第162話 大精霊 ――闇――
煌士達はフェル達の講習を受けつつ妖精達の治める森を更に進み続けた。そうして進み続ける程、およそ1時間。その頃には薄暗かった周囲は更に暗くなり、月夜程度にまでなっていた。一寸先は闇とまでは行かなくとも、夜と変わりない暗さだ。
「うっわー・・・こんな事あり得るんだ・・・」
「こんな事があり得る、というよりもここら一体は光が薄いんだよ」
浬の肩の上、モルガンが周囲が薄暗い理由を語る。と、それに意味不明だったので、浬が問いかけた。
「光が薄い?」
「正確には光属性の力が薄い、という所かな。まぁ、だから闇の大精霊様が顕現されるんだけど」
モルガンは道案内を行いながら、事情を語る。道案内が必要だったのは、ここの奥の闇の大精霊とやらが顕現出来る場所に何度も行った事があるのが妖精達を含めても彼女だけだからだ。勿論、トリスタン、ベディヴィアも行った事はない。
一応ここの里の出身という事でヴィヴィアンら三姉妹も知っているが、一番良く行っていたモルガンがやるべきだろう、という判断だった。地元民は誰も行かないので不確かだそうだ。
「力が薄いとかそんな事があるの?」
「まぁね。と言っても詳しい話は知らない。と言うより、知れない。私が知っているのは、そこがあるという事だけ。多分星が設けた大精霊様用の休息地みたいな所じゃないかな、と推測してみたり」
「へー・・・」
いい加減なモルガンの言葉にそういうものなのか、と浬は頷く。ここら、素直に受け入れられるのは彼女の良さだろう。と、そこでふと気付いた。
「・・・あれ? 様?」
「何が?」
「いや、大精霊様、って・・・」
「ああ、それ・・・多分、呼び捨てやってるのカイトぐらいじゃないかなー」
モルガンはスリープ状態で自分達一同を追跡しているカイトを見る。そこには僅かな畏れが乗っていた。
「え、それじゃあもしかしてフェルちゃんも?」
「そりゃそうだよ。ヴィヴィだってそうでしょ?」
「あー・・・私は、微妙かなぁー・・・」
「あー・・・そう言えばそうだっけ・・・あんたそこら特殊な事例絡んでるからなー・・・」
話を振った相手が悪かった、とモルガンは頭を掻く。どうやら、何かあるらしい。
「どして?」
「私、実は大精霊様達とはかなり古い知り合いなんだよね。私が世界と希望者の橋渡しをしているのだって、そこの関係だからね。と言ってもまさかこんな近場にあったなんて、っていう所なんだけどね」
ヴィヴィアンは浬の疑問に軽くはぐらかしながら答える。ここら、すごく面倒な話が絡んでいるらしい。というわけで今は語らない事にしたそうだ。
「まぁ、そういう特殊事例は置いておいて。ルイスー、あんた大精霊様呼び捨てする?」
「・・・貴様はバカか。誰がやるか」
「「「え!?」」」
呆れ返った様子のフェルの返答にアテネや少女騎士らを除く全員が仰天する。このいつも傲岸不遜なフェルが、呆れ返って絶対にしないと明言したのだ。驚きの程は物凄いことは、察するに余りある。
「あのな・・・幾ら私とて大精霊様方と会う時は普通に跪きもする。と言うかそうしないのはカイトだけだ。忘れたか? あいつは唯一、大精霊が対等と認めた存在だ。いや、これは貴様らも会えばわかる。相手はな、格が違う」
「まぁ、そりゃわからないでもないけどさ・・・」
疑問を投げかけておいてなんではあるが、浬としてもわからないでもない。相手は王様なんぞ目でもない正真正銘雲の上の人だ。それが道理なのかもしれないが、フェルがそう言うのが何か想像出来なかったらしい。とは言え、会えばわかる、という事なので浬達はとりあえず進み続ける事にする。
「カンテラ、有ってよかったね」
「無かったら暗くて歩きにくいからね」
「と言うか、なにげに大精霊様に会うのって初めてだなー、私」
ヴィヴィアンの言葉にニムエが同意して、エレインが上を見上げる。そこには小さな光の球の様な物が舞っていた。
「近いね」
「ホタル・・・?」
「違う違う。小精霊だよ」
鳴海のつぶやきにエレインが首を振る。淡い光はホタルの光にも見えるが、実際には違うらしい。そうしてその言葉にフェルとアテネが顔を上げた。この小精霊が居るということは、大精霊達が居る場所が近いという証だからだ。
「そうか。もうそんな所に入ったか」
「トリス、ベディ。剣を仕舞いなさい。ここから先は魔物は出ません。不敬になりかねません」
「「はっ」」
アテネの指示を受けて、トリスタンとベディヴィアが剣を異空間へと収納する。大精霊達の居る場所というのは世界のシステム上魔物は発生し得ないそうだ。
そして魔物達も本能的にここは荒らしては駄目だと理解しているらしく、滅多な事では近づかないらしい。故に、安全なのだそうである。モルガンがここで泣いていたのは、ここではどれだけ泣き叫んでも大丈夫と感覚としてわかっていたからだそうだ。と、その一方で侑子がエレインに先程の事を問いかけていた。
「何なの、小精霊って」
「精霊の子供・・・と言っても大精霊様の子供とかじゃなくて、精霊に成りつつある存在っていう所」
「絶対に手を出しちゃ駄目。彼らは非常に脆くて弱い存在。近づいても駄目。綺麗だけど、捕らえるとかしてしまったらどんな事が起きるかわからない」
エレインに続けてニムエが語る。彼女らは敢えて語らなかったが、実は普通の人ならば近づくだけで逃げていくそうだ。よほど大精霊に好かれてでもいなければ近づけないそうである。
「でも・・・きれー」
「妖精達の里も綺麗だったけど、こっちも良いねー」
浬と侑子が上を見上げ、幻想的に舞い踊る小さな精霊達を見て感動する。彼らのお陰で先程までの暗さが単なる暗さではなく、幻想的な彼らの光を強調するステージになっていた。
怖いどころかもっとここに居たいと思える程だった。そしてその感動は鳴海も一緒だったが、彼女はどうやらこの光景にミーハーな部分が刺激されてしまっていた様子である。
「す、スマホで撮影したい・・・」
「やめておけ、それは・・・」
「ぐ、わかってる・・・けどこれをネットにアップしたい・・・ものすっごい綺麗・・・」
フェルの制止を聞くまでもなく自分で止まっていた鳴海であるが、なまじホタルが舞い踊っている様子にも見える故にSNSへの投稿がしたくなってしまったらしい。
ここら、最近ネットから隔絶されてしまっている彼女には禁断症状の様な物が出てしまったのだろう。彼女らしいといえば、彼女らしいのかもしれない。と、更に歩くこと10分程。一同の前に木々に囲まれた湖が現れた。
「あった。ここが、そうだよ」
「うわー。ここもすっご」
モルガンが指し示した湖を見て、浬が目を見開いた。湖の上では小精霊達が舞い踊っており、先程までより一層幻想的な光景を醸し出していた。と、その一方でモルガンは目的地に到着したのでカイトを起こす事にした。
「カイトー、目的地到着したよー」
『ん。ん、ああ。着いたか』
今までフェルを止めて以降無言を貫き通していたカイトが声を発する。大精霊と仲介役になれるのは、カイトただ一人だ。故に彼が目をさましてくれないとどうしようもならないのである。そうして、カイトが人の形になる。
「ふぅ・・・ここが、闇の大神殿の入り口か」
「入り口?」
「ああ、ここが一種の扉みたいなもんだ」
浬の問いかけにカイトが頷いた。どうやら、ここから先に用のある大精霊が居る神殿とやらがあるのだろう。
「本当は、大精霊達の神殿の在り処を探す事も試練なんだが・・・今回ばかりはオレの特権という事でお目こぼしをもらうしかないからな」
カイトは頭を掻く。ここで闇の大精霊と会える事を妖精達の誰も知らなかった様に、実はここに来たから絶対に会えるわけではないらしい。ここで会える事を知って、更には会っても良いと向こうが判断して謁見が可能になるそうである。
が、ここらに関してはカイトが居る為、顔パスに近い事になるらしい。そうして、カイトは闇の大精霊へ向けて声を掛けた。
「おーい、ルナー。居たら返事してくれー。悪いけど今のオレじゃ扉開けらんなくてさー」
「! カイト! ちょっと!」
「おい、待て! 貴様唐突に呼ぼうとするな!」
唐突に声を掛けたカイトに対して、なんとアテネとフェルがかなり大慌てで制止を掛ける。この二人が焦るぐらいには、どうやらヤバイらしい。と、そんなフェルは自らも跪いて浬らに小声で怒鳴った。
「貴様ら良いからさっさと跪け!」
「出てこられる前に跪きなさい!」
「え、あ、うん」
見ればかなり慌てた様子はあったものの少女騎士らとエレインとニムエも跪いていた為、浬らも慌てて見よう見真似で跪く。これで、立っているのはカイトただ一人だ。モルガンとヴィヴィアンについてはカイトの肩に座っていた。こちらはこれで良いらしい。と、そんな様子にカイトが気付いて、頭を掻いた。
「ん? ああ、悪い悪い。まぁ、そこまで畏まる必要もないんだが・・・」
「そう出来るのは貴様だけだ」
滅多に無い程にしっかりと頭を垂れたフェルはカイトに対して一つ頷く。これで、こちらの用意は整ったという合図だ。
「はぁ・・・おーい、ルナー。寝てるのかー」
カイトは再度、闇の大精霊へと呼びかける。なお、寝ているというのは闇の大精霊というぐらいなので夜が本来の活動時間――当人談――だからだ。寝ている事も多いらしい。と、そんなカイトの言葉を聞いたかの様に、何らかの存在が顕現しようとする力の奔流が浬らを襲った。
「っ!?」
「何よ、これ・・・」
本能で、浬ら全員が理解した。この相手は自分達より遥か格上の存在である、と。本能がこの存在に対して畏敬の念を抱いていたのである。そうして、その畏敬の念の象徴が遂に姿を表した。
「・・・」
「よ、悪いな。何分本体はエネフィア行っちまったからな。こっちにまで来るしかなかったんだよ」
「・・・」
「だから忘れてたのは悪いって。拗ねんなよ。お前らも忘れてたじゃねぇか・・・あ? ああ、それでちょいとお前らの力を借りたくてさ」
カイトは無言を貫く闇の大精霊と会話を行う。どうやらカイトには、彼女の声が聞こえるらしい。
「ああ、紹介しとく・・・って、必要無いか。でも、一応な。オレの妹の浬と弟の海瑠。で、そっちの女の子二人は鳴海ちゃんと侑子ちゃん、メイド服のは詩乃ちゃん。で、まぁ、ソラの弟の空也はお前らもわかるか。向こうで会ってるだろ? そっちのは桜の弟で煌士。そっちの騎士ちゃんズはお前も見てたよな」
カイトは一通り初見となる浬らと少女騎士らについての紹介を行っておく。まぁ、軽くなのは本来彼女ら大精霊はカイトの精神世界に常駐している為、カイトが見た光景は彼女らが見た光景でもあるからだ。
故に、全員知っているというわけであった。が、こうして直に会うわけなので一応紹介しておいた、というわけである。そうして、一通りの紹介を受けた後、闇の大精霊が口を開いた。どうやら喋る事は可能らしい。
「・・・はじめまして。それと、ルイスは久しぶり」
「はい、お久しぶりでございます」
「お初、お目にかかります。雷の大精霊様の麾下の雷神ゼウスが子、アテネ。このような形での対面が叶い恐悦至極にございます」
フェルとアテネが闇の大精霊の言葉に応ずる。が、出来たのはこの二人だけだ。他はトリスタン達を含めて、完全に何かを言える余力は一切なかった。それほどまでに、大精霊とは存在そのものが格が違うのであった。
「ルナ。力を抑えてやってくれ。オレは良いけどこいつらがな」
「・・・うん」
カイトの言葉を受けて、闇の大精霊が放出していた力を抑える。それを受けて、浬達はようやく自分達の呼吸がひどく荒くなっていた事を自覚した。
「はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「何、今の・・・」
「わかったか。これが、大精霊様だ。存在そのものが神なんぞとは桁が違う。本気になった神が出すだろう威圧感を、この方々は常時で放出なさる。それほどまでに、彼女らは尊いお方だ」
必死で息を整える浬らへ向けて、フェルが明言する。彼女から言わせてみれば、大精霊達のこの力を受けていれば他の神々の威圧なぞそよ風にも等しいとの事だ。そしてその言い分は、浬らにもよくわかった。彼女らと会ってこの地球で一番の偉人と会ったとて、それが霞むだろう。緊張もしないかもしれない。
それほどまでに、大精霊という存在は人とは格の違う存在だった。そうして、浬達はついに闇の大精霊との会合を果たしたのだった。
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