目だとわかっていて受けている。自分しか適任が居ないともきちんと説明されている。そして最高幹部達もそれを知ってきちんと補佐は最大限してくれている。というわけで、彼女は面倒だと思った自らの内心を叱咤して、再び仕事に取り掛かる事にするのだった。




 さて、ジャンヌ達が街に戻っていた一方その頃。フィオナに案内された彩斗達はというとそのまま進み続けていた。


「……あれが本当にあの女王フィオナ……なんですか?」

「知らん。そうや、とは本人の談やし、スカサハさんもあの通りや」


 渚の問いかけを受けた彩斗はかなりの警戒を滲ませながら先導するフィオナとスカサハを見る。二人は至って普通の女友達という感じで楽しげに話しながら歩いていた。

 なお、背後については気にしなくて良いらしい。ここはフィオナの地だ。故にもし迂闊に踏み込めばその時点ですぐに配下の従者達にわかる仕組みになっており、その時点で問答無用に殺されても文句は言えないとの事であった。それは騎士達が一番よくわかっているのだろう。と、そんな二人の会話が聞こえたのだろう。フィオナは浮いて移動しながら後ろを向いた。


「ずいぶんと警戒している様子だけど……別に貴方達の血を吸おうとは思わないわ。ああ、別に処女の血が好みとか云々じゃなくて……貴方達の血は美味しくないの」

「え、えっと……それはどういう……」

「そうねぇ。貴方、私達が血を吸うという事はどういう意味があるか知っていて?」


 渚の問いかけにフィオナはくすくすと笑いながら問いかける。これに、渚は少し考えて一番あり得るだろう答えを口にした。


「神聖な儀式……とかですか?」

「ぷっ……まさか。そんな事はないわ。いえ、一部の吸血鬼の子達はそんな事を考えていそうだけどもね」


 渚の答えにフィオナは楽しげに笑う。そうして、彼女は吸血の意味を教えてくれた。


「特に意味は無いのよ。別に血を吸わないでも生きていけるものね」

「……そうなんですか?」

「当たり前であろう。そもそも血しか飲めぬでは生き物としてどうなのだ、という疑問が出ぬか?」

「……はぁ」


 スカサハの問いかけに渚は目を瞬かせながらも頷くしかなかった。確かにそれはそうとしか言い得ない。血しか飲めないのであればそもそもワインなぞ飲めないはずだし、ワインが好きなのなら飲めるという事だ。


「私達は吸血行為によって他者から魔力を吸収しているのよ。わかりやすく言っちゃえば、サキュバスとかがエッチで魔力を吸い取るのと同じね。あっちはドレインとして時間が掛かっちゃうけど吸収率は高い。こっちは短時間だけどその分血に含まれるだけだから吸収出来る量は少ないの。だからもし血を吸われて死んだ、というのならそれだけ魔力が枯渇していたという事なのでしょうね」

「えっと……つまり今はお腹いっぱい……という事ですか?」

「そうねぇ。ほら、ライオンだってお腹いっぱいだと餌は狩らないでしょう? それと一緒と考えなさいな。お腹いっぱいだから襲わない。無駄な折衝は女王としての沽券に関わるし、生命に対する冒涜でもあるものね」


 フィオナは笑いながら自分に害意は無いと明言する。そして彼女は更には、と続けた。


「それに……さっきも言ったけど貴方達の血は美味しくないの。私達にとって血の良し悪しは魔力の濃度。貴方達程度じゃ、全部吸い取った所で私は満足出来ないのよ。せめて英雄と呼ばれるほどじゃないと駄目ねぇ」


 困った様にフィオナは渚に告げる。これには誰もがそれはそうだろうと思うしかなかった。フィオナは先に騎士達が最大の警戒をしていた様に、戦闘力はこの地球でもトップクラス。下手な神を上回る力だ。

 その彼女ともなると保有している魔力の総量は彩斗達をすべて合わせても比較にならないだろう。それを考えれば、そうなるのも仕方がなかった。


「あ、でもぉ……もし不遜な事をすると、殺しちゃうかもね」

「「「っ……」」」


 妖しく光るフィオナの目で見据えられ、彩斗達は思わず生唾を飲んだ。と、そんな彼女の頭にチョップが叩き込まれた。


「あいたぁ!」

「阿呆。要らぬ事をして驚かすではないわ」

「もうっ。お茶目なジョークじゃない。クイーンジョークよ、クイーンジョーク」


 拗ねた様にフィオナが頬を膨らませる。見た目は既に二十代半ばぐらいの女性なのに、どうしてかこういう子供っぽい姿がよく似合った。というわけで、そんなフィオナにスカサハは肩を竦めると、一つ彩斗達に明言した。


「はぁ……まぁ、こんな事を言っておるが、決して無為に生命は奪わぬ。これは間違いなく古来の女王。喩え残虐に殺そうと、そこには種族としての道理がある。それを損なわぬ様にすれば問題はない。そして別にお主らに特に言うほど特殊な奇妙な風習も無い。気にせんで良い」

「は、はぁ……」


 信じて良いのかわからない彩斗はとりあえず生返事をしておく。と、そんなわけで一度は大丈夫かもと思ったものの結局は警戒すべきかもと判断しかねる彩斗達はそんな感じで三十分ほど森の中を歩くわけであるが、すると一つの豪華な城が見えてきた。


「ああ、見えたわね。あそこが、私の城よ」

「あれが……」


 一同を出迎えたのは、まるでノイシュバンシュタイン城のような城だ。が、あれよりも遥かに規模は大きく豪華さも上回っていた。周囲には幾つかの離宮があり、そこかしこにメイド服の吸血姫達が飛び回っていた。と、そんな中から一人のメイド服の女性が舞い降りてフィオナの前に跪く。


「おかえりなさいませ、クイーン」

「ええ、帰ったわ。準備は」

「出来ています」


 どうやらメイド達の中でも統率を行う立場に居る女性というわけなのだろう。メイド服の吸血姫の女性はフォオナの問いかけにはっきりと頷いた。というわけでそれにフィオナも頷くと、今度は彩斗達の方を向いた。


「さて……貴方達としては今すぐにでもあの子に会いたいでしょうけど……流石に私が仲介しておいてではすぐに、とも言えないわ。これは女王である以上、仕方がないと思って頂戴。部屋は用意してあげたから、まずはそこできちんとした服に着替えて頂戴な。流石に泥だらけの服でお城に入られてもね。あ、スカサハのについてはあの子が前に届けてるから問題ないわ」

「うむ。では、何時も通りか」

「そうね。じゃあ、私も着替えてくるから、貴方達も着替えてらっしゃい。案内を」

「かしこまりました。では、こちらへ」


 フィオナの指示を受けたメイド服の吸血姫が彩斗達に一つ頭を下げて背を向ける。どうやら、とりあえずは着替えてこいという事なのだろう。それに、彩斗達は三柴を見て彼が頷いたのを受けて、従う事にした。ここはフィオナの地だ。下手に逆らうと駄目だと判断したのであった。そうして、彼らは魔女の少女との会合の前にまずは着替えさせられる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日の21時投稿です。

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