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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第10章 異世界からのメッセージ編

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第209話 遠きより近くで

 場所は変わって地球は日本。多くの事件のグラウンド・ゼロである東京都天神市。ナイアは敢えて、その身を事件のグラウンド・ゼロへと投じていた。と言っても、やったことは単に浬達に接触を取ったと言うぐらいだ。


「いやぁ、お邪魔しました」


 ナイアはあいも変わらず人懐っこい太陽を思わせる笑みで謝罪する。メッセージ作成の1度目の騒動の後。改めて作り直す事にしたわけなのであるが、そこに唐突に彼女が現れて再度中断と相成ったのである。


「で、取り敢えず。ハイターッチ!」

「おっしゃ!」


 パァンと乾いた音が鳴り響く。ナイアと浬がハイタッチを交わしたのだ。これが二人の挨拶になっていた。いつのまにか仲良くなっていた。


「ず、随分と慣れたわね、あんた……」

「いやぁ、神さまらしいけど、話してみると普通だったし」


 呆れる鳴海に対して、浬はナイアと親しげだ。一方の鳴海はやはり地球外生命体と言う所で気後れしている様子だった。が、ナイアはそれに嘆きを見せた。


「もっと鳴海さんも親しげで良いんですよ?」


 へい、かもーん、とばかりにナイアが手招きする。が、それに突っ込んだのは、小鳥形態のカイトだった。


『やめんか。テメェなんでそこまで親しげなんだよ』

「いたたたた……」


 頭に突っ込んできたカイトに対して、ナイアは蹲る。が、これに浬がカイトの掣肘に入った。


「お兄ちゃん。女の子には優しくしようよ」

『ぐっ……いや、そうなんだけどさぁ』


 妹から睨まれて、カイトが怯む。まぁ、彼女が言わんとする事は彼にもわかる。見た目は、抜群の美少女だ。性格も普通の少女と言って良い。それを邪険に扱う事自体、存外フェミニストのカイトにしてみれば異例である。


『でもこいつ、ニャルラトホテプだし』

「人種、いえ、神種差別反対です! 断固として神としての権利を主張します!」

「いや、貴女の場合神の権利主張しちゃダメじゃないかな……」


 勢いを盛り返したナイアに対してヴィヴィアンが突っ込んだ。一見すると単なる道理に聞こえるが、この場合は神の権能、彼女の場合はやりたいようにやらせろ、である。


「う……じゃ、じゃあ普通の女の子の権利ぐらいで……」

『その普通はどの程度だ?』

「勿論、真王様の子を孕む程度は! 目指せ、サッカーチーム! 時間はたっぷりありますし、百年で一人のペースでも余裕ですよね!」

『堂々と明言すな!』

「いたたたたたた! 突っ込むなら太くて固い物をお願いします!」

『じゃあ、なんの問題も無いな』


 ナイアの冗談とも本心とも取れぬ頼みを聞いて、カイトが更に嘴を乱打する。まぁ、確かに嘴は硬くてそこそこ太いだろう。とはいえ、勿論そういう事では無い。


「ち、違いますですよ!? 確かにそれも太くて固いですが! 具体的にはもっとそそり立つ様に長くて熱く滾っている、あいたぁ!?」

『わーっとるわ! 言わんで良い! これでも不満なら、火属性もくちばしに追加してやんぞ!』

「うぅ……神様の扱いが酷い……」


 カイトの強烈な一撃にさめざめとナイアが嘆き悲しむ。と、そんな彼女は唐突に浬に泣き付いた。


「お兄ちゃん?」

『悪いのオレか!?』

「そうに決まってんでしょ」


 結局、勇者だろうと何だろうと兄の立場なぞこんなものである。そんなある意味では理不尽で、しかし現実としては何ら不思議の無い現実を突き付けた浬が更に明言する。


「というかさぁ。帰って来た後のその調子で良いわけ?」

『なんでさ?』

「いや、ナイアちゃんの事、お母さんもお父さんも知ってるわよ?」

『………………はい?』


 カイトは暫く、現実に復帰出来なかったらしい。かなり長い時間、沈黙が流れていた。


「いやぁ、お母様のお料理、上手ですねー。真王様が料理上手なのもわかります」

『何やっちゃってくれてますか、貴様は!? ニャルラトホテプが人様の家で飯食ったとか、貴様はぬらりひょんか!?』

「そんな便利な能力があれば普通にベッドに忍び込むのに使ってますよ!? どこで手に入りますか!?」

『んなもんねぇよ!』


 流石に己の帰る場所である実家を侵食されていたのは、カイトも見過ごせる事ではなかったらしい。結構本気で声を荒げていた。


『てか、何でお前も普通に上げてんだよ!』

「いや、普通に友達だし」

「そーですよ!? 一応これでも普通のJKやってますよ!? ほら!」


 ナイアは浬の言葉を受けて、カバンの中から財布を取り出した。


『……天嶺?』

「はい! 以前シンジゲートやってた同類のコネ使って潜り込みました!」

『あのコネかよ!? ってか、あれ生きてるのか!? ガチでブチギレしてたから確実に殺したはずだぞ!?』

「あ、いえ。あのシンジゲートは半壊状態ですので問題無いですよ」


 どうやら、というべきかやはり、というべきか非合法のルートだったらしい。ナイアは超えのトーンを落として明言する。このニャルラトホテプはある理由からカイトと敵対しており、完全に完璧にカイトに殺されていたのであった。と、そんなナイアは更に実情を暴露する。


「まぁ、それはさておき。というわけで、浬ちゃんの進路相談なんかも乗ってますよ?」

「そうそう」

『だからお前は……言っておくが、というか何度も言ったがニャルラトホテプだぞ!? こいつらは信頼した瞬間、笑顔で裏切る様な奴らだぞ!?』


 相も変わらず親しげな浬に対して、カイトが怒声を上げる。まぁ、物語ではやりたい放題やった上に物語の裏で暗躍するのが彼らの性分だ。性分である以上、それは正解である。


「いやですねぇ。そんな有象無象と一緒にしないでくださいよ」

「というか、お兄ちゃん……なんでそんなにニャルラトホテプを警戒してるわけ?」

「いや……警戒するのが普通なのではないだろうか……」


 浬の問いかけに少しだけナイアから距離を取っていた煌士が小声でツッコミを入れる。やはり彼は元々アメリカでクトゥルフ神話に触れていた分、ナイアに対してはそこそこの警戒を滲ませていた。

 これは良くも悪くもニャルラトホテプと言う有名所だから、という所だろう。そしてこちらについてはナイアも異性という事であまり近寄ろうとはしていない。警戒心を解いてから、とのことである。

 と、そんな煌士に対して、並の神様やそんじょそこらの策略であれば余裕でぶっ潰すと言われるカイトはまた違った事情だった。


『……言っとくがな。オレ、ガチでそいつらに殺されかけたぞ。このオレが、だぞ』

「「「え゛」」」


 カイトのジト目での明言に全員が一斉にナイアを注視する。と、その横でモルガンがそう言えば、と思い出した様に口にする。


「あー……そう言えばカイト一回、本当にズタボロになって帰ってきた事あったっけ」

「あの時は確か地球存亡の危機だったね。アルトとギルガメッシュの二人が食い止めたからなんとかなったけど……実際、カイト単体だと危なかったかもね」

「「「え゛」」」


 ヴィヴィアンからのさらなる情報に全員がドン引きする。だから、カイトは何度も危険性を訴えかけていたのである。実際に彼女らは一度地球文明を滅ぼそうとしていたのであった。


「いやぁ、あれは暑い夏の日の事でしたねー。真王様が覚醒されなければ事実、地球滅ぼしてましたし」

『だーら危険なんだろうが、貴様ら! あの時オレってかガチ偶然にも命綱ひっついてなかったらオレも死んでたし、地球滅んでたろーが!』

「いやぁ、というか真王様の場合本当に死んでましたしねー」


 怒鳴るカイトに対して、ナイアは懐かしげに笑う。が、そう言う話ではなかった。


『ほんとにね! あの時マジであいつ居なかったらオレ死んでましたよ!? てか、死にましたよ!?』

「し、死んでもなんとかなるんだ……」

『なんねぇよ! 普通にオレも死んだと思いましたし、幾らオレでも殺されれば復活なんて出来ませんよ!?』


 鳴海のつぶやきにカイトが怒鳴る。彼だって復活出来たから良かったものの、その復活出来た理由だってとてつもなく幸運があった、というだけだ。あの時ばかりは、本当に死んだと思っていたらしい。と、そんなカイトに対して、ナイアが問いかけた。


「いやぁ、あれは……そう言えばなんで出来たんですか?」

『あ? 何が?』

「いえ、あれです。あの時、確かに真王様のお胸にあの剣ぶっ刺した筈なんですが。で、確かに効果発動してましたし。あれで復活出来るとかマジないわー状態でしたよ、大半のニャルラトホテプ」

『……あ?』


 ナイアの言葉にカイトが訝しむ。確かに、あの時カイトはニャルラトホテプ達の一体との交戦の果て、胸に刃を突き立てられて息絶えかけた。あと一歩遅ければ、どうあがいても復活劇なぞありえない様な状態になっていた。

 だがそれをしたのは当然、彼女ではない。彼女は最近ロールアウトしたというニャルラトホテプだ。その筈は無いのに、彼女の言葉はまるで彼女自身がそれをしたかのようだった。そしてその訝しみで、ナイアも自分が失言してしまった事に気がついた。


「……あ」

『……お前、そういや……』


 どうやら、何か思い当たる節があったらしい。カイトが飛翔してナイアの顔をしっかりと観察する。


「……」

『……』

「……」

『……あ』


 何かに気付いたらしい。カイトが目を見開いた。というわけで、これはバレたな、とナイアが可愛らしく舌を出した。


「てへっ」

『てへっ、じゃねぇよ! てめぇ、あの時オレの前に来た奴か!』

「イエス! おっひさしぶりです、真王様!」


 何か二人の間には分かる事があったらしい。ナイアが少し嬉しげに頷いた。と、その分かる者には分かる話だったわけだが、これは彼の相棒を自称してカイトにも認められる二人の妖精にもわからない事だったらしい。


「どういう事?」

『ん、ああ……あの戦いの後。オレが立ち去ったまでは良いんだが……ちょいとその脱出の直前に女型のニャルラトホテプに声を掛けられてな。こいつとは結構違う様な顔立ちだったんだが……よく見れば面影がある』

「いやぁ、そう言ってもベースとなったのがあれ、というだけでやっぱり私と彼女の間に繋がりは無いんですけどねぇ。記憶として連続性を持つというだけで。敢えて言えばメモリチップだけ移植した後継機とかそんな感じです」


 ナイアは己の実情を隠す事なく語る。と言っても実はこれは若干の嘘がある。やはりそこらは、ニャルラトホテプという所なのだろう。と、そんな感じのナイアにヴィヴィアンが再度問いかける。


「後継機? 何があったの?」

「いえ、単に私達は真王様とガチで交戦しましたから。あの神としての肉体も流石にボロボロでして。仕方がないのでゼロベースで作り直す事にしたんですよ」

『あれは本気できつかったぞ……』


 まぁ、死にかけたというかカイト自身に死んだとまで言わせる程なのだ。相当な強敵であった事は想像に難くない。それに、ナイアが楽しげに笑った。


「そりゃ、この宇宙史始まって以来となる領域の試練でしたからねぇ。私達も本気で殺しに行ってましたし。いや、今更ですがお疲れ様でした。そして試練の突破、おめでとうございます」

『ぜんっぜん、めでたくない!』


 頭を下げてカイトの労をねぎらうナイアに対して、彼は半分泣きそうな顔で怒鳴り散らす。この結果彼は成りたくもない真王とやらの候補者に選ばれてしまったのだから、仕方がなくはあった。


「そう言われましても。数多存在する別世界でも同じ様に真王候補は選ばれておりまして。もちろん、この宇宙だけでも真王様含めまして凡そ十数人の候補者が居るわけですし」

「十数人!? そんな文明が存在するのか!?」


 ナイアの言葉に煌士が驚きと興奮を露わにする。カイトが候補者だというのは会話を聞いていれば理解出来た。そしてこれ以外には真王候補というのは地球には居ないというのも分かる。

 であれば、これは一つの星に一人ぐらいしか居ないだろう、というのは道理な発想だ。それ故、それだけ存在するというのであればその分だけ文明が存在するというわけでもあった。


「いえ、文明そのものはもっと多いですよ? 単に真王候補にまでたどり着けた者達がそれだけ、というだけで。実際、ワープ技術とか手に入れていても真王候補にたどり着けた人が居ない、という文明もありましたしねー」

「ふむ……ということは文明レベルが高いと生まれる、というわけではないのか……」

「お、良い所に気付きましたね。そうです、そうなんです。これは所詮は個人の才能と能力次第。故に当然、あなた方からしても未開に映る……そうですね。謂わば中世ヨーロッパの様な文明にも真王候補はいらっしゃいますよ。もちろん、あなた方より高度な文明の指導者の中にも我々が真王候補と見込む方もいらっしゃいます」

「ほー……」


 煌士は非常に興味深げに身を乗り出してナイアの話に傾注する。やはり彼は目標が宇宙船開発という所にある分、こういう他惑星の文明には興味があるのだろう。と、そうなるとやはり気になったのは、その他文明の真王候補とやらだ。


「どの様な方々なのだ? その他文明の真王候補とやらは」

『そう言えば……オレも聞いた事がないな』

「おろ……そう言えば我々も語った事はありませんか。まぁ、隠している事ではないですし、真王様は何時の日かお会いになられるでしょうから良いですか」


 カイトの言葉にナイアはそう言えば、と思い出して別に隠している事でもないので明かす事にしたようだ。これを隠していないのは別に隠さねばならない事ではないからだ。別に知られた所で世界の趨勢に影響を与える事はない。


「例えば、真王様とは正反対のインテリ系の様な方だったり、真王様に似た戦を好む武闘派の様な方もいらっしゃいます。まぁ、戦と言っても侵略戦争というより、対話としての戦いを好む、という感じですか。タイマン大好き、という方ですね。王と言ってもその形は千差万別。故に、どの方も個性的です」

「本当に多種多様なのか……」


 煌士は本当に宇宙には色々な人が居るのだな、と感慨深げに頷いた。それに、ナイアもまた頷いた。


「多分、後者は真王様の事を大層好まれると思いますよ? 彼も相当な武芸者ですから、多分あの当時の真王様のお話を聞かれれば非常に興味をお持ちでしたし」

「話したのか?」

「いえ、新たな王の目覚めを他の王は知覚出来るらしく……あの時の戦いで目覚めた真王様のお力を察してあちらから切り出されましたよ。新たな王が目覚めたのか、と。まぁ、それへの返答は私がしたわけじゃないので詳しくは知らないですが、担当次第では地球の事も教えたんじゃないですかね。彼、結構大きな大帝国の帝王ですし。彼の帝国の総人口、数百億とかじゃなかったですかね」

「なんと」

『マジかよ……』


 煌士は驚き、カイトは嫌そうに顔を顰める。総人口数百億となると、その時点で地球の十倍以上だ。その時点で宇宙開拓時代とかに乗り出している文明レベルだろう。そんな奴に見込まれたくなぞなかった。


「あっははは。ご安心下さい。流石に現状は我々が止めています。これは職務上なので安心して大丈夫です」

「職務上?」

「彼らにはすでにかなり前の段階でワープ技術をお渡ししておりますので、航路さえ見つければ比較的簡単に地球にも来れちゃうんですよ。ですので、真王様を教えても地球への航路は決して教える事はございません。教えたとしてもせめて地球の文明レベルが太陽系全域に及ぶ程になって頂かないと駄目ですねー」


 煌士の問いかけにナイアは笑いながら、彼女らの実情を語る。こういうわけなので今後百年程度は無いらしい。


「ふむ……それはやる気が出るな!」


 煌士は一気に興奮を滲ませる。やはり目的があると、やる気が違ってくるようだ。今までは宇宙船を作る、が目的だったのが今度はそれが手段に変わり、次にはこの宇宙のどこかに居るという宇宙人との会合だ。こんな所で止まってなぞ居られなかった。と、そうして興奮する煌士に対して、浬がふと問いかけた。


「ねぇ、ナイアちゃん」

「なんですか? 浬ちゃんの質問なら大抵の事は答えちゃいますよー?」

「あ、じゃあさ。この世界以外の真王ってどういう人が居るの? 知ってるんでしょ?」

「おぉ、それですか」


 確かに兄がその一人として語られ、それ以外の世界にも居るとナイア自身が明言していたのだ。気にはなったのだろう。というわけで、ナイアはカイトを自分達が語る時に呼称した名の由来となった人物を例に出した。


「そうですねー。真王様を我々が言う時は『夢幻の蒼皇(むげんのそうおう)』と呼ぶのですが……その名の由来となったのが、その異世界の真王候補です。その方は異世界にも伝え聞こえる程のとある偉業を成し遂げた方でして」

「偉業?」

「ええ。まぁ、これは明かせないので明かしません。とはいえ、その方は真王様と同じく、最も現代で真王に近いと言われる方です……その名は、レックス。『幽玄の紅皇(ゆうげんのこうおう)』と呼ばれる方ですよ」

『っ』


 ナイアがその名を発した瞬間、カイトに僅かなゆらぎが生まれる。が、それを彼は強制的に抑え込んで、話題の転換を計った。


『おーい、そこまでにしておいて、とりあえずメッセージ撮りなおせ。時間あんまないわ』

「おっと。そう言えばそうでしたか。いや、すいません」

『もういっそお前も入っとけ。今更そこで騒動起きても面倒だわ』

「おや、良いのですか?」


 ナイアがカイトへとわずかに目を輝かせて問いかける。そうして、ナイアも含めてメッセージが改めて撮り直される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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