第200話 異世界からのメッセージ
スカサハの招きを受けて異世界から送られてきたメッセージを確認するべく彩斗達とは別個に集められた浬達。そんな彼女らは最後の一人となる空也を待つ間、スカサハから彼女の昔話というべきかクー・フーリンら等の『影の国』に関する事を聞いていた。聞いていたわけであるが、それは当然、空也が来れば終わりになった。
「申し訳ありません、おまたせしました」
「おまたせー。いやぁ、長かった。途中面倒だからトイレに立ち寄ってもらって入れ替えた」
「なんだ。であれば、待っておればよかったか。いや、いっそ儂が出向いた方が早かったか」
モルガンの報告を受けて、スカサハが若干顔を顰める。これなら別にモルガンを送るより、なんだかんだと理由を付けて彼女自身が迎えに行っても良かった。
なにせ彼女なら別に隠れる必要もなく普通に接触出来るわけだし、そうなれば後はまどろっこしいと転移術でさっさと移動させられる。待つ必要も無かった。とは言え、それは結果論だ。というわけで、スカサハが立ち上がった。
「ま、それは良いか。煌士、お主の部屋まで案内頼む」
「あ、はい。わかりました」
スカサハの求めを受けて、煌士は若干残念そうに立ち上がる。残念そうなのはやはり英雄譚を知る者の言葉だったからだ。中二病というわけではないがそこらの英雄譚に憧れる者として、興味深かったようだ。
というわけで、一同は煌士が仕事で使っている仕事部屋へと移動する事にする。と、その道中。空也がふと口にする。
「そう言えば・・・私がここに来るのも久しぶりですね」
「む? そう言えばそうか。我輩もあまりこちらには人は入れんか・・・」
煌士も空也に言われて、そう言えば久しぶりである事を思い出す。そもそもこの仕事部屋というのは煌士が日本に帰国してから作られた比較的新しい部屋だ。故に古くは幼馴染として付き合いのある空也もあまり入った事が無かったのである。
何より煌士の帰国後には既に空也はカイトと出会っており、比較的今に近い性格になっていた。故にどちらも大人の付き合いに近い所があり、仕事部屋という事で空也が遠慮していた事も大きかった。
「っとと。とりあえず、こちらが我輩のパソコンルームだ」
「お待ちしておりました」
煌士はそう言うと、自分の私室の横の部屋へと案内する。一応彼の私室からも入れるそうなのだが、帰宅後すぐにこちらに来る場合や私室に帰らずこちらに来る事もあるだろう、という事でどちらからでも入れる様にしていたらしい。なので今回は廊下側から、というわけである。と、そうして入った室内で浬が大きく目を見開いた。
「うわっ! 何これ!?」
「どこからどう見てもパソコンであるが」
「これ・・・全部パソコン・・・?」
「いや、全部ではないぞ。後ろの大半はサーバだ」
驚き、周囲をキョロキョロと見回す浬に向けて、煌士がさも平然とそう宣った。さて、そんな煌士の仕事部屋であるが、それは二人の言ったとおりで良い。部屋の大きさとしてはおよそ10畳ぐらいであるが、その半分ぐらいを巨大なサーバが占めていた。天道財閥製のサーバらしい。
研究の為に高度なシミュレーションも可能な様にしているそうだ。と言っても勿論それは流石にスーパーコンピューター程ではなく、あくまでも煌士が遠隔地から何かの研究を行う際、その手助けになってくれる程度の物らしい。なのでここで出来ない事については、政府の持つスーパーコンピューターの使用申請を出すとの事であった。勿論、それでもこんなものを個人で保有出来るのは実家が天道家という彼ぐらいな物だろう。
「モニター、三つも必要あるの?」
「ふむ・・・まぁ、常用は三つという所か。それ以外にも必要に応じてもう数個引っ張り出すが」
「これで足んないの・・・?」
ある意味、ここまでぶっ飛べば清々しい程でさえある。故に浬はもう何も思うことは無かった。と、そんな驚きを隠せない浬と逐一説明するある意味律儀な煌士に対して、詩乃が申し出る。
「煌士様。再生ソフトについては起動させておきました。他、数点メールが届いておりましたので、後ほどご確認を」
「うむ。後で確認しておこう・・・さて、まずは・・・」
『っと、ちょっと待った。そう言えば忘れてた。PC、一応防諜用のソフトは入っているな?』
さてまずは、とUSBメモリをアダプタに差し込もうとした煌士に対して、カイトが問いかける。それに制止を掛けられた煌士は作業の手を止めて、はっきりと頷いた。
「勿論です。そこらはこの間父より渡された物をしっかりと」
煌士はカイトの問いかけに問題がない事を明言する。改めて言う必要の無い話であるが、今回彼らが見ようとしているデータは日本政府が極秘資料として隠匿している情報だ。どこかへの流出なぞ有って良い話ではない。
そしてこの煌士の私物のサーバ類は極秘情報の塊と言っても過言ではない。故にハッキングやクラッキング等、情報の流出には人一倍気を遣っていた。そして勿論、意味も効果もカイト達には皆無であったが、魔術的にも誰かが入らない様にきちんと防御態勢を整えている。その中には、この間アルター社から提供された防諜ソフトも含まれていた。
『ああ、いや。すまん。実はもう一つあるんだ・・・というより、あっちはデッドコピーでな。えっと・・・』
カイトは再びゴソゴソと異空間の中の荷物を探り始める。そうして一分ほどでもう一つ別の、今度はメモリーカードを取り出した。
『これを入れておけ』
「これは?」
『天道にアルターから提供された物より遥かに強力なハッキング対策のソフトだ。名前は似ているが、性能は数段・・・いや、数世代上と言っても過言ではない。常にウチがヴァージョンアップしているからな。基本的にはそれを使っておけば、オレ達が仕組んだ防諜用のシステムも対処出来る』
「なるほど・・・わかりました。そのまま差し込めば?」
『ああ、それで良い』
煌士の問いかけにカイトはメモリーカードを彼へと渡しながら頷いた。これは以前彩斗の生家のパソコンにカイト達が入れていた物と同じと考えれば良い。というわけで、ものの数分でインストールを終わらせると煌士が再びUSBメモリを差し込んだ。
「これで、良し」
煌士はUSBメモリをPCに差し込むと、手早い動きで映像を再生するアプリケーションを起動させる。これについては実験記録を閲覧する為に元々入っているので、それを使えば良いだけの事だ。
「良し。これで・・・む。かなり量が多いな・・・」
煌士は保存されているデータ量がかなりのものに及んでいる事を理解して、思わず目を丸くする。まぁ、これは敢えて自分達の知り合いだけに限定せずに素のデータを持ってきただけ――そんな時間も無かった事も大きい――なので、それも仕方がないと言う所だろう。それでも、カイト――本体側――が主導して送る容量を削っている。人数が人数なのでどうしても、というわけであった。
『なにせ500人分をひとまとめにしているからな。一人頭およそ5分って所だが・・・それでも流石に動画ファイル五分だ。携帯で取った動画じゃあるまいから、ギガは余裕で超えるさ。他にも色々と通達する必要があったしな』
「なるほど、道理ですね」
煌士は興味深げにカイトの言葉に頷いた。やはり異世界から送られてきたメッセージだ。彼の知的好奇心が刺激されていたのだろう。と、そんな彼はマウスを操りながら、カイトへと問いかける。
「それで、どれから見れば良いですか?」
『ふむ・・・基本的にはお前らの家族、ソラやら桜らやら、まぁ、後は必要に応じて瑞樹やらの物を見れば良いと思うが・・・』
煌士の問いかけにカイトは少しだけ頭を悩ませる。送ったのは彼だし、煌士の姉や空也の兄とは親しい仲だ。故にどんなメッセージを撮影しているかは知っている。
と言うより、既に向こうでは内々にではあるがカイトは公爵として復帰出来ているらしく、それ故国からの検閲の結果も彼に上げられているらしい。その情報を持つこの使い魔が知らない道理はないだろう。と、そんなカイトにスカサハが道を示した。
「ま、兎にも角にも向こうのおおよその情報を教えてやれば良いのではないか? 何をするにしても土台を知る必要があろう」
『まぁ、そりゃそうか・・・煌士。資料ってフォルダを開け。んで、オレの指定するファイルを各画面にそれを映せる様にしろ』
「わかりました。詩乃、左のモニターの調整を。我輩は右を」
「かしこまりました」
煌士はカイトの求めに応じて、三つあるモニターにそれぞれ映像を映せる様に調整する。そうして、煌士の操る画面が三つに増える。いつもは分割しているらしいのだが、今回は浬らにも見せる必要があるので見えやすい様にしたらしい。そうして、それを確認したカイトが口を開く。
『その中の基本情報ってファイルだ』
「はい・・・出ました」
煌士はカイトの指示に従って指定されたファイルを展開する。これは動画ファイルではなかった。敢えて言えばプレゼンテーション用の資料を書面に落とせる様にしたもの、と考えて良いだろう。
というわけで、煌士らはまずは基本的な知識を得る為にそれを全員で読む事にする。と、そうして確認を始めて、早々に煌士の手が止まった。
「む」
『どうした?』
「この伝説の勇者カイト、というのが貴方の事ですか?」
『ああ、それか。お恥ずかしながらな』
煌士の問いかけにカイトは少しだけ恥ずかしそうに頷いた。それに、浬が大いに驚きを浮かべる。
「うそ・・・本当に伝説の勇者なわけ?」
『一応、これでも伝説級の偉業は残してるんで・・・ま、その話は後で良い。てか、どうやっても後で話さないと駄目だ・・・はぁ・・・』
カイトはどうしてか深くため息を吐く。彼は異世界の本体と記憶を一部共有した。というわけで、何かがわかっているのだろう。
『まぁ、良いや。それは後でやる。煌士、さっさと進めろ』
「っと、失礼した・・・む」
「どうされました?」
手を止めた煌士であるが、カイトに促されて再びマウスを動かす。が、それはカイトの来歴に見慣れた単語があった事で、再び止まる事になる。そうして、ぶんっ、と彼の首が曲がる。
「・・・カイト殿」
『次なんだ?』
「宮本武蔵と佐々木小次郎のお二方とお知り合いとは真か!? と言うか、お二人はご存命なのか!?」
まぁ、そういうわけである。カイトは現在上泉信綱に弟子入りしているわけであるが、実はエネフィアでは日本で有名なかの大剣豪・宮本武蔵とその終生の好敵手・佐々木小次郎に弟子入りしていたのである。どちらか、ではなく両方だ。
『ああ。ちょいと向こうで大怪我負ってな。んで、ちょっとの間まともに力使えなくなってなぁ・・・で、あさ・・・じゃなかった。小次郎先生に弟子入りしたんだが、その際居候してたのが武蔵先生の所でな』
「そういや、なんぞ言うとったか。そこまでの武芸者か?」
カイトの言葉と煌士の態度から、スカサハが若干興味深げにカイトへと問いかける。やはり武人として気になるのだろう。
『まー・・・うん。フェルグスの大兄貴が相当楽しみそうな相手だな。多分、剣技だけなら兄貴超え余裕だ』
「ほぅ・・・」
カイトの断言にスカサハが牙を見せる。彼女もまたカイトの師であるが、それ故に武蔵と小次郎の事も聞いていた。そして優れた剣士である事も見抜いていた。
が、やはり彼女らは『影の国』、ひいてはイギリス人と言える。故にこの二人の知名度がわからなかったのだ。これが日本に滞在して長いクー・フーリンやランスロットなら、と言う所だろう。というわけで、にわかに降って湧いた強敵の匂いにスカサハがニコリと笑みを浮かべる。
「・・・あ、儂、ちょいと用事を思い出」
「何考えてやがる。てめぇのその顔は碌な事考えてねぇ顔だろう」
「離せ、小僧! ちょいと異世界へ行きたい奴募ろうと思うておるだけよ!」
「やっぱそんな所か! 行かせるかバカ! 来たら面倒な事になるだろうが! 特に姉貴! あんたとクオンがバトった日にはマクスウェルどころかマクダウェル領が壊滅しかねん! 流石に領主として止めさせてもらう!」
実体化したカイトがスカサハを食い止めんと羽交い締めにする。ここで下手に騒動を拡散されると面倒な奴らが沢山居る。特に彼女らの関係はエネフィアの武人に大いに興味があるのだ。下手に騒動を拡散されない様に見張る必要があった。
なお、クオンというのはエネフィアにおいて最強の剣士と言われ、カイト達がかつて戦った敵の大幹部に成長したカイト達以外で唯一互角に戦えた戦士でもあった。
そんな彼女とこの地球でも有数の戦闘力を持ち合うスカサハの戦いである。天変地異が目に見えていた。統治者としても、見過ごせるわけがなかった。アラスカ程度もあるというカイトの領地でさえ、壊滅しかねないのだ。
「まぁまぁ、それはそれとして。さ、先に進もう?」
「はぁ・・・そうだな。姉貴、あんたはそこでおすわり」
「儂はバカ弟子一号ではないぞ」
「知ってるよ!」
スカサハの言葉にカイトが声を荒げる。とは言え、スカサハもとりあえずは大人しくなってくれた――表面上は――ので、それで良しとしておく。というわけで、カイトは再び小鳥形態になることにした。と、そんな彼であるがそこでふと、煌士が気絶している事に気付いた。
『・・・ん?』
「ああ、申し訳ありません。少々、無作法を致しましたので教育的指導などを」
「流石詩乃ちゃんね。相変わらず見事な手際だったわ」
「いえ、浬様もお見事なお手際でした」
詩乃と浬が二人でお互いの手腕を称賛し合う。その一方で男二人はと言うと、微妙に引きつった顔だった。と、そんな所にモルガンが教えてくれる。
「いやぁ、武蔵さん、だっけ? それがどれだけすごい剣豪なのか、って物凄い早口で羅列してたのよ」
「分身も結構大暴走してたよ・・・」
モルガンに続けて、海瑠が分身の側の状況を告げる。先にも述べたが分身は基本は自動だが本体の状況にかなり影響を受ける。本体の興奮に合わせて、分身もかなり興奮していたのだろう。
分身をどうやら浬が、本体の此方側を詩乃が掣肘したということなのだろう。本体を止めたからとて分身が止まるとは限らない為、同時に止める事にしたらしい。まさに阿吽の呼吸と言い得る見事な連携だったそうである。
なお、一応。この時の映像はどこをどう間違ったのかそのまま異世界のカイト達に送られる事になり、カイトと煌士の姉が大いに頭を痛める事になるのであるが、それは横においておく事にする。
『・・・そか』
まぁ、仕方がないだろう。煌士は過去の偉人や英雄が大好きだ。そんな彼にしてみれば宮本武蔵なぞ垂涎としか言い得ない大剣豪だろう。カイトとスカサハ自身が騒動を起こしていたので彼は気付く余裕がなかったわけである。そうして、一同は煌士が目覚めるまでのしばらくの間、微妙な空気を保つ事になるのだった。
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