第163話 刀を求めて
自らの力量不足と相性の悪さで武器を使用不能状態にしてしまった空也は刀花のアドバイスを受けて、かつて自分達に向けて襲撃というかちょっかいを出した<<鬼丸国綱>>の付喪神である鬼丸と会う様に助言される。
とは言え、それですぐに会いに行けるわけではない。アポイント等色々と必要だろう。というわけで、彼は一度隠れ家へ戻っていた。と、そんな彼を出迎えたのは偶然廊下に居た浬だった。
今日も今日とて全員訓練だ。が、それでも一日中というわけではなく、この様子だと今日分はすでに終わった様子だ。空也も朝一番はきちんと出て、刀花に会いに行っていたのである。
「あ、空也くん。お帰り」
「あ、浬さん。ええ、戻りました」
「あれ? 武器持ってってなかったっけ?」
「あはは・・・未熟者故、これ以上使うなと言われてしまいました」
空也は照れ気味に浬の質問に答えた。彼は出ていく際に野球のバットを入れるケースに刀を入れて持ち運んでおり、帰って来た時にはそれを持っていなかったのだ。それは浬とて気にもなるだろう。
「ああ、カイトさんは今は?」
「お兄ちゃん? ああ、お兄ちゃんなら普通にリビングでいつも通りモルガンちゃんとヴィヴィちゃんに毛づくろいされてる」
「あはは・・・ありがとうございます」
「ん。じゃね」
空也の礼を受けた浬はそのまま二階へと歩いていく。あちらには書斎があり、漫画類が大量に所蔵されていたのである。それを読んでくるのだろう。
基本的に訓練後は各自好きにして良い事になっているので、例えば浬の様に漫画を読む者も居れば、海瑠の様に少し前にカイトにねだって買ってもらったゲームをしている者も居る。他にも煌士であれば時折カイト目当てに来る関係者達からその当時の話や伝説を聞く事もあった。
「カイトさん、戻りました」
『ああ、戻ったか。どうだった?』
「ええ、実は・・・」
空也はカイトに対して、刀花との間にあったやり取りを報告する。そうして、その最後に彼は手渡されたメモをカイトへと提示した。
「それでこちらに行け、と」
『鬼丸商店・・・あれか。聞いた事はあるな』
「行った事は無いのですか?」
『何度か、って所か。詳しくは知らね。とは言え、陰陽師達はそこそこ知っている所らしくてな。故に刀花も知っていたんだろう』
小鳥状態のカイトは空也が持ち帰った店についてを語る。そこそこ裏世界では有名な店らしい。
『ふむ・・・とは言え、即座に行って帰れる距離でもないか。明日、朝一番で行くと良い。ヴィヴィ、モル。悪いが空也の支援を頼んで良いか?』
「うん、良いよ」
「あいさー」
カイトの要請を受け二人の妖精達が頷いた。カイトは二人の事を信頼している。その判断の事も含めて、である。なのでこの二人が一緒なら、もし何かがあったとしても大丈夫だろうという判断だった。
「明日はお願いします」
「うん」
「ええ」
頭を下げた空也に対して、モルガンとヴィヴィアンの二人が快諾する。明日は電車で移動する事になるが、そこから交渉などを考えると明日はほぼほぼ丸一日使う事になりそうだった。とは言え、そうしないといけないのだから仕方がない。まず武器を調達せねば鍛錬も何も無いのだ。
「ああ、それでカイトさん。アポイントとかは必要は無いんですか?」
『おいおい、相手は店屋だぞ。で、こっちは客だ。流石にアポが必要な店とは聞いていないしな。店主が居ない場合はまだしも、開店しててアポ無しも何も無いだろう』
「それは確かに・・・」
空也もどうやらカイトの言葉にそれはそうかと思ったらしい。商店という以上、何らかのお店である事は確実なのだろう。ならば、客として出向けば良いだけだった。
『まぁ、基本的に相手が相手だ。金でのやり取りになる事は無いと思うが・・・もし必要なら二人に言ってオレに告げる様に頼んでくれ。流石に法外になれば応相談になるが、それ以外なら金銭面については気にするな。そこらはなんとでもなる分の金はある』
「ありがとうございます」
空也はカイトの心遣いに感謝を述べる。ここらの金銭面だけは、中学生の彼らにはどうする事も出来ない部分だ。カイトに頼り切りになるのは仕方がない事だった。そうして、空也はその日は抜けた分の鍛錬を行う事にして、そのまま自宅へ戻って休息を取る事になるのだった。
翌日の朝。空也は目を覚まして朝食を食べようとリビングへ行くと、数日ぶりに父に会った。数日ぶりなのは星矢の方が天桜学園からのメッセージで色々と忙しく動いており、ここ当分は出張が多かったからだ。元々総理大臣なので不思議はないが、ここ当分は特に忙しそうだった。
「ああ、空也。丁度良い所だ。朝稽古を終えた所か?」
「はい。それでシャワーに・・・それで、どうしたんですか」
「ああ、少し話しておかないといけない事が出来た。それで、少し話がある。朝食を食べたら書斎に来る様に。別に急ぐ必要はないが、8時には仕事に出るからそれに間に合う様に来るように」
「はい」
星矢は空也の返事を聞くと、自分の朝食を食べ終えて部屋へと戻っていく。基本的に彼は家では軽い着物姿である為、仕事の為にスーツに着替えなければならないのだ。
そこらを考慮すれば、空也がシャワーで汗を軽く流して朝食を食べれば、丁度良い時間と言える。というわけで、そこらを終わらせた空也は星矢の書斎へと向かう。
「ああ、来たか。丁度よい所だ」
何らかの書類を読んでいたらしい星矢だが、空也が入ってきたのを見て顔を上げる。どうやら、丁度終わった所らしい。そうして彼は単刀直入に本題に入った。
「それで、何のご用事ですか?」
「ああ。数日中に本家の煌士くんと詩乃ちゃんがこっちに来る事になる」
「二人がですか?」
「正確には二人と妹の茜ちゃんと葵ちゃんの二人も、だ。実は天桜で少し動きがあってな。それで一時的だが、四人を当家で引き受ける事になった」
星矢へと空也は語れる所だけを語っていく。どうやらカイトに記されていたメッセージの到着先は煌士の姉の桜の進言もあり天道家となっていたらしく、何が起こるかわからない為子供達を避難させておいた方が良いだろう、と使い魔側のカイトが進言したのであった。なお、勿論何も無い事は彼は知っているが、知らない風を装う為の方便だった。
「まぁ、何かをしろというわけではない。一緒に暮らす事になるというだけだ」
「わかりました。どれぐらいですか?」
「週明けから一週間程度を見込んでいる。長くとも10月末までだ。が、場合によっては長引く事もある。それだけは覚えておけ」
「はい」
空也は仕事の兼ね合いか、と思う事にして星矢の言葉に頷いた。天桜の関係については、そもそもカイトより聞いているのだ。と、そんな興味をいまいち示さなかった空也に、星矢が訝しんだ。
「・・・気にならないのか?」
「? ああ、天桜ですか? 気にならないといえば嘘になりますが・・・」
「向こうは、元気にやっているようだ。カイトくんは覚えているか?」
「勿論です」
そもそも今日も彼のアドバイスで出かけるのだし、と思いながら空也は頷いた。
「彼が、メッセージを送って来た。いや、正確には執筆した、という所なのだろうが」
「そうなのですか?」
「ああ。幹部の立ち位置になっているらしい。それで、同じく何故か幹部に着いたらしいソラと共にメッセージを、とな。彼なのは一般の者も無事である事を示す為なのだろう」
「なるほど・・・」
「あまり驚かんな」
「カイトさんですから。そのぐらいの地位には居そうだな、と」
「それもそうか」
空也の言葉に星矢は少しだけ笑みを零す。ブルーとしてのカイトとは少し棘のあるやり取りを繰り広げる彼であるが、天音カイトという少年に対しては殊の外高評価を与えている。
それこそ、一度彼が煌士の姉の桜の見合い相手にどうだ、と覇王に進言した事があるぐらいには買っていた。なので彼としても正当な評価を下されれば当然の地位だろう、と思ったようだ。どれほどの地位かは、後は運次第と思っているようだ。
「まぁ、そういうわけだから、しばらくはあまり迷惑を掛けないようにな」
「はい」
「では、もう行って良い・・・出かけるのか?」
「ええ。少々興味が沸いた商店がありましたので、電車で。最近稽古に根を詰め過ぎましたので、少し北関東まで休息がてらにでも、と。夕方までには戻るつもりです」
「そうか。最近物騒だ。万が一の場合には魔術を軽く使い時間を稼ぎ、電話で助力を請え」
「はい」
星矢の助言を背に、空也は彼の書斎を後にする。そもそも星矢も仕事前だった事もあり、ほとんど気にはしていなかった様子だ。というわけで、彼は大手を振って外に出て一度隠れ家に顔を出した。
「来ました」
「おっけー。じゃあ、行こっか。ヴィヴィ、そっちの用意は?」
「こっちも出来てるよ。一応、私達は魔術で身を隠してるから、下手に大声を上げたりはしないでね」
「わかりました」
ヴィヴィアンの忠告を胸に刻み、空也は一応来ていた面子に声を掛けておいて隠れ家を後にする。そうして少し歩いて駅までたどり着いた彼は、休日の朝とあってごった返す電車に揺られながら一路北関東の森の中にあるというとある商店を目指す事にする。その道中、空也は気になったのでこれから向かう商店についてを二人に問いかけた。
「鬼丸商店・・・一体どういう所なのですか?」
「うーん・・・私達は行った事は無いんだよね。だから詳しくは知らない」
「そもそも行く意味も無かったからね。カイトは少し用事で何度か行ったけどね」
モルガンの言葉に応ずる様に、ヴィヴィアンが行かなかった理由を告げる。それに、空也が僅かに首を傾げた。
「意味がなかった?」
「うん。商店、って言うけど表向きらしいよ」
「詳しい事は行ってみればわかるんじゃない? そもそも私達も噂でしか聞かないしね」
「その噂というのは?」
「付喪神の駆け込み寺、って所」
モルガンが聞き及んでいる情報を空也へと告げる。本当に知っているのはこの程度らしい。とは言え、いまいち理解が出来なかった空也は首を傾げていた。
「駆け込み寺?」
「そう、駆け込み寺・・・ほら、付喪神って物に宿るわけじゃん。基本的にはどこででも生まれる可能性はあるのよね。となると、何らかの事情・・・例えば持ち主が怯えて、とか偶然拾った物が悪い付喪神で陰陽師が介入する様な事態になった時とかに、そこに持ち込まれるみたい。まぁ、付喪神になる程持っているわけだから持ち主は普通は愛着があるわけで、基本的には本来の持ち主の所にあるのが付喪神を有する道具なんだけどね。だから問題無いといえば無いらしいんだけど。どうしても歴史的な意義や意味のある美術品に近くなると、そうも言っていられないから・・・」
「なるほど・・・」
空也はモルガンの説明にあり得ないではないな、と思う。空也とて今の立場故に魔術や異族の存在等を知れただけで、そうでなく唐突に物が人物化した日には大いにたまげただろう事は想像に難くはない。そして一度意思ある存在になってしまえば、流石にそれを物扱いというのもやりにくかろう。
そういう物をどこかに集める、もしくは自然と集まったのが、その鬼丸商店なのだろう。店主も付喪神だ。理解は得られやすい。そして陰陽師達とて天下五剣の<<鬼丸国綱>>だ。無碍にはしない。どちらにとっても得な対応と言える。
というわけでそう言った説明を受けながら、空也は北関東の某所にあるという鬼丸商店を目指して移動していく。そうして、移動することおよそ2時間。都市部から少し離れた昔ながらの住宅街の一角に、それはあった。
「ここが、鬼丸商店・・・?」
空也は外観を見ながらメモを確認する。外観は一見すると昔ながらの商店、という所だ。内部については窺い知れないが扉の小窓から覗いた所では質屋、というような感じだ。
陳列棚にはそれこそ刀からやかんの様な生活雑貨まで色々と置いてある。古ぼけたゲーム機も置いてあった。統一感の無い感じだ。少なくとも繁盛している様子はない。そうして、空也はとりあえず周囲を見回して、開いているかどうか確認する。
「・・・一応、やってはいる様子ですね」
空也は開店の文字が書かれた小さな立て札を見て、開いている事を確認する。これで誰も居ないという事はないだろう。少なくとも、店番は居るはずだ。というわけで、空也は意を決して、鬼丸商店の扉を開いたのだった。
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