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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第11章 高天原の大宴会編

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第233話 黄泉路を下り

 カイトの指示により、高天原での大宴会を抜けて黄泉路を下っていく事になった浬達一同。そんな彼女らはギルガメッシュとスカサハという二人の冥界に縁のある人物の案内を受けていた。


「ふむ……儂もここに来たのは初めてだが……なるほど。こういう冥界も中々に面白い」

「メソポタミアとしてはこんな冥界はあり得んがな」


 スカサハの言葉にギルガメッシュが応ずる。ギルガメッシュはメソポタミアの後継で冥界神としても祀られている。それについては先に当人が述べていた様に呆れるばかりであるが、それでも彼が冥界に縁があったことは事実だ。というわけで、彼も冥界は時折訪れていたらしい。

 それについては色々とあって、というのが彼の言葉だし、それを知るカイトもはぐらかしたので浬らにはわからない事だった。と、まぁそれはおいておいても。煌士はそんなギルガメッシュの語りに続けた。


「メソポタミアの冥界……『帰還する事のない地(クル・ヌ・ギ・ア)』ですね?」

「ああ……冥界神エレシュキガルの治める冥府だ。もう今は無いがな」

「無い? 何故ですか?」


 煌士が首を傾げる。冥府が無くなった、というのはやはり驚くに値する出来事だ。そしてこういった出来事は世界について詳しく知らないと知れない事でもある。故に煌士も想像さえしていない事だった。そんな煌士に対して、ギルガメッシュは少し顎に手を当てて考えてから、口を開いた。


「ふむ……煌士。君は冥界をなんだと思う?」

「冥界ですか?」


 冥界とはなんなのか。煌士は問われて、一度自分で考えてみる。とはいえ、考えた所で出る答えは一つだけだ。


「あの世以外になにかあるのですか?」

「だから、そのあの世とは何なのだ、という質問だ。彼岸、冥界、黄泉の国……なんとでも言えるあの世。それは一体如何なる存在であるのか」

「……」


 ギルガメッシュの再度の問題提起に、煌士は再度沈黙して己の頭で考え始める。


「あの世、冥界、彼岸……」


 煌士はあの世の事を何度か口にして考えてみる。そうして、彼はしばらくして一つの答えを出した。


「魂の行き着く先、ですか?」

「そうでもある……が、一つここで提示しよう。先に黄泉比良坂の入り口を通ったわけであるが、あの時我らは別に肉体を失ったわけではない」

「つまり……ここには肉の器を持ったまま居るという事ですか?」

「そうだ。いや、オレやスカサハはそもそも肉体を失っているわけでもあるので微妙な所ではあるが……少なくとも君達は肉体を失っていない」


 ギルガメッシュは一度自分達が特例である事を明言しつつも、その後は煌士達に対してしっかりと明言する。ここらは先にカイトも明言していた通りだ。

 実際、彼女らは生きたままこの黄泉比良坂に立っている。そして生きていると言っても臨死体験や例えば幽体離脱の様に肉体を置き去りにしているわけでもない。きちんと肉の器を兼ね備えた上での話だ。


「さて……その上で君はあの世を何だと思う?」

「……あの世とはなんなのか」


 煌士は改めての提起に再び本題に立ち戻る。今まで数多の哲学者達が探し求めて、ついぞ手に入れられなかった疑問の答え。それを導き出してみろというのだ。やはり一筋縄ではいかなかった。が、ヒントは山程与えられていたのだ。答えを出すのはそう難しい事ではなかった。


「……冥界とは単なる異空間というだけ、なのですか?」

「そうだ。敢えて言ってしまえばそう言える。そうだな……死とはなんなのか、という根本的な話に入ろうか」

「ふむ……」


 ギルガメッシュの講釈に煌士は真剣な顔で耳を傾ける。人類最古の英雄が講釈を行ってくれる事なぞ、まず滅多にあり得ないと断じて良い。その一言一句を逃すまいとしていた。

 と、その一方でその幼馴染の空也はというと、こちらはこちらでスカサハと話をしていた。やはりこちらはカイト以上と言われる武芸者だ。興味が無いわけがなかった。


「ふむ……お主の兄も向こうおるのか」

「はい……カイトさんと共に」

『ソラ……つっても姉貴は知らんだろうが。向こうでオレの補佐をやってる一人だよ』

「ふむ……まぁ、別段気にする程の事でもないか。腕は?」

『悪くは、無いんじゃないか? あいつ、変な技を開発するのに凝ってたり、意外とハマる事もあるからな』


 スカサハの問いかけを受けたカイトが空也の兄についてを語る。それに、スカサハが僅かに興味を持った。


「ほう。技の開発が出来るのか。それは面白い」

「そう……なんですか?」

「うむ。型に嵌まらぬと言えば良いか。そういう戦士は珍しい。そして珍しい故、もし上手く大成すれば大物になれる」


 空也の問いかけを受けたスカサハははっきりとそう明言する。と、そう言った彼女であるが、そのままきちんと明言すべき事を明言しておいた。


「っと、言ってももちろん普通に修練する者が大成せぬわけではない。が、戦士として面白いという意味であれば、お主の兄の性質の方が面白い」

『そりゃ、戦う側としての話だろ……』

「はははは!」


 カイトの苦言にスカサハはただ大笑いして、それを認めるだけだ。結局、この大物というのは単に彼女が戦って楽しいか否かというだけに過ぎなかったらしい。そんなスカサハにカイトがため息を吐きつつ、空也に告げる。


『はぁ……姉貴の言葉はまぁ、気にするな。こればかりは個人の性質だ。別に新技を開発出来ないから、と気に病む事はない……が、まぁ……』

「どうしたんですか?」

『あまり好まれないのも事実といえば、事実だというだけだ』

「どういうことですか?」

『そうだな……何故、信綱公や卜伝殿、姉貴……は特例だから捨て置くとして、数多の伝説のお師匠さま達が弟子を取ると思う?』


 煌士の所に対して、空也に対してはカイトが問いかけを行う。しかしこれに空也はあまり考える事もなく、ありきたりの答えを述べた。


「後世に自分の技術を残す為、ではないのですか?」

『残念』

「違う」


 空也の返答にカイトと笑っていた筈のスカサハが一転真剣な目で断言する。そして、今度はスカサハがはっきりと明言した。


「はっ。自分の技術を残す為に伝え継ぐ。そんな事をせんでも儂が伝えよう。その様なものは所詮、神域やこの領域にたどり着けぬ程度でしかない者達がやる事よ」

「あ……」


 言われて、空也もはっきりと理解した。確かに、それは表の世界なら不思議はないことだ。空也にせよ煌士にせよ、浬にせよ海瑠にせよ与えられている時間は短い。

 どれだけ頑張っても、そして医療が進歩して伸ばせるだけ伸ばしても人間は120年しか生きられない。が、裏の世界、つまりスカサハ達の居る世界では数百歳という存在はザラに居る。それこそ数千歳もザラだ。技術を伝え継ぐ必要なぞ一切無いのだ。


「儂が望んでいるのは、ただ一つ。儂に比肩しうる敵を育てる為。わからぬか? 戦士であれば、敵が欲しいのよ。どうしても武芸とは相手あっての事。藁人形や棒きれ相手に技を振るうのは型稽古とさして変わらぬ。故に、儂は育てておるわけよ」

『ま、姉貴は異端だが……ほぼ全員が似たような事を考えている。自分の技術を更に高みへ登らせて、自分に比肩しうる敵となってくれる事を望むのさ』

「それは……」


 物凄い難しい事なのでは。空也は思わずそう呟いた。そしてこれにカイトもはっきりと頷いた。カイトなのは彼がまた弟子という立場でしかないからだ。


『そうだ。すごい難しい。信綱公に比肩しうる、なんて今のオレには夢のまた夢。いや、その夢のまた夢でさえある。おそらく今後100年経過しても敵になんてなれないだろう。だが、オレや姉貴達裏の住人達にとってそんな時間はまたたく間に等しい。その百年先を期待して、彼らは育てるんだ』

「ま、儂の場合は外からやってきたわけであるがな」

『そりゃ、奴らに言ってくれ。人を地脈に叩き落としたな。あれ、マジで死ぬかとは……思わなかったけどどうしようか、と悩んだぞ』


 スカサハの言葉にカイトはただただため息を吐いた。ここらは彼らの出会いに関係があるらしい。が、フェルはその時この案件にはとある理由で関われなかったので彼女もあまり知らないらしい。というわけでそれ以降の話は続かず、普通に本題に戻ってきた。


「ま、そういうわけでのう。新技を作れれぬ……否、技術を発展させられぬ弟子なぞ不要とさえ論じられても不思議はない。まぁ、普通はそういうことは無いのだがな。よほど才のない……いや、これも変な言い方か。よほど変な才能の偏りでもなければ普通は先に行ける。なにせ一度は誰かが至った道よ。それを後追いで進んで先に進めぬ道理はない」


 スカサハは空也に向けてはっきりと明言する。と、そんな彼女であったが、それにカイトがため息を吐いた。


『それ、オレの言ってる言葉じゃねぇか。てか、オレより先生の方だし』

「ははははは! いや、しかしこれは道理よ。儂らは数百年掛けて独学で進んだが、なにせその数百年を学ぶのでな。先に至れぬ筈がない」


 スカサハは一頻り笑うと、そう言って頷いた。そうしてそんな武芸の師弟の談義を行う空也達に対して、浬達はというとこちらもこちらでちょっとした談義を行っていた。


「……見える?」

「うん、見える」


 浬の問いかけに海瑠ははっきりと頷いた。見える。何が見えるのか。それは浬らの様子を見れば、わかった。


「魂ってあんなのなんだ」

「……ヤバいのとか居そう?」

「んー……」


 海瑠は周辺を漂う光り輝く『何か』を見ながら、少しだけその輝きを観察してみる。そうして見えたのは、彼はこれがやはり魂なのだという事だった。まぁ、浬らが怯えているのもそれ故だ。本当に見えないだけでここには無数の魂が浮かんでいるらしい。


「何個か……うん。あんまり良くない輝きがあるかな……」

「……襲ってきそう?」

「それは無いと思うよ……だって、ほら。触れても何もならないし」


 海瑠はどうやら漂っているらしい輝きの一つに触れてみる。が、何かが起きるわけでもなく、ただ通り抜けた。と、そんな所にカイトが飛来する。


『あまり魂を驚かせてやるな。何故死んだか、とかもわからんが……せめて死んだ後ぐらいは安らかにさせてやれ』

「あ……そう、だね。ごめんね」


 カイトからの苦言に海瑠は輝きから手を離す。と、そんな兄に海瑠がふと疑問を得た。


「そう言えば……お兄ちゃんも見えるの?」

『本体なら、な。この使い魔は見えてない。が、流石に話聞いてりゃわかるさ』

「へー……お兄ちゃんも魔眼持ってるの?」

『いや、オレは持ってないんだが……まぁ、ちょっとした縁で向こうの死神と知り合っててな。その縁で見える様になった』


 海瑠の問いかけにカイトは少しだけはぐらかしながら答えた。それに、浬が問いかける。


「それってあれ? あの黒いコートというかフードというか……あの時のあれ?」

『……まぁ、そんな所。千方にだって通用するんだから、物凄い品物だとはわかるだろ?』

「それはわかるけど……なんかヤバそうに思えてきた」

『そうでもないぞ? 実際、死神つっても月の女神。つまりは夜を統率するから権能の一端で死神と言われているだけだ。それ故、また別の側面として美の女神とも言われる様な奴だからな』

「やっぱ頂戴」


 カイトからの情報に浬が即座に手のひらを返す。やはり美の女神の持ち物だ。縁起がよい様な気がしたらしい。と、そんな話をしていると、一同は周囲が少し雰囲気が変わった事に気付いた。


「あれ……そう言えばいつの間にか花畑が終わってる?」

「ああ、そろそろ本格的な黄泉比良坂に入ったな……さて、ここからが本番だ。ビビるなよ」


 海瑠の言葉にギルガメッシュが笑う様に告げる。と、そんな声にまるで呼び起こされるように、カタカタという乾いた骨がぶつかり合う様な音が浬らの耳に聞こえてきたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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