第161話 戦いに備えて
今日から外伝は新章スタートです。
イギリスより帰国して早々に天道財閥本社に出社する事になった彩斗だが、彼は会社より命ぜられたカイトのノートの筆跡鑑定を終えると即座に帰る様に命ぜられていた。
というのも、彼らの数日の活動はそこそこ長期で非常に色濃く、疲労を考えてスカサハ達を送り届けてから週明けまで――幸い帰国が金曜日だった事もあり――本来は休暇だったからだ。というわけで、報告書や契約書を本社に提出する為に空港から直接出社していた三柴と一緒に帰宅する事になった。彩斗は空港で覇王から即座に持って本社に出社する様に命ぜられたのである。
「まさか、カイトくんが手紙を送る役目とはな」
「ええ・・・まさかあいつが手紙なんて・・・びっくりしましたわ」
「俺としては、天城総理と知り合いだった事が驚きだ」
「あー・・・ソラくんと色々あったそうですわ」
三柴と彩斗はしばらくの間、久しぶりに無事の確認できた事を受けて喜び合っていた。カイトが書いたということはすなわち、彼は無事だという事にほかならないからだ。
「にしても、メッセージを送ってくるとはな」
「向こうも向こうで色々とやってるんでしょうね」
「ははは・・・にしても、カイトくんが、か・・・」
親戚の子供が成長しているのを喜んでいる様な感じで三柴が笑う。それに、彩斗が僅かに照れくさそうに笑った。
「あはは・・・まぁ、そういうことに興味出す奴じゃあ無い思うとったんですけど・・・」
「元々才能そのものはあっただろう?」
「あんま、言い難いですわ、それ」
どこか茶化す様に言われた言葉に彩斗が照れくさそうに笑う。そうして、彼は三柴と共に会社の車――三柴の物なので運転手がいる――で自宅へと送ってもらった。
「じゃあ、しっかり休めよ」
「はい。三柴さんも骨休めてください」
「ああ、わかっている。流石に今日ばかりは疲れた。俺もたまにはしっかりと休む」
彩斗の言葉に三柴が笑う。そうして、走り出した車を背に彩斗は家へと入る。
「ただいまー」
「お帰りー」
「おかえりなさーい」
家の中から二つの返事が返って来る。片方は言うまでもなく綾音で、もう片方は浬だ。
「おーう、浬。帰っとったんか」
「お父さんが一度出てく前にね」
「そか・・・楽しかったか?」
「うん!」
彩斗の問いかけに浬は笑って頷く。一応、途中色々とあったが最後にはきちんと観光出来たし、色々と珍しい物も見れた。収支としてはプラスと言える結果だった。というわけで、浬の顔はご満悦だ。
「そか。俺はほとんど仕事で缶詰でなー。碌なもん見れてないわ。ビッグベンぐらいや」
「あはは・・・あ、そだ」
浬は彩斗の言葉に笑うと、一度自分の部屋へと戻っていく。そうして、しばらくして戻ってきた。
「これ、お土産」
「お、ありがとう・・・っと、俺もお土産あるけどそっちお母さんに渡しといたから」
「あ、うん。もう貰った・・・って、なんか変な感じだけど」
「あはは、そやなー」
お互いにイギリスに行っていたのだ。なのでお土産を渡す、というのもおかしな話だろう。
「っと、俺一度荷解きしてくるわ。帰ったばっかで会社呼び出されたからな」
「あ、うん」
「綾音ー、悪いんやけど荷解き手伝ってー」
「はーい」
彩斗の求めを受けて綾音がリビングから現れる。荷物は一応寝室に運んでいるが、仕事の書類等があるだろう、と綾音は触らなかったのだ。とは言え、そちらについてはもう持っていった為、後は着替え類だけだった。そうして、浬が自分の部屋に戻ったのを見て、彩斗はトランクを片付けながら本題に入る事にした。
「・・・本社に呼ばれたんな。どうにもカイトから手紙届いたらしいわ」
「カイトから!?」
綾音が目を見開いて驚いた。彼が異世界に居る事は彩斗から聞いている。その続報である事ぐらい、わかった話だった。
「つっても、本当に送る為の前段階、って奴らしいわ。本当に送れるかわからんけど、ってわけでテストみたいな感じでな」
「そっか・・・元気してそうだった?」
「してるんちゃう? なんや知らんけど向こうで立ち上げた組織の幹部やっとるとかなんとか」
「あ、あはは・・・」
流石にこれには綾音も苦笑いしか浮かべられなかったらしい。普通だと思っていた息子が唐突に幹部だと言われたのだ。そうもなろう。とは言え、それは一つの安堵ももたらした。
「でも・・・そっか。無事なんだ」
「おう。さっき、カイトの部屋からノート持ってったのそれでや。他にも灯里ちゃんも無事とか幾つかの事が書いとった」
「そっか」
綾音は安心した様に微笑んだ。灯里とは三柴の娘だ。カイトが大阪に居た頃からの付き合いで、カイトに関してだけで言えば浬や海瑠が生まれた時には一時三柴家に預けられていた為、彼女としても親しくしていたのである。ある意味、カイトにとって姉と言える存在だった。
「まぁ、詳しい話はあんま話せん。けど、あいつらが向こうで頑張ってんねやったら、多分近々ちょっと何か言えるかもわからん」
「うん、わかった。信じてる」
「おう・・・俺も気張らなあかんなぁ、こりゃ」
「ん?」
「向こうでガキがいっちょまえにお偉いさんになっとんのに、親父が情けないと笑われるやろ」
「あはは」
彩斗の冗談めかした言葉に綾音が笑う。そうして、大人は大人で先へと進む為、様々な準備が執り行われていく事になるのだった。
さて、その一方の子供達はというと、イギリスの旅を終えて各々通常の生活に戻っていた。が、そんな中でも一人空也は思い悩んでいた。
彼は元来の真面目さから魔術で体調を整えてもらい朝一番から学校に出たのだが、放課後になり少し気になった事があり自らの武器を見てみたのだ。そこで、少し苦い物が浮かんだのである。
「・・・もうぼろぼろですね」
空也が見ていたのは、己の武器として与えられていた刀だ。それは数度の戦闘により刃こぼれが起き反りが歪になっていた。
「・・・いえ、私が悪い。そう思いましょう」
武器が悪い。一瞬浮かんだ考えに対して、空也は首を振って否定する。これは無銘の品だが業物と言える武器だ。であれば、使い手が悪い。そう思う事にした。
「とは言え、いつも何時でもこれでは・・・戦いになりませんね」
空也はどうすべきか考える。なぜこの疑問を得たのかというと、アテネが武器のメンテナンスを行っていたのを見たからだ。気になって自分も、と見てみてかなりぼろぼろになっていた事に気付いたのである。
とは言え、それは当然だろう。これは真剣で、生き物の肉と骨を切り裂いていたのだ。どれだけ強靭な刃とて刃こぼれはするし力の入り方によっては曲がりもする。戦った事のない空也だからこそ、気付かなかっただけだ。
「とは言え、メンテナンスなんて自分で出来るわけもないですし・・・」
もし自分が天城家の者として動けるのであれば、これは別に問題なく常日頃父が懇意にしている刀鍛冶に持ち込めばそれで終わりだ。後は研いでくれるし曲がった部分も修正してくれる。
が、ここでの彼は天城家の空也ではなく、単なる天城空也という一人の少年だ。故にメンテナンスなぞ知らないし、こうなった武器をどうすべきかはわからなかった。とは言え、わからない物をそのまま放置しておく彼ではない。なのでスマホを取り出すと、周囲に誰も居ない事を確認してカイトへと連絡を入れる事にした。カイトなのは彼も刀使いだからだ。
「と、言うわけなのです」
『あはは。ようやく気付いたか。次の訓練が始まるまでに言わなかったら鉄拳制裁だったんだがな』
空也からの相談を受けたカイトは笑いながら、やっと気付いたか、と頷いた。どうやら、これについては彼も始めから想定内だったらしい。
『さて、それでその刀はいわゆる村正の一振りだが、練習用に蘇芳の爺のお弟子さんが打った数打ちの一振りだ。故に村正と言ってもそんな妖刀まがいの力はない。普通の刀と変わらん。まぁ、それ故使い勝手としては普通に使えるし、曲がりなりにも村正だから魔術的な相性も良いから使い易い。入門者向けと言えるな』
「そうなのですか・・・」
『ああ。分解した事無いか?』
「すいません、ありません」
『ああ、そう畏まるな。別に気にしちゃいねぇよ』
カイトは申し訳なさそうに首を振った空也に笑って問題ない事を明言する。そもそも使い手が全て出来なければならないわけがない。出来れば刀鍛冶達の立場がない。
カイトとて簡易なメンテナンスは出来るが、繊細なメンテナンスは専門家任せだ。真剣を使い始めた者がそこまで出来る様になってもカイトとしても困るのであった。
『さて・・・と言っても流石にそいつを使ってこれから先の戦いを越えるのはまぁ、難しいだろうな。かなりボロボロになってただろ?』
「はい」
空也は己に与えられた刀を流し見る。至る所に刃毀れが生じていて、まともに最弱とは言え生き物を切れたのが不思議なぐらいだった。
『不思議そうな顔をしているな』
「あはは。お見通しですか」
『伊達に何年も公爵と勇者やってねぇよ。ガキ一人の表情ぐらいお見通しだ・・・さて、とは言えそれについては曲がりなりにも村正だ、という所だろう。魔力で刃が形成されていたんだ』
「魔力で刃が形成?」
『剣気、という奴でな。と言ってもこれは剣だから剣気というだけなんだが・・・まぁ、刀そのものの闘気の様な物で、刃こぼれした際なんかには使用者の魔力によってこれが実体化して、擬似的に欠けた部分の代用をしてくれるんだ。お前が刀を魔力で編めるのは、この剣気が身体に完全に馴染んでお前と一体化しているから、という所だ。自分の中に一つの刀があるような物だな。それを、表に出しているわけだ』
「はぁ・・・」
そういう物なのか、と空也は納得しておく。そして筋は通っている。空也は今までかなり長い間竹刀を振るっている。物心ついた頃から古武術という形で触ってきたのだ。竹刀とて刀だ。その剣気とやらがあると見て良いだろう。それが染み込んでいても不思議はなかった。
「とは言え、それでも限度があるのでは?」
『そうだな。限度はある。例えば刀身が完全に砕け散ったりしてしまえば、これはほぼ消失すると言って良い。せいぜいそこそこの刃こぼれを修正してやる程度。熟練に至ればなまくらで切れる様にもなるが、今の空也レベルだとその程度と言って良いだろう』
空也はここまでの説明でそれで未調整でもゴブリンが切れたのか、と納得する。そしてそこらを見抜いていればこそ、カイト達も今まで何も言わなかったのだ。問題が出ていなかったからだ。
『さて・・・そう言ってもこの剣気の質等については、武器の質に応じて変わってくる。当然良質な武器になれば剣気はより優れた物になり、武器の耐久度も飛躍的に上昇する。となると、だ。大精霊の力を手に入れようとするのであればその刀じゃあ、残念ながら使い物にならんな』
カイトは少し残念そうに明言する。これは至極当然の内容になるが、武器にだって耐えられる力の限界が存在している。力を込めすぎれば自壊してしまうのは自明の理だ。
が、それで困るのが、今回のお話だ。使われる力は大精霊というこの世で最大の力の一つだ。それに耐えうる武器でなければならないのである。
「では、武器は変えた方が良いと?」
『ああ。これからの戦いに備えるのなら、まずは空也。お前は武器を選ぶべきだな。弘法は筆を選ばずと言うが、それは戦士に関して言えば巫山戯ている理論だ。確かに格下相手ならそれで良いが、格上と戦う以上はお前は一流の武器を選べ』
カイトは剣士の先達として、空也へとアドバイスを送る。剣士にとって剣とは相棒であり、半身だ。最優の物を選ぶのが、道理だった。そうして、カイトは更にアドバイスを続ける。
『以前御門 刀花という少女にあったな?』
「はい」
『彼女に会いに行け。おそらく村正とお前は相性が悪い。刀にも相性があってな。妖刀とお前とでは性質が違うからか、武器の損耗も激しくなる。陰と陽というわけだ。村正は実は妖刀からしても邪道に近い物だ。そう言う意味で言えばオレの様な常道から外れた剣士には丁度良いが、お前の様なきっちりとした剣士だと相性が悪そうだ』
「そうなのですか」
『多分な。こんなもん、所詮俄仕込みの手習いに近い。信綱公や卜伝殿に聞けばはっきりと言ってくれるんだろうが、流石にお二人より遥かに下のオレにそこまで期待はするな』
空也の言葉にカイトはこれが一応の推測だ、と良い含めておく。あまり過信されても困るからだ。
「あはは、わかりました・・・えっと、それでなぜ刀花さんに?」
『彼女も正統派だからだ。それに、彼女はあー・・・天下五剣の一つ<<大典太光世>>を持っている。他の剣にも渡りをつけられる。名刀にも詳しい。そこから自分に合った剣を探せ、というわけだ。アポイントはこちらから取っておく。明日の午後にでも行って来い』
「わかりました。ありがとうございます」
カイトの言葉に空也はありがたく従う事にする。自分に合う武器を探すというのは、彼からしても重要である事はわかった。そうして、彼はこの翌日、再び刀花の所へと訪れる事にするのだった。
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