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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第10章 異世界からのメッセージ編

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第197話 天道邸

 浬がカイトにより間接的にダメージを受けて膝を屈してから、少し。昼過ぎになり浬らは天道家からの送迎車に乗り込んでいた。


「・・・」

「・・・」


 浬と海瑠は車に乗り込んで、疑問を得た。これが本当に車なのか、と。


「何これ」

「うっわー・・・」


 浬は沈み込むどころか包み込むとしか言い得ない車のシートに手を沈ませてその包み込む様な感触に感動し、他方海瑠はこれ一台幾らなのだろうか、とドン引きする。なお、誰も答えない彼の疑問に答えておけば、一千万を優に上回るとの事である。


「あぁ・・・なんだろう・・・すっごい心地良い・・・」


 ふわぁ、と羽毛布団のように沈み込むシートに浬が座る。


「あはは・・・浬、ちょっと奥に詰めて」

「あ、はーい」


 ご機嫌な浬は綾音の言葉に従って、更に奥に少しだけ席を詰める。そうして更に前の座席に彩斗が座り、天音家一同が車に乗り込んだ事になる。


「ふぁー・・・」


 浬はただただ高級車の内装に感動する。やはり名家天道家。その高級さは車のシート一つにせよ、こだわりという物が見て取れた。


「・・・はぁ・・・」


 浬はこれからの事を忘れて、ただしばらくの至福を味わう。が、そうしていられるのも、ものの数分だった。


「おーい。起きろー」


 浬へ向けて、モルガンが半分笑いながら告げる。そもそも彼女らが同行していない道理がない。というわけで、折角現実逃避をしていた所から現実に戻されて、浬が不満げに口を尖らせた。


「何よ」

「あはは。まぁ、わからないでもないけどさ・・・これからの流れを説明します」


 モルガンは笑いながら、浬に向けて魔術で映像を映し出す。これから向かうのは天道家。カイト率いる二つの組織とは別となる大組織の本拠地だ。そこに向かう以上、幾つかの注意事項はあるのであった。


「わかってると思うけど、まず私達が居る事言っちゃ駄目だよ」

「わかってるわよ」


 そもそも彼女らが居る事がバレて良い事はどこにもない。バレれば必然、揉め事は一気に全世界的に波及する事になってしまう。そうなれば、後は祢々達が好き勝手に暴れるという結末だけだ。迂闊な事はするつもりは彼女にも無い。


「良し・・・それで、カイトから連絡です」

「何?」

「なーんか向こうで色々あってメッセージ、とんでもない事になってるそうよ」

「とんでもないって?」


 モルガンの言葉に浬は少しだけ興味を覗かせる。このカイトとは使い魔の方のカイトの事だ。メッセージに添付されていた記憶を回収して、向こうの大凡の事情は把握している。その中にメッセージの中身もあった、という事なのだろう。


「見れば分かるって」

「ふーん」


 興味はあるが、どうせすぐに見れるのだ。そう言う意味で言えば、今すぐに知りたいという程の興味もない。と言うより、兄なぞ呼べば来るだろう。なのでそもそもメッセージそのものに大した興味も無かった。

 何より、あの兄がくたばる所が想像出来なかった。当人が雑魚とのたまう使い魔でさえ、藤原千方を瞬殺だ。当人の強さはそれで証明されているようなものである。無事は確実だろう。


「で、後。他にもインドラ達が色々とやってるそうだから、そこで週末隠れ家に来いって。メッセージ撮るよー」

「? 今日撮るんじゃないの?」


 モルガンの問いかけに浬が首を傾げる。聞いている限りでは天道家でカイト達が送ってきたメッセージを見て、逆にこちらから送り返す為のメッセージを撮影するのだと聞いている。それ故の疑問だった。


「ああ、うん。今日撮るよー。でも、私達出れないじゃん」

「あ、それはそっか」


 モルガンの指摘に浬はなるほど、と納得する。彼女らがここに居る事は何度も言われているが秘密である。その彼女らが天道家でカイト宛のメッセージなぞ撮影出来るはずもない。

 そしてさらに言えば彼女らが撮影したデータを何時どこに入れるのか、と言われても日本政府に――当たり前だが撮影したデータは日本政府の検閲を受ける――言えるはずもない。なのでフェルが回収して、密かに乗っける事になっていた。そこに入れる事になっていた、という事なのだろう。


「ふーん・・・じゃあ、適当にしとくかー」


 浬は高級感満載のシートに深く沈み込む。どうやら、幸せなのでどうでも良くなっているらしい。が、唐突に何かに気付いたように目を見開いた。


「・・・てか、あいつ・・・ほぼ毎日こんなのに乗ってるのか」

「誰?」

「煌士よ、煌士。これ、天道家のでしょ?」

「そうだねー・・・乗ってるんじゃない? 多分、もっと良いの」


 浬の指摘にモルガンはそうなのだろう、と推測しておく。推測なのは彼女も知らないからだ。興味もない。彼女らは転移術があるので、大半それだからだ。車を使う意味がないのである。


「なーんか・・・腹立つ」

「あっははは」


 勝手に腹を立てる浬にモルガンが笑う。そうして、そんな彼女らの乗る車はその後も乗っている彼女らにまるで走行している事を感じさせずに、軽やかな動きで進んでいく事になるのだった。




 そんな至福の一時はおよそ30分という所で、終わりを迎える。そうしてたどり着いたのは、天道家だった。そんな威容に浬も海瑠もただ茫然となっていた。


「・・・おっきー・・・」


 浬はただただ頬を引きつらせる。延床面積でどれぐらいかは考えたくもなかった。


「はぁー・・・」


 そんな浬の横、海瑠は少しおっかなびっくりという所だ。彼は魔眼持ちだ。それ故、見えている事があった。


「うっわー・・・皆多分、鍛えてる」

「わかるわけ?」

「うん」


 海瑠は門の入り口から遠目に見える光景で、大凡の家人達の概要を見て取れる程には成長していた。それ故、彼は己の魔眼を使って大凡どんな人達が居るのか、というのを把握していたようだ。

 なお、ここらの会話をする為、浬らの周りにはモルガンがきちんと結界を展開してくれている。なのでいつも通りに話して大丈夫である。色々とヤバイ会話は結界の効果で普通の会話として変換されるようになっている。


「やっぱり、家の中だと皆気を抜いてるんだね」

「どういうこと?」

「ほら、あそこ」

「どれ?」

「あそこの歩いてる男の人。頭に角生えてる」


 海瑠は浬へ向けて、そこらを歩いている男性を指差した。が、これが分かるのは海瑠だけである。煌士でもわからないだろう。


「ごめん、わかんない」

「最近海瑠、随分魔眼に慣れてきたね」

「あ、これ魔眼だから見えるんだ・・・」


 ヴィヴィアンの褒め言葉にこれが見えているのは自分だけなのだ、という事を海瑠が把握する。まだ覚醒こそしていないが、それでも魔眼は彼の確かな力になってくれていたようだ。こういう僅かな所から彼の力になってくれ始めていた。と、そんな海瑠はどこか感慨深げに驚きを露わにしていたが、ふと疑問になった。


「あ・・・そう言えば蘇芳さんとかは何時来るの?」

「ああ、それ? あっち全員仕事あるから、ギリギリの合流だって。それに、話しておく事も幾つかあるし」

「そっか・・・ちょっと残念」


 海瑠の話を聞いていた浬が残念さを滲ませる。とは言え、多忙は彼女も分かっていた。なにせ世界的なスターだ。会えるだけ幸運というものなのに、長く居れるわけがない。ということで、特に疑問も無かったようだ。


「で・・・一応言っておくけど、何か妙な事はしない事。さっき海瑠が見たのは天海家・・・お目付け役の人達だね。空也にとっては、お師匠様も居るのかも」

「え、お師匠様?」


 モルガンの言葉に海瑠が驚いた様子で目を見開いた。とは言え、これは別に驚く事ではない。彼は元々剣道部の部員――と言うよりエスカレータ式なので現在も部長――だ。とは言え、剣道部の顧問が全てを教えているわけがない。空也が語っていないだけで、実は剣道部の顧問以外にもきちんとお師匠様が居るのであった。


「うん、お師匠様・・・聞いた事なかった?」

「うん」


 海瑠は驚いた様子で頷いた。が、これは思い直せば当然である。そもそも剣の稽古を見ているランスロットは流派が違うので詳しい事は語れない、と明言していたのだ。

 そして我流ではないのなら、それは即ちどこかの流派に所属している事になる。であれば、お師匠様は居て然るべきなのであった。それが、この天海家という天道家の分家の一つなのである。


「ソラって子と同じお師匠様っぽいね。天道流剣術の師範代、だったかな」

「へー・・・って、ソラさんも?」

「うん。基本的に天道流って雑多・・・って言ったら怒られそうだけどそんな流派だからねー。剣道から薙刀、果ては徒手空拳まで全部取り扱ってるっぽいよ」


 海瑠の問いかけにモルガンが頷いて、更に説明をくれる。ここらモルガンも詳しくは知らないのでぽい、といい加減だった。勿論、カイトも知らない。と、そんな所にヴィヴィアンが一人の老齢の男性を指差した。


「っと・・・噂をすれば、なんとやらだよ」

「あれは?」

「天道家のお目付け役、天海家の長だよ。彼がご当主。今回の警備担当、っていう所かな」


 ヴィヴィアンの指し示す先を歩いていたのは、およそ60代という所の男性だ。が、決してその肉体には衰えが見えず、足取りもしっかりとしていた。確かに、武術をやっていそうな感じだった。


「強いの?」

「結構、って所かな。今の海瑠以上、空也程度って所」

「強いか弱いかよくわかんないんだけど」


 浬はヴィヴィアンの明言に首を傾げる。空也は一応、彼女らの中では最も身体性能が高い。故にその程度と言われても自分達よりは強いのだろう、という程度でどの程度かという比較対象がわからなかった。が、そんな浬の問いかけにヴィヴィアンは少し困った様子を見せる。


「うーん・・・魔物と戦ってれば、どの程度か分かるんだけどなー・・・」

「良くも悪くも、実戦経験足んないからねー」

「今度一度、カイトに頼んでどこかの森に置き去りにしてもらう?」

「「え゛」」

「あー・・・それ、一度ぐらいやっといた方が良いかもねー」

「「えぇ゛!?」」


 ヴィヴィアンの提案に応じたモルガンの返答に、浬と海瑠の二人は大いに慌てふためいた。森に置き去りにされて生き残れる未来は全く見えなかった。というより、そんなのごめんである。というわけで、浬が大慌てで拒絶する。


「嫌に決まってるでしょ! なんでそんなのしなきゃなんないのよ!」

「でも一度ぐらいは楽しいかもよ、森篭り」

「ご飯とかは!?」

「ぜーんぶ、自分で取って食べるの。意外と簡単だよ?・・・毒とか当たる可能性もあるけど」

「カイトもよく毒キノコとか食べちゃった、とか言ってたね。あれは死にそうになった、とか言ってたっけ」

「いやぁあああああ!」


 相変わらずヴィヴィアンののほほんとしながらもとんでもない暴露とモルガンのどこか茶化す様に楽しげな笑顔での言葉に、浬が悲鳴を上げる。あの料理万能な兄――と言っても当時は違うが――が、死にかけたのである。絶対に嫌だった。


「あははは・・・まさか、本気じゃないよね?」


 そんな浬に笑っていた海瑠であるが、ふと目を瞬かせて素面で問いかける。彼はこれは単なる冗談だと思っていたようだ。が、そんなわけがなかった。だから、ここまで浬も慌てふためいていたのである。


「「え? 本気だよ?」」

「え゛」


 妖精二人からの同時の明言に、海瑠も流石に顔を青ざめさせる。サバイバルも確かに強くなる事に繋がるかもしれないが、それは直接的な強さとはまた違うだろう。そして如何に海瑠でもサバイバルは怖い事が多そうなので遠慮したいのであった。


「それにさー、浬もちょっと料理覚えとくべきだと思うのよ。お母さん、心配だよ」

「あんた私のお母さんじゃないから。気にしなくて良いから」

「大丈夫大丈夫。3日もすれば慣れるから」


 うずくまり耳をふさぐ浬に対して、モルガンが楽しげにそう明言する。基本的に彼女らは森で生きる存在なので、サバイバルに何の苦もない。いざとなれば虫も食べられる。いや、逆にこれはカイトが駄目なので決して食卓には上がらないが。と、そんな浬に対して、ヴィヴィアンがいつもの笑顔で発言する。


「大丈夫だよ。狩りの仕方は私が教えてあげるし。意外と簡単だよ?」

「教えて要りません。永遠に使いません」

「簡単なのに・・・浬だとこう、剣でぐさー、って刺して炎ごー、って程度で大丈夫だよ。食べられれば良いからね」

「その前に血抜きとか教えとこうよ。血抜きしないと面倒な事多いよ?」

「あ、それもそうだね。内臓の処理とかも必要だし。基本的に心臓を上の方に置いて喉近くをずばー、って切って・・・あ、血抜きは出来れば心臓が動いている内にやった方が良いよ。後内臓とか取り出す時は・・・」

「いぃやぁあああああ!」


 唐突にヴィヴィアンにより笑顔で始められたスプラッターな会話に、浬が悲鳴を上げる。が、それらは全て結界に阻まれて、海瑠にのみ聞こえるだけで、残りは風に乗って消えていく事になるのだった。

お読み頂きありがとうございました。

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