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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第11章 高天原の大宴会編

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第213話 遠くの地にて今は眠る

 カイトが異世界から連れ帰った魔王にして魔女であるティナの存在をきっかけとして数百年ぶりに欧州で復活した『魔女狩り部隊』。その統率者の一人として名を連ねていたジャンヌ・ダルクというコードネームを与えられた少女の部下の勇み足により、一人の魔女の少女が辛くもその魔の手を逃れる事に成功する。

 その彼女が逃げ込んだのは、カイトの部下にして彼の恋人の一人であるエリザの母・フィオナが治める地だった。それを受けて、ジャンヌは己に力を貸し与えてくれているガブリエルへと報告を入れる事になっていた。


「えぇ!? 生きてたんですか!?」


 思わず熾天使としての威厳を忘れるぐらいには、ガブリエルは驚いていた。魔女狩りの苛烈さと熾烈さは彼女も熾天使としてよく知っていた。あの中世の暗黒時代にも裏で色々と異族達保護の為に活動していた彼女であるが、それでも魔女達を救えなかった程だ。

 相手が魔女と見るや、信徒達の統率が取れなくなるのだ。これは当時は主義主張の差から対立派閥だったミカエルとガブリエルが揃って頭を痛めていた程だった。確かに反異族は彼女ら一神教の――表向きの――旗印であるが、それでもここまでの苛烈さ――歴史上に記される様に多くの冤罪を生む程の苛烈さ――は求めていなかった。


『え、あ、は、はい……』

「え、あ、いえ。すいません。あまりに驚いたものですから……続けて下さいな」

『は、はい……それで……』


 ガブリエルは未だ収まらぬ驚きをなんとか宥めながら、とりあえずは報告を続けさせる。


(まさか、今の時代まで魔女が生きているなんて……驚きですねー……とはいえ、それならそれで嬉しい話です。絶対、ミカエル気にしてるでしょうからねー……)


 ガブリエルはジャンヌの詳細な報告を聞きながらも、魔女が生きていた事を喜んでいた。すでにフェル達との会話で分かっているが、現在の天使達の最上層部に関しては反異族の方針を非公式ではあるが撤回している。

 数年前のフェルの復活、カイトという存在がもたらしたある希望を受けてタカ派の急先鋒にして最大の旗印だったミカエルが自分の望む未来の為に方針を転換したのだ。それを境に一時険悪な状態だったガブリエルとミカエルの間も修復されて、今は少しガブリエルがミカエルを茶化す様な感じの友人関係になっていた。

 その友人の内心が実は非常に脆い事を知っているガブリエルは、ミカエルが望む未来にて酷く悔やむ事を見通していた。確かに彼女らが起こしてしまった悲劇はどう言い繕う事も出来ないが、それで負う痛みを少しは軽減出来ると思ったのである。


(まぁ、とりあえず……どうやって生き延びさせましょう。女王フィオナは基本、女王なので保護を求める者は見捨てはしませんが……近くだとまた騎士達が暴走しかねませんしねー)


 ジャンヌの報告を聞きながら、ガブリエルはどうするべきかを悩む。騎士達が言う事を聞いてくれない、というのは何よりもの懸念事項だ。近くに居れば問題が起きかねないのは目に見えた話である。それがわかっているのであれば、今のまま放置というのはいただけない。


(とりあえず、この後は一度フィオナに連絡とってみますかー。最近、彼女が言うことを聞いてくれるので有難いですねー。ほんと、カイトさんサマサマというべきですかねー)


 ガブリエルはとりあえず、次の方針を内心で固めておく。ガブリエルは中世の暗黒時代で密かに暗躍していた時から、エリザの母・フィオナとはそこそこのパイプを持ち合わせている。あの時代になんとか異族達を保護してくれないか、と頼んだ事があったのだ。

 まぁ、その時は色々と交渉の失敗があって助力は貰えなかったが、フィオナ自身の性格をガブリエルが理解した事やカイトのおかげで今はそこそこ気軽に提案が出来る様な状態ではある。騎士達さえ横槍しなければ、十分に魔女の少女を更に安全な地帯へ逃がす事も可能だ。それを利用しない手は無かった。というわけで、そこらを決めたガブリエルは報告してきたジャンヌに対して命令を下した。


「……わかりました。とりあえず貴方達は引きなさい。相手は女王フィオナ。確かに貴方なら怪我をせずに撤退は可能でしょうが、討伐出来るわけでもない。決して敵う相手ではありません。戦っても碌なことはありません」

『わかりました。では、その様に』


 ガブリエルの命令を受けて、ジャンヌがその指示を騎士達に伝達すべく動き出す。まぁ、言うことを聞いてくれない、というと統率が取れていない様に思えるが、流石にそこまで悪くはない。

 強いて言えば暴走しやすい、という程度だ。なので立ち止まっている状態であればガブリエルの命令を騎士達もしっかりと聞いて、守ってくれる。今回もきちんと撤退してくれるだろう。


「ふぅ……これでひとまず、周囲はしばらくの空白が生まれますかねー……」


 ガブリエルはジャンヌの行動を見て、そう呟いた。兎にも角にも魔女を逃がすには騎士達の包囲網を解く必要がある。そして包囲網が厳重であれば厳重である程、万が一が起きやすい。騎士達は魔女に対して非常に非寛容だ。少しでもチャンスがあれば、迂闊と承知でも動きかねない。それは避けたい。

 何よりフィオナの機嫌を損ねて彼女が外にまで出てきてしまうと話が面倒に盛大に拗れてしまう。最悪はカイトに仲裁に入ってもらうつもりだが、その彼は使い魔だ。どうなるかは不明な要素が多い。

 それでも仲裁が可能なのは使い魔のその精神そのものは本人と変わらないし、その記憶等は最後には彼に統合されるからだ。何より、彼女がカイトの事をそれほどに気に入っているからでもある。


「まぁ、とりあえず……ぴぽぱ、と」


 ガブリエルはスマホ――今どき天使でもスマホは持っている――を取り出すと、カイト達が保有するサーバーにアクセスして非常用というスレの所にあるフィオナのアドレスを頼りに彼女の城への回線を開く。元々カイト達の裏での同盟の為の非常用の連絡網だったのだが、ガブリエルも参加しているので実態としては非公式の赤電話にも等しかった。そして今回は、それを使うべき時だろう。


「……」


 ガブリエルはぷるるるる、という電話の発信音を聞きながら、相手の応答を待つ。赤電話は赤電話。万が一を避ける為のものだ。話し中でも無ければ出てくれる筈だ。そして案の定、すぐに出てくれた。


『あら……やっぱり掛けてきたわね』

「お久しぶりですー。先程はウチの騎士達が失礼しましたー」

『あらあら。良いのよぉ』


 ガブリエルの気軽な謝罪に対して、フィオナは楽しげにそれを受け入れる。別にあの程度はいつもの事だし、数年に一度は騎士達との間で揉め事を抱えているので気にする程の事でもない。

 それに今回は実はフィオナは少しだけ領地を離れて介入した。あの程度の揉め事は仕方がないと把握していての事でもあった。敵対する組織同士なのだから、気にしてもいられない。いや、敵対する組織というか敵対しているのは部下同士なのだが。というわけで、少しの雑談の後、ガブリエルが本題に入った。


「で、ジャンヌから聞いたのですが、魔女の生き残り、ですか?」

『そう、みたいねぇ。まさかびっくりだわぁ』

「では、本物、と」

『そうねぇ……見た所、そうみたい。と言っても今は疲れてる様子だから寝かせてるし、詳しいお話は聞けてないんだけども……少なくとも私の鼻が彼女は魔女であると断言してるわねぇ』


 ガブリエルの念押しにフィオナは太鼓判を押す。鼻、というが匂いではない。いや、厳密には匂いだが、この場合は彼女ら吸血姫が持ち合わせる血の匂いで判別している。ガブリエルらにはわからないが種族毎に匂いがわずかに異なっているらしく、紀元前から生きているフィオナは現代ではもはや絶滅したとさえ言われる魔女族の匂いも覚えていたのである。


『それで……一応聞いておくのだけど、まさか引き渡せ、なぞと言うわけがないわよねぇ?』

「あっはは。まさか。私はハト派ですよー。どうやって守ろうか、って頭悩ませてますよー」

『よねー』


 一瞬笑いながらも物凄い威圧感を放出して威圧したフィオナであるが、ガブリエルは笑って自分の派閥を明言する。そしてそれを知っているからこそ、フィオナも特に気にする事もなく威圧感を解いた。

 一応、相手は反異族を明言する組織の大幹部だ。そんな事がありえないとわかりきっていた話であるが、それでも明言は必要だろう。そしてそれ故、ガブリエルもそれを明言した、というわけだ。


「それで、彼女をなんとか日本へと向かわせられませんかね?」

『あら……やっぱり本題はそれ?』

「ええ……カイトさん達の事もありますし、魔女となると日本政府も保護してくれる。何より、今の裏の事情を考えれば魔女の助力というのはどれだけ大きいかわからないですからねー」


 ガブリエルはフィオナの問いかけを認めて、さらなる事情を彼女へと語る。やはり、魔女だ。欧州で保護しようとしても問題は非常に多い。

 それは宗教は宗教、と密かにフィオナからの助力を得ているルーマニア政府――トランシルヴァニアの結界はルーマニアにある――だろうと変わらない。おそらく騎士達が非常に力を持つ欧州各国はルーマニア政府に圧力を掛けて、フィオナに圧力を掛けさせるだろう。

 そうなると話が拗れる。フィオナはそれを飲むことはないが、ルーマニア政府が頭を悩ませる事になってしまう。それを避ける為には、欧州の騎士達の影響が及ばない日本に逃がすのが最も良かった。

 日本は異端の地だ。若干の危険は伴うが、一度カイトの保護下に入ってしまえば騎士達であろうと手出しは出来ない。カイトへの手出しはガブリエル達が厳に禁じている。


『そうねぇ……でもそうなると、一度は騎士達にここから日本に逃げる所を見せないとだめねぇ……』

「そうなんですよねぇ……」


 フィオナの言葉に同意して、ガブリエルは顔を顰めた。ここが、一番の難点だ。魔女は日本に居る。様々な揉め事を避ける為にも、それを騎士達に見せる必要があった。が、そうなると一度は魔女の少女には危険な目にあってもらう事になってしまう。が、そのメリットは大きい。フィオナの所以上に安全で、そして揉め事の恐れがない。


「ティナさんがいらっしゃるから、あの人は公然と騎士達の要請を無視できちゃうんですよねー」

『なのよねぇ。あの子の性格の場合、あ? 喧嘩売ってんのか、で終わっちゃうものねぇ』

「事実、何も言えませんしねー」

『妻が、魔女だものねぇ』


 二人は笑いながら、何故カイトだと政治的な圧力さえ無いかを言及する。まぁ、そういうことだ。カイトがティナを妻と公言しているのは、裏世界なら誰でも知っている。そしてティナは魔女族。魔女を引き渡せなぞ、どう考えても彼に喧嘩を売っていた。

 世界最強にして最恐と言われる彼にそんな事は口が裂けても言えるわけがなかった。勿論、彼に裏社会の統率を任せている様な形の日本政府とて言える筈もないし、どの国もそれは分かっている。騎士達とてそんな異教の極東の島国に影響を行使出来るわけもない。

 絶対安全とは言い切れないが、この地球上で最も安全とは言い切れた。


「なんとか、頼めませんか?」

『ルルちゃんに頼めれば、良いのだろうけどもねぇ……今回はそれが駄目かしら』

「逃げ延びられる、という事も示しておくべきかと」

『この世は、弱肉強食ねぇ……』


 フィオナがため息を吐いた。彼女としても出来れば、何とかしてやりたい。が、その為にも自分で何とかしなければならない事もまた、事実だった。


『良いわ。こっちで説得しましょう。そっちは動けるタイミングを作りなさいな。それと、あの子にはこちらから連絡を入れておくわ』

「ありがとうございます」


 フィオナの承諾と協力の応諾にガブリエルが頭を下げる。そうして、欧州の揉め事は日本に波及する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。


 2018年8月5日 追記

・誤字修正

『寛容』が『簡雍』となっていた所を修正しました。

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