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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第2章 神々の試練編

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第23話 訓練の成果

 蒼い髪の男が去った後。しばらくすると、一日の授業を終えた浬達がフェルの分身に連れられて入ってきた。


「・・・は?」


 そうして浬が部屋に入って来て見た物は、二人のフェルだ。その様子に、思わずぽかん、と大口を開けて唖然となる。更に続いて入ってきた他の三人も、二人のフェルを見て同じ表情となる。


「何をそこまで呆けている?」

「ふぇ、フェルちゃん・・・気のせいかな?二人居る様に見えるんだけど・・・」


 浬が引き攣った表情で、今見た光景を問いかけてみる。それに、ワイン――途中で蒼い髪の男が追加で買いに行った――を片手にフェルがため息混じりに解説した。


「分身だ」

「え? 何時入れ替わったの?」

「朝からずっとそいつだ。お前と昼を食べたのも、体育でペアを組んだのも、全てそいつだ」

「み、見えてたの・・・? と言うか、朝から?」


 浬が困惑した表情で問いかける。それに、フェルはワインを飲みながら答えた。ちなみに、一同はフェルがブドウジュースで、御門は烏龍茶を飲んでいると思っている。


「ふん・・・別に意識を分割すれば、授業なぞ私が受ける必要も無い。ここで朝からワインを楽しませてもらっていた」

「学校で飲酒って・・・先生、もしかして・・・」

「あ? インドラっていや酒好きで有名だろ。その俺が目の前で飲まれて飲まねえわけないだろ」

「妾もたまさか日本酒を楽しませてもらっておるのう」


 三者三様に飲酒を楽しんでいた三人に、浬達四人はもう唖然として何も言えなくなった。だが、そんな四人に、フェルが問いかける。


「それで? 今日が最終日だが、全員楽しま・・・ではなかった。きちんと基礎は出来る様になっているのか?」

「あ、はい」


 フェルの問いかけを受けて、海瑠が掌に淡い黄色の光を浮かべる。それに続いて、他の三人も各々掌に魔力の塊を創り出した。浬が薄っすらと赤み掛かった虹色、鳴海が桃色、侑子が白色に近い青色だった。

 この魔力行使で生まれるのは、単なる個人由来の魔力による塊だ。なので、個人の魔力の色がそのまま光として現れているのだった。


「ほう・・・とりあえず、出来るようにはなっている様だ。なら、安心して次の段階に入れるな」

「つーか、ちょっと待て。浬ちゃん、もう一回やってもらえるか?」


 御門が何かに気付いて、浬に再度の魔力行使を依頼する。それを受けて、訝しみながらだがもう一度、浬が掌に魔力の塊を浮かべた。そうして、再び浬の掌に虹色の光が生まれる。


「虹色、か・・・珍しいな。兄と同じか」

「・・・兄妹で似たとかあるんじゃないの?」

「・・・お前、弟わすれていないか?」


 浬の問いかけに、フェルがため息混じりに指摘する。確かに、カイトと浬は同じ虹色系統だ。だが、海瑠は黄色だし、兄妹は知らないが父の彩斗は新緑色で、母の綾音は綺麗な青色だ。この魔力の色に関しては、血縁関係は一切関係が無いのだった。なので、フェルはそれを説明してやる、

 ちなみに、魔力の固有の色が虹色になるのはかなり珍しい。まあ、虹色だったからといってそれがどうした、となるだけなのだが、とりあえず、珍しい。それが兄妹で揃って虹色となると、数千年どころか万年の時を生きている彼らとしても、初めて見たのだった。


「と、言うわけだ。虹色だったからと言って、それがどうした、となるだけだ」

「・・・そ、そう言われるとちょっと残念」


 珍しい事でありながら、それがどうしたと明言されてしまって浬が少しだけ残念そうに落ち込む。が、そんな浬に対して、フェルが苦笑気味に告げる。


「まあ、珍しさだけで言えば、海瑠の魔眼よりも更に上だ。まあ、魔眼の種類が分からんから、なんとも言えんがな」

「でも、だからどうした、なんでしょ?」

「そうだな」


 浬の問いかけを、フェルが楽しげに認める。意味は無い事なのだ。


「で、合格が出たってことは、次の段階に移って良いのか?」


 そんなフェルに対して、侑子が問いかける。ここから先に進まない限り、彼らは死が確定したままだった。


「ああ、そうしろ。インドラ、次の段階に移ってやれ」

「あいよ・・・というわけで、次の段階だ。と、言ったは良いんだが、結局は今までの修業の繰り返しだ。まず、魔力を完璧にコントロール出来ない事には魔術も何もあったもんじゃ無いからな」


 フェルの言葉を受けて次の段階の指南を行った御門だが、結局は今までやった瞑想の修行が続くだけだ。なんだかんだ言いながらも、結局は基本が一番大切なのである。とは言え、流石に次の段階だ。違う部分も出てきた。


「とは言え・・・流石にこのまま同じ事をやった所でなんの訓練にもならない。だから、次の訓練は一歩、先だ。まあ、まずは見とけ」


 御門はそう言うと、掌を天井側に向けて右手を前に出す。そうして彼は意識を集中することもなく、紫色に近い魔力を生み出した。そこで、御門は一度口を開く。


「まずは、これが今のお前らの段階だ。それで、次が、お前らに進んでもらう段階」


 彼はそう言うと、大して意識せずに魔力の塊を操作する。すると球形だった魔力の塊はみるみるうちに大きくなり、およそバスケットボール程度の大きさになる。

 そして、更に魔力の塊は形が変化していき、グネグネと魔力の塊は蠢いて、様々な形に形を変える。それはパット見単なるボールの様な球状から、知恵の輪の様に複雑奇怪な形状まで様々だった。


「これが、お前らの次の段階だぞ、っと。魔力のコントロール。魔力を自由自在にコントロール出来る様になって、初めて魔術を使える様になる」


グネグネと魔力を変幻自在に操作しながら、御門は次の段階についての説明を行っていく。それに、浬達4人は目を見開くしかない。そんな芸当は到底出来そうに無かったからだ。


「カイトはこれが得意でな。これで剣を創り出したりボールを創り出したり結構色々出来る。あれはあいつの天性の持ち味だろう」

「ボール? そんな物も創れるんですか?」


 鳴海が少し訝しげに問いかける。魔力は彼女らが触れた限りでは、触れる様な物では無かったのだ。まあ、それを可能にするのが、次の段階なのだが。


「出来るぞ」


 鳴海の問いかけに、御門は魔力の塊を操って再度バスケットボール程度の大きさの球状に変化させる。そして、それはみるみるうちに変色し、実体を持っていく。


「ほれ」


 そうしてバスケットボールと見紛うばかりの魔力の塊を創り出すと、御門はそれを侑子に向けて投げ渡す。


「おっと・・・あれ?」


 侑子は投げ渡された一瞬訝しんだものの、受け取って、その実際に見ていなければバスケットボールではないとわからないその出来に、目を見開いて驚く。そして、手応えを確認するように、侑子は浬に向けて部活と同程度の力でバスケットボールをパスする。


「浬、パス」

「ひゃ・・・あ、すごい・・・」

「あれ、ほんとに本物のバスケットボールみたい・・・」


 受け取って一瞬は浬も驚いたが、すぐに自分に手に馴染みがあるボールに目を見開く。それを見て鳴海も触れるが、そこには一切の違和感が存在していなかった。おそらく、これをプロのバスケット選手に見せても、このボールが偽物だとわからない程の出来栄えだった。


「あらよ、っと」

「うわ!」


 だが、やはり偽物だ。海瑠の手に渡っていたバスケットボールだが、御門が指をスナップさせると、紫色の塊に一瞬戻りそのまま雲散霧消した。そうしてボールを雲散霧消させて、御門が口を開いた。


「びっくりした・・・」

「まあ、ここまでは出来る様にならなくていい。だが、せめて自由自在に動かせる様にならないと、どうしようもない。魔力を自由自在に操れるようになって、ようやく次の段階だ。このやり方は、今までと同じ様に魔力を出現させて、それに集中して動かすイメージを持つ事。まあ、魔力を出せるようになれば、一、二週間もあれば、動かせる様になる」


 イキナリ消失したバスケットボールにたまげた海瑠を笑い、御門は次の段階についての説明を行う。


「とは言え、まあ、ぶっちゃけ魔力をきちんと出せていれば、後は自分での訓練だけで自然に出来る様になる。だから、部活に出ても良い、って言ったんだ」

「そうなんですか?」

「ふん・・・私達とて、何時も何時でも貴様らに付き合ってはいられん。そもそも、私達がここにいるのは、日本で何か起きた場合に活動する為だ。始めこそ見てやれる時間は割いたが、実際に魔術の習得に入れるまで、後は各自で練習しろ」


 海瑠の問いかけに、フェルが偉そうに告げる。まあ、その理由の殆どには面倒だから、という本音が隠れているのだが。基本、彼女は自分で動くつもりは無いのである。


「まあ、折角集まったんだ。今日一日ぐらいは、俺達がみている。とりあえず、何度もやってみ?」


 とは言え、今日はここにいるのだ。なので、御門もフェルもきちんと面倒を見てやるつもりだった。なので、4人は再度二人の指導の下、訓練を開始するのであった。




 一方、数日間学校を休んで集中的な訓練をしていた煌士達も、一区切りを付ける段階に来ていた。


「はっ」


 空也が小さく息を吐いて、竹刀を振るう。此方はすでに魔力のコントロールの段階を終えて、次の段階、つまりは身体の動きを魔力で補佐してやる、という段階にまで来ていた。

 まあ、この次の段階は浬達には殆ど必要の無い物と判断されていた為、御門もフェルも訓練の行程に入れていないのだが。

 逆に取り入れてしまうと普通の生活が送れなくなる可能性が出て来る為、採用していないと言う所も大きい。慣れてしまうと無意識で魔力行使をしてしまうため、まさに常識はずれの運動神経を披露してしまうことになるのだ。


「ふっ」


 空也の振るった竹刀に対して、詩乃が短く息を吐いて小太刀程度の竹刀を振るう。これが、彼女の護衛としての得物と同じ大きさだった。

 ちなみに、詩乃の本来の得物はスカートの中に隠し持つ肉厚な軍用ナイフ、だった。見た目中学生だし真実中学生だが、護衛は護衛、なのであった。


「うーん・・・俺、超えられとんな・・・」


 そんな二人に対して、彩斗が苦笑混じりに呟いた。もともとの土台が違うといえばそれまでだが、こと運動に関して言えば、すでに弟子であるはずの二人は大幅に彩斗を上回っていた。そして、彼はちらりと煌士の方を覗き見る。彼は一人魔法陣を如何に素早く構築出来るか、というのに挑戦していた。


「こっちもこっちで既に物凄い習得度合いやし・・・はぁ・・・」


 煌士は運動神経も然ることながら、その記憶力が物凄かった。彼は一瞬ちらりと見ただけの魔法陣の形を完璧に覚えてみせただけでなく、それを再現してみせたのだ。いや、それだけにとどまらず、自らで改変までしてみせたのだ。現に、今も。


「おぉ! これで風が曲がるすわけか! さすが我輩! たった一度見ただけの魔法陣を改良してみせたぞ!」


 興奮した様子で、自らの腕前を称賛する。まあ、実際に称賛させれ然るべき腕前だったのだが。おそらくこの場にフェルが居たとしても、思わず感心しただろう。一週間の訓練の出来栄えとしては、確かに感心すべきものだった。


「はぁ・・・」

「彩斗殿。出来栄えはどうですか?」


 と、感心なのか呆れなのか微妙なため息を吐いた彩斗に対して、空也の父・星矢が声を掛けた。彼も今回の一件に関係のあるものとして、時折時間が出来た時ではあるが、顔を出す様にしていたのである。


「あ、天城総理。お久しぶりです。まあ、自分もそうですけど、社長の予想からも遥かに上を行く、という所でしょうか」

「そうですか」


 彩斗の進捗具合を聞いて、星矢が一つ頷く。実際に彼も訓練風景を見て、その進捗具合の報告に納得できたからだ。そうして、納得出来たのなら、彼は踵を返すだけだ。


「・・・では、私はもう行きます」

「挨拶ぐらいされて行ってもいいと思うんですが・・・良いんですか?」

「どうやら訓練に熱が入っている様子。邪魔するわけにもいきませんので」


 殆ど説明をしなかった星矢だが、彩斗の求めに応じて説明を行って、そのまま去って行く。まあ、彼は日本の内閣総理大臣だ。そんなに自由な時間を取れるわけではない。

 後に聞いた所によると、偶然近くに来れて、時間もあったから、励ましにでもなれば、と顔を出しただけだそうだ。そうでもなければ、来るつもりは無かったのだろう。


「こりゃ、俺らもしくじれんなぁ・・・」


 去って行った星矢を道場の出口まで見送って、彩斗が零す。既に実力としては超えられている感はあるが、彼にとっては煌士達は弟子だ。その弟子がここまでやってくれているのに、自分達がしくじれるわけが無かった。


「しゃーない。明日筋肉痛酷いやろうけど・・・俺もやるか!」


 絶好調とも言える弟子たちを見てか、彩斗も気炎を上げる。もともと、彩斗とて訓練中に近い身だ。それ故、これから先の一週間、彼は煌士達の訓練に混じって訓練を行うのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。次回は来週土曜日21時です。

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