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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第9章 空也の刀探し編

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第165話 天下五剣

 己に合う刀を求めて<<鬼丸国綱(おにまるくにつな)>>の付喪神の鬼丸が経営する鬼丸商店を訪れていた空也は、鬼丸と店番として雇われている<<小狐丸(こぎつねまる)>>の付喪神である小狐丸へと事情を語っていた。


「なるほど・・・大精霊。拙は聞いたことが無い」

「あ、僕は一応宇迦之御魂神様より幾度かそういう存在が居ると聞いた事が」


 鬼丸はどうやら知らなかったらしいが、小狐丸は神界に居た事で祭神である宇迦之御魂神より聞かされた事があったらしい。そしてであれば、鬼丸も空也の語った内容に嘘はないと判断した。


「なるほどのう・・・ということは、たしかにそれで良かろうな。どうせによ拙の渡した刀は村正の数打ち。あれの武器庫から一つくすねただけの品であるからな・・・」


 鬼丸は納得した様に頷いていた。そもそも村正の刀を空也に渡したのは、カイトが村正の鍛冶師である蘇芳翁と繋がっているからだ。メンテナンスは容易だろうと言う考えだった。適性なぞ見ていないのである。見れるはずもなかった、という事も大きい。


「にしても難しい注文をしおるわ、小僧も」


 鬼丸は楽しげに笑う。そうして、彼は空也の望みを口にした。


「おんしが使える物で、なおかつ大精霊程の存在の力に耐えられる刀。それでいて、妖刀ではない。かかか! 物凄い困難な品よ!」

「すいません・・・」


 大笑いする鬼丸に対して、空也が申し訳なさそうに謝罪する。これもひとえに、彼の未熟さ故だ。それ以外に言いようがない。


「うむ・・・にしても、残念よ」

「? 何がですか?」

「うむ。どうやら良縁とは行かなんだようだ」


 鬼丸は笑いながら残念そうに首を振る。が、一方の空也は何がなんだかさっぱりだ。そうして、そんな空也に鬼丸が見立てを語った。


「拙はなぁ・・・うむ、おんしが拙の持ち手になると思った。後5年。それほどちょっかいを定期的に出しておけば、おんしは目を見張る様な剣士となったろうな。が、拙は子守は嫌いよ。今のうぬでは決して拙は扱えん」


 本当に残念そうに鬼丸が語る。どうやらちょっかいを掛けに来たのはそういう事情だったのだろう。剣士として、何か光る物を感じていたらしい。


「そう・・・なのですか?」

「うむ。拙も刀よ。どうしても優れた剣士に使ってもらいたいという思いはある。故に剣士として放浪し、優れた剣士剣客を探しておった。拙という天下五剣<<鬼丸国綱(おにまるくにつな)>>を使うに相応しい優れた剣士を。そう言う意味で言えば、おんしは非常に良い筋を持っていた。日の丸を背負う覚悟は十分ではあった」

「は、はぁ・・・ありがとうございます」


 鬼丸の絶賛に空也は恥ずかしげに礼を言うしかない。実感は無いらしい。それに、鬼丸は苦笑していた。


「阿呆。わからんか?」

「ええ・・・上を見ていましたから・・・」

「かかかかか! これは阿呆も良い所よ。おんし、自分が日本で最優を手にしておると忘れたか」

「それはあくまでも中学生という意味です。まだまだ上には素晴らしい方が山ほどいらっしゃいます」

「はぁ・・・謙遜と取るか嫌味と取るか、微妙な所よ」


 鬼丸は空也の謙遜に呆れ返る。少なくとも、彼は同年代においては敵なしと言える実力者だ。勿論これは表の世界だけという意味であるが、それでも十分にすごいのだ。

 剣道という意味であれば、全世界を見ても有数の才能を有しているだろう。剣道と剣術は確かに別だが、決して剣道が剣術に活かせないわけではない。魔力とは意思の力。である以上、研ぎ澄まされた精神で使われる魔力は優れていると見做せる。決して剣道だからとバカには出来ないのだ。そこらが理解出来るには、まだまだ空也は幼く、そしてこの世界に関わって短い。仕方がなかったのだろう。


「おんしは十分に優れた剣客となる将来性を有している。それは拙が保証しよう」

「はぁ・・・」

「まぁ、称賛は素直に受け入れておけ。っと、ズレたな。敢えて言えば拙で十分におんしの望みはかなえられるが、拙はおんしの獲物となってやるつもりは毛頭ない。先にも言うたが、子守は好まん。未熟者に手を貸してやる程、お人好しではない」


 鬼丸はしっかりと空也への助力を拒絶する。どうやら、彼は条件に合致する刀の様だがその刀の側が嫌らしい。そして空也では鬼丸を強引に従わせられる程の力はない。これでは無理だろう。


「ふぅむ・・・とは言え、ここですげなく切って捨てるというのも面白くはない・・・さて、誰がおったか・・・」


 鬼丸は一人、頭を悩ませる。彼は一応色々と顔が聞く。そして刀花の紹介だというのだ。切って捨てるのは些か憚られたようだ。


「<<姫鶴一文字(ひめつるいちもんじ)>>は・・・頭の固い謙信が持っているし、<<和泉守兼定(いずみのかみかねさだ)>>は・・・こちらはあの小僧が相変わらずか。<<大典太光世(おおでんたみつよ)>>はあの娘の佩刀、と・・・」


 鬼丸が言う刀は、大半が剣士であれば一度は耳にした名前だった。どうやら空也の望みを叶えるのであればそこらの有名な刀でないと無理らしい。


「小狐。菊一文字はどこへ行ったかの?」

「お菊殿ですか? お菊殿は幕末以降土方殿のお側だったはずです。沖田殿の思いを汲み、死にきれぬ土方殿の行く末を見定める、と」

「ふぅむ・・・それなら土方に言うてみて、<<菊一文字則宗きくいちもんじのりむね>>がまぁ、良い塩梅やもしれんなぁ・・・」

「き、菊一文字・・・」


 空也は出てきた名前に思わず頬を引きつらせる。それは有名な持ち主であれば、かの新撰組一番隊隊長沖田総司だ。これは伝説ではないか、と言われるが一番有名なのは彼だろう。

 この様子では真実だったという事なのだろう。そうして一通り有名と言われる名を上げていた彼だが、ふと何かを思い出したかの様に目を見開いた。


「後は・・・おぉ、良いのがおるではないか!」


 どうやら、適任者が見つかったらしい。空也は鬼丸の顔からそれを察すると、背筋を伸ばした。と、そんな空也に対して、鬼丸が問いかける。


「天下五剣・・・それは知っておるな? かつておんしの参加した博物館での展覧会で見ておるはずだ」

「はい・・・<<大典太光世(おおでんたみつよ)>>、<<数珠丸恒次(じゅずまるつねつぐ)>>、<<三日月宗近(みかずきむねちか)>>、<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>、そして貴方<<鬼丸国綱(おにまるくにつな)>>。その5振りの刀の事ですね」

「その通りよ。我ら5振りの刀をして、天下五剣と称する」


 空也の羅列を聞いて鬼丸が頷いた。これら天下五剣という言い方は明治時代頃から言われた言い方だが、少なくとも古来よりこの5つが優れていたというのは事実だ。


「ですが博物館や美術館にあるものは全てレプリカ、と伺っています」

「うむ・・・この内、拙が居場所を把握しているのは・・・実は全て知っておる」

「そうなのですか?」

「カカカ! 当たり前よ。拙も天下五剣。知っていて不思議はない。一時期は全員がここに揃い、身を隠していた。今は拙が店主というだけで、初代店主は宗近の奴よ。あれが、店をやると言い出した言い出しっぺ故な。いや、それは良いな」


 一度笑って前には天下五剣全員が揃っていた事を明言した鬼丸であったが、すぐに気を取り直す。別にこんな事を言いたいが為に言ったわけではない。


「さて・・・先に美術館に収蔵されている天下五剣は全てレプリカ、と言うたが実は一つだけ間違いよ。実は一振りだけ、本物がレプリカと入れ替わって収蔵されておる。誰も知らぬはお笑いよ」

「そうなのですか?」

「あれは生真面目な男故な。危険が無くなればそそくさと戻っていきおったわ」


 鬼丸はそう言って笑う。この小狐丸と鬼丸を見れば分かるように、付喪神と言っても考え方は様々だ。彼の様に最早道具という概念を離れて勝手気ままに動いている様な者もいれば、小狐丸の様に主命にしたがって何らかの使いとして動いている者も居る。

 他にも<<大典太光世(おおでんたみつよ)>>のように、今の主を見付けてそこで道具として暮らしている者も居る。ここらは人間と同じく、多種多様な考え方を有していた。


「その名は・・・<<三日月宗近(みかづきむねちか)>>。拙ら天下五剣の抑え役にして、日本刀広しと言えども最も美しき刀とされた刀よ」

「・・・まさか、それが適任と?」

「それが一番と言える」


 顔を青ざめさせる空也に対して、鬼丸は笑って告げる。確かに空也の条件を聞いている限りでは、彼の求める品はおそらく有名な刀となるだろう。

 そしてそう言う意味であれば、これは最適な一振りと言えるのだろう。が、流石にその名に気後れする。天下五剣の一振りにして、今の形の日本刀においては最古の一振りとされる品だ。


「・・・いえ、出来ればその・・・もう少々落ち着いた所で良いのですが・・・」

「仕方があるまい。そもそもおんしが相手にしようとしている相手に、更には大精霊なぞという奇妙奇天烈な存在。それらを加味すればそこらの有象無象ではなく我ら日ノ本の誇りとなれる様な奴しか紹介は出来ん。と言うか、したくはないわ」


 空也の言葉に鬼丸は不満げに切って捨てる。というよりも、話を聞いた時点で彼の頭の中にはそこら国宝級や重要文化財クラスの刀しか頭になかった。相手は、世界でも有数の相手なのだ。日本の誇りを手にして行け、というのが素直な所だった。


「それならいっそ鬼丸が行けば良いではないですか」

「それは嫌よな。未熟者を育てるつもりは一切無い」


 小狐丸の苦言に鬼丸は今度は笑って切り捨てる。鬼丸とて天下五剣だ。それもかつては――正確には今もだが――御物であったのだ。十分に日本の誇りと言える。と、そんな彼だが、空也へとその人選の理由を告げた。


「と言うても、よ。今拙以外にここでおんしに使えそうな武器となると、そうはないのはわかろう?」

「まぁ、それは」

「であれば、よ。まず拙は除外するとして、大典太の奴はあの通り刀花の佩刀となっておるので除外。次に童子切の奴は頼光(らいこう)の側より離れんので除外。数珠丸についてはこれは少々理由がありおんしに持たせるわけにはいかぬ。この理由については聞かぬ方がよかろう。縁があれば、向こうより頼ってこような。となると、結果として美術館に戻っておるあれとなるしかないわけよ」


 そもそも天下五剣から離れてくれ、という空也の願いを無視して、鬼丸は他の4振りについて無理と告げる。なお、<<童子切安綱(どうじきりやすつな)>>の持ち主とされた頼光というのは、いわゆる『源 頼光(みなもとのよりみつ)』の事だ。

 鬼丸が頼光(らいこう)というのは有職読みをしただけで、時代として考えれば鬼丸の呼び方が正しい。なので他にも茨木童子もこの呼び方で呼んでいる。どうやら現在も存命で今も童子切を佩刀として持ち合わせているという事なのだろう。


「ですが・・・美術館ですか?」

「ああ、構わん構わん。あれが寄贈された際にレプリカとすり替えたのは拙よ。そのレプリカは今も蔵で眠っておる。それと入れ替えるだけに過ぎん」


 なんとか翻意を願おうとした空也であるが、鬼丸は気軽に笑うだけだ。どうやら、最早彼にはこれ以外に紹介するつもりは皆無らしい。というわけで、空也は助力を求める為にも横の二人へと視線を送った。


「えっと・・・」

「ん? どうしたの?」

「いえ・・・これで良いのか、と・・・」


 反応したモルガンに対して、意見を求める様に空也が問いかける。が、二人の反応としてはあっさりとした物だった。ということで、ヴィヴィアンが鬼丸へと問いかけた。


「鬼丸。彼に丁度よい品?」

「おぉおぉ、良い品だとも。おそらく初心者が使えてなおかつ剣豪になっても使える品であればあれ以上の品はこの日の本広しと言えども存在はすまい」

「じゃあ、これで決定で良いね。お金、必要無いよね」

「うむ。流石にレプリカと入れ替えるだけにも関わらず金を取っては宗近に怒られる。あれは怒るとうるさい。であれば、彼より今まで通り店に支援を貰うだけで良い」

「じゃあ、決定だね」


 ヴィヴィアンは笑って頷いた。どうやらこの鬼丸商店へはカイトからも資金提供されており、今後も資金提供をしてくれるのなら、という事で無料で仲介してくれるようだ。基本的にカイト達は見返りをほとんど求めない為、スポンサーへの恩返しの一つ、という所だろう。

 というわけで、そんなヴィヴィアンの反応を受けて、空也は更にモルガンへと視線を動かす。が、彼女の方は視線を向けられてびっくりしていた。


「・・・え? なんで私まで? 別に今ので決定で良いじゃん」

「え、えぇ?」


 珍しく空也が素っ頓狂な声を上げる。とは言え、それも仕方がない。天下五剣だ。それも<<三日月宗近(みかづきむねちか)>>だ。あっさりと許可を出される方が可怪しいのである。なので自分がもしかして可怪しいのか、と思った空也はおずおずと進言した。


「あの・・・天下五剣の<<三日月宗近(みかづきむねちか)>>、ですよね?」

「うん・・・だから? 所詮と言っちゃあ悪いけど、所詮武器じゃん」


 モルガンは一応鬼丸達が居る関係で気を遣いつつ、あっさりとだからどうしたのだ、と明言する。と、そこで両者の齟齬に気付いたようだ。納得した様に頷いていた。


「ああ、恐れ多いとかそういうの? そりゃ、私らそもそも・・・ねぇ?」

「まぁ、ねぇ?」


 モルガンとヴィヴィアンは二人して僅かに苦笑し合う。というのも、こちらは神話や伝説に属する者達だったからだ。


「そもそも私、モルドレッドが円卓入りする際に口利きしてあの子の祖父と言うかウチの義理の父にあたるウーサー・ペンドラゴンの佩刀だった<<儀礼の宝剣(クラレント)>>をプレゼントしてるし」

「私なんて<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>を使ってたし・・・他にも<<天鏡の聖剣(ガラティーン)>>に<<無謬の剣(アロンダイト)>>に、って大半持ってたし使ってたし」


 二人は笑いながらそもそも自分達からして神話や伝説の武器を使っていた事を明言する。というわけで、単に歴史的な武器だろうと彼女らからしてみると普通の武器と大差がないわけである。


「とまぁ、そういうわけよ。それに、拙についておそらく彼に言われただろう? 飾られているより、とな。それはあれも変わらぬよ。刀は剣士に振るわれてこその刀。そこに違いは無い」


 鬼丸が二人の言葉を引き継いで、かつてカイトが語ったと同じ事を語る。飾られているよりも、持ち手が現れればその下に居たいというのが、彼らの心情なのだ。そうして、更に鬼丸が続けた。


「それにもしおんしが恐れ多いと思うのであれば、それに足る男になれ。葵殿・・・確か名はカイトであったな? 彼であれば、喩え我らを全て所有したとて決して気後れもせんし見劣りもせぬ。目指すであれば、そうなるが良い」

「・・・はい」


 空也は半ば押し切られる様な形ではあったものの、鬼丸の言葉を道理と思ってしまった事もあって頷く事となる。であれば、これでこの話は終わりだった。


「うむ、良かろう。であればよ。今日の夜、さっそく忍び込む事にしよう」

「きょ、今日ですか?」

「何か拙いか?」

「いえ・・・」


 出来れば心の準備が欲しいのだが、と思うが善は急げという言葉は確かにそうだと思う。なので、空也はその日はそのまま帰らされる事となり、その日の夜に備える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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