第163話 提案
妖精達の治める森の奥深くにある一つの湖。そこにて浬達は遂に、この世で最も尊いと言われる大精霊の一人との会合を果たした。そうしてただ現れただけで表面化した問題がクリアされた後、闇の大精霊が自己紹介を行う事となった。
「・・・私は闇の大精霊。この世の闇全てを司る者・・・名はルナ」
闇の大精霊は己の名をルナと名乗る。そうして、彼女は続けた。
「この名はカイトが付けてくれた物。だから一応これで呼ぶのはカイトの知り合い達ぐらい。外では闇の大精霊と言わなければ通じない」
「その外もほとんど通じないのが、地球なんだけどな」
カイトがルナの言葉に続けて笑う。なお、名付けたのは異世界エネフィアでの事だ。だが、大精霊達は性質や性格が異なれども根は一緒で記憶等は全て統一して保有しているらしい。というわけで、どこかの世界で使った名を統一した名として使う事にしたらしい。
今まで誰も名付けなかったのは大精霊を相手に名前を付けるなぞあまりに不敬である、という事だそうだ。カイトはそこら気にしなかったらしい。故に、気に入られているというのが彼らを知る者達の統一見解だ。と、そんな事を話した直後、ルナがため息を吐いた。
「・・・疲れた」
「あ?」
「・・・」
「いや、だから喋れよ。てめぇらの言葉は念話状態になるとオレにしか届かねぇんだよ」
どうやら、再びルナは念話に似た力でカイトに向けて喋っているらしい。先程カイトが無言のルナと喋っていたのは、つまりそう言う事なのだろう。そうして、不満げにルナが再び口を開いた。
「・・・しょうがない」
「そうしてくれ」
「それで、貴方達の事は知ってるし見てた。なので何をしに来たかもわかってる」
ルナは改めて浬達の事を見知っていたと明言する。彼女らはこの世界中の何処にでも存在している。故に、彼女らが知らないことはほとんど無いそうだ。知らない事となると、意図的に彼女らから隠れたり隠したりした事になるらしい。とは言え、普通に生きている者達の事になると、大半は把握しているそうだ。故に浬らの事も直接は見ていなくとも、わかるのであった。
「可能不可能であれば、出来る。私とソル・・・光の大精霊の力を組み合わせれば、呪いと貴方達を分離させて後はルイスなりアテネなりの力で消し飛ばすなり<<解呪>>は容易。そして分離された力は更に強力な力で吹き飛ばしてやる事は造作もない。ルイスやアテネであれば、おそらく片手間でも吹き飛ばせる」
「本当、ですか?」
「うん」
浬の問いかけにルナが頷いた。その顔は平然としており、一切の嘘が無い事を全員に知らしめていた。これが、大精霊の実力だった。アテネやルシフェルという名だたる存在が難しい明言した事をサラリとやってのけるのである。
「良かった・・・」
「はぁ・・・」
「ふぅ・・・」
やはり心配だったのは心配だったのだろう。ルナの言葉に少女三人組が安堵の吐息を漏らした。とは言え、これはフェルら大精霊という存在を知っている者からしてみれば、至極当然な事だ。なので驚きも無かった。が、そこに条件がある事はすでにルナが述べており、改めて彼女はそれを明言した。
「ただ、その為には貴方達はソルと会う必要がある。私とソルは二人で一つ。光と闇は不可分の存在。故に私達が100%の力を使えるのは共に揃ってこそ」
「それで、そのえっと・・・ソル様? はどこに?」
浬がおずおずと言ったぐあいに問いかける。そもそもここに彼女らがやってきている様に、カイト達はルナの居場所は知っていたのだ。そしてここに来た理由は、そのソルの居場所を知る事だ。これが、本題とも言える。
「・・・」
「・・・え? マジ? それ、オレ知らねーぞ」
どうやらルナは言い難かったらしい。カイトへと念話を使って述べたらしい。カイトが思わず笑っていた。それに、浬が問いかけた。
「どしたの?」
「・・・日本に居る、だとよ」
「・・・え?」
浬が唖然となる。まさかの振り出しに戻るであった。確かにこれは言い難いだろう。ここまで色々とやって来させておいて、結論としては日本に戻れ、である。一応知らなかったので決して無駄にはなっていないが、この移動の大半が無駄だったとも言えるだろう。そうして、ルナが詳細を語った。
「・・・正確には富士山の山頂。あそこは色々と特殊な力場があるから、光と火の大神殿がある」
「あー・・・あそこかぁ・・・厄介だなー・・・」
カイトは詳細を知って、顔に苦いものが浮かぶ。どうやら、彼は詳細を知っているらしい。
「どしたの?」
「あー・・・うん、まぁ・・・ぶっちゃけるとそこ多分領有されてんだわ、とある組織に」
「正解。そこ」
カイトの言葉にルナがぺちぺちと手を叩く。どうやら、カイトの予想は大正解だったらしい。そして、それでフェルも理解したようだ。
「なるほど・・・あそこか」
「はぁ・・・厄介な・・・」
どうやらカイトとフェルの二人は日本を中心として活動していたからか、詳しいらしい。一方のアテネはどうやら知らなかったようだ。
「何処ですか?」
「『富士桜の姫』・・・姫様のいらっしゃる場所だよ。日本の聖域。聞いたことぐらいあるだろ?」
「あー・・・」
どうやら、アテネもこれでわかったらしい。顔に苦いものが浮かんでいた。相当に有名な場所なのだろう。と、その一方煌士は聞いたことの無い名前が出た為、一同に問いかけた。
「『富士桜の姫』・・・ですか? 失礼ですが、それはどのようなお方なのですか?」
「あら・・・聞いた事は無いのですか?」
「? 我輩ですか? いえ、とんと・・・」
アテネが少し驚いた様子を見せたのに対して、煌士は本当に知らない様子で首を振る。が、それに驚いたのは浬の方だ。彼女は一ヶ月程前に聞いた名だったので覚えていたのである。
「え? マジ?」
「む? まさか知っているのか?」
「うん・・・前、お兄ちゃんが鏡夜さんと話してるの聞いた」
煌士の驚いた様子に浬がはっきりと頷いた。そうして、カイトへと確認を頼む事にする。
「確か・・・富士山の山頂に居る、とか言う話だっけ?」
「ああ、そうだ。姫様だな。日本で最も敬われるお方。そして、天道家の開祖でもある」
「・・・へ?」
「私達の・・・?」
唐突に出された自分達の開祖の名に、天道家も本家に近い所に所属している三人が目を丸くする。自分達の開祖にも関わらず、聞いた事もなかったのだ。それを見て、フェルがおおよそを理解した。
「大方、知らないでも良いという判断だったのだろうな」
「なるほど。安易に情報が漏れても困りますか。あれの重要度はおそらく日本の国家安全保障における最重要人物。煌士、貴方より上と捉えられているでしょう」
「まぁ、そりゃそうだわな。日本の地脈を一人で操作出来るんだから。逆説的に言えば彼女の身柄さえ抑えてしまえば、日本なんぞ簡単に壊滅させられる。第二次大戦終了直後のアメリカをして、絶対に不可侵を明言させた本当の聖域と貴人だ」
アテネの言葉に続けてカイトが断言する。それほどまでに、とてつもない人物らしい。
「まぁ、そういうわけでそこを治めているのは子孫である天道家・・・つまりは、煌士の実家っつーわけだ。しかも警備は陰陽師達の超腕利き、自衛隊の特殊部隊、宮内庁の秘密工作部隊とモロガチの所」
カイトはあははははは、と笑いながら目的地についてを語る。が、そんな風に笑っていられないのが、浬ら呪われた少女らだ。
「それ・・・どうやって行けるわけ?」
「あっははは。考え中・・・いや、マジで考えさせて・・・オレ達だけならどうにでもなるけど、お前ら居ると話別だわ・・・」
カイトはずーんと落ち込んだ様子で少し時間をくれと明言する。そしてこれは、フェルもアテネも同意する内容だった。まさかこことは思いもよらなかったのだ。何ら遜色なく、日本で一番警備が厳重な所に浬らが向かわねばならないのだ。
バレずにやるにはどうすればよいか、と非常に悩ましい所だった。が、これに一筋の光明をもたらしたのは、他ならぬ天道家本家の子、煌士だった。
「あ、あー・・・あの、我輩では謁見は申し出られないのですか?」
「ふむ?」
「年末年始、父は必ず日本に滞在し、毎年どこかへ挨拶へ向かっていると把握しております。そして今のお言葉が確かであれば、それはおそらくその『富士桜の姫』とやらの所なのではないですか?」
煌士は己の知る父の行動から、カイト達へと確認を申し出る。実は煌士とその妹達、そして詳細を知らない姉の桜は非常に疑問だったのだが、父は世界的な大財閥のトップとして年がら年中忙しいにも関わらず必ず年末年始にだけは必ず家にいたのだ。
普通は年末年始も忙しく動く企業人は少なくないだろうにも関わらず、それは決して変わった事がない。天道本社へと出社したとも聞かない。煌士が幼少の頃に聞けばこの年末年始だけは家族で過ごす事にするのが天道家のルールだ、と笑って言われたそうだが、今思えばそれは日本にいなければならない理由があったのではないか、と思ったのである。
「ああ、それはそうだな。彼女も年末年始には天道家の分家の長達を引き連れて覇王殿が挨拶に来ている、と明言している。彼女はまごうこと無くこの日本でトップクラスの偉人だ。その子孫として、覇王殿は年末年始には欠かさず挨拶に出向かれるそうだ。勿論、これは組織として必要な事だからな。他にも神宮寺家とかでもその祖となる奴らへお目通りするのは普通だろう」
煌士の問いかけにカイトはそれで間違いではない、と明言する。ここらはカイトも『富士桜の姫』当人から聞いていたし、覇王からも年末年始には彼女の所に挨拶に出向くと聞いていた。
「であれば、我輩も魔術に関わった以上、ご挨拶に伺うべきなのではないか、と愚考する次第です」
「ふむ・・・確かに道理といえば道理か・・・とは言えそのまま言った所で却下はされるか・・・」
煌士の推察にフェルは同意する。彼はゆくゆくは『秘史神』に関わる事になるのは確定だ。これは現状煌士がすでに天道家から魔術の存在を教わっている事からも断言可能だ。であれば、天道の子となると彼女に挨拶に行かねばならないのは、物の道理だろう。
であれば、彼が挨拶に行きたいといえば、行ける可能性は無くはない。が、フェルの言う通りそのまま言った所で難しい事は難しいだろう。何か一手必要な事は必要だろう。
「カイト。貴様、桜姫とは知己を得ていたな」
「ああ。一応、2年前のあの騒ぎの時にな。ヒメちゃん通せば普通にアポイントも取れるぞ?」
「それをやれ。適当に理由はでっち上げろ。貴様の得意分野だろう」
フェルはカイトに煌士がお目通り可能な理由を適当に作り上げる様に命ずる。それに、カイトはその提案に沿うべく何かアイデアを考える事にした。
「適当に、ねぇ・・・ヒメちゃんルートで適当に何か来た事にしておくか・・・口裏合わせ余裕だし・・・」
カイトはとりあえずどうにかする事を考える。と言うより、どうにかしないと始まらない。一度入ってしまえばこちらのものだ。が、入らない事にはどうしようもない。入れるとっかかりが見つかっただけ良しとしておく。
「わかった。とりあえずやっとくよ」
「そうしろ」
「・・・終わった?」
カイト達の会話が終わったのを受けて、ルナが口を開いた。どうやら待っていてくれたらしい。
「っと、悪い。ありがとう」
「ん・・・でも実は本題はそこじゃない」
「うん?」
カイトの感謝に頷いた後、ルナはまだ話が終わっていない事を告げる。そうして、本題を告げる事にした。
「先にも言ったけど、私は貴方達がどうなっているか知っている。ニャルラトホテプが何をしようとしているかも把握済み・・・だから、私達から提案がある」
「私達?」
ルナの言葉に浬が首を傾げる。ここにはルナしか居ない。達が誰を指し示すかわからなかった。
「私達・・・大精霊全員からの提案」
「・・・あまり承服しかねるな」
「でもそれが一番生き残れる可能性が高められる。今のままじゃあ確実に死ぬ」
真剣さを滲ませるカイトの言葉にルナも僅かな真剣さを滲ませる。それに、カイトは黙るしかなかった。
「あのゲームはかなり悪辣。どれだけタイムリミットギリギリまで粘ったとしても、貴方達は死ぬ様に設定されている。生還の見込みは無い。相手は相当な使い手。半年や一年で勝てる相手ではない。カイト達の助力を無理にされた時点で、完全に戦略で負けていた」
「っ・・・」
ルナよりただ淡々と語られた事実に浬達の顔が歪む。すっかり忘れていたが、呪いを解呪すればその時から祢々の告げるゲームの開始だ。そこも考える必要があった。
「それに対して、私達には止められる権限はない。でもそのかわり、力を与えてあげる事は出来る」
「力を・・・ですか?」
煌士が驚いた様子で問いかける。彼らとて大精霊達が物凄い存在である事は肌身に染みて理解出来た。その助力が何ら遜色なくアテネ達の助力よりもすごい事は、察する事が出来た。
「そう・・・これは多くの命が懸った事件。この星の命運を賭けた戦いでもある」
ルナは改めて、浬達のこの地球の未来が双肩にかかっている事を明言する。そしてだからこそ、可能な事があった。
「貴方達は契約者となり、私達の力を手に入れるべき。世界の命運を担う者達には、私達の試練に挑む資格がある。そしてこの場合の試練については、古来から私達は定めている。カイト達が受けた物と同一」
「契約者って・・・お兄ちゃんが言ってたあれ?」
「そうだ・・・だが、オレはあまり・・・」
浬の問いかけにカイトの歯切れは悪かった。確かに、浬達が契約者になれば生存の可能性は飛躍的に上昇すると考えて良い。それこそ今のコンマ数%という極小の可能性から半々ぐらいに持っていけるぐらいには上昇する。最善の中の最善と断言してもよいのだ。だがそれに対して、カイトは明言した。
「契約者となるということは、戦いの渦中に身を置くということだ。今後もな・・・これで終わりになるんじゃない。この後も続く事になる。契約者の力は絶大だ。遜色なく、異世界ではそれこそ国の開祖が手にする様な力だ。この地球でそれが生まれれば、どの国も放っては置かないだろう。勿論、それで手を出せるわけでもないけどな」
「それは・・・」
カイトの言葉にルナは言葉を濁す。それもまた、事実だ。これだけは、答えのでない問いかけだ。だが、同時にそうしないとほぼ確実に生き残れない事も事実だ。
「将来を見据えてコンマ数%の生存確率に期待するか、今後も覚悟してこの力を受け入れるか・・・お前らは、どうする?」
カイトが浬達へと問いかける。こればかりはカイト達が出して良い結論ではない。そうして、この結論は浬達に委ねられる事となるのだった。
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