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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第8章 イギリス編

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第165話 影の影で蠢く者達

 浬達がルナとの会合を果たした日から、更に数日。彩斗達は商談を終わらせ、ひとまずの決着を付けていた。


「では、これで。我々は一足先に外に出て、イギリス政府との間で更なる交渉を行う事にします」

「うむ。それはお主らに任せよう」


 三柴の言葉にスカサハが頷いた。丁度たった今、書類にサインを終えた所だった。これで後は一度外に出て天道財閥と連携を取り向こうで『影の国』の戦士達を受け入れる準備を進めてもらいつつ、自分達はイギリス政府との間で交渉を行う事にするつもりだった。その後は再び『影の国』へとんぼ返りで、戦士達と共に日本へ帰国する予定だ。

 そうして、商談を終わらせた三柴達に対して、スカサハは呼んでおいたクー・フーリンとフェルディアの二人に命ずる。


「フリン、フェルディア。外まで送っていってやれ」

「おう」

「はっ」


 スカサハの命令を受けた二人は彩斗達と共に外に出るべく用意を始める。そうして、彩斗達は一度『影の国』の外へと出て、スマホの電波が届く場所から天道財閥へと連絡を取る事にした。


「ええ、商談はなんとか成立しました」

『そうか・・・わかった。幾つかの細かい変更についてはこっちで大急ぎで用意させる。とりあえずご苦労だった。俺もそれに合わせて日本へ帰国する予定だ』

「はい」


 三柴は覇王の言葉に頷くと、横でイギリス政府――というよりもフィルマ家――とやり取りしていた彩斗と視線を交わす。それに彩斗は電話先に断りを入れて、彩斗へとそちらの状況を報告した。


「こっちもなんとかなりそう、って話です。あちらの娘さんはランスロットさんと同じ飛行機で日本に来日、言うてました」

「そうか。わかった・・・社長」

『ああ、聞こえてた。わかった。そちらについてもすでに準備は整っていると明言しておいてくれ。こちらについてはイギリス大使館も確認している。勿論、盗聴器なんかも全てな』

「・・・」

「はい・・・ええ、全部用意は整っております」


 三柴の視線を受けた彩斗が話の内容をフィルマ家側へと伝達する。兎にも角にも、数日後には帰国だ。ランスロットにも用事があるし、他にも色々と都合しなければならない事はたくさんある。

 というわけで、この案件では彩斗達以外にもイギリスの天道財閥支社に出向している者達が動いていたりした。やはり世界的な大財閥だ。動かせる人員は多いし、動している人員は物凄い多いのであった。そうして、彼らは慌ただしく『影の国』の戦士達を出迎える準備を整える事になるのだった。




 さてその一方の浬達はというと、彼女らの方は幸いな事に早々にルナとの会合とやり取りを終える事が出来た為、幾つかの集団に別れてイギリス中――と言っても異族達の領土の中だが――を観光していたりした。


「・・・へー・・・こんなのあるんだー・・・」


 鳴海が驚いた様子でスマホの観光名所案内を見ながら感慨深げにつぶやいた。彼女らが見ていたのは、スカイ島にあるという『妖精の谷(フェアリー・グレン)』にある『妖精の輪(フェアリー・サークル)』だ。それに、妖精であるヴィヴィアンが懐かしそうに口を開いた。


「あー・・・これ大昔誰かが悪戯で置いたんだっけ・・・」

「らしいねー。私が生まれる前とかだから知らないんだけど。懐かしいなー・・・ここでサバトとかやったっけなー・・・」

「・・・こわっ!? ここでガチでやったわけ!?」


 モルガンの発言に浬が慄く。サバトというのは、中世のヨーロッパの悪魔崇拝者達が行ったとされる集会の事だ。が、そもそも主催者が妖精の時点で、浬はとある事に気付くべきである。


「いや、妖精達のサバトよ? 見よう見真似の単なるお遊び。実際には飲めや歌えやの宴会やってただけよ」

「・・・あー・・・納得」


 浬は一瞬離れた『妖精の輪(フェアリー・サークル)』に戻ってくる。どう考えてもお遊びにしかならなそうだった。そもそも妖精達からしてみれば悪魔なぞ存在していないのだ。その時点で悪魔崇拝者のサバトとは別物と断言しても良さそうだった。と、そんな所に声が掛かった。


「ああ、いたいた。こっちどう?」


 声を掛けたのは侑子だ。実は彼女はまた別の所へとニムエとエレインの案内で行っており、そちらからこちらに合流したのであった。


「うーん、これはこれでアリじゃない?」

「へー・・・私もちょっと見てみよ」


 浬の感想に侑子が少し散策を行う。ここらはイギリス政府公認の妖精達の自治区――の様な場所――という事らしく、人は人払いの結界が張り巡らされていて観光客も皆無だそうだ。なので自由に散策しても問題は無かった。と、そうして散策を始めた侑子へと浬が問いかけた。


「侑子ー! あっちどうだったー!」

「あー! あっち結界切れてるんだって! あんま行かない方が良いかもー!」

「あちゃー・・・まぁ、あっちは仕方がないかー」


 浬は侑子の返答に行きそびれた、と少しだけ残念さを滲ませる。先程まで侑子が行っていたのは、『妖精の湖(フェアリー・プール)』と呼ばれるまた別の場所だ。

 こちらは妖精達が時折水遊びをしているらしいのだが、近くに人払いの結界が何らかの理由で切れている場所があって人が近づくかもしれない、とあまり散策は出来なかったらしい。ここらはイギリス政府が手直しをする事になるそうだ。そうして、そんな風に観光を行う彼女らであるが、浬は少し歩き疲れたようだ。手頃な所に腰掛けた。


「ふぅ・・・」

「流石に疲れた?」

「流石にね」


 ヴィヴィアンの問いかけに浬が頷いた。観光を一日も出来ないのは流石に可哀想だ、という事で最終日の今日は本当に自由気ままな観光を楽しめていた。更には一日目も実質観光の様な物であった事を考えると、これはこれでアリなのかもしれない。


「海瑠達は今頃お城だっけ?」

「エレンドナン城だね。もしくは、アイリーン・ドナン城」

「スコットランドで最も美しい城の一つ。イギリスのモン・サン・ミッシェルと言っても良い場所だね」


 ヴィヴィアンの言葉をモルガンが引き継ぐ。煌士がどうしても行きたいと言って、そこで説明を聞いた海瑠も興味が沸いたらしく空也と詩乃の二人について行ったのである。


「満潮の時が綺麗なんだっけ?」

「うん・・・というわけで、皆は後でね」

「うん」


 ヴィヴィアンの言葉に浬が笑顔で頷いた。このアイリーン・ドナン城というのはモン・サン・ミッシェルと同じく海に囲まれた孤島の中に建てられており、もう少し時間が経てば満潮でそれは幻想的な光景が見れるらしい。煌士はそれ故、満潮前の段階から見てみたかったそうだ。こちらには道案内人として、トリスタンとベディヴィアが一緒だ。

 で、浬らはそこらには興味が無いので一番美味しい所だけを頂いておこう、という判断だった。と、そんな彼女らの横に鳴海が腰掛けた。


「いやー・・・満足満足」

「おつかれー」

「おつかれー」


 浬の調子と同じ調子で鳴海がお互いの労をねぎらう。とりあえず、鳴海の方も満足行くまで楽しめたらしい。


「あー・・・次はどこにする?」

「何処にしよっか?」


 鳴海の問いかけに浬は次の場所を探す。基本的に、イギリス政府が厳重に守る場所でなければ何処にでも行って良いというのがカイト達からのお許しだ。というわけで、基本的にはほとんど何処にでも行けるというのが、今の結論だった。そうして、鳴海がスマホを片手に観光名所を探し始める。


「うーん・・・大英博物館とか見てみたかったけど・・・そっちは駄目だっけ」

「確か色々魔術的な品が一杯あって駄目だってさ。時々他国の魔術師も来るからあまり行かない方が良いって」


 鳴海の言葉に浬はカイトから聞いておいた事を告げる。なお、カイトはアルト達と共に今後の事の相談をしているらしい。相談と言いつつ単なる雑談だろう、とはフェルらの言葉だ。その彼女らは観光には興味が無いらしく普通に部屋でのんびりしていた。


「ふぅ・・・こっちはこっちでなんというか不思議な所だね」


 そんな浬らの所に、侑子が一通りの散策を終えて戻ってくる。こちらも満足が出来たらしい。そうして、三人並んで次にどうするかを考える。


「うーん・・・一通りめぼしい所と言うか行けそうな所は行った様な・・・」

「ビッグ・ベンは普通にホテルから見えたし・・・」

「他も行ける所は行った様な気がするよねー」


 三人はこんなものかな、とめぼしい所のチェックを終えようか相談を行う。今日は朝一番から自由行動だったのだ。お土産は買ったし、めぼしい物もほとんど買えた。今のところ問題になるような事は無い。と、そうして行きたい所を考えていて、ふと侑子が気付いた。


「・・・あれ? もしかして私ら勝ち組?」

「? どして」

「・・・いや、普通に修学旅行より色々な所にほぼほぼノータイムで行けてる様な・・・」


 侑子がもっともと言えばもっともな事を口にする。


「・・・どうなんだろ、それ」

「浬・・・そう思っておこう。そう思わないと負けよ、負け」


 現実として、たしかに修学旅行として見れば彼女らは圧倒的に勝ち組だろう。なにせお土産の費用はカイト持ち、ホテルにしても個室で更にはかなり上等な部屋だ。料理にしてもお城のコックが作ってくれている為、下手なレストランよりも断然良いものが食べられている。そしてその上、こちらは普通は見れない物まで見れているのだ。これで負け組なわけがない。

 が、そもそもその前提条件となるのが命を狙われるという事だ。その時点で負け組な様な気がしないでもない。とは言え、それは普通は死ぬはずだった案件である事を考えれば、やはりその点でも勝ち組なのかもしれない。非常に判断の分かれる所だろう。と、そんな彼女らを見ていた影がある事に、誰も気付いていなかった。


『おや・・・? 普通に観光しているだけなのに・・・』


 影は浬らが普通に観光をしているだけの様子を訝しむ。その姿は犬であったが、目は燃えるような三つ目だった。ニャルラトホテプの一体だった。

 では、なぜそんな彼らの一体がここに居たのか、というと勿論理由がある。改めて言う必要も無いだろうが浬らには今、ニャルラトホテプと言うか祢々からのちょっかいが掛けられている。その祢々に協力していたのである。ここらはナイアが告げた様に各個人の自由である為、ナイアの様に掣肘していた者も居れば、逆に協力している者が居ても不思議はない。

 まぁそれはさておいても彼らはカイト達が述べた通り、普通にはその存在に感づく事は不可能だ。というわけで普通に浬らの偵察をしていたのであるが、その偵察をしていた者がここ数日連絡が途絶えていたのである。別に彼らなので数日連絡が無いでも不思議はないが、それでもあまりに音沙汰がないので気になって一体が来てみた、という事であった。そうして、その偵察に来た一体が人の形を取る。


「ふむ・・・我々は居ない・・・な・・・」


 ニャルラトホテプの一体は周囲を見回して、自分達が居ない事を確認する。ここら、実は仕事に熱心な彼らだ。どれだけ仕事をサボっている様に見えても、実は監視対象の側は離れる事はないらしい。それが居ない事を訝しんでいた。


「・・・ん?」


 そんなニャルラトホテプの一体だが、何かの違和感に気付いたらしい。ふと周囲を見渡して、目の前に真紅の目を持つ黒髪の少年と目があった事に気付いた。が、人の形になれば目があう事は別に不思議な事ではない。なので気にしない事にしようとして、違和感に気付いた。


「なんだ、単なる子供か・・・っ!」


 ぼんっ、という音と共に、ニャルラトホテプの一体が消滅する。そうして、真紅の目を持つ黒髪の少年がその場へと立った。


「わりぃ。あっこでの話はあんま見られてたら駄目っぽいらしいからな。ここでの事は不明って事にしといてよ」


 少年は己が消し飛ばしたニャルラトホテプへと謝罪する。そう、実はニャルラトホテプの監視が解かれていたのは、彼が全て消し飛ばしていたからだ。大精霊の助力を受けられる事を祢々達にバレては駄目だろう、と判断した彼は独自に動いていたのである。と、そこに褐色の肌を持つ美少女が舞い降りた。こちらはナイアである。


「おや・・・近くで私が消し飛んだ感覚があったので来てみれば・・・貴方は確か・・・」

「よっす」

「よっす! って、違います。貴方は・・・なぜこのような場に?」

「あれ? オレ知ってんの?」


 ナイアに対して少年が問いかける。が、これは少々間違いだった。


「いえ、貴方の事は存じ上げておりません。ただ私も職務上世界に関する内容は並以上に与えられていますので、貴方方についてもこの星の神々以上に把握しているというだけです。それ故の疑問です。貴方方の一族は単独の所には関わらない、というスタンスだったはずですよね? この星に居るルシフェル殿を除いては、ですが・・・」


 ナイアは訝しげに少年へと問いかける。彼女らは彼女ら自身が述べた様に、星の海へと文明が足を伸ばした時点で試練を下す存在だ。

 が、それ故その時点で例えばカイトの様に他の世界へと足を伸ばせる様な人物が現れないではない。それ故、ニャルラトホテプ達には例えば御門やアテネ以上の他の世界に関する知識を与えられていたのである。それに、少年が笑った。


「色々とあるんだよ、オレにも」

「それはその肩にいらっしゃる女性にご関係が?」

「んー・・・まぁ、そんなとこ」


 少年はナイアの問いかけに少し考えて頷いた。その少年の肩には、一つの金髪の小人の女性が座っていたのである。消し飛ばしたのは彼だが、ニャルラトホテプを隔離したのはこの金髪の小人の女性だった。そうして、そんな少年が僅かに魔力を溜めながら問いかけた。


「で、どうする?」

「いえいえ、敵対するつもりはありませんよ。そもそも私も彼らを掣肘しようとしているわけですし。彼ら、見境なく真王様のご家族を危険に晒しかねないので・・・彼ら、後始末は私がやるとわかってるので好き勝手にやるんですよ」


 ナイアは嫌そうな顔で消し飛ばされた自分達を語る。彼女の言う通り、後始末をするのは彼女なのだ。やらされる身にもなれ、という事なのだろう。


「まぁ、そう言っても一度目消し飛ばされた時点で私も可怪しいと思い、二度目の方を餌とさせて貰ったので何か言うつもりはないです。こっちも餌にさせて貰いましたからね。お互い様です」

「そか・・・じゃあ、オレはもう行くよ」

「はぁ・・・ああ、一応お礼は。ありがとうございます」

「良いって良いって。しばらくはオレも彼女らの近くに居るしさ・・・ん? あ、そっか。そういうやり方もあるのか・・・わかった」


 少年は背を向けて立ち去ろうとして、肩に乗せた女性から何かを言われて立ち止まる。そうして、こちらも立ち去ろうとしていたナイアの方を向いた。


「なぁ、お礼なら一つ良い?」

「はぁ、構いませんよ?」

「オレの事、黙っといて。カイトはわかってるだろうけどさ。特にルル」

「ルル・・・ルシフェル殿の幼名でしたか? まぁ、構いませんが・・・ああ、もしかして貴方は・・・」


 どうやら、この発言でナイアは黒髪の少年の正体が分かったらしい。納得がいった様に目を見開いた。


「お名前は確か・・・えぇと・・・」

「クロス。今はそう名乗ってるから、そうしといて」

「はぁ、わかりました。では、クロスさん。ありがとうございました」

「おう、じゃあなー」


 黒髪の少年ことクロスはそう言うと、片手を挙げて消え去った。彼も修学旅行の真っ最中だったのだ。戻っていったのだろう。そうして、それに続いてナイアも消える。こうして、闇に蠢く者達は闇に蠢きながら、彼らは彼らの思惑の為に動く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。クロスの正体はわかりやすいかと。次回投稿は来週土曜日21時からになります。

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