表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第11章 高天原の大宴会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/634

第242話 闇の加護を

 ひょんな事から決着する事になったカイトの生み出した煌士の姉・桜と空也の兄・ソラの幻影と浬ら一同の戦い。それについては煌士の戦略がある意味では成功した事により、浬らの勝利と相成った。が、やはりその決着はある種の偶然がもたらした物だからか、一人笑うギルガメッシュを除いた全員が微妙そうな顔をしていた。


「のう、カイト。もう一度やり直さぬか?」

『い、いやぁ……まぁ、一応突破は突破だし……』


 スカサハの提案にカイトが半分笑いながらクリアを明言する。確かに誰もが想像していなかった形での決着は決着だ。が、ギルガメッシュも言っていた様に、これが戦場と言うものでもある。何が起きるか誰にも想像し得ない。それが、戦場だと二人も知っていた。


『それに何より、これもまた戦場と言えば戦場だろう。敢えて言えばあれもまたソラらしいと言えばソラらしいと言える』

「それは儂は知らんが……ふむ……まぁ、まだまだと言ってよかろうな」

『おいおい。高々地球で一年未満の戦士にそんな戦闘中に足元がお留守だ、なんてツッコミしてやるなよ。当然だろう?』

「ま、それはそうであるが……ふむ。気をつける事はさせよ」

『オレの本体がやってるだろうさ』


 スカサハの忠告にカイトは己の本体が考える事、と投げ捨てておく。どちらにせよ今浬らが戦ったソラと桜は幻影だ。二人共ここには居ない。なので言っても詮無きことではある。というわけで、無事突破した事になった浬らはというと、流石に戦闘の疲れで一休みしていた。


「はぁ……強かった……やっぱりソラさんむちゃくちゃ強い……」

「ってか、あれでイケメン運動神経抜群で総理大臣の息子って何その勝ち組。ってか、今思えば空也くんもそこそこ勝ち組だよね」

「あ、は、はぁ……」


 ソラの強さに驚きを隠せなかった浬に対して、鳴海は改めてソラの身の上を思い出して僅かに興奮を滲ませていた。なお、それに気圧されているのは空也である。


「ふむ……ソラ兄が加護を使えたとは……にしても、加護か……うむ、バンバン使っていかねばならぬか」


 一方の煌士はというと、やはり先の戦いの見直しを行っていた。やはり一番修正すべきなのは、これからは加護を手札として常用すべきという所だった。ソラは平然と加護を使い、戦場を所狭しと駆け抜けていた。これが彼本来の戦い方かどうかは煌士には知る由もない事であるが、少なくとも加護を使っていくべきだというのは理解できた。


「詩乃。加護を使って闘ってみた感覚はどうだ?」

「はぁ……特に何か変わった感じは。ですがやはり自分が思う以上の速度で移動していますので、変にこの程度でと見繕うと移動に失敗する可能性はありました」

「ふむ……もっと練習した方が良いか?」

「それが良いかと」


 煌士の問いかけに詩乃ははっきりと頷いた。やはり使ってみてわかったのだが、加護を使いながらの戦いは今までの物とはかなり違ったらしい。訓練では加護を使った行動を行っていたものの、やはり実戦は感覚が違うようだ。


「ふむ……となると、加護を使う上で考えるべきはその性質を知る事か。まさか魔術と同じく相性があるとは……」


 煌士はなるほど、と妙な納得感を得ていた。やはり煌士ら魔術師と言える面子は加護を使う練習はしていても、それを使いながらの攻撃というのはそもそもで考えていなかった。

 風の加護の最たる力は加速にこそある。ゆえに空也や詩乃、侑子は戦闘での使用を考えていても煌士らは逃走や距離を取る為にしか使う事を考えていなかった。そしてそれは今回は結果として正しかったと言える。


「ふむ……が、逆説的に言えば風の加護を使いながら風属性の攻撃を使えばその攻撃は強化される、と考えても良いか。であれば、風属性の攻撃を使う時には風の加護を即座に使用出来る様にして……」


 煌士は今回の戦いから見えた修正点を幾つも洗い出して、更にはそれに対する対策を考えていく。と、そんな各々の休憩を過ごしていたわけであるが、それも一段落した所でスカサハが一同の前に立った。


「さて、そろそろ休憩は終いとしておこう。で、儂の採点結果をとりあえず告げてやろう」


 別に採点する必要性も無いのであるが、せっかくアドバイザーをしていたのだ。なのでスカサハが勝手に採点してくれていた。


「まぁ、今回は結果も含めて60点という所かのう。正味で言えば50点、結果が結果なので60点という所よ」

「ぎ、ぎりぎり及第点ですか……」

「それはそうよ。流石に今回の戦闘はまぁ、見れたものではない。結果論として良い方向に出た、という事が多すぎる。これが儂の弟子であればぶん殴る所であるが、そうではないので小言という所で留めておく」


 煌士の言葉にスカサハは頷くと、各個人に対して見直すべき点を指摘していく。やはりここらは数多くの英雄を育ててきた女傑スカサハという所だろう。非常に的を射た指摘が多く、全員が見直すべき点を指摘されていた。


「さて……というわけで長々と話したわけであるが、総じて及第点で良かろう」

「あの……僕は?」


 一通りの指摘を行ったスカサハに対して、海瑠が問いかける。この中で唯一、海瑠には何も指摘が飛ばなかった。それこそ称賛も批判も何も、である。これに、スカサハがため息を吐いた。


「お主は……のう。敢えて言えば儂では評価出来ん。お主、先程無自覚的に多重照準や魔銃のオートスイッチ……その他 幾つもの特異スキルを展開しておった」

「……へ?」

「はぁ……魔眼の併発という所かのう。お主、おそらく前世のお主あたりから何らかのメッセージ、もしくはギフトを得た様子でな。流石にこれを評価せよ、と言われてもそれはお主への評価ではなく前世のお主への評価になろう。そしてそれで言えば、前世のお主の評価は儂をして満点と言うしかあるまい。未熟者のお主へと無自覚のままにあれだけの技術を譲渡出来た。それだけでその技量はおそらく人類史上最上位に位置しておろうな」


 スカサハはため息混じりに、海瑠の前世の(なにがし)に対して論評を行う。下手をすると生前の海瑠の前世は遠距離攻撃においては自分以上の傑物。そう言うしか無かった。そしてそんな彼女は今度は肩を竦める。


「ま、流石に発動せぬ以上、どの魔眼かは儂にもわからん。そしておそらくその領域に至る者が使った魔眼。おそらく、儂でさえ知らぬ魔眼の可能性は非常に高い」

「そんなに凄いんですか?」


 海瑠は相も変わらずの役立たずとしか言い得ない己の魔眼に対するスカサハの絶賛に首を傾げる。この世界でも有数の賢人でもあるスカサハでさえ知らない魔眼だ。どんなものかもはや想像も出来なかった。というわけで、スカサハが僅かに興味深げに問いかける。


「なんなら発動させてや」

『やめろ、それは……もし暴走したらどうするんだよ……オレがむちゃくちゃ苦労したんだぞ、あの魔眼の暴走止めるの……』

「……ことさら、儂としては興味深い」


 自分の発言に割って入ったカイトの言葉に、スカサハが研究者としての興味を滲ませる。カイトを筆頭に世界でもトップクラスの英傑達を武力で恐れさせてなお、彼女は本来は魔術師なのだ。というわけでどこかマッド・サイエンティストじみた性質は持ち合わせていたのであった。


「ははは……いや、やめておけ。その魔眼は少なくとも安易に覚醒させるべきではないだろう。カイトからのまた聞きでしか無いがな」

『……せんせ。恨みますからね……ぐぇ』

「……すまん。これはうっかりだ。流せ」


 スカサハにひっ捕まえられたカイトの言葉に、ギルガメッシュが思わず謝罪する。スカサハは言外に自分にも語れ、と言っているのであった。


「さて……このバカ弟子にはとりあえず後で問い詰める事にして……いや、いっそ本体に問い詰めるか。うむ、ついでなのでそれで良かろう」

『……すまん、オレよ……恨むのなら先生を恨め……』


 完全に異世界への渡航を決定したスカサハにカイトは己の本体への同情を滲ませる。カイトがギルガメッシュに海瑠の魔眼を語ったのは、この宴会での事だ。そして忘れられがちであるが、この数時間前まで二人は酒を飲んでいたのである。ギルガメッシュもそこそこ酔っているらしく、敢えて言えば先の発言は酔った勢いで、という所なのだろう。


「ま、良いわ。というわけでさっさと奥に行って来い。論評はこれで終い。お主の魔眼については追々ルルらと語り合えばよかろう」

「は、はぁ……」


 ひとまず自分の魔眼については置いておけ、というスカサハの助言に海瑠は生返事で同意する。そうして、そんな謎を残したまま一同は再び歩き出し、周囲の闇が深くなった頃に案内人を務めていたギルガメッシュが立ち止まった。


「ここらへんでもう大丈夫だろう。カイト」

『はい……おーい、ルナー。出れたら返事してくれー』

「……来た」


 カイトの言葉を受けて、闇の大精霊ことルナが顕現する。そうして、ルナは一応のねぎらいの言葉を浬らへと送る。


「とりあえず、おつかれ。試練の突破おめでとう」

「は、はぁ……」


 相手は大精霊だ。ゆえにそのねぎらいに浬は生返事だった。どう接すれば良いかわからないのだ。とはいえ、それは偉人を前にした少女の反応としては普通といえば普通の反応――はっきり言えば大精霊相手には普通ではないが――なのでルナも気にしなかった。


「で、話は聞いてるし、知ってる。だから、はい」

「きゃっ」


 ルナの言葉と同時に闇色の光を放った右手の指輪を見て、浬が小さな悲鳴を上げる。とはいえ、異変はそれだけで何かが変わった印象は見受けられなかった。


「……これで終わり。疲れた」

『ああ、おつかれ……は? ああ、瑞樹? 向こうで元気してるって? ま、オレが居るから……あ、そうじゃなくて?』


 どうやら語るべき事を語って疲れたらしい。ルナはカイトへのみ通じる念話で話をしているようだ。と、その一方でギルガメッシュが闇の加護についてを教えてくれた。


「さて……では、闇の加護についてはオレが教えよう。ここらは専門家はオレかカイトぐらいしか居ないものでな。カイトがルナとの話し合いに入ったのでオレがやろう」

「……あれ? あの……大精霊様を呼び捨てで良いんですか?」

「うん? ああ、それか。まぁ、そこはそれと考えてくれ」


 ギルガメッシュはどこか訳知り顔で浬の問いかけに頷いた。やはりカイトが尊敬する恩師という所で、彼も大精霊様やルナ様ではなくルナと呼び捨てにしていた。この理由はもちろんあるが、それを彼がここで語る事はなかった。


「それで、闇の加護だが……まぁ、これは敢えて言えば便利系と言えば良い。実際に使ってみれば早い。やり方は風の加護と同じだ。やってみると良い。攻撃力は無い。安心して使える」


 ギルガメッシュはそう言うと、浬に使ってみる様に促した。


「え、っと……はい……<<闇よ>>」


 浬が風の加護と同じ感覚で力を込めると、それだけで指輪から闇が吹き出した。が、それは吹き出しただけで何もならない。風の加護の様に身体能力が強化されたようにも見えないし、何か身体的に変わったという事は見受けられなかった。


「……なんですか、これ?」

「簡易の異空間だと思え。その中に物を入れて持ち運べる。運べる大きさは人それぞれ。まぁ、魔力次第という所だろう」

「……え、便利。ってことはカバン代わりに使えるって事ですか?」

「そう考えて良い」


 こんな実用的な加護もあるのか。浬は風の加護とは違い戦闘以外に使える加護に大いに驚いていた。まぁ、それ故エネフィアでは最も使えない加護というあまり良くないあだ名を得てしまう事もある闇の加護なのであるが、戦闘なぞ殆ど無い現代日本ではこちらの方が有益性が高かった。


「もちろん、加護なので魔術的な探知にも引っかからないし、科学的な探知にも引っかからない。国外に武器を持ち出す時や逆に外国に武器を持ち込む時には使えるな」

「ふむ……加護と言っても色々な形があるのですね……あ、三日月殿。もしかしてこれの中に入れたりは……」

『ふむ……確かにそうすれば逐一召喚という手間もないし、助言も出来るか。少し試してみよう』


 戦闘系以外の力を見せた闇の加護を受けて、空也がさっそくとばかりに三日月を仕舞ってみる事にする。三日月を召喚するのだって力を使う。それは遠くなれば遠くなるほど、使う魔力の量は多くなる。それを考えれば、この加護の中に入れていられればただ加護を発動するだけで取り出せるのだ。非常に使い勝手の良い話である。そしてその一方、ギルガメッシュは更に話を続ける。


「そうだな。色々と試してみると良い。さて……そう言ってもこれは他にも使いみちがある。それを教えておこう……スカサハ。手を貸してくれ」

「良かろう……浬。お主そのまま立っておれ」

「え? あ、はい」


 とりあえず名指しで指名されたので、浬はそのまま突っ立っておく事にする。何故浬だというと、単に良い位置に浬が居たから、というだけである。


「加護を」

「はぁ……<<闇よ>>」


 ギルガメッシュの促しを受けて、浬は先程と同じく闇の加護を展開する。それは指輪から溢れ出て霧状になると、そのまま浬の前に滞空し続ける。


「魔力を操る要領でそのモヤは操れる。試しに目の前に動かしてみろ」

「あ、はい」


 浬はギルガメッシュに言われた通り、魔力を操る様にして霧を眼前へと移動させる。その結果彼女の前には擬似的に闇の霧の壁が出来上がった。と、その次の瞬間。唐突にスカサハが猛烈な速度で槍の一突きを放った。


「きゃあ!? い、いきなり何するんですか!?」

「ほう……実際に見るのは初めてであるが……これはなかなかに凄いのう」

「……あれ?」


 突かれた筈なのに槍がこちらまで届いていないのを見て、浬が首を傾げる。そして試しに霧の先を覗き込んでみると、スカサハの持つ血の如き真紅の槍が闇の霧の中に飲み込まれていた。その確認を見たギルガメッシュが一同へと解説を続ける。


「これが、もう一つの使い方。敵弾吸収とでも言おうか。もちろん、今はスカサハが敢えて狙い撃ってくれたから良かったものの、という所だ。近接戦闘でこれは使えないと思っておいた方が良いな」

「そうか……物を取り込めるという事はつまり、敵の攻撃も取り込めるという事なんですね?」

「そういうことだ。物は使いようだ。もちろん、慣れてくれば勢いなどをそのままに保存しておく事も出来る。なので敵の魔術を取り込んで、逆に敵に放つという事も可能になる」


 煌士の理解にギルガメッシュが笑顔で頷いた。別に保存出来るものが武器だけというわけではない。敵の攻撃を取り込む事も可能なのである。

 そしてこれは大精霊達の力。どれだけ簡単そうに見えても、その力は最上位に位置している。数少ない例外を除けばどんな攻撃だろうと取り込めるのであった。敵の攻撃に対する防御壁の役割を兼ねてくれるのであった。


「が……敢えて言えば人は入れられん。なので実体化した状態の付喪神は入れんことは覚えておけ」

「……それは先に言ってほしかったぞ」

「……」


 実験とばかりに実体化して闇の加護の中に入ろうとしていた三日月と空也が恥ずかしげにギルガメッシュの言葉に試行を取りやめる。とはいえ、これで浬らは闇の加護も手に入れた事になる。そうして、彼女らは黄泉比良坂を脱出して再び高天原へと戻っていく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。長かった高天原編も後少しで終わりです。次回は来週土曜日の21時投稿です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

*活動報告はこちらから*

作者マイページ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ