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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第10章 異世界からのメッセージ編

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第194話 異なる世界へ送る為

 浬らがカイトから異世界からやって来たメッセージを聞いていた頃。スカサハらの検査を終えたメッセージボックスは然るべき所へ保存され、中身についてはマスター以外に各種の研究の為に多重のバックアップが取られた上でようやく天道財閥の手にも渡ってきていた。


「と、言うわけだ。とりあえず社長の考えでは、『強制宣誓文(ギアス・スクロール)』を使った上での箝口令を行いたい、という事だそうだ」

「はぁ・・・『強制宣誓文(ギアス・スクロール)』、ですか・・・」


 三柴の言葉に彩斗がなんとなくわかった様な分からない様な、という顔で頷いた。と、言うわけでそれにスカサハが教えてくれた。


「『強制宣誓文(ギアス・スクロール)』・・・自分で自分に対して契約を行う事で、自分の行動を制限する為の物だな」

「・・・何故そんなものが?」

「ははは。意外と使い途は多いぞ。確かに書面に書き起こし文章化した正式な『強制宣誓文(ギアス・スクロール)』ではその条件を終わらせぬ限り効果は半永久的に続く事になるが、これを簡略化した簡易ギアスという物は効力が長くとも一週間程度という。軍事で見れば捕虜交換や交渉等で一時的にお互いがお互いを攻撃しない、という取り決めを交わせるぞ」


 何故そんなものが必要なのだ、と理解が出来なかった彩斗に対して、スカサハは軍事の面からその必要性を語る。やはりこういう自分の行動を制限する類の物を使うので一番多いのは戦闘面らしい。戦士でない彩斗が気付かなかったのも無理はない。


「『誓約(ゲッシュ)』と似たような所ですか?」

「ふむ・・・そう言う意味で言えば儂らが使う『誓約(ゲッシュ)』もその亜種と言って良い。とは言え、あれはどちらかと言うと破った場合のデメリットも記しているから、どちらかと言えば『代償呪法(サクリファイス)』に近い。ある行動を破らぬ対価にさらなる力を、というわけだな」

「ふむ・・・」


 彩斗はスカサハの言葉をとりあえず己の頭で噛み砕いてみる。魔術では何らかの対価を支払って効果を増大させる、とはよく聞く話だろう。スカサハの述べた後者(サクリファイス)はそちらに近い。

 それに対して前者、『強制宣誓文(ギアス・スクロール)』等の自己の行動を制限する物は自己の行動を制限する以外には何の効力もない。

 が、その代わりとして途轍もなく強力な力を行使しなければ決して破れないようになっている。技術にしても専用の用紙に名前を書き込むだけで良いという手軽さもある。今回使おうと思ったのも道理だ。

 表向きは箝口令に同意しているだけで、その実態としては自分で自分の動きを縛らせる事になっていたのである。どうにせよ何を言われようと、箝口令に同意する書類にサインしたのだから、と押し通せる。


「なるほど。大凡は理解出来ました。それで自分じゃ破れない、って所を利用して情報の流出を避けよう、と言うわけですか」

「そういうことだそうだ。この情報の露呈を各所の大御所達が非常に気にされていてな」


 三柴はざっと少し前まで行われていた会議のあらましを語る。彼はあの会議に参加はしていなかったが、この部を実質的に統括する者として概要は聞く立場だ。故に知っていたのであった。


「と、言う感じでなぁ・・・」

「なるほど・・・嫌な話や・・・」


 大御所達が危惧する内容は彩斗も三柴もわからないでもない。それ故、それもまた仕方がなかったのだろうと思う事にしておく。どちらにせよ結果は既に出て、こちらからメッセージを送り返して良いと言う事になったのだ。なら、それに向けて動くだけ、というわけである。


「とは言え・・・まぁ、既に結論は出ている。故にスカサハさんにも知らせておこう、と」

「ふむ。まぁ、儂はバカ弟子二号がほっといても午後にでも来るので別に回さんでも良いが・・・そういうことであれば製造に協力してくれ、というわけか」

「はい。社長からは、そのように」


 スカサハの見立てを三柴も認める。基本的な話としては、そういうことらしい。流石に一週間しか時間が無いのにちんたら一枚一枚作ってはいられない。既に時間は二日目に入っている。早速準備には取り掛からねばならないが、今回はあまりに急すぎて色々と準備は整っていない。彼女らの支援が欲しい、というのは当然の事だった。


「まぁ、良かろう。別にあの程度の物なら素材さえあれば儂がちょいと杖を振るえば終わる話よ。その材料にしても、現代ではさほど入手に苦労する物ではない」

「ありがとうございます。一両日中には整えさせますので、リストアップをお願いできますか?」

「わかった。これとその部下を借りるぞ」


 スカサハは三柴の申し出に頭の中で必要な素材をリストアップしながら、三柴に彩斗の借り出しを頼んでおく。残念ながら彼女はパソコンが使えないのだ。

 リストアップ出来ても手書きになり、そうなると彼女らの使う古代の文字となり今度は日本人には読めなくなる。筆談に近い形で彩斗がスカサハから必要な素材と道具を聞いて書面にリストアップして、その他の面子がその詳細を調べるというわけであった。

 なお、パソコンが使えないのはスカサハだけではなく、実はフィンやフェルグスらもそうだった。使えるのはクー・フーリンだけだ。一千年閉じこもっていた『影の国』にパソコンは無いのだからそれが普通である。


「はい・・・天音。それが終わり次第、スカサハさんを車で送っていけ。お前はそのまま直帰で構わん。車は明日、スカサハさんを連れてくる時に使え。ああ、後この事はきちんと綾音ちゃんに言っとけ」

「はい、ありがとうございます」


 三柴の言葉に彩斗が頭を下げる。どうやら、本決定という事で一部の情報については可能な分は家族に話して良い事になったのだろう。

 と言うより、そうしなければ家族を連れてビデオメッセージを見る際に説明が面倒になる。有無を言わさず連れていくわけにもいかないのだから、仕方がない。


「うむ・・・では、付いてこい」

「はい」


 話が終わったのを見てスカサハが彩斗へと告げる。そうして、彩斗はその日の半分を程をスカサハの補佐とその必要な素材の詳細を調べるのに費やす事になり、いつもより少し早目に帰宅する事になるのだった。




 それから、しばらく。彩斗がスカサハを送り届けて自宅に帰ってきたのは、およそ15時という所だった。流石にこの時間だと浬らもまだ帰ってくる見込みは一切無く、家には綾音だけのはずだった。はずだったが、そうではなかった。


「ただいまー」

「お帰りなさいーい!」

「ん?」


 綾音の声を聞きながら、彩斗は玄関口に一足見知らぬ靴がある事に気づく。体躯は中学生程度の綾音のサイズではなく、また拵えも彼女の趣味でも無かった。ということは、客人が居るというわけだ。が、この靴のデザインから大凡彼も誰が来ていたかわかっていた。


「お邪魔しています」

「なんや、光里ちゃんが来とったんか」

「ごめんなさい。ちょっと、またやっちゃった・・・」


 光里が照れくさそうに彩斗に対して言外に事情を語る。どうやら、昨夜作業に熱中し過ぎていたらしい。気付けば朝方で流石にこれは、ということで綾音に頼んでカイトの部屋を貸してもらって寝ていたそうだ。なので今丁度、朝ごはんというか遅めの昼ごはんというかを食べていた所であった。


「あははは。そか。まー、あいつおらんしええんちゃう」


 彩斗からしてみれば光里は年の離れた妹か娘にも近い。故に彼女が芸術家にありがちな熱中し始めるとどこまでもやってしまう類の性格である事はよく知っている。

 そしてカイトと彼女が親しい事もわかっている。なので彼女に限って言えば、もしカイトの部屋で住んでも別に気にもならなかった。と、そうして一頻り笑って綾音に大切な事を告げようと思い、そこでふと気付いた。


「っと、そや。そういやそれならそれで丁度ええんか」

「どうしたの?」

「ああ、いや・・・ちょっと灯里ちゃんの事掴んでな。いや、灯里ちゃんってか天桜の事やねんけど」

「また、何か分かったの?」


 光里の問いかけに答える形で答えた彩斗に綾音が興味を見せる。


「ああ・・・どうにも、向こうからメッセージボックスが送られて来おったわ」

「は?」

「え?」


 まさかの情報に二人が大きく目を見開いた。綾音は兎も角光里については異世界の事は何も知らないのだ。


「なんや頑張っとるみたいや。詳しい事は、相変わらずわからんけどなぁ・・・」


 彩斗はどこか朗らかな様子で息子のある意味での成長を喜んでいた。


「頑張っとるみたいでなぁ・・・まさかこっちより前に向こうから連絡取ってきおるとは思うとらんかったわ。丁度、昨日届いたばっかでな。社長が総理やらと徹夜で会議しとって、それを俺らも見れるようになんとかしてくれはったらしいわ・・・つっても、こっから検閲だの何だのやらなあかんらしくて、まだ見れるわけやないんやそうやけど」


 彩斗は少し嬉しそうに現状を語る。一応、これから陰陽師達やらにも協力を依頼して夜を徹して準備が進められ、二日後には全ての用意が整う事になるそうだ。それでも正味で残されている時間は非常に短いが、メッセージを作るにはなんとか間に合う時間だった。と、そんな彩斗に綾音が問いかける。


「じゃあ、元気なの?」

「元気元気。おかげでこっちでトラブルになりかねんかった程に元気やわ」


 彩斗はカイトの事について、楽しげに言及しておく。これについては元気であってくれているので彼としても喜ばしい所だった。


「でや。近々浬と海瑠連れて天道家行くかもしれん、って話らしいわ」

「そっか・・・うん、分かった。予定空けとくね」


 息子が遠い世界から無事を報せるメッセージを送ってきたのだ。どれほど困難だったのかは、彼女にはわからない。わからないが、とりあえずそんな困難を越えても無事ではあった。であれば、今はそれに満足して見れる時を楽しみにしておくだけだ。


「まぁ、そういうわけやから。光里ちゃんもおそらく三柴さんからそういう話が行くと思うわ。そんときゃ、灯里ちゃんの状態きちんと見とき」

「そう・・・ありがとう」


 そう言う話なのか、と光里も大凡を理解して頷いた。とりあえず彼女には自分の姉がくたばるとはどう転んでも思えなかった。というわけで不安視はしていなかったが、やはり無事だとわかったのは喜ばしい事だった。


「ま、後は浬らが帰ってきた後やなぁ・・・」


 とりあえず、彩斗はそうつぶやいた。とりあえず今はまだ色々とやる事が多い。明日からしばらくは彼も大忙しになる予定だった。というわけで彩斗はそれに備えるべく、今日は一日ゆっくりと休む事にするのだった。




 一方、その頃。遠くのイギリスではエリナの父・アレクセイがエリナからの報告を受けて御影からの電話を取り次いでいた。


「なるほど・・・わかった。それについては女王陛下と国王陛下にも上奏しておくよ」

『ああ・・・では、かたじけない』

「いや・・・どちらにせよ、良かったのかもしれないね」


 アレクセイは半分笑う様な、半分呆れる様な顔で御影との話し合いの結論を述べる。そうして、更に二言三言の雑談の後、通話を切った。が、溢れたのはため息だった。


「・・・はぁ」

「旦那様。よろしかったのですか?」

「うん?」


 老齢の執事の問いかけにため息を吐いたアレクセイが僅かに顔を上げる。この男性は祖父の代からフィルマ家に仕えてくれている彼が最も信頼する執事の一人だ。所謂、執事長と言っても良いかもしれない。元々は父の側付きだったのだが、代替わりに伴ってアレクセイを主としていたのであった。


「いえ・・・ギルバート坊ちゃんの許嫁の関係の解消、という話でしたが・・・」

「ああ、それか・・・」


 アレクセイは先程の話を思い出す。御影側からの申し出により、先ごろ彼の長男でありエリナの弟であるギルバートという少年と御影の長女の許嫁の関係を解消したのであった。


「従兄弟同士の結婚というわけだったんだが・・・現状、日本と我が国は類を見ない程に良好な関係だ。取り立てて必要な程というわけではないさ」

「それにエリナお嬢様の件もある、と?」

「それなんだよねぇ・・・」


 アレクセイは頭を抱える。そこが彼の頭になかったわけではない。何故ここまで見事に彼女に幸運が降りかかるのか。もうよくわからない状態だった。


「流石に我が家としても日本に過剰に取り入る事になるからギルの件もありエリナは諦めさせようと思っていたんだけども・・・どーしてこうなるかなぁ・・・」


 アレクセイは自分の親しい執事しかいないからだろう。まだ若かりし頃の口調で嘆きを滲ませる。これで、ギルバートの方がフリーになった。逆にエリナは日本に輿入れする事に障害が一つ無くなったのである。


「はぁ・・・フィルマの娘のジンクス、か。知ってたはずなんだが・・・」


 アレクセイはため息混じりに、娘にどう告げようか悩み始める。ギルバートが許嫁を解消した、という話は身内の話だ。故にエリナにも伝える必要があった。


「とりあえず、お嬢様のご予定の確認をしてまいります」

「一緒に考えてくれよ」

「ご自分で、お考えなさりますよう」


 アレクセイの懇願に老執事は楽しげに笑って頭を下げる。そうして、後に残されたアレクセイは一人頭を悩ませて、翌日の日本ではごきげんなエリナの姿が見受けられたという。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日の21時投稿です。


 2018年2月12日 追記

・誤字修正

 『エリナの弟』が『エリナの妹』になっていた所を修正しました。

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