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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第12章 世界の裏で

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第258話 閑話 ――その頃の祢々は――

 浬らが彩斗の襲撃に介入するべく各種の用意を整えていた頃より少しだけ、時は遡る。浬らにゲームを持ちかけてその後ほとんど音沙汰の無かった祢々はというと、ゲームの参加者を集めていた。当たり前だがゲームのプレイヤーが居ない事にはゲームは始められない。そして浬らの呪いの解呪が時間が掛かる事はわかっていた。なので実のところ、あの時点ではほとんどゲームの参加者は集まっていなかった。

 が、この広い日本で、異族の多い日本だ。かつてを忘れられず大暴れしたいという奴はかなり多い。なので力を持ちながらも、カイトという強大な化物の所為で鬱憤を溜めている者は多かった。

 故に探せばすぐに参加者は見付かるが、祢々は敢えてそういったある意味雑魚と言い得る者たちに声を掛けるではなく強者と呼べる参加者を探していた。


「ふっふふーん♪」


 鼻歌を歌いながら、祢々はどこかの暗い道を歩いていく。そこは少なくとも道路やトンネルというわけではなかった。周囲はゴツゴツとした岩で覆われていて、舗装されている様子もない。

 が、真っ暗闇というわけではなくところどころに松明を模した魔道具が設置されていて光源には困らない。そんな彼女は少し楽しげに周囲を観察しながら歩いていく。


「おや……君は確か……ああ、君も晴明にやられてたのか。道理で噂を聞かないし見ないわけだ」


 周囲に設置されていたのは、氷漬けに似た状態にされた数々の異族達だ。それらはすべて、かつて晴明が現役時代に封じた異族達。あまりに凶暴かつ凶悪、周囲に被害を撒き散らしたのでやむにやまれぬ封印した異族達だった。

 敢えてわかりやすく言えば、物語に語られる悪い妖怪達と言っても良いだろう。玉藻の様な特に危険とされた異族は陰陽師達が直々に見張っているが、それほどではないが封じておくのが最良とされた異族達は特殊な場所に隔離され、二度と目覚めない様にされていたのである。ここはそんな特殊な場所の一つだった。


「うーむ。君でも、良いんだけどなー。でも、僕としては君よりもっと強い人物を探してるんだよ」


 祢々は懐かしい相手を見ながら、しかし少しの申し訳無さを滲ませる。どうやら、今見付けた異族は知り合いだったらしいが御眼鏡に適う事はなかったらしい。


「どーせ、『お兄ちゃん』が屁理屈をこね回して介入してくるんだろうし。こっちもそれに対応出来るだけの人材が欲しくてね。ごめんね」


 祢々はそう言うと、懐かしい知り合いの側を離れて更に奥へと歩いていく。この洞窟は奥へ行けば行くほど危険な異族が封じられている。なので狙うのは、なるべく最奥に近い所に封じられている異族だ。

 もちろん、奥に行けば行くほど強固な結界と罠が仕掛けられているが、祢々とて晴明が直々に封じて更にはニャルラトホテプを親として持つ強者と言える一人だ。晴明が現役時代に仕掛けてそのままの罠程度なら対処出来た。


「にしても……うん。この子、やっぱり少しおっぱい大きくないかな……今の子って成長良いのかな……僕も当時にしては大きな子を選んでた気がするんだけど……うん。負けたんじゃないかな、あの子」


 そんな祢々であるが、実は今は前に取っていた綾音の姿ではなく浬の姿を取っていた。これについては特に理由があるわけではないが、どうせなら浬をからかいたいとでも言う所だろう。

 何度か浬達の事を見張っていた中で、意外と浬の事を気に入ったらしい。ゲームとは別にからかって遊びたい、と考えている様子だった。なので最近はもっぱら彼女の姿を取る事が多かった。

 そもそもで当人は知らないので今はまだ意味もない事だが、後には十分に効果を発揮する事だろう。というわけでそれの準備の為にも最近は常に浬の姿を取る事もあって、姿だけを模していた。


「まぁ、それは良いかな……さて、更に奥に、と……」


 祢々はそんな益体もない事を考えながら、奥へ奥へと進んでいく。ここは陰陽師達さえ立ち入らない場所の一つ。故に妨害は罠しかない。よしんばもし見張りが居たとて、世界中から密偵や実力者の集まる現状でこの封印にまで手を回す事は出来ない。と、そんな祢々は最奥に近い所の一角に封じられていた大男を見て、立ち止まった。


「……おや……これは縁は異なもの味なもの。まさか君がここに封じられているなんて……君は僕が封じられていた所に閉じ込められていたと思ったんだけど……数百年の間に移動させられたのかな?」


 祢々が見ていたのは、顔に赤い特徴的な模様の入れ墨をしていた大男だ。その威容は非常に荒々しい様子で、背丈も平安時代には有り得ないだろう二メートルほどの巨漢だった。

 もちろん、筋骨隆々で表情も非常に厳つく荒々しい。服は腰にズボンの様な物を履いている以外には(みの)を羽織っているだけで、これで鬼の角でも生えていれば子供なら絶対に泣き出す様な恐ろしさだった。


「うん、君にしよう……さぁ、土蜘蛛一族の中でも最も恐れられ、同時に最も強かった鬼蜘蛛(おにぐも)。君の出所の時が来た」


 凶暴性、強さ共に十分。祢々は鬼蜘蛛と言うらしい大男に資格有りと判断すると『パーパ』から与えられた魔道具の一つを封印へと取り付ける。そして、その次の瞬間。ガラスの砕け散る様な音と共に中に居た大男が轟音を立てて地面へと降り立った。


「ぐっ……がぁーあ……あー……よく寝たぜ……」


 そんな鬼蜘蛛であるが、満身創痍の上に一千年近くも封じられていたにも関わらず眠たげでさえあった。と、そんな彼は目の前に居た祢々に気付くと、即座に彼女が自分を蘇らせたと理解していた。


「ふむん……お嬢ちゃんが俺を目覚めさせたって所か? まぁ、礼は述べておこう。あんがとよ。礼として手は出さねぇでおいてやる」


 鬼蜘蛛はさして迷う事もなく殺すと明言する。彼は本当に一時期暴れに暴れまわった。殺すというのは彼にとって呼吸と一緒。男も女も老人も赤子も関係なく殺し回った極悪人だ。

 そんな彼だが戦闘にかけては冷静で、そして助けられた相手を殺さない程度の温情は持っていた。そして何より、力だけの馬鹿ではなかった。


「で、何か用か? 俺を目覚めさせるって物好きだ。何か理由があんだろう」

「あはは……僕だよ。わからないかな?」

「あん?……誰だ?」

「祢々……いや、鵺の祢々というべきなのかな」

「はん……ん? 鵺の祢々!?」


 どうやら鬼蜘蛛も祢々の事を覚えていたらしい。まぁ、古い異族同士で、共に晴明が封じた異族だ。知っていても不思議はなかった。が、一瞬の間があったので忘れていたのは、忘れていたのだろう。


「がっははははは! そういや、そんな奴居たなぁ! 面白い格好をしてるじゃねぇか! お前、確か女の格好取るのが好きだったよな! 思い出した思い出した! 今はその格好か!」


 鬼蜘蛛は洞窟が崩れ落ちるのではないか、と思えるほどの大きな声で笑い声を上げる。それに、祢々はひらりと可愛らしいポーズを真似てみた。


「可愛いだろう? 今お気に入りの子でね。にしても、一瞬間があったね。まさか忘れられるとは思わなかったよ」

「あっはははは。あぁ、まぁ……肉付きは悪いがな。もうちょい肉が付いていた方が美人だろう。まぁ、悪くないか。一晩の慰みぐらいにゃなるかね」

「今の時代はこれで良いんだよ」

「へぇ……今は何時だ?」

「西暦、と言っても君はわからないだろうね。少なくとも帝が元号を決めていた頃とは違うほどに未来さ。まぁ、無いわけではないけどね」


 一千年ぶりの目覚めとなる鬼蜘蛛に対して、祢々はおおよその現代の状況と今がどの程度時間が経過したのか、という所を教えていく。それにはやはり鬼蜘蛛も驚きを隠せなかった。


「ほー……まさか一千年とはな。にしてもそうか。晴明(はるあきら)の奴と頼光(らいこう)のクソ野郎が隠居中か」


 ぎらり、と鬼蜘蛛が牙を見せる。晴明と頼光。土蜘蛛退治といえばやはり源頼光が最も有名だろう。その土蜘蛛退治で語られる土蜘蛛は、土蜘蛛の一族の中でもこの鬼蜘蛛がモデルだった。彼からしてみれば自分を封じた相手だ。恨みが無いわけがなかった。


「で……どうかな?」

「ふむ……まぁ、何時もの俺なら乗らねぇんだろうが……起こしてもらった恩はある。それに何より、てめぇのバックは気に入った。まさか、神様か。それもどこかは知らねぇが、ヤバそうな神様だ。その神様のお墨付きで大暴れ出来るとなりゃ、ちょっと我慢するのは割に合うな」

「うん。何時も思うけどやっぱり君は馬鹿ではあっても阿呆じゃないね」


 何が自分にとってメリットとなるか。それを即座に見抜いた鬼蜘蛛に、祢々は笑顔を浮かべる。ここらの知恵も回るからこそ、鬼蜘蛛を選んだ。ただ暴れまわるだけでは困るのだ。

 ただ暴れまわれば即座に世界中から日本に入っている英雄や神様の介入を受ける。敵とそのバックはそういう存在だ。きちんと考えた上で暴れてもらわねば困るのである。

 そして何より、鬼蜘蛛の場合は今はもう一族のバックアップも無い。それを彼はきちんと理解していた。孤立無援で戦えば今の二の舞だ。それは彼も望まない。


「寝起きは大暴れか手頃な女を犯すってのが俺の何時もの行動なんだが……今回はまぁ、しょうがあるめぇ。暴れられる相手もいねぇし、お前とヤるのは俺でもごめんだ」

「おっと……一応美少女だと思うんだけどね。お気に召さないか」

「お前はなーんか嫌な感じがするんだよ。手頃でも無いしな」

「おやおや……さて、まぁ戦い詰めで封印されていた様子だし、怪我の治療も必要は必要だろう。隠れ家に案内するよ」

「悪いな」


 鬼蜘蛛は身を翻した祢々の後ろを歩き出す。そしてその一歩目で何ら容赦なく、祢々に向けてその大きな拳を振るった。が、それは祢々に当たるかと思われた次の瞬間、祢々が消える事で命中する事はなかった。


「……まぁ、落ちちゃいねぇか。俺も、お前も。その飄々と避けやがる様が、俺は苦手だ」

「危ないなぁ、まったく……恩人だなんだ、って言うんなら少しは手加減をしてくれても良いんじゃないかな?」

「はっ。手加減ってなんだ?」


 祢々の苦言にも似た茶化す様な言葉に対して、鬼蜘蛛は一切悪びれる事もなく笑いながらその後ろに続いて歩いていく。どうやら再度攻撃する様な事は無いらしい。彼からしてみれば単に寝ていたので感覚を確かめる実験台として使った、という程度なのだろう。


「さて……じゃあ、行こうか」

「いつも思うが、お前のこいつは便利な術だな」


 祢々が創り出したどことも知れない所へ繋がる闇を見て、鬼蜘蛛が楽しげに笑みを浮かべる。そうして、二人は闇の中へと消えていくのだった。




 さて、それからしばらく。鬼蜘蛛はなんだかんだと現代に馴染んでいた。そんな彼だが祢々というか祢々の『パーパ』が用意したマンションの一室に隠れていた。

 が、同居人は居なかった。やはり彼の性質が性質だ。そしてこのゲームの参加者の性質は似通っている。なので誰かを一緒にすれば暴れて手が付けられない状態になる可能性はあったし、そうなったらそうなったで面倒だ。全員が全員別々の所に敢えて言えば『()()』していた。


「……慣れねぇもんだな。こんな箱で遠くが見れるなんてよ」

「あはは。僕としては君が出てきて初日に小人が、とかやってくれて嬉しかったけどね」


 テレビを見てしきりに訝しむ鬼蜘蛛に対して、祢々は楽しげに笑っていた。当たり前だが鬼蜘蛛だって生きている以上は腹も減る。食事は必要だ。そして与えねば奪うのが彼だ。なので定期的に食事は運ぶ必要があり、それを運ぶのは主に祢々と『パーパ』だった。今回は祢々が来たという所だろう。


「で? あちらさんはどうなってるんだ?」

「今ちょっと面倒な話が起きていてね。僕らを虐げていた西の奴らが大和に入っていて、『パーパ』はその観察に夢中。相手はそちらに掛りきりな様子だよ。というより、『パーパ』はそれを受けて、って感じだけど」


 やはり異族を虐げている現状があり、それに怒りを抱えていたのが祢々だ。なのでヨーロッパを拠点としていた騎士達に良い感情は抱いていない。顔には嫌悪感が滲んでいた。それを見て、楽しげに鬼蜘蛛が問いかけた。


「なんなら、ひと暴れしてきてやろうか?」

「それは良いね。でもまぁ、今居るのは雑魚だけでね。君が楽しめる相手は居ないよ。『パーパ』も嫌がるだろうしね」


 どこか冗談めかした様子だが楽しげな鬼蜘蛛の問いかけに対して、祢々はため息混じりに肩を竦める。祢々としてもいっそ鬼蜘蛛達を騎士達にけしかけようか、と思わなくもなかった。

 なかったが、浬らが自らの意思で騎士達に立ち向かっていくのを見た『パーパ』が下手に動かすな、と厳命したのである。どうやら『パーパ』は浬らの変化がいたくお気に召したらしい。今回の一件で下手に暴れれば手助けをやめるとさえ言われてしまっていた。そうなっては、祢々も彼らを動かせなくなった。


「まぁ、それに……僕としてもいまいち今回は暴れて欲しくなくてね。君達だとちょっとまずい事になっちゃうかもしれないんだよ」

「そうかぁ……そりゃ残念だ」


 一応は助けてもらった恩はあるし、現代の情報をくれたりその他の便宜を図ったりしてくれている恩もある。暴れ者とて恩に報いる程度の仁義はある鬼蜘蛛は非常に残念そうながらもソファに寝そべった。

 それに暴れたいなら、祢々を介して『パーパ』に頼めば場所を提供してくれる。祢々も『パーパ』も鬼蜘蛛達の様な性質の者をそのまま放置していれば何時か堪えられずに暴れだす事はわかっていた。なので暴れられる場所を提供して、適度にストレスを発散させる事にしていたのである。


「あぁ、飯はそこに置いておいてくれ。起きたら食う。レンチンのやり方は覚えた」

「うん……ああ、前みたいに皿を割らないようにね」

「あいよー」


 ソファに寝そべりながら鬼蜘蛛はいい加減に祢々へと手を振る。それを横目に、祢々は闇を創り出してまたどこかへと移動する事にした。


「……魔女、ね」


 小さく、祢々が呟いた。何を考えているのかは誰にもわからないが、そこには僅かな憐憫があった事は事実だ。そうして、何かを考えながら祢々は来た時と同じく再び闇の中へと消えていく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。今日は久しぶりに祢々のお話。どうやら、着々と参加者は集まっている模様です。

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