第160話 何時もの彼女達
彩斗達がスカサハ達と連日に渡る商談を進めていた頃。初日にティターニアからの許可を得た浬達はというと、再度森の中に入っていた。とは言え、流石にいつもいつもあの妖精達の挨拶をされては堪ったものではないので二度目となる二日目からは普通に何も無く妖精達が挨拶に出てくれていた。
「おはよー」
「ねむ~・・・うわっぷ」
「きゃあ!」
どうやら寝起きに挨拶に来てくれたらしくフラフラと浮遊していた妖精少女に胸に突っ込まれた浬がかわいい悲鳴を上げる。少女なので寝ぼけを偽った悪戯とかではないだろう。と、そんな少女はどうやら浬の胸に突っ込んだ事に気付いていないらしい。柔らかく沈み込んだ反動で枕に突っ込んだかの様に少しだけモミモミと揉みしだいていた。
「わー・・・ふかふか・・・おやしゅみ・・・」
「きゃあ! あ、ちょっと! そんなとこで寝ようとしないでよ!」
こてん、と意識が落ちる様にウトウトとし始めた妖精に浬が大慌てで抱き上げる。このままに寝られても対応に困る。と言うか、彼女の胸は幾らやわかかろうと枕ではないのだ。と、そんな様子を微笑ましげに見ていた侑子であったが、その横の鳴海は少し真剣な目で観察していた。
「・・・最近、負けたかも」
「え?」
「うーん・・・浬ー、あんたもしかして自分で揉んでたりする? それとも、あれ? モルガンちゃんの話に触発されて遂に禁断の道、進んじゃった?」
隣でボソリとつぶやかれた一言に首を傾げた侑子をスルーして、鳴海が浬へと問いかける。妖精少女はぶつかって動いた際に器用に浬の胸の谷間に突っ込んでいて、谷間が強調されていたのだ。
「へ? 何が?」
「いや、あんた・・・うーん・・・やっぱちょっと大きくなってるような・・・」
「鳴海・・・あんたちょっとおっさん臭くない?」
屈んでしげしげと己の胸を観察する鳴海へ向けて、浬が呆れる。その一方、そんな浬の言葉を無視した鳴海は何かを考え込む様に自分の胸を何度か弄っていた。
「うーん・・・ふむ。このぐらいだから・・・」
「ひゃあ! いきなり何すんのよ!」
「いや、恒例の胸チェック」
「恒例にすな!」
わきわきと手をニギニギする鳴海に対して、浬がぺしん、とツッコミを入れる。ちなみに、恒例というわけなので実は体育の着替えの時等にはよく行われているらしい。女の子だらけだとこういう物なのだろう。
「いーじゃん、一回目じゃないんだから!」
「一回目じゃなかろうとだめなものはだめ!」
「朝から元気な奴らだ・・・」
ワイのワイのと騒ぎ合う鳴海と浬を見て、フェルがため息を吐いた。こちらは実は寝起きが悪いタイプで、朝は弱いらしい。僅かに顔を顰めていた。と、そんな様子だったからか、鳴海の目が一瞬光った事に彼女は気付けなかった。
「・・・今なら・・・行ける!」
「ひゃあん! 貴様、何をする!」
「良し、行けた!・・・やっぱ彼氏持ちすごいわ」
狙いすました一瞬での行動は流石にフェルでも回避不能だったらしい。そしてなにげにクラスメート達は誰も成功していなかったらしいフェルの胸揉みを成功させる。
なお、その後に顔を赤らめているあたり、鳴海も初心な女の子という事なのだろう。友達だからやっているだけとも言える。決してそっちの趣味があるわけではない、のだと思われる。詳細は不明である。
「貴様・・・死にたいらしいな」
「ご、ごめんごめん! でもどうしても浬と大きさ比べたくてさ!」
眠かった事もあって不機嫌さマックスで更には白銀の細剣を構えたフェルに対して鳴海が大慌てで両手で降参を示す。こんなじゃれ合いで死にたくはなかった。そんな彼女に、フェルはため息混じりに肩を竦めて細剣をどこかへと仕舞った。
「はぁ・・・」
「ほっ・・・にしてもやっぱり彼氏持ちはなんていうかさ・・・すごいねー」
「何がだ」
「いや、反応」
フェルの言葉に鳴海が感想を口にする。
「何ていうかさ。艷が有る? って言うんだっけ。聞いた事ない反応だった・・・」
鳴海は僅かに顔を赤くしながら、少しだけ視線をフェルから逸らす。フェルが改めて同級生であってもそれを偽っているだけの大人である事を理解したらしい。
「いやぁ・・・浬とほとんど変わらない大きさだけどやっぱりそこらフェルちゃんの方が大人だわ」
「・・・なん・・・だと・・・?」
鳴海の感想にフェルが目を見開く。敢えてその表情を表すのなら、愕然という所だろう。
「・・・いや、私はプロポーションの良さが売りだ。気にしなくて良いし、この程度でも十分大きいはずだ。そうだ、あのティナのバカが無駄に大きいだけだ。それにそもそも今の肉体年齢は中学に入学する為に16とかその程度にしている。もう少し上に上げれば更に大きくなる。それにカイトがこの姿が良いと言っていたからしているだけだ。何の問題も無い」
「・・・フェ、フェルちゃん?」
浬が急にボソボソと何かをつぶやきながら胸をふにふにと揉んでいたフェルの様子を訝しむ。本当に唐突だった。そして訝しんでいた鳴海も一緒だった。
「・・・なんか私変な事言った?」
「さぁ・・・」
鳴海に問われた侑子が首を傾げる。一応言うがフェルのプロポーションは現段階で十分に素晴らしく、胸のサイズは十分に巨乳と言える領域だ。気にする必要は無いはずである。
「・・・そうだな。何の問題もない」
「・・・おーい、フェルちゃーん・・・?」
相変わらずブツブツと独り言を言うフェルの顔の前で、浬がひらひらと手を振る。が、珍しい事に彼女はそれでも気づかなかった。
「おーい、フェルちゃーん。フェルたーん。ルルさまー。ルイスちゃーん」
「・・・ん?」
「あ、気づいた。どしたの? ブツブツとなんか言って・・・」
「・・・い、いや、なんでもない」
顔を真っ赤に染めてそっぽを向いたフェルはどうやら、独り言を言っていた事に気付いたらしい。そんな様子に、鳴海が思わずぼそりと呟いた。
「・・・ヤバイ、むっちゃかわいい」
「ん?」
「分かる。フェルちゃんもやっぱり女の子なんだねー」
「なんだ、その視線は!」
「隠さなくてもいいから。やっぱりカイトさんの彼女やってるとライバル多いんだねー」
ニヤニヤと笑う鳴海の言葉にフェルは真っ赤に顔を染める。完全に聞かれていた事を理解したらしい。そんな様子に、浬も侑子も笑っていた。
「き、貴様ら! 今すぐ忘れろ! いや、今すぐ記憶を消してやる! っ! そこの小娘騎士共! 貴様らも聞いていたな!」
「え!? い、いえ! 騎士が盗み聞きしません!」
「え、ええ! これは不可抗力といいますか! 決して、聞くつもりだったわけではありませんわ!」
「あ、トリス! バカ!」
唐突に話を向けられたトリスタンが思わず自白して、それにベディヴィアが罵声を飛ばす。それに、トリスタンもしまった、と言う顔をした。
「・・・貴様ら・・・覚悟は良いだろうな・・・このルシフェルを怒らせた事を後悔させてやる・・・」
完全に周囲に聞かれていた事にフェルが逆ギレを起こす。まぁ、恥ずかしかった事もあるので照れ隠しだろう。が、それがわかっているが故、浬達は楽しげだった。
「「「きゃー!」」」
「「「わー!」」」
浬達が楽しげに色めき立って逃げ惑う様を見て、どうやら妖精達も楽しくなったらしい。彼らも一緒に逃げるフリをしていた。と、そんな全員を追い立てようとしたフェルに対して、背後へとカイトが降り立って彼女を抱きとめた。
「あっはははは! ほら、ストップ」
「ひゃん!」
フェルの背後に降り立ったカイトは、話の流れに沿うようにフェルの胸を鷲掴みに近いかたちで揉む。が、なにげにそこには慣れがあった為、わかってやっているのだろう。そんなカイトを、嬌声を上げたフェルが真っ赤になりつつも睨みつけた。
「き、貴様・・・」
「あっははは。仲良きことは美しきかな、というわけっちゃあ言うわけなんだけど、流石にお前に暴れられたらここらが吹き飛んじまう」
「くっ・・・あ、おい・・・くぅん!」
カイトに胸を揉みしだかれ、フェルが耐えられぬ快楽に力を抜く。何度も、この手に揉まれたのだ。ツボを熟知しているカイトに勝てるわけがなかった。
「貴様・・・後で覚えておけ・・・本体に復讐しに行ってやるからな・・・」
「どうぞどうぞ。ついでに本体に逆襲されてきてください・・・それに、お前そう言いながら一度も勝てた事ないじゃん」
「うるさい!」
真っ赤な顔でくったりと萎びた春菊の様になりながらカイトを潤んだ目で睨みつけるフェルへとカイトは笑いながら承諾を告げる。が、それにフェルは少し嬉しそうにしながらも不満げだった。
まぁ、ここら色恋沙汰になればカイトは自分の方が強い事を熟知している。何時でも来い状態だった。なお、常日頃になれば逆に尻に敷かれるのは彼なので、強いのはこういう事だけである。
「うわ・・・すご・・・」
「・・・やっぱ、彼氏持ちってすごいね」
「反応出来るわけないでしょ」
そんな様子を見ていた中学生少女ら三人はというと、全員揃って大人な二人の応対に顔を赤らめていた。流石にこれは想定外だったらしい。なお、浬のみ複雑というか真っ赤になりながらも不満げというか兄を恋人に取られた妹の図をしていたのは、ご愛嬌と言うところだ。と、そんな三人に向けて、フェルを抱きとめて抑制していたカイトが事情を教えてくれた。
「あはは。ほら、ティナ居るだろ?」
「え、ああ、うん」
「あいつの本当の姿ってさ。身長170のバスト100オーバーって物凄いわけよ。あ、当たり前だけど寸胴とかじゃなくてボン・キュッ・ボンな。どっかの女怪盗も顔負けぐらい女の色香すげぇの」
「み、三桁超え・・・」
やはり女だからか、三桁の凄さは直感的に分かるらしい。鳴海――勿論浬と侑子も――が頬を引きつらせていた。それに、フェルが不満げに口を尖らせた。
「私だってあのぐらいの年齢まで身体を成長させればそれぐらいにはなる」
「いや、お前今ぐらいかもうちょい上程度がベストじゃん。オレと出会った時からほとんどそのサイズだしさ。それになにより、これだとオレが完璧に抱きとめられるし。ティナのあのサイズだとちょいと流石に厳しいんだよな」
「むぅ・・・」
現状の心地よさに満足しているフェルは、カイトの言葉に複雑そうだった。やはり恋のライバルに負けたくない気持ちはあるらしいのだが、何よりこのサイズが一番彼女としても心地よいらしい。それには抗えない気持ちと負けたくない気持ちが争っている様子だった。
「・・・うん、上手い」
鳴海がそんなカイトの言葉に素直に絶賛を送る。こんな事を言われれば女として嬉しくないはずがない。ハーレムを抱えていられるのもわかる様な気がしたのである。
現に今のフェルは口をとがらせていても、なんだかんだ非常に幸せそうだ。こんな顔をさせられるのだから、ハーレムではあっても一人ひとりに真摯に付き合っているのだろう。
「ま、そういうわけだから、ティナが絡んだ時だけは、こいつ若干胸の大きさ気にするんだよな」
「むぅ・・・いや、まぁ、そうだが・・・今回は・・・」
「へ?」
フェルの視線が浬の一部に注がれる。その部位とは言うまでもなく、胸だった。
「・・・貴様、成長が早いぞ」
「大きくなりたくてなったわけじゃないよ!? というか、今日の朝もブラきつくなってて痛かったんだからね!? できればそろそろ止まって欲しいんだけど! そろそろ男子の視線が結構きついのよ!」
「うそぅ・・・」
「・・・まだ大きくなるのか・・・」
「・・・」
浬の唐突な暴露に鳴海が目を見開きフェルが思わず脅威を覚え、胸囲の格差社会で現状一人負け状態の侑子がどこか遠い目をする。どうやら、浬はまだまだ成長途中らしい。と、そんな暴露を聞いて別な反応をした男が一人居た。それはフェルの後ろで彼女を抱きとめていたカイトである。
「ほう・・・」
「・・・おい、カイト。流石に妹に手を出すのは・・・いや、もう遅いのか」
「いや、流石に違いますよ!? クズハは血のつながりのないハイ・エルフですよ!? 一応立場上浬に下手に手を出されっと拙いんでそろそろ内偵とかしとかないとな、ってだけっすよ!? どっちかってとお兄ちゃんが妹も年頃になったんだなー、って感慨抱いてるだけっすよ!?」
「それでも十分ヤバイでしょ!」
カイトの弁明に浬がツッコミを入れる。ちなみに、カイトの理由は至極正当な物だ。カイトの身内ということは、日本政府からしてみれば要人でもある。何時か彼の正体が露呈した際の事を考えれば近づく男どもの調査もしなければならないのは、仕方がない事だった。
が、なまじ彼は異世界にて浬ら程度の見た目年齢の義妹に手を出している――義姉は大学生程度で許嫁なので除外――所為で要らぬ誤解を受けていた。
「・・・はぁ・・・」
いつの間にか兄妹での騒動にまで発展した浬らに対して、アテネがため息を吐いた。彼女は性格上こういった姦しい出来事には関わらない。なので呆れていただけだ。そんな彼女に、海瑠が頭を下げた。
「えっと・・・なんかごめんなさい・・・」
「貴方も大変ですね・・・」
「あ、あはは・・・」
アテネの労いに海瑠が遠い目をする。上二人が騒がしい性格だからこそ、彼はこんな性格なのかもしれない。ここまで押しの強い二人なのだ。自然、押されてしまうのだろう。そんな彼に対して、煌士は朗らかな顔で頷いていた。
「うーむ、女性達の乳繰り合う姿というのは何時もでも良いものであったな」
「あ、あはは・・・流石に私はなんとも言い難い所ですね・・・」
同意を求めてきた煌士に対して、なるべく騒動を見ないようにしていた空也が苦笑する。こちらはやはり男だった事もあって、騒動に関わる事もなく妖精達と戯れていた。
そもそも幾ら二人が並外れた中学生だからといっても、少女らが胸を揉んだり大きさを比べている話をしている所に突っ込む程の度胸は無いだろう。スペックはともかく性格としては中学生と変わらないのだ。当然といえば、当然である。そうして、今日も今日とてそんな騒動を行いながら、浬達は妖精達の里へと入るのだった。
お読み頂きありがとうございました。




