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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第10章 異世界からのメッセージ編

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第174話 色々な日常

 さて、『影の国』の女王スカサハが気ままな散歩を繰り広げていた一方その頃。浬達はというと、普通に授業に出ていた。


「と、なるわけです。この場合、ここではこの単語がその前の・・・」


 教壇に立ったランスロットが英語の文法について説明を行う。御門は歴史であるが、ランスロットは普通に英語を教えていた。フランス系ではあったが、元々はイギリス人だ。なので普通に学校側も疑わなかったようだ。で、その一方の浬――と鳴海――はというと、気味の悪い笑顔を浮かべていた。


「嘘だ・・・こんな簡単なんて・・・分かるわ・・・スラスラと頭に入ってくる・・・」

「あ、あははは・・・」


 あまりに気味の悪い笑みの浬に、思わずヴィヴィアンが半笑いで少しだけ距離を取る。なお、あまりに気味が悪い笑顔だった為、二人――勿論鳴海も似た様な顔――の周囲に結界を展開して外からは見られない様にしておいた。


「そっか・・・勉強ってこんなに楽しかったんだ・・・」


 浬が気味悪い笑顔でそう呟いた。まぁ、分かるからこそ、そして簡単に記憶出来るからこそ楽しいのだ。数ヶ月前の彼女であれば、放課後どうしようかな、と考えていてもおかしくはない。


「「うふふふふ・・・」」


 気味悪い笑い声が、誰に気付かれる事もなく教室に響く。二人共声を上げている事さえ気付いていないだろう。気付いているのは、ランスロットただ一人である。と、その一方の海瑠はというと、こちらは御門の授業を受けていた。


「というわけで、今川の敗北からここに繋がるわけだ。これは今では清洲同盟等と言うわけだがその際に後の征夷大将軍であり江戸時代を築いたとされる徳川家康、当時で言う所の松平元康と同盟を結んだ相手。誰か分かるやつは居るか?」


 御門が問いかける。清洲同盟というのは戦国時代に結ばれた一種の同盟の事だ。どうやら丁度そこらを取り扱った授業をしていたのだろう。


(清洲同盟・・・そう言えばどこかに書いてあったっけ・・・)


 御門の言葉を聞きながら、海瑠は教科書の内容を見直す。ここら、姉とは違い真面目な彼である。きちんと授業を受けていた。と、そんな姿が見られていたからだろう。御門が海瑠を指名する。


「おし。じゃあ、天音」

「え、あ、はい・・・えっと、織田信長です」

「そうだな。それ故、清洲同盟は織徳(しょくとく)同盟等とも言われるわけだ。ちなみに、第六天魔王を自称し怖い奴ってイメージのデカい織田信長だが、実は自分から同盟相手を裏切った事はないのはマメな。おまけに身内には超甘い奴だったんで、松永久秀のように数回裏切っても謝れば許していたりする。とまぁ、ここらはおまけでテストに出すとして、徳川家康はこの時の同盟は織田信長が本能寺の変で倒れるまで切る事はなく、征夷大将軍となった折にもそのことを喧伝している」


 御門は基本的にここらの事は実際に見てきているわけで、どこか実感が篭っていたりしていた。それ故かその語り口には妙に引き込む力の様な物があり、彼の授業はかなりの人気があった。勿論、それ故に誰もがしっかりと聞いているわけで、テストの成績にもそれは現れている。


「さて、話を桶狭間の戦いに戻すと、そこで同盟を結んだ織田信長は・・・」


 御門の歴史の授業を聞きながら、海瑠は真面目にノートを取る。実は記憶を保管する魔術と言ってもそこまで便利なものではなく、こういったノートの類があるとなお良いのだ。

 あくまでもこの魔術は記憶が失われない様にする為のもので、それを即座に取り出せるわけではない。故にこういう補助の為のツールはあればあるほど良いのである。

 勿論、そう言う感じなのでテストに関して言えば抜群の相性があると言える。問題そのものが記憶を呼び起こす手伝いをするからだ。


「へー・・・ここら、日本ではそういうことがあったんだー」

「モルガンは知らないの?」

「私、基本あの頃はイギリスだからねー。その頃のヨーロッパの事なら詳しいよ?」


 モルガンは海瑠のノートを見ながらしきりに頷いていた。当たり前だが日本史を義務教育で学ぶのは日本だけだ。イギリス人である彼女が知らないのは当然である。長生きしていようとしっているはずがないのであった。


「この100年前とかは特にジャンヌ・ダルクとかの事件があったから結構動いてたけどね。それが終わった頃だから・・・大航海時代も末期かなー」

『おい、今は日本史の時間だぞ。勝手に世界史教えてるな』


 御門が念話でモルガンへと僅かに苦笑混じりの注意を飛ばしておく。一応彼も海瑠が記憶を補完している事は知っているが、それとこれとは話が違う。


「ああ、ごめんごめん・・・じゃあ、日本史に関係のある事を一つ」

「うん」

「さっきの織田信長の生まれ変わりが、カイトだよ」

「・・・へ?」


 まさかの暴露に海瑠が目を見開く。そしてそれを補足する様に、御門が教えてくれた。


『らしいな。まぁ、あんまり言わないが実際にその記憶も持ち合わせているから確かなんだろ』

「え、えぇー・・・」

『あはは。でも似てないか?』

「え?」


 御門から問われて、少しだけ彼が語った織田信長という人物を思い起こす。そしてそれに沿う様に、モルガンが織田信長の特徴を口にする。


「自分からは絶対に裏切らず、身内にゲキアマ。そのくせ好き勝手やって周囲を散々振り回す。で、ブチ切れると何やるかわかんない・・・ね?」

「う、うわぁ・・・」


 おそらく今聞けば兄だろうな、と思う事に海瑠が気づいた。どう考えても超甘い。織田信長もカイトに負けず劣らずでゲキアマである。

 それを、戦国時代という乱世の時代にやっていたのだ。ある意味では物凄いという一言しか出せなかった。なお、一方のカイトであるが、彼の甘さは異世界の大戦期を経ての物なので彼のみは人のことを言える立場ではない。


『ま、所詮こんなものは奴の前世。今のあいつとは殆ど関係ない。お前の兄はお前の兄。織田信長は織田信長だ。そして当然、海瑠。前世はお前にもあるものだ。だからお前も普通に前世ではまた別の誰かだったわけだし、こういう有名人であった可能性もある』

「へー・・・」


 そうなんだ、と海瑠が感心した様に目を見開いて深く頷いた。そう考えると、歴史もまた違った感慨があった。そうして、そんな海瑠は再び授業に集中する事にするのだった。




 さて、その放課後。浬らはいつも通り隠れ家に顔を出すべく一度自宅に戻る事にしているわけであるが、浬はそこで一人の女性に出会う事になった。

 その女性は黒っぽい系統の衣服を身に纏い、艶やかな長い黒髪をたなびかせていた。顔立ちは少し暗い印象があるものの、美女と言って良い顔立ちだろう。良く言えばミステリアス、悪く言えば少し暗い。そんな印象のある女性だった。


「あ、光里さん」

「あら、浬」


 出会ったのは三柴のもう一人の娘である三柴 光里(みしば ひかり)という女性だ。姉が高校教師であるのに対して、こちらはまだ大学生という所である。正確には天桜学園の大学部において芸術科に在籍しているらしい。専攻は絵画で、幾つかのコンクールにも入賞している程の腕前だった。

 そして当然、三柴の娘なので天音兄妹とは知り合いである。彼らからしてみればある意味もう一人の姉役と言えるのが、彼女だった。というわけで、普通に会えば会話もする。


「今学校からの帰り?」

「うん。光里さんは?」

「・・・これ」


 光里は少し恥ずかしげに、近所のスーパーで販売されているエコバッグを掲げる。重量と時刻から言って、中身は食べ物だと思われた。


「ああ、夕食のお買い物?」

「まぁ、そうでもあるけど・・・違うわ・・・また、やっちゃったらしいの」


 光里は少し恥ずかしげに視線を泳がせる。また、という時点で浬も大凡を理解して少し仕方がない、という感じで笑っていた。


「また?」

「うん、また・・・気付いたらこの時間だったのよ」

「お兄ちゃんいないと駄目っぽいね、光里さん・・・」

「そうなのよ・・・」


 ずーん、と落ち込んだ様子で光里が深い溜息を吐いた。勿論、カイトも彼女と知り合いなのであるが、姉の灯里とは違いこちらにとってカイトは主夫の様な扱いと言える。

 芸術家志望でありその才能も贔屓目なしで有している光里なのであるが、それ故にそういった芸術家にありがちな一度集中すると周りが見えなくなる性質を持ち合わせているらしい。何気にお節介なカイトが私生活の面でフォローをしていたのであった。その彼が居なくなると、必然こうなるのである。


「一応、気にしてはいるけど・・・」

「はぁ・・・お母さんにちょっと頼んでみよっか?」

「・・・お願いしていいかしら。ちょっとまたコンクール近くて・・・」


 恥ずかしげに光里が申し出る。やはり芸術家という職業柄、どこかから支援を貰うにしてもなんらかの他者評価は必要不可欠だ。そうなると今回の様に寝食を忘れて、という事はよくある事なのである。そこをカイトが補佐してくれていたのであるが、というわけであった。


「うん、わかった。言っとくよ」

「ありがとう。とりあえず私は御飯食べてくるわ」

「あはは・・・」


 去っていく光里の背を見ながら、浬は家へと入る。そうしてとりあえず、綾音へと話を通しておく事にした。


「あー・・・光里ちゃんらしいねー。うん、わかった。一応気にかけておくね」

「あはは。らしいっちゃあ、らしいけどね」

「あはは」


 母娘は二人揃って笑い合う。こういうことは良くある事だ。そして芸術家らしいと言えば、らしいとも言える。品行方正かつ規則正しい芸術家というのもいまいち想像し難い。ということで、それを知っている以上は笑って補佐してやるだけである。


「じゃあ、私部屋で勉強してくるね。御飯になったら呼んでー」

「うんー・・・って、そうだ。浬ちゃん」

「ん?」


 綾音に呼び止められた浬がその場で立ち止まる。


「塾とか通わなくて大丈夫? なんだったら家庭教師とかもあるけど・・・」

「ああ、うん。大丈夫! 今、ものすっごい自信ある! なんでも来いよ!」

「そ、そう・・・? なら、良いんだけど・・・」


 見たことも無い程の自信を見て、綾音は僅かに腰が引けた様子で頷いた。なお、この少し後に受けた実力テストでしっかりと結果として現れる――現れねば可怪しいが――ので、決して根拠のない自信ではない。


「じゃ、じゃあ頑張って」

「うん!」


 本当にウキウキ気分とでも言わんばかりの様子で階段を登っていく。とりあえずこの数週間さえ乗り切れば、当分学業は免除されたも同然なのだ。

 というわけで、彼女らはその力を最大限応用する為、今日も今日とてジャージを着用の上で隠れ家の時間の狂った空間へと入って勉強を開始する。


「・・・なんでしょうか・・・妙に何とも言い難い気分に囚われるのは」

「わからんでもないが・・・」


 アテネとフェルが見据える先には、女子中学生三人衆が勉強をしていた。その姿は真剣そのもので、教師達が見ても満足出来る程の集中っぷりである。が、その理由も魔術という餌があっての話だ。なんともやるせないといえば、やるせない話である。


「まぁ、勉強に精を出す分だけ、良しとしておけ。これもまた勉強ではある」

「うーん・・・軍用として重要な魔術でもあるので使うな、とも言い難いのが難点・・・」


 アテネはこれはズルと言うべきなのかそれとも応用と言うべきなのか判断しかね、複雑な表情だった。正々堂々という意味であれば確かにこれはズルであるが、軍務や仕事に関して忘れてはならない事を確実に記憶する為に作られたのが、この魔術の本来の用途だ。

 なので勉強に使うというのは確かに正しい使用法であり、開発目的に沿った用途でもある。そこらはアテネの生来の生真面目さ等が影響しての事だと言って良いだろう。


「・・・まぁ、真面目にやっているので多少は良しとしておくことにしましょう」


 結局、アテネも自分が折れる事にしたようだ。確かにズルではあるが、勉強をしていることはしている。そこについてはアテネも認める事である。ならば再度勉強をやる手間を省くだけ、と考える事にしたようだ。そうして、そんな彼女らに見守られながら、浬達は訓練を片手間に勉強の日々を過ごす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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