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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第9章 空也の刀探し編

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第162話 己に合う物を

 己に合った獲物を探せ。カイトよりそうアドバイスを受けた空也は、カイトよりのアドバイスに従ってイギリスから帰国した翌々日の土曜日午後に刀花の所へと訪れていた。


「今日はありがとうございました」

「いや、構わんさ。ああ、それと土産、ありがたく頂戴する」

「はい」


 刀花の言葉に空也は小さく頭を下げる。そんな二人だが、今日は刀花の自宅というか刀花達御門一門が共同生活を行っているという彼女らの自宅だ。そこの応接室で会っていた。

 とは言え、それは隠れ家からすぐ近くだった。同じ区画内に存在していたので、隠れ家から徒歩数分の直行で来れていた。そうして、少しの挨拶が交わされた後、刀花が本題に入った。


「それで、刀についてだったな」

「はい・・・これが、私が今使っていた刀です」

「そうか・・・少し、離れてくれ」


 自分が差し出した刀を手に取った刀花の言葉に、空也は少しだけその場から離れる。まずは刀身を見てみよう、という事だ。そうして、空也の安全が確保された所で刀花が鞘から刀を抜いた。


「・・・かなり刃こぼれがしているな・・・内部にも僅かなひび割れ・・・だが刀身のこの歪みは・・・若干、右手に力が入りすぎているな。空也くん、もう少し右手に込める力を抜いた方が良い。歪みに関してはそこら姿勢の僅かな歪みが影響して生まれている物だ。これについては刀云々ではなく、使い手の問題だ。そこに気を付けて練習を怠らない様にすれば良い」

「わかりました」


 刀花からのアドバイスを空也はしっかりと記憶する。空也は確かに剣道家としては日本代表にも選ばれる程の使い手だが、物を斬る様になってまだ少しなのだ。なのでそう言う意味ではまだまだ練習が足りておらず、修正すべき所は散見されていた。


「ああ・・・さて、ざっと見せて貰ったが、この刃こぼれと内部のヒビについては確かに君の腕に合っていない物を使っているからだろう。これは君が誇って良い事だ」

「そうなのですか?」

「ああ。と言っても一部には君の責任もあるが、それは今の君に言うべき事ではない事だ」


 刀花は一応、これが数打ちとは言え鍛冶師が打った物なのでそこを貶さない様に注意しつつ空也へと結論を告げる。これはカイトの見立てと一致している。なので正確と見て良いのだろう。


「私の責任、ですか?」

「ああ。と言ってもこれは克服出来ていても私達も立つ瀬のないという話だ。君はまだまだ初心者。少し力みすぎていて、刀が自壊しかかっている。まぁ、仕方がない話だがね。力の制御が出来ていないんだ」


 刀花は笑いながら、再度仕方がないと明言する。ここらはカイトも直に見ていなかったので言及されていない所だった。


「自壊、ですか?」

「ああ。これはそもそも君が練習用に、と貰った品だ。本来お遊びに来る様な奴らを相手にした、そうだな・・・簡単な力比べ程度を想定していて、今回の一件の様な本当の腕利き達を相手にする事は考えていなかった。勿論、子鬼・・・西洋風に言えばゴブリンを相手にして殺し合いを、というつもりも無かったのだろう」


 刀花はカイト達から聞いていた見立ての上での話を語る。そしてその通りだ。カイト達も当初は命のやり取りを行う実戦なぞ一切考えていなかった。いなかったが必要になった為、ゴブリンらとの初陣をさせたのであった。これは彼らが悪いのはなく、状況が悪化したというべきだろう。


「君が少し気負いすぎているのだろうな。私が言えた話ではないが、気張りすぎと言うところだろう。無意識的に過剰に力を込めているようだ。そこらの調整が出来る様になれば、一人前と言える様になるのだがな」


 刀花は苦笑気味だ。というのも、彼女は自他共認める生真面目な性格らしい。彼女自身が前に告げていたが、学校では生徒会長を二年連続で勤めている程らしい。生徒からも教師からも評判も悪くないそうだ。

 とは言え、これでも数年前よりは、マシになっているそうだ。それ故、言えた話ではないと自ら言ったそうである。


「あはは・・・申し訳ありません。何分、こういう性分ですので・・・」

「あはは。私もあまり何かを言えた義理ではない、と言っただろう? 私も似たような物だ。いや、それは置いておこうか。話すと長いし、脱線してしまうからな」


 刀花は照れた様子の空也の言葉に笑うと、話題の軌道修正を行う。そうして、再び刀の話に入った。


「それで、刀の自壊の話だったな。再度言うがこれは力を込めすぎていて、君の力に耐えられていないわけだ。だが、これは込められていないよりずっと良い。込められていなければ、それだけ押し負けてしまう可能性があるのだからね。それで自壊してしまえば元も子もないが・・・それを考えてみれば、この時点で気付いたのは良かったという事だ。今が、買い替え時という所だったのだろう」


 刀花は今こそが最善だった、と空也へと明言する。これ以上長引けば空也では気付けなかった内部に走っていたヒビは表面化して、刀が折れていただろう。その場合は寿命が来た、と言える。

 といっても、その寿命を早めてしまったのは空也の力量不足が原因だ。そこはしっかりと受け止めておくべきだろうし、彼もしっかり受け止めていた。


「そうですか・・・わかりました、ありがとうございます」

「ああ。この刀については、もう諦めたまえ。流石にこれ以上使うのは戦士の先達として、止めさせてもらおう。いわゆるドクターストップやタオルを投げ入れる、と思ってくれ」

「わかりました。それで、これはどうすれば?」

「蘇芳殿に渡して、使える所は素材に変換してもらう事になるだろう。意外と妖刀を打つ為の素材というのは貴重らしくてね。使いまわす事が多いらしい。打ち直し、という奴か。私が預かって彼に渡しておこう」

「お願いします」


 空也は自分では処分に困る品であった事もあった為、刀花に引き渡す事にする。これを持っていても思い出以上の意味はないのだ。


「ああ・・・さて、それで本題に入ろう。君が次に使うべき武器について、だ」


 刀花は空也から預かった刀を納刀して横に置くと、もう一つの本題に入る。当たり前だが空也も祢々達の標的に入っている。徒手空拳で逃げ切れるとは思えない。さらに言えば大精霊の試練でも武器は必要だ。


「おそらく君は妖刀魔刀の類は合わない。妙に力が入りすぎている。今までの君の月日を考えれば、これは君が無意識的に妖刀に飲まれまいとしているのだろうと推測される。まぁ、あり大抵に言ってしまえば妖刀に意識を飲まれて・・・うん、確か闇落ち・・・? とかいうのにならない様に気を張っているという事なのだろう」

「はぁ・・・闇落ちですか」


 空也は刀は刀花に渡した一本しか持った事は無いため、詳しい事はわからない。なので生返事だ。なお、言った刀花は言葉の意味はいまいちわかっていない様子だったが、対する空也の方は煌士と兄の影響でわかった――両者サブカルチャーに詳しい――様子なのでこれで良いのだろう。


「ああ。そういうものだと思う。妖刀というのはどうしても魅入られる、という形で人斬りの性を出しかねない。無意識的に君自身が防壁を張っているのだと思う。武器に振り回されて己が暴走してしまわない様に、というわけだ」

「ふむ・・・」


 空也はわからないでもないな、と内心で頷いた。元々村正といえば日本で最も有名な妖刀と言われている。実態としてはそこまでおどろおどろしい物では無かったが、やはり妖刀とあって無意識的に気後れしている所は無いでもない。そこが無意識的な力みになっているというのは、彼からしてもわからない話ではなかった。


「これが恐れているのかそれとも誘惑に負けない様にしているのかは、私にはわからない。君の事だし、君もまだわからないだろう。とは言え、どうしても妖刀といわれる物にはそういう人斬りの性を呼び起こしかねない・・・そうだな、なんらかの得も言われぬ魅力がある。妖刀と名刀を分ける差はそこだ、というのが我々の見解だ。本質としては同じ物だからね。まぁ、これは感覚的になりすぎるから学術的ではなく、経験則による経験という所なのだがね」


 刀花は改めて、名刀と妖刀の差を語る。そうしてその話を聞いて、空也が問いかけた。


「つまり、私では妖刀を使えないと?」

「今は、という意味であればそうだ、と答えよう」

「今は?」

「そうだ。今は、だ。極論してしまえば、妖刀を最初から満足に使える者は人格異常者と言って間違い無い」


 空也の問いかけに刀花は笑って明言する。それに空也が目を見開いたのに対して、刀花は道理を説いた。


「当たり前だろう? 人斬りの性を呼び起こす、と言ったんだ。普通の者はそれに抗うのが普通だ。あらがって飲まれたのなら仕方がないが、それを最初から使いこなせたとするのなら、それは始めから人斬りの性が目覚めていたというだけだ」

「あ・・・それは確かに・・・」


 道理を説かれた空也はそれはそうだ、と納得する。そしてそれを受けて、刀花は話を進めた。


「私も今でこそ村正の刀を普段使いとして使っているが、始めから使えたわけではない。いや、私の場合土台が出来てよりこちらに来たので始めから使えたのだがね。そこは、鍛錬の結果という所だ」

「鍛錬でなんとかなるのですか?」

「ああ、勿論どうにかなるとも。今の君の状態とは言ってしまえば武器に振り回されている状態。逆に武器を上回ってしまえば、どんな魔剣や妖刀だろうと持ち主に従順になる。武器が持ち主の力を上回ってしまったからこそ、暴走してしまうわけだからね」

「では私は言ってしまえば刀に認められてなかった、と」

「微妙かな、それは。君の場合はまだまだ初心者だから力では上回っていたけれども、そのじゃじゃ馬を宥める技量が無かったわけだ。それ故、力を入れすぎてしまった、というわけだ。謂わば乗馬の技術も拙いのに暴れ馬を無理やり乗りこなそうとしていた、という所だ」


 刀花は空也の質問に刀を馬に例えて説明する。これは言い得て妙で、妖刀とはじゃじゃ馬と言える。持ち主の言うことを聞かなかった結果が暴走というわけだ。

 空也はそれで例えればなんとかじゃじゃ馬を乗りこなせはしたものの、乗馬の経験が少なすぎて馬そのものを上手く操れていなかったというわけだ。


「だから、もし君が妖刀を使いこなしたかったら精神面での修行を更に積むべきだろうね。じゃじゃ馬を宥められるだけの精神があれば、君も妖刀を使える様になる。所詮、じゃじゃ馬も馬。飼いならす事は可能さ」

「そうですか・・・まだまだ私は未熟、というわけですね」

「その年齢で未熟じゃなければ、私達に立つ瀬がないさ」


 空也の言葉に刀花が笑う。今でも十分に落ち着いていると言われる空也であるが、それでもまだ精神鍛錬は完璧ではない。剣士としてどうしても有する強敵を渇望する精神は当然持ち合わせているし、未熟を恥じる心もある。更には刀を振るう事に対する恐怖感やその他色々な感情も、だ。そこをコントロール出来ねば、どうにもならないのである。


「まぁ、それとは別にもう一つの解法として、カイト殿のやり方もあるがね。そちらはおすすめはしない」

「カイトさんの、ですか?」

「彼は逆に魔剣や妖刀の発する力を強引にねじ伏せて、自分が上だとわからせている。基本的に妖刀にせよ魔剣にせよ名刀にせよ聖剣にせよ、道具である事には変わりない。故に優れた使い手である事を認めれば、喜んで力を貸し与える。そうなってくると手に負えない」

「手に負えない?」

「魔剣の人斬りの性等が全て、持ち主の力に変わるわけだからね。この時、魔剣は十全どころか十二分の力を発揮してくる。荒々しい者特有のやり方だ・・・が、こちらは君は得意そうではないな」

「あはは・・・おそらく、兄の得意分野かと」


 刀花の指摘に空也は笑って、兄が得意だろうと推測を語る。彼の兄は数年前まで天神市にて物凄い恐れられていた不良で、今でもその荒々しさは内側に眠っている。そう言う意味では、彼はカイトと同じやり方で妖刀を操れる可能性があると言えた。


「そうか・・・まぁ、頭の固い奴らはこちら、というわけだ。そこはお互いに嘆いておこう」

「そうしましょう」


 刀花と空也は笑って同意し合う。ここら、頭の固い者同士という事で意気投合したようだ。


「さて、そうなってくると君の選択肢から妖刀という線は消える。これは納得してもらえたな?」

「はい」

「よろしい。となると、君が使うべき武器とはいわゆる名刀の類。例えば<<姫鶴一文字(ひめつるいちもんじ)>>や<<数珠丸恒次(じゅずまるつねつぐ)>>の様な物だろう・・・まぁ、認めたくはないのだが、鬼丸殿、<<鬼丸国綱(おにまるくにつな)>>もその一つだ」


 刀花は空也も一度は耳にした事のある名を告げる。それは全て、日本史に名を残した名刀の類だ。どれもが霊験あらたかな物とされている刀の事だった。そう言う意味では、村正の妖刀とは対極に位置する刀と言える。


「さて・・・この中でもある一定の年月を経た物は、付喪神と呼ばれる物となる事がある。鬼丸殿はまさにそれだな」

「ではやはり、過日にあった男性は・・・」

「ああ、<<鬼丸国綱(おにまるくにつな)>>の付喪神だ」


 刀花が改めて明言する。空也にしても付喪神という存在は馴染みのあるものだ。わからないではなかったし、天下五剣と呼ばれる程の名刀なのだ。不思議もなかった。逆にそれに宿らないのなら何に宿るのか、と思っていた程だ。そうして、刀花が空也へとアドバイスを送った。


「・・・彼に、会いに行け。やはり餅は餅屋。武器の事、それも刀の事ならば彼に聞くのが良いだろう」

「会えるのですか?」

「ああ・・・唯一、私は彼の居場所だけは知っている。他はまぁ、私が持つ<<大典太光世(おおでんたみつよ)>>だけだ。が、これは私が認められた物だ。譲るわけにはいかないからな」


 刀花は今はどこかに収納しているらしい天下五剣の一振りについてを語る。これもまた、天下五剣の一振りだった。


「お持ちなのですか?」

「色々とあってな・・・まぁ、そこらは先入観や色々な感情を生まない為に多くは語らないが、おそらく君も私と同じ手順を踏む事になるはずだ。だから、アドバイスだけはしておこう。決して、嘘偽り無く語れ。どういう武器に出会ったとしても、君の場合はそれが重要だろう」

「はぁ・・・わかりました、ありがとうございます」


 刀花の言葉の意味がいまいち理解出来なかったものの、とりあえずアドバイスとこれから先の道筋を示してもらえた以上は感謝を述べておくのが筋だろう。そうして、感謝を述べた空也は刀花の所を後にすると、教えてもらった場所のメモを手に隠れ家へと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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