第201話 異世界からのメッセージ・2
異世界から届いたカイト達からのメッセージ。それを見る為に煌士の仕事部屋へと足を踏み入れていた浬と海瑠、空也であるが、その部屋の主である煌士がカイトのエネフィア時代の師が宮本武蔵と佐々木小次郎である事を知り大興奮と大暴走をした事により、一時中座する事になる。というわけで、その騒動からおよそ2分後。煌士が再び目を覚まして一つ謝罪した後、再びメッセージの閲覧を再開する。
「ふむぅ・・・興味深い。なるほど、二天一流を更に改良・・・更には妻まで娶られたのか」
『ああ。先生にも色々とあられたらしいのでな。おそらく、剣士としては今の方が随分お強いはずだ』
煌士の興味深げな総括にカイトが改めてそれを認める。と、そんな彼に海瑠が問いかけた。
「あれ? でも宮本武蔵ってお通って奥さんが居たんじゃなかったっけ?」
「いえ・・・実は宮本武蔵は生涯、独身だったはずです」
「そうなんですか?」
空也の明言に海瑠が問いかける。これは良くある誤解だった。なお、空也が知っているのは彼も有名な剣豪には憧れがあるからだ。そして何より、宮本武蔵はあまりに有名過ぎる。彼が知っていても不思議はなかった。そしてそんなよくある誤解をしている海瑠の問いかけに、空也が少しだけ教えてくれた。
「ええ。お通と言う人は戦前の小説家が作った女性です。ですので、直系の血脈というのは居なかったと」
『そうだ。その通りだ・・・あ、ちなみにその話、先生ってか先生の奥さんの前では言うなよ。相当拗ねるぞ、あの人。まー、そうなった後デレッデレで先生が慰めるんだけど。あのバカップル。マジで何人ガキ作るかわかんねぇわ・・・』
カイトが空也の言葉を補完する様に更に情報を開示する。ここら、彼はかつてその宮本武蔵の家に居候していた時期があるそうで、武蔵の長男から兄の様に慕われているそうである。
それはさておき。とりあえず日本で宮本武蔵という人物に落胤が居なかった事は事実である。というわけで、その後については煌士が引き継いだ。
「うむ。なので実際にはその後は養子に譲っているはずだ」
『まぁ、そうらしい。あれについては先生も自分が馬鹿であったと笑っておいでだ・・・いやぁ・・・今思えばどこぞのバカ師匠そっくりだわ。花より団子ならぬ花より戦・・・ぐぇ』
「なんぞ言うたかー」
『な、なんでもございません・・・見目麗しき我が最愛の師・・・』
スカサハに叩き潰されたカイトが謝罪する。今思い直せば、と言う話なのであるがスカサハと武蔵――その当時と言う話らしいのだが――の性質はそっくりであった。それを考えれば、カイトがスカサハに弟子入りしていたのは道理なのだろう。
「はぁ・・・ま、良いわ。その性質は儂自身で確かめよう」
『もう好きにしてくれ・・・あんた単独で向かう分には止められねぇのわかってるからな・・・』
カイトはため息混じりに首を振る。スカサハを止める事は立場上不可能だ。特にこの強敵を前にした彼女の顔では止めようがない。下手に異世界に移動する事が出来るのが厄介な所だろう。
「良し。で、それはさておき」
『させたん誰だよ・・・』
「まぁまぁ」
カイトのツッコミにヴィヴィアンが制止を入れる。ここで変に脱線しては元の木阿弥だ。折角戻った意味がない。というわけで、仕方がないので適当に先に進める事にする。というわけで、煌士が再びパソコンを操作し始める。
「う、うむ・・・む?」
そんな煌士の手であるが、それが中ほどまで進んだ所で再度停止する。今度見ていたのは勇者カイトのその後について、であった。
「公的に日本に帰ったと通知されているのですか?」
『らーしい。どうにも馬鹿皇子がぶちギレちゃったらしくてなぁ・・・まーったく。あの馬鹿は・・・自国の恥にしかならんだろうに。てきとーに旅に出たとでもしとけ、って言ったんだがなぁ』
煌士の問いかけにカイトは半分呆れながらも、多大な親愛を乗せながら頷いた。馬鹿皇子というが、これは彼の親友の一人だそうだ。この皇子ともう一人、あちらで聖騎士と言われる男が、彼の最大の親友だった。故に自ら身を引いたカイトを受けて、その皇子とやらが大いに激怒して事のあらましを全世界に暴露したそうである。
『とは言え・・・まぁ、仕方がなかったんだろう。オレ達は少々、急ぎすぎた』
「急ぎすぎた?」
『ああ・・・色々と変えていったからな。国が二つに割れかねなかった。オレ派と奴派でな・・・はぁ。ほんと、貴族ってのは利益が手に入るやいらん事ばっかりしやがる』
「それは・・・」
カイトの声はなんとも悲しげで、そして僅かな怒りが滲んでいた。それ故、煌士も流石に何も言えなくなる。カイトは英雄だ。が、それ故にこそ問題もあった。その結果こそが、この友人同士で相争う結果に繋がりかねなかったというわけである。
と、そんな煌士の顔を見て、カイトが慌てて気を取り直す。彼からしてみればまだ三年前の事なのだ。こうなるのも、仕方がなかったのだろう。
『あっと・・・今のは聞かせるべきじゃなかったな。ま、そんな感じでこっちに帰るしかなくてな』
「その御蔭で、私達は出会えたわけなんだけどね」
『そりゃ、たしかに』
モルガンの言葉にカイトも笑顔を見せる。確かに帰らねばならなかった事は辛いが、それでもそのおかげで幾つもの出会いもあった。全てが悪い事だらけというわけではなかった。
『ま、それは良いか。その時の仲間達の事はオレの誇りだ。今も生きてる奴も多い。機会がありゃ紹介してやるよ』
「「「・・・」」」
全員、ただただ呆けて頷くしかなかった。確かに、彼は勇者と言われるだけの事はあった。それほどまでにその言葉には一片の嘘偽りがなく、誇りとしか言い表せない、煌士らには全く理解出来ずそれでなお尊いと本能が理解出来る感情しかなかった。
理解不能なのに、それで居てここまで不快感の無い物は珍しい程だった。と、そんなある意味見惚れるとも言い得る一同に向けて、カイトが脱線していた軌道を元に戻す。
『で、だ。それで丁度今はオレが居た土地をウチの妹が治めててな』
「「「妹?」」」
「え? いや、どう考えても私じゃないでしょ」
カイトの言葉に全員が一斉に浬を見るが、見られた浬は目を丸くするだけだ。そしてそれはそうだ。これは彼女の事ではなかった。というわけで、カイトは少し笑って首を振った。
『そっちじゃねぇよ。ま、幸か不幸か外見年齢は・・・いや、クズハの方が成長してねぇか』
カイトはふとある事に気付いて、若干の同情を滲ませる。
「???」
『何でもない。気にすんな・・・でも出る場合はクズハの前で胸隠す様に言うべきかもなぁ・・・』
小首を傾げる浬に対して、カイトはもしこの二人の妹達が出会った場合にどうするか僅かに悩む。まぁ、そういうことらしい。とは言え、それは小声だったので、スカサハを除けば誰にも聞かれる事がなく、消え去った。
『ま、まぁ、それは置いといて。ウチの妹って言うか正確には義妹だな。ちょっと戦争でご両親が亡くなってな』
「え・・・」
あっけらかんと語られはしたものの、どう反応すれば良いかは全員わからなかった。この場の全員は当然であるが、戦争からは遠い者達だ。それ故あっけらかんと孤児と言われてはどうしようもなかった。そんなある種気圧された浬らを見て、カイトは笑う。
『あはは・・・ま、そんな世界だったんだ。オレが終わらせるまでは』
「終わらせ・・・られたの?」
『ああ、終わらせたよ・・・うん。お前らも知っておくべき、だよな』
浬の問いかけに朗らかな様子で頷いたカイトであるが、少しだけ決意を固める。これはもし彼らが帰還した後、どうしても知っておかねばならなかった事だからだ。
『浬、海瑠。ここから語る事は、覚悟して聞いておけ』
「え? どうして?」
『・・・ティナに関わる事だ。それも非常に重要な事だ。だから、お前らも家族として知っておけ』
浬の問いかけにカイトは有無を言わさない圧力を発する。何時か、カイトはティナを妻として迎え入れる。そして浬も海瑠もこの世界の裏側に触れてしまった。そして、もう逃れる事は出来ないだろう。
であれば、教えておかねばならなかった。本来、これはティナがやるべき事なのだろう。だがその当人が居ないのだから、仕方がない。夫となる者として、その役目を代わるだけだ。
「あ・・・でしたら私達は・・・」
『いや・・・お前らも聞いて良い。別にあいつも隠してるわけでもないからな』
少し大事にしすぎたか。空也の申し出を受けて、カイトは少しだけ気を抜いた。別に聞かれて拙い話ではない。単に家族の話だ、というだけだ。そうして、そういうことなら、と浬らも僅かに肩の力を抜いた。とは言え、語られた内容は、そんな領域ではなかった。
『・・・あの世界でその戦争を起こしたのは、ティナの義理の弟だ。幼少期から面倒を見ていた義理の、な。ティナは育て親とさえ言い得る』
「「・・・え?」」
浬と海瑠の二人は言葉の内容を理解するのに、僅かな時間を要した。言われた事は簡単だ。が、それでもそのあまりの内容に理解し得なかったのだ。
「・・・え、ちょっと待って・・・ティナちゃんって確か・・・」
「魔王・・・だよね。そして封印されてたって・・・」
浬と海瑠は僅かに聞いていた内容を思い出す。であればつまり、答えは一つしかなかった。
『・・・そうだ。ティナは、義理の弟に裏切られて寝ている所を襲われて封印された』
「「「っ」」」
事情を知らない全員が一斉に息を呑んだ。あまりに酷い話だ。それは確かに覚悟して聞け、というのも理解出来た。そうして、語るべき事を語った彼は言うべき事を告げる。
『何をしろ、というわけではない。ただ、知っておけ。あいつにはそんな過去があるんだって事をな』
「あ、あの・・・そんな話を聞いてよかったのですか?」
『残念ながら、向こうじゃあまりに有名過ぎる話だ。隠し通せる話でもない。ソラも勿論、知っている』
空也の問いかけにカイトは首を振る。どうやら空也の兄はカイトの正体を知っているらしく、その一環としてというか幾つかのやり取りの中で、ティナその人よりその時の事を語られているらしい。故に空也も良いとしたのであった。と、そうなると気になったのは煌士である。故に彼もおずおずと問いかけた。
「あ、あの・・・我輩は・・・そもそもそのティナという方を知ってもいないのだが・・・」
『あー、うん。まぁ、そうだわな。でもまぁ・・・うん。お前も良いんじゃね?』
「か、軽すぎはせんのだろうか・・・」
『まー、桜も知ってるし。その現場居たしなー・・・クラウディア、ああ、今の魔王がついうっかりミスで暴露しちまってな。その時に桜とかも一緒に居たわけ』
「はぁ・・・というか、姉とお知り合いなのですか?」
煌士はカイトへと姉を知っているのか問いかける。それに、カイトは迷いなく答えた。
『うん、知ってる』
「・・・ふむ。この顔」
「なるほどなるほど・・・カイトー、ちょっとお母さんにどの程度知ってるかゲロってみない?」
スカサハが何かに納得し、モルガンが笑いながら手招きする。
『普通程度に知ってる程度ですよ?』
「その普通はカイトの普通?」
『・・・あれ? いつの間に?』
カイトは己の背にヴィヴィアンが跨っている事に気付いた。その笑みはまるで蕩ける様な笑みなのに、敢えて言えば、そう、敢えて言えば非常に危うい色香さえある笑みだった。
『あ、これもしかしてヤバイやーつ?』
「正直に言ってみよっか。はい、どーぞ」
『・・・』
あ、これ冗談通じないパターンだ。カイトは有無を言わさない様子のヴィヴィアンにそう悟る。というわけで、いっそ開き直る事にした。
『全部知ってて悪いか! えぇえぇ、隠す所一切なく生まれたままの姿知ってますよ!? オレだって知った時はあまりのオレっぷりに思わず笑ったわ!』
「あ、開き直った」
モルガンは開き直った様子のカイトに笑みを零す。別に彼女は怒ってもいない。単に気になったので聞いてみただけだ。相棒だ。女が増えるのならそれを把握しておく必要はあるというだけに過ぎない。
『はっははははははは! いや、マジで何やってんの、オレ!? 桜に瑞樹をダブルお手つきとか馬鹿じゃないの!? 天道財閥と神宮寺財閥のご令嬢二人とか! バカなの、死ぬの!? いや、一応ブルーとしての地位あるけどさぁ! ちょっと考えて動けよ!? 下半身に寄り過ぎじゃねぇの!?』
「・・・あ、ちょっとやりすぎた。はいはい、カイト。怒ってないからね?」
どうやら開き直るというより自暴自棄になった事にヴィヴィアンも気付いたらしい。思わずカイトの慰めに入っていた。
『うわーん! なんでこんな事なってんだよ! 気に入ったらどんと来いってやめろよ! いや、オレなんすけどね!?』
「いーの、いーの。そこがカイトの良い所なんだから」
『うぅ・・・妖精ちゃんマジ天使・・・だってさ・・・桜も瑞樹も良い女なんです・・・しょうがないじゃん。可愛いんだから・・・』
「それで、守りたいんでしょ?」
『うん』
「じゃあ、カイトらしくて良いじゃない」
ヴィヴィアンがカイトの行動を肯定する。基本、彼女はカイトの行動を肯定しかしない。と、そんないつも通りといえばいつも通りな状況に、モルガンがツッコミを入れた。
「・・・いや、色々可怪しいでしょ・・・ん? まさかあんた・・・」
確かに、モルガンの言う通り色々と可怪しい。ここまで追い込んだのはヴィヴィアンである。と、それ故モルガンが僅かに背筋を凍らせる。これはある意味、ジゴロの手口と一緒だった。自分で追い込んで、自分で救いの手を差し伸べて依存させる。DV男の手口にも似ている。と、そんなモルガンにヴィヴィアンが気付いた。
「どうしたの?」
「・・・なんでもない」
触れてはいけない。モルガンの本能がそう告げる。そうしてカイトが自暴自棄に陥った為、再びどういうわけか閲覧は一時中座する事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




