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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第2章 神々の試練編

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第21話 もう一人の仲間 ――天城 空也――

『で、そこの少年。お前も災難だったな』


 彼との出会いは、その言葉で始まった。空也は静寂の中、それを思い出した。あの時彼は圧倒的に強かった。あの当時荒れ果てていた兄よりも、遥かに、強かった。精神面も然り、肉体面でも然り、だ。それ故、彼の目標はその時から、兄から彼に変わった。


「めぇーん!」

「面あり!」


 竹刀がぶつかり合う音だけが鳴り響く道場の中。空也の声が響いた。それに併せて、審判役だった教師が空也の一本勝ちの旗を上げる。

 それを見て、空也と相手選手は膝を折り、互いに礼をする。そして試合の終了と共に、自分も相手も防具を脱いだ。休憩前の最後の試合が、彼らの練習試合だったのである。


「ふぅ」

「主将強すぎ・・・それでまだ訓練誰よりもやってるんっすからねー。何処まで強くなるつもりっすか?」


 殆ど為す術なく一瞬でかたを付けられた相手の生徒が、ため息混じりに告げる。空也は今のところ、学内学外問わずに対戦成績では不敗だった。しかもそれでも驕ること無く鍛錬を欠かさないので、誰からも嫉妬を抱かれる事は無かった。


「あはは、私よりももっともっと強い人を知っているんだ。こんなものじゃ、全然だ」


 爽やかな笑みを浮かべて、空也が告げる。そうして問われた問と答えた答えに、もう一度、彼の姿がフラッシュバックした。


『良い腕だ。悪くない』


 自身が尊敬して目標とする人物が、一瞬で勝負を決した後に言った言葉だ。その時、空也は今の相手生徒と同じように、殆ど何も出来なかった。かろうじて、胴を打たれた事を理解出来た程度だった。とは言え、そんな相手の事を知らない相手の生徒は、苦笑して、返した。


「主将より強い奴って・・・全国大会で優勝したあの藤堂って人っすか?」

「ああ・・・彼も強かっただろうね。どっちが強いのか戦ってみたかったけどね。世界大会でも戦えなかったけどね」


 家の事情でついぞ矛を交える事が出来なかった有名選手に少しだけ残念さを見せる。大会当日に彼の知人の家族が亡くなり、どうしてもそちらに出席しなくてはならなくなったのだ。

 それ故、日本中が待ち望んだ頂上決戦とも言える戦いは、今年に持ち越しに成るはずだった。だが、そこに来て、藤堂なる人物も天桜学園の消失事件に巻き込まれてしまったのだった。


「でも、彼じゃ無い。私が戦いたいのは・・・ふふ、兄の友人だよ」

「主将のお兄さんのお友達ですか?」

「ああ。私の恩人でもある。彼は本当に強かった。何より、その精神こそが、強かった。私の憧れ、だよ」


 流水の動きとは、まさに彼の為にこそある言葉だ。空也はそう思っている。それほどまでに、彼との戦いで見た剣技は美しかった。あまりの美しさに、最近行った戦いでは見慣れたというのに、1試合目は思わず動けなかったほどだった。

 それから暫くして動ける様になっても、まるで流れるような動きで攻撃に移る瞬間の自身のがら空きの胴を、面を、篭手を全て打ち払っていく。それが目標になるのは、当たり前の流れだった。そうして幾つか雑談を行っていると、道場の扉が開いた。


「ん? あれは・・・」


 扉の開く音で誰かが来た事に気付いた空也がそちらを見ると、扉を開けたのは彼の旧知の人物だった。そうして、顧問の教師が幾つか問答をしていると、空也に声が掛けられた。


「天城、お客さんだ」

「はい、分かりました」


 まあ、そもそもで自分と旧知の人物だ。自分に用事だろう事は想像が出来ていた。なので、何の疑問も無く、空也は立ち上がって旧知の人物の下へと歩いて行く。


「雷蔵さん。どうされました?」

「空也ぼっちゃん。旦那様より、ご連絡が参りました。少々、お時間は宜しいでしょうか?」

「はい、分かりました」


 雷蔵の言葉を受けて、空也は二つ返事で雷蔵と共に一度学校を後にして、学校の駐車場に停車している車の中へと移動する。

 今回空也の下に訪れた人物は、空也の実家である天城家に古くから仕える使用人の一人だった。見た目はおよそ50代半ばの老人で白髪も混じっているが、それでもまだまだ衰えを感じさせなかった。


「旦那様、及び天道家の覇王様より、ご要望が有りました。此方の書類をお読みください」

「わかりました」


 雷蔵から差し出された封筒を受け取り、空也は中身の書類を一読しようとして、思わず一枚目の中頃で読む手を止めてしまった。あまりに、現実味が無かったのだ。その表情を見て、向かいの雷蔵が口を開いた。


「困惑、最もかと思います。ですので、改めて場所を変えて詳しいお話をさせていただきたいのですが・・・」

「わかりました。顧問の先生に断りを入れて、部活を切り上げて来ます」

「申し訳ありません」


 雷蔵の返事を背に、空也は書類を置くと一度学校の道場へと戻り部活の早退を願い出ると、少し急ぎ足で着替えて再び雷蔵の所へと戻ってきた。するとどうやら此方も後は出発するだけにしておいてくれたらしく、すでに雷蔵は運転席に腰掛けていた。


「では、場所を移動させて頂きます。向かう先は天道邸。そちらに、煌士様がいらっしゃいます。そこで改めまして、説明をさせていただきたいと思います」

「お願いします」


 移動を始めた車の中で、空也は半信半疑ながらも渡された書類を読み込んでいく。それは、煌士からの協力要請だった。そこには当然魔力や魔術についても記載されており、困惑を呼んだのだ。

だが、これがまだ兄が送ってきた資料ならまだしも、手渡したのは雷蔵で、送ったのは堅物の父と、その幼馴染で大企業のトップだ。そこがなおさら、困惑を呼んだ。

 まあ、覇王はいたずら好きではあるが、こんな明らかに一読すれば嘘と思われかねない内容の嘘は付かない。あくまで、本当かも、といういたずらをするのだった。そうして十数分車を走らせると、天道邸に到着する。


「到着しました。では、私はお車を置いてまいりますので、後はよろしくお願い致します」

「畏まりました」


 空也を下ろすと雷蔵は出迎えに来た詩乃にそう告げて、雷蔵は再び車を走らせ始める。それを送り出すと、空也は詩乃に挨拶した。当たり前だが空也と煌士が幼馴染であるので、その護衛役である詩乃とも旧知の仲だったのである。


「詩乃さん、お久しぶりです」

「お久しぶりです、空也様」


 二人は挨拶を交わし合うと、即座に移動を開始する。向かう先は、当然彩斗と煌士が訓練を行っている道場だ。


「おお! 出来たぞ! 我輩、ついに魔力を習得したのだ!」


 そうして道場に近付くと、煌士の高笑いが聞こえてきた。それに、詩乃がため息を吐いて、空也が楽しそうな笑みを浮かべる。


「あはは、相変わらずみたいだね」

「申し訳ありません」

「おぉ! 空也では無いか! 久しいな! 元気か!」


 道場の入り口に立った二人だが、その時点で此方を向いていた煌士が二人に気付いた。まあ、そもそもで詩乃が迎えに行ったのは知っているので、もうそろそろ来る事は知っていたのだ。それ故、入り口の方向を向いていたのである。


「あはは、私は元気だよ。君も変わらなそうで、良かったよ」

「身体が資本である! 生まれてこの方我輩、風邪など引いたことが無い!」


 偉そうにどん、と胸を張って、煌士が答える。まあ、その言葉が事実であると示す様に、彼は至って健康優良児だった。


「おお、そういえば! 見ろ!」


 そう言うや、煌士は掌に意識を集中して、薄い白色の光を生み出した。それは明らかに何かの仕掛けがあるようには思えず、空也は思わず目を見開いた。


「なっ!? それは一体!?」

「おっと、今の我輩ではこれが限度だな」


 10数秒程光を浮かべただけで、煌士の手からは光が雲散霧消する。出来るようになった、と言いながら、まだこの程度しか出来ないのだ。まあ、本格的に魔力を扱う訓練を始めてまだ二日目。魔力を出せる様になってから、まだ数日だ。そう簡単に出来る様に成るはずが無かった。

 これは異世界の話なのでイマイチ参考にはならないのだが、カイト達が消えたとされる異世界では、実際に何も知らない状態から満足に扱えるほどになるまでには、約1ヶ月の月日が必要であった。これでも、集中して訓練をして、だ。

 それを基準とすれば、地球でも同じぐらい、と見做せるだろう。魔術を扱える、と言える様になるには、まだまだ程遠かった。


「魔力や。久しぶり、空也くん」

「あ、お久しぶりです、彩斗さん」

「おう、久しぶりやな」


 空也は彩斗と兄を通じた知り合いだった。兄の親友の父親が彩斗で、空也にしても兄の親友とは旧知の仲だ。それ故、自宅には何度か訪問した事があり、そこで彩斗とも会ったことがあった。それ故、二人共気さくに挨拶する。


「それで、魔力、ですか? そんなものが本当に実在する・・・んでしょうね。今のあれを見れば」


 論より証拠。まさにそれだった。入って早々に見せられた現象は、否が応でも魔力という物の実在を信じさせた。そうして、暫く彩斗と少ししてやってきた雷蔵によって説明が為され、空也も驚きながらだが、その説明に納得した。


「というわけなんやけど・・・」

「わかりました。私も微力ながらではありますが、ご協力させていただきましょう」

「そうか、スマンな。これから、殆ど毎日訓練やけど、頼むわ」

「わかりました」


 訓練に入るに際して少しだけ渋った浬達に対して、空也は二つ返事で殆ど悩むことも無く彩斗達の申し出に快諾する。

 まあ、彼の場合は魔術を習得すると同時に身体を動かす訓練も行うので、大して悩む必要が無かった事も大きい。基礎訓練は殆ど武術と一緒だったのだった。


「まあ、とりあえず。俺が背中から魔力を流し込むから、空也くんはそれを感じてくれ。まずは、それからや」

「わかりました、お願いします」


 まずは、魔力を感じない事には何も始まらない。なので、空也も煌士や詩乃と同じように、まず始めは魔力を感じる事から、だ。と、そこで煌士が挙手した。


「彩斗殿。それは我輩でも出来るのではないか?」

「ん?・・・まあ、そうですね。出来はします」


 ただ単に、魔力を流し込むだけだ。なので簡単にでも魔力を扱えれば、誰にでも出来る。なので、彩斗も煌士の言葉を認めた。

 ちなみに、今日の夕方の時点で彩斗が煌士に口調は普通で良いと言ったので、煌士もしぶしぶではあったが、それに従う事にした。彩斗の方は曲りなりにも主家の息子なので、丁寧語である。

 これに意味が無いわけではなく、緊張させないため、という意味もあった。魔力とは意思の力なり、とは彼ら魔力を使いこなし、魔術を扱う者達の言葉だ。

 緊張すれば、魔力を扱う際に精神が固くなってしまい、魔力も固くなってしまう。繊細な動きを不可能にしてしまうのだ。そうなれば、魔力を操る事なぞ、夢のまた夢、だった。


「やらせてもらえないか?」

「私はかまいませんよ」

「・・・ん、そうですね。まずは、自分がやってみせます。それで空也くんがきちんと把握出来れば、それから、一度お願いします。その差で、わかる物もあるでしょう」


 少し期待するような煌士の表情を見て、空也が了承を示す。それを受けて、彩斗は少しだけ考えて、自分がやった後なら、という条件で了承を示した。

 これはひとえに始めに正解を知っておかないと、何が正解かわからなくなってしまうことを危惧したが故だった。まあ、それにこれは煌士の訓練にもなる。煌士がきちんと魔力のコントロールが出来るのか、という一つの指標になるのだ。やっても良い、と考えたのは、悪い事ではなかった。


「おお! 本当か! では、それで頼む!」


 彩斗の許可に、煌士が笑って頭を下げる。そうして、煌士の訓練開始から遅れること、数日。この日から空也も加わった訓練が開始されるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回は来週土曜日21時です。

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