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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第10章 異世界からのメッセージ編

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第198話 もう一つの物語

 物語は異世界エネフィア側とは違う、もう一つの展開へと移動していきます。というわけで、ここからは本編をご存知の方もその裏で起きている物語をお楽しみください。

 天道家に到着して早々響き渡った、浬の悲鳴。それは結界の中だけで響き渡ったわけであるが、その結界はあくまでもある程度の効果しかなかった。というわけで、そんな結界を超えて楽しそうな悲鳴を聞けて動かないはずが無い女性が一人、居た。天道邸にてここ数日厄介になっているスカサハである。


「む?」


 浬の悲鳴を聞いて、スカサハが顔を上げる。見知った少女の悲鳴だし別に何か恐怖が乗っていたわけではないので急ぐつもりはなかったが、一応聞いた以上は行ってみるか、と思ったらしい。与えられた個室に座って異世界との通信を確立しようと動いていた彼女であるが、取りやめにして立ち上がった。


「ほらよっと!」


 スカサハはいつもどおり、転移術の目印となる槍を放り投げる。後は自動的に音の発信源目掛けて飛んでいく事になっているので、面倒な操作は不要だった。


「む、近いな・・・ちょいと出てくるか・・・少し、出るぞ。何、そこまで遠くは行かんので付いてこんで良いぞ」


 スカサハは天道家の家人にそう言うと、返答を聞く事もなく隠形を展開してその場から歩き始める。付いてこられても面倒なので、その前に姿を隠したのだ。転移術の目印を突き立てたは良いが、この程度なら別に歩いても良かったらしい。というわけで、健康に気を遣って歩く事にした。と言っても天道邸から出てすぐそこで、原因は見付けられた。


「「「・・・」」」


 そこに居たのは、唐突に飛来した槍を見て呆然となる浬ら四人である。勿論、横には彩斗達も一緒であるが、こちらはスカサハの隠形により気付いていない。


「なんだ。やはりお主らか」

「・・・え? これ、スカサハさんの?」

「うむ。悲鳴が聞こえたので何事か、とな」


 スカサハは槍を回収しながら、浬の問いかけに頷いた。なお、念のために言えば彼女が使った魔術により、万が一にも人に命中する事のないようになっている。なので安全である。安全ではあるが、安心ではないだろう。


「で、そんな所で何をやっとる」

「いやさー。聞いてよ。これが浬達に森でサバイバルやったら、って言ったら嫌って言われたのよ」


 スカサハの問いかけにモルガンが呆れを混じえながら事情を語る。そうして少し聞いて、今度はスカサハが呆れた。


「はぁ・・・今の者はその程度も出来んか」

「いや、多分・・・昔の人もそんな事出来なかったんじゃないかな・・・」


 呆れるスカサハに海瑠が至極もっともな事を呟いた。そもそも昔から血抜きだの何だのと出来るのは狩人達ぐらいなものだろう。一般の農民達が狩りをして血抜き云々が出来たとも思えなかった。


「何を言っておる。儂がまだ外に気軽に出ておった頃にはそんじょそこらで狩りしておったぞ」

「ちなみに、およそ5千年前の事です」

「縄文時代!?」


 モルガンの補足説明に驚いた浬が素っ頓狂な声を上げる。それは普通に狩りをしているだろう。と言うより、血抜きの技術があるかどうか、という領域だった。とは言え、これにスカサハが否定を入れる。


「流石にそこまではいかん。およそ4000年前程だ」

「どっちにしろ紀元前!?」

「まー、一世紀年頃には既に『影の国』を率いておったのでな。そのぐらいになろう」

「・・・」


 浬はスカサハを見ながら、この健康的な見た目大学生程度の美女が実際何歳なのだろう、と大いに疑問を得る。が、彼女とて女性である。年齢を聞かないぐらいのマナーはあるし、そして空気の読める海瑠はその程度は察する事が出来た。なお、真実としては当人も忘れたので答えは出ないらしい。長生きした弊害だそうだ。と、そんな彼女が一つ提案する。


「ふむ・・・儂に一週間程預けんか?」

「遠慮しておきます」


 碌な予感が一切しない。故に浬は即座に遠慮をしておく。絶対に森でサバイバルより嫌な予感がしたのである。そして、この浬の勘は正解である。彼女の与えるサバイバルはもっと壮絶だ。


「残念だ・・・みっちりしごいてやろうと思うたのだが」

『おい、オレの時と対応違うくね!?』

「あ、お兄ちゃん」


 残念さを見せたスカサハに、カイトが思わずツッコミを入れる。実は彼の弟子入りはスカサハによる強制に近かったらしい。どうやら少し色々とあったらしく、興に乗った彼女が強引にカイトを弟子入りさせたそうだ。それ故、スカサハは笑っていた。


「あぁ、構わん構わん。お主は戦士。別に取って食おう・・・たか」

『確かに取って食われましたねぇ!』

「うむ。あれは前後不覚であった。許せ。結果は変わらんので許さんでも良いが。いや、いっそ師の特権としてわがままを言った事にしろ」

『おい!』


 相変わらずあっけらかんとしてサバサバとしたスカサハに、カイトが大いに声を荒げてツッコミを入れる。この取って食った、というのは勿論性的な意味で、である。小鳥なのは今の使い魔だ。幾ら彼女らとて人を取って食うほど酔狂ではない。

 なお、勿論こうなるまでに一年程の間隔があるが、そこについては横においておく。流石にスカサハも出会って早々に襲いかかる様な女性ではない。そこら、色々とあったらしい。と、そんなカイトに、浬が氷点下の極寒の視線を向ける。


「・・・」

『その視線やめて!? オレ、この時ばかりはガチの被害者ですよ!? 出血多量で意識朦朧としてる所に思い切り押し倒されたんですよ!?』

「・・・」

『ヴィヴィ~! 妹が信じてくれないー!』

「はい、よしよし」


 妹の極寒の視線に耐えきれず、カイトがヴィヴィアンへとすがりつく。何も知らない者が見れば愛らしい妖精が小鳥と戯れているだけであるが、実態は片方は兄である。というわけで、更に極寒の視線は絶対零度に近づきつつあった。


「だーから怒らせるだけなのに・・・」

「ははははは! やはり大英雄と言われども、兄は兄か! で、お主ら、何しに来た」


 呆れるモルガンと共に笑いながら、スカサハが浬らへと問いかける。彼女は今日ここに客が来てメッセージを見る事は聞いていたが、その中に浬らが含まれていた事は知らない。言う必要も無いだろう。何より、選定が終わったのもこの数日の事だ。詳細は把握していなかったのである。というわけで、浬らがそれを手短に説明する。


「ふむ・・・であれば、少し待て」


 スカサハはそう言うと、真紅の槍の石突でトントン、と地面を叩く。すると、彼女らにそっくりな分身が現れて、彩斗らの後について移動していった。

 情報や行動は彼女らの脳に直接送られてきていて、変な感じが彼女らにはあった。敢えて言うのなら、もう一人の自分が脳内に居てそれが操っている様な妙な感じだった。

 そちらでも普通に会話しており、妙な違和感がある。まぁ、これはスカサハに強制的にやらされている様な感じだ。自分でやっていない上に練習もしていないので、どうしても違和感を感じてしまうのであった。その上、慣れない術式なので少々本来の彼女らとは違う動きも散見されるらしい。ここらは、素人故に仕方がないと諦めるしかないだろう。とは言え、これでもバレないのだから問題はない。


「・・・あれは?」

「ふむ。お主ら、確かそこそこ知り合いがおるという話しであったな。あちらに表向きの行動を任せ、儂と共に来い」

「「?」」


 どういうわけなのかわからず、浬と海瑠が首を傾げる。それに、スカサハが手短に教えてくれた。


「メッセージとやらを全体的に見せてやろう、という話よ。バカ弟子二号」

『あいあいー』

「確か、この屋敷には煌士とか言う小僧がおったな?」

『ああ、居るけど・・・メッセージ持って来いってか?』

「うむ。持って来い。どうせバックアップ・・・とやらは貰っておるのだろうからな」


 カイトの先を推測した問いかけに、スカサハがはっきりと明言する。下――映像は地下室で見る事になっていた――は色々と人が多い。しかもあちらは日本政府等が見せても良い、という資料しか見せてもらえない。今後と彼女らに知り合いが多い事を考えて、その他の資料や映像ついても見せてやろう、という考えだった。


『はいはい・・・モルガン、ヴィヴィ。悪いが煌士の所行って、ついでに空也の所行って分身置いてこっち呼んできてくれ。鳴海ちゃん達は・・・まぁ、ソラ達の事は知らないし、あちらはあちらで首相官邸だのに行っているか。横においておいて大丈夫だろう。オレはアルターへ行ってバックアップファイルを取ってくる』

「はーい。じゃあ、私が空也の所行ってくるね。ヴィヴィは煌士の所よろしく」

「うん。じゃあ、また後でね」


 アルター社へと向かうべく羽ばたき始めたカイトの要請を受けて、モルガンが転移術で消えてヴィヴィアンが屋敷の奥へと飛び去っていく。この屋敷の構造は大凡把握しているらしい。更には魔力を辿れば煌士がどこに居るか、ぐらいは簡単に分かるそうだ。なのでヴィヴィアンにも迷いはなかった。


「えーっと・・・あのー・・・一体どういう?」

「む? まぁ、単なる義侠心とでも言っておこう。たまさか見たわけであるし、別に構わんだろう」


 浬の問いかけにスカサハが行動の理由を語る。彼女からしてみれば今は暇で仕方がないのだ。日本政府も天道財閥も異世界から何か良からぬ事が持ち込まれるのでは、と危惧していたわけであるが、実情を知る彼女からしてみれば要らぬ考えだ。

 故にやることも無いままのんびりと過ごしていたわけであるが、そこに丁度よい暇つぶしだ。これは丁度よい、と思っても不思議はなかった。


「は、はぁ・・・」


 スカサハの申し出にこうなっては従うしかない浬らは、とりあえず脳内のどこか別の所で彩斗達の後に従いながら、自分達はスカサハの後を歩いて行く。が、やはりそこはそれという所で、おっかなびっくりという感じがあった。


「これ・・・バレてない・・・のよね?」

「多分・・・」


 浬と同じようになるべく物音を立てないように歩く海瑠が複雑な顔で頷いた。分身は分身で怯えながら動きながらも、本体は本体で周囲をキョロキョロと見回していた。

 スカサハの事はこの屋敷内では知られているらしく彼女が歩いているのを見るたびに、天道家の家人達が頭を下げている。が、その一方で浬らには目もくれないのだ。バレていないとは思うが、何時バレるかと気が気でなかった。それに、スカサハが快活に笑った。


「ははは。そう怯えんでも良い。確か、お主らカイトの腕前を疑っておったな」

「え、えっと・・・はい」

「まぁ、仕方がないか」


 スカサハの問いかけに浬はおずおずとした様子で頷いたわけであるが、それにスカサハはただ仕方がない、と頷くだけだ。カイトの腕前、と言って思い浮かぶのはやはり武芸の面だ。

 魔術の面でどれほど凄いのか、というのは浬らもまだ分かっていない。カイトが魔術を使っている所は殆ど見ていないのだ。というより、もしかしたら高度な魔術を使っている所は見たことは無いかもしれない。それぐらいなのだ。であれば、スカサハの腕前も実感としてよくわからないのだろう。


「あれは・・・まぁ、魔術と言う意味であれば、儂らより格段に落ちる。それは事実だろう」

「そうなんですか?」

「うむ」


 浬の問いかけにスカサハは歩きながら頷いた。その間も何人もの家人達に出会うわけであるが、一つもバレた様子はなかった。と言うより、浬らと話していると気付いた様子さえ無い。

 独り言を話しているとさえ、思っていないかもしれなかった。というより、思っていないのだろう。現状を見ればそうとしか考えられなかった。


「と言うより、あれに言わせれば魔術師である儂が武芸の稽古も付けられるというのが、可怪しいのかもしれんがな」

「「・・・え?」」


 何かとてつもない事を聞いたぞ、と浬と海瑠は顔を見合わせる。確かスカサハはカイトの土手っ腹に風穴を空けた事がある、という話だったはずだ。そして見た目もどこからどう見ても魔術師というよりも、豪快で快活な女戦士という感じだ。その彼女が魔術師、というのがにわかに信じられない話だった。


「え、えーっと・・・今、魔術師って・・・」

「うむ? 言っておらんかったか。うむ、儂はそもそも魔術師だ。ほれ、今ボブカットであろう?」


 スカサハは浬の問いかけに己の髪を指し示す。丁度今はボブカットにしていたが、これは少し前まではロングストレートだったらしい。なお、今もロングストレートに出来るそうだが、たまにはボブでも良いよね、と言う事でしばらくはボブカットにしておくつもりらしい。ここらは女としての色々があるので、好きにしているそうだ。必要な分を刈り取れれば良いのだ。その時にあれば良いだけの話だろう。


「髪を少々魔術の媒体に使ってのう」

「髪を媒体に・・・どんな魔術なんですか?」


 どうやら、海瑠は純粋に興味を覚えたらしい。それにスカサハは別に隠している事でもない、と明かしてくれた。


「うむ。異世界転移を作ろうかとな」

「「え?」」


 スカサハから返って来た答えに、浬と海瑠は大いに目を見開いた。まさかそんな高度な魔術を作ろうとしていたとは、と思ったのだ。と、そんな彼女がふと問いかけた。


「お主ら、この間アーサー王とやらと会ったな?」

「え、あ、はい。修学旅行で・・・」

「実はそこのマーリン・セカンド、小倅の方が少し手を凝らして影を異世界に送る術を開発してのう」

「影?」

「分身なぞとでも思っておけ。ヴィヴィアンらも知っておるぞ?」


 スカサハは首を傾げた海瑠に向けて少し前、彼女らが来日する直前の出来事を語る。ということはつまり、お盆前という事なのだろう。と、それについてはどうでも良かったので、スカサハも軽く流した。影程度なら彼女だって出来る。なら、それより先を目指すのが彼女のやり方だからだ。


「とまぁ、それはどうでも良い。というわけで、どうせなのだからこちらから乗り込んでやろうかとのう。ま、バレたら面倒だし、そもそも儂らクラスが使える者なので教えられぬが。少々バカ弟子から開発を頼まれてのう」

「バカ弟子・・・お兄ちゃんですか?」

「ああ、違う違う。一号の方よ。クー・フーリンという男でな。初弟子が向こうに飛ばされて、どうせなのだからどこまで育ったか腕を見てみたい、とな」


 スカサハは笑いながらこの魔術を開発している理由を語ってくれる。どうやらこのクー・フーリンの方も魔術はあまり得意ではないらしい。というわけで、スカサハに恥を忍んで依頼したそうだ。

 とは言え、それについては弟子がようやく弟子を取って師の気持ちを少しは理解し始めたか、とスカサハも大いに気を良くして、このように開発の手立てを立ててくれているそうだ。


「っと、着いたな。とりあえず、今はこの部屋で休んでおれ。茶は入れてやろう」

「あ、ありがとうございます」


 とりあえず進められるがままに座布団に腰掛けた海瑠がスカサハの気遣いに礼を言う。そうして、浬らは分身に隠れて、スカサハの所で少しの間時間を潰す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時の投稿です。

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