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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第10章 異世界からのメッセージ編

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第208話 閑話 遥かより

 浬らや地球ね英雄たちが作った様々なメッセージを乗せたメッセージボックスは、一度フェルの手によって回収されるもその後は本来の機能通りにカイト達の手元に届けられていた。

 そうして彼らの手によって回収されたメッセージボックスは一度エンテシア皇国の検閲を受けると、学園の持つサーバーに接続されて今は学園のPCルームで何時でも閲覧可能な状態にされていた。


「ふむ……」


 メッセージボックス――勿論SSDの事だが――の中に仕込まれていた特殊な暗号化ソフトを使ってのみ見つけられるフォルダを見て、カイトがため息を吐いた。状況は彼が想定していた以上に悪かった。


「ニャルラトホテプ、か……まーた訳の分からん奴を……ナイア、ねぇ……今まで奴らが固有の識別情報を述べた事はあったかね」


 まず思ったのは、自らナイアと名乗った少女型のニャルラトホテプの事だ。勿論、彼とてニャルラトホテプの事は知っている。それどころか一度は殺されかけた。

 いや、あの時は本当に死んだとさえ言ってよい。それ故、彼女らの危険性は知っているつもりだ。が、彼女の事は知らなかった。


「ナイアーラトテップのナイア。どういう奴なのかは知らんが……新規、ね……そこまで買うかねぇ……」


 カイトは己の事故に、深くため息を吐いた。ナイアは言った。自分はカイト専属の執政官だ、そして新たなニャルラトホテプだ、と。 それは真実なのだろう。それ故に、彼はその意図が掴めず得体の知れない何かを感じていた。


「オレにそこまでの価値は無いはずなんだが……」

『何を言う、我が同胞よ』

「お前か」


 カイトの目の前に、一冊の魔導書が現れる。声はそこから響いていた。


『わからないでも無い事だ』

「わからないでもない、ね……」


 カイトは数年前のとある事件を思い出す。それはこの魔導書を本当の意味で手に入れた時でもあった。そうして、魔導書が実体化する。超級と言われる魔導書はそれそのものが意思を持ち、人の姿を取る事が可能なのだ。

 謂わば魔導書とは魔術的に意味のある文字を羅列した魔法陣の塊の様な物だ。故に他のどんな物体よりも遥かに魔力を溜め込みやすい。それ故、どんな物よりも付喪神となりやすかった。それこそ、著名な魔術師の記した魔導書になると、執筆時点で付喪神同等の意思を持つ事はあり得た程であった。

 閑話休題。とりあえずそれは横に置いておく事にしても、カイトが手にしていたこの魔導書が選んだ姿は少女の姿だ。真紅と蒼のオッドアイの瞳――右が蒼で左が真紅――を持ち、長い蒼い髪を持ったミステリアスな美しい少女の姿である。


「あの時、我らは奇跡を起こした」

「ぷっ……やっすい奇跡だな、おい。お前が居たというだけだろう?」


 魔導書の少女の言葉にカイトは笑う。奇跡と言いはしたものの、原理もわかっていれば道理もそこにはある。再現性があるのなら、それはもう奇跡でもなんでもない事だった。敢えて言えば偶然だろう。


「まぁ、とはいえ……奇跡は奇跡か」


 どうやら、カイトとしても少女の言わんとする事は理解できるらしい。別に奇跡を起こしたというつもりは一切ないが、奇跡に近しい事は事実だ。奇跡は起き得ないからこその奇跡。起きてしまえばそこには道理も摂理も存在している事になる。所詮は偶然だ。

 が、それでも万が一、いや、億に一の可能性を拾い上げる事が出来たのなら、それは奇跡と断言しても過言ではないだろう。それを、カイトは起こしたのだ。そしてその結果、彼はニャルラトホテプ達に真なる王、即ち『真王』の候補者として見込まれる事になった。運命さえ書き換えた男、と。


「にしても……元々お前をオレの所に連れてきたのは奴らの筈なんだがねぇ」

「なればこそ」

「それ故に、か……確かにそうかもしれん」


 少女の言葉にカイトは同意する。ニャルラトホテプらとてその展開は想定も想像もしていなかった。いや、それこそそんな事が起こり得るのか、とさえ驚いていた。

 そしてだからこそ、なのだ。彼らでさえ予想しなかった。いや、それどころか結果として手を貸してしまった事にもなる。まるで運命が彼に勝てと言わんばかりだった。そんな事はありえてはならない。が、あり得てしまった。それを奇跡と言わずして、何だというのだろうか。


「……勝てるかね、あいつらは……」


 カイトはPCルームの椅子に深く腰掛けると、遥か遠くの地球に思い馳せる。残してきた物は大切なものばかりだ。そしてこちらにあるのもまた、大切なものばかりだ。

 どちらも大切だが、彼の身は一つしかない。何方も守る事は、勇者と呼ばれる彼でも容易ではなかった。だが、あまり不安になってもいなかった。


「……まぁ、お前ならやってくれるんだろう?」


 理由はこれだ。使い魔のカイトがそうであるのなら、本体の彼はそれと同じだけ、いや、それ以上の信頼を彼女へと向けている。何より彼女を信頼していた。だから、不安はなかった。が、そんなものとは別に戦いには不測の事態がつきものであることを、彼は知っていた。


「……とはいえ……オレの使い魔に仕掛けた最後の大仕掛け。たった一度限りの切り札……使わない事を願いたいな」

「……」


 カイトの言葉に少女は無言で、その横に侍るだけだ。が、その仕掛けを彼女は知っている。そもそもその仕掛けを施すのに力を貸したのは彼女だ。いや、彼女の助力が無ければ、それは不可能だったと言わざるを得ない。


「……死ぬなよ」


 カイトは届かぬ激励を、彼方より風に乗せる。それは意図せずしてこの世の裏側に巻き込まれる事になってしまったもう一つの世界に残された弟妹達に対する物だ。が、それは必然として世界を越える事は敵わず、この世界の中で消え去ったのだった。




 さて、その一方。地球のある世界では、ナイアが相変わらず暗躍を続けていた。と言ってもそこは地球とは遠く離れた宇宙の彼方だ。


「……おや」


 と、そんな彼女の前に何体かのニャルラトホテプが立ちふさがる。いや、立ちふさがるというほど剣呑な様子はない。が、事実として立ちふさがったのだからそう表されるだけだ。


「これは皆さんお揃いで。何かご用ですか?」


 ナイアは特段気にする事もなく、己の同胞達へと問いかける。それに、ニャルラトホテプの一人が問いかけた。


「貴様は少々勝手が過ぎるのではないか、と言う話が出ている。何をやっている?」

「勝手が過ぎる、ですか。これはまた不思議な話を。我々は基本、相互不干渉をモットーにしているでしょう? 何をしようと私の勝手。それに何より職務を果たそうにもその職務を果たすべき相手がいらっしゃらないのですから、問題無いでしょう」


 同胞の問いかけにナイアは素っ気ない。彼女の職務は謂わばカイトのご機嫌取りだ。確かにその当人が居ないのだから、ご機嫌取りも何も無い。そして相互不干渉というのはすでに彼女自身が浬らへと明言している。こちらも何の不思議も無い事だ。

 そしてそれについては、ニャルラトホテプ達も疑問も意義もない。相互不干渉を侵されて困るのは彼らも一緒。基本的な性質が好き勝手にやるという彼らにとってみれば、自らの行動を制限するにも等しいのだ。


「それはそうだ。が、かの王の家族に関わったニャルラトホテプの多くが消えているという事実がある」

「それはまぁ、私が消していますからね」

「「「……」」」


 ずいぶんとあっさり認めたな。ニャルラトホテプ達は目を丸くする。と、その中の一体が気を取り直して問いかけた。


「いや、それは知っている」

「でしょうね。それでは、何が?」

「誰が協力している?」


 ナイアの疑問に対して、一体が問い返す。気になったのは、ここだ。確かにナイアが自分達を消して回っているのは分かっている。

 そして彼らも何故、と言う所には興味はない。所詮は別個体。そして相互不干渉という盟約がある。しかも相手は執政官。権限は上だ。掣肘も無理だ。もちろん、そんな事をする気を持つニャルラトホテプはほとんど居ないが、だ。


「……さて。誰が協力してくれているのでしょうかね?」

「……報告の義務はあるはず、だが?」


 不敵な笑みを零したナイアに対して、ニャルラトホテプの一体がわずかに剣呑な雰囲気を見せる。ナイアもアクセスしていた事があるが、彼らは群体という特性を活かしてパソコンのクラウドの様な情報共有システムを保有している。

 そして基本、そこには彼らは己の行動を報告している。それはもちろん、祢々の『パパ』であっても変わらない。これはある種の義務にも近い。どの程度の情報にアクセス出来るかはその権限次第という所であるが、報告はされている。

 ナイアはそれをほとんど怠っていた。いや、怠っていたのではない。意図的に報告していなかったのだ。職務怠慢ではなく、職務放棄だった。確かに複数体のニャルラトホテプが来るのも無理はない。


「あっははは。嫌ですねぇ。貴方達もご存知でしょう? 私は、かつて真王様との交戦の果てに壊れたニャルラトホテプ。報告する筈も無い」


 ナイアは複数体の同胞を前に、闘気を漲らせる。先も述べたが、彼らは立ちふさがっている。つまり、そのまま進ませるつもりはないということだ。

 が、ナイアとしても語るつもりはない。情報の露呈があればその分、浬達に危険が及ぶのだ。それは避けたかった。とはいえ、それで問答無用に交戦、というわけでもなかった。


「まぁ、それでも。一応の明言をしておきますと、あの方が何故私に協力しているかは不明ですよ。単に私はそれを恩に思うのであれば黙っておいてくれ、と言われたので黙っているだけで」


 ナイアは改めてそれを明言しておく。それで去ってくれるのであれば、それで良い。それでも来るという者だけを相手にするだけだ。

 というわけで、それなら意図がわかったと去った者も居る。が、残った者も当然、存在していた。ここらは本当に当人の考え次第と言える。彼女の意図がつかめればそれで良いという者も居れば、報告すべきという者も居る。それは人と何ら変わらない。


「じゃあ、始めましょう。イッツ・ショータイム!」


 口火を切ったのはやはり、ナイアの側だ。基本、彼女は自分以外のニャルラトホテプをほとんど信頼も信用もしていない。例外があるとすれば、自分に近しい性質を持つかつてカイト達の前に現れた幼女型と大人型の二体だろう。この二体は自分を補佐する様に動いてくれている。

 特に幼女型は自分が入れ込む理由をわずかにだが把握してもいる。特にこの様に気ままに動くナイアと他のニャルラトホテプの潤滑剤にも近い事をしてくれている。故に彼女は特に信用している。

 大人型はあちらは実は彼女の補佐というよりも、教授の補佐がメインの仕事だ。そしてカイトと教授は協力者の関係だ。信頼していると言うよりも、彼女にとっても言ってみれば協力者と言っても過言ではなかった。


「っ」


 とん、と軽い感じで虚空を蹴ったナイアは一瞬で相手方の一体へと肉薄する。性能差は歴然だった。伊達に上位種として製造されていない。 


「はっ」


 まるで熟練の武芸者の様に。ナイアは容赦なく正拳突きを振り抜いて、一体の胴体を貫いて消し飛ばす。そこからは、一方的だった。ナイアは相手に気付けぬ程の一瞬で敵へと肉薄すると容赦なく手刀を放っては斬り飛ばし、正拳突きを放っては吹き飛ばす。

 そうして気付けば、最後の一体も彼女の放った回し蹴りで真っ二つにされて消し飛んでいた。正味で言えば、二十秒も掛かっていない。相手の総数は十数体と決して少なくなかった。相手も神である事を考えれば、あまりに一方的かつ圧倒的だったと言わざるを得ない。


「私の邪魔をしないで貰えますか?」


 一息吐いてスカートについた汚れをはたき落としながら、ナイアが胡乱げにそう告げる。と、そんな所にクロスが現れた。


「おっす!」

「……今来ますか」

「あっははは。ごめんごめん。でもまぁ、ちょっと見てらんなかったからさ」


 クロスは笑いながらジト目のナイアに対して頭を掻いた。そうして、彼はわずかに申し訳なさげに申し出た。


「別にそこまで義理立てしてくれる必要はないよ。こっちはこっちで特殊な移動が出来るからさ。捕まらないし、捕まえられないだろ?」

「貴方達であれば、そうなのでしょうが……貴方云々より、貴方の繋がりが厄介なのです。真王様のご家族に何かがあられては私が堪ったものではない。表立って動けない私にとって、こういう所での点数稼ぎは重要なんですよ」

「点数稼ぎ、ねぇ……あとちょっと復活が早ければ、って所?」

「おや……私の事情、ご存知で?」


 クロスの言葉にナイアがわずかに目を見開いた。彼女の事情。それはニャルラトホテプぐらいしか知らない事情で、まだカイトにも話した事の無い事だ。それを知っていればやはり驚きだったらしい。


「まぁ、少しは。一応、あの戦いも見てたし」

「ありゃりゃ……これはお恥ずかしい所を。あ、でもよければ初の夫婦喧嘩としてでも記録して頂ければ……あ。流石にそれは駄目ですか。アッーですもんね。やっぱりあれは別人だとお考えください」


 クロスの言葉にどこかひょうきんな様子でナイアがそう笑う。と、そうして一頻り和やかなムードになったわけであるが、唐突にナイアが切り込んだ。


「でも、見て居ながら何もしなかったんですか?」

「あ、うん。あれ? あの後の事知らない?」

「あの後、と言いますと? 実はお恥ずかしながらあの後はぶっ倒れておりまして。ざっと二年程寝てました。いえ、寝てたというより主導権争いでバトってたんですが」


 ナイアはクロスへと恥ずかしげにそう実情を告白する。と、そんなナイアに対して、それなら、とクロスが何らかの事件の後を教えてくれた。


「えっと、なんだっけ。俺が助けようとも思ったんだけど、その前にジャンバラヤ? とか言う人が」

「誰ですか、その美味しそうな名前の人は」

「ちゃんばら? 絶対違うな……えっと、チャドラ……?」

「……あ、チャンドラプトゥラですか?」


 ナイアはクロスが必死で思い出そうとして出した言葉の語感から、その答えを導き出す。それは自分達に関わりの深い人物が後世名乗った名だった。そしてその時の事を考えれば、彼が関わっていても不思議はないと思ったのだ。そしてどうやら、正解だったらしい。クロスが満面の笑みを浮かべた。


「あ、そうそう! それそれ!」

「ああ、彼が……またあの名前使ってるんですか。言い難いから元の名前に戻せば良いのに、と何度も言ってるんですが。でも確かに彼なら、私達の空間にも介入可能ですか」


 なら納得だ。ナイアは名前を聞いただけで何故彼が介入をしなかったのかを理解する。する必要がなかったからでもあるし、そもそもあの時の状況で彼が介入しても邪魔にしかならなかった事は簡単に理解出来る。


「そう言うこと。で、俺は気になったから時々見てたって感じ」

「なるほど。そう言うことなら、構いませんか」


 クロスが自分の事情を理解していた理由を知って、ナイアが納得して頷いた。分かってしまえば別に気にする程の事でもなかったし、彼も言いふらす事はないと分かっている。であれば、別にどうでも良かった。


「で、とりあえず。あまり貴方も無茶はしないでくださいね。助けるの面倒なんですから」

「あっははは。うん、わかってる・・・じゃあ、俺は戻るな」

「あ、はい……って本当に普通に帰りましたね、彼……」


 ナイアは本当に普通に消え去ったクロスにあきれてため息を吐いた。彼女らからして、便利なものだと思ったらしい。と、そう呆れていられたのも、少しの間だけだ。


「……はぁ。また行きますか。大精霊の力を借り受けられる事を知られると困るんですよね、今はまだ。彼女らが憎悪の対象になると話が面倒になるんですよねー」


 ナイアはため息を吐いて、己も再び地球に戻るべく行動を開始する。そうして、この後もナイアはカイトの為、浬達を密かに守り続ける事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日の21時投稿です。

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