第157話 消失の理由
偶然によってリアレという魔女族の生き残り――正確には違うが――と出会う事が出来た彩斗達は、とりあえず三柴を中心として彼らが何よりも聞いておきたかった天桜学園消失についての話を聞くこととなった。
「ああ、ICレコーダーで録音しても?」
「録音? 外じゃそんなの使ってるのか・・・ま、好きにしな」
三柴が取り出したレコーダーを訝しげに見るも、リアレはそれに許可を出す。ここと外は連絡が取り合えないのだ。と言ってもこれは流石に報告に値するし、重要度はかなり高い情報だ。持ち帰る必要はあった。
「さて・・・天桜学園の消失だったね。これは勿論私だって聞き及んでるさ。流石にあそこまで大きな出来事だったんだからね」
まず、リアレは己も天桜学園の消失について知っている事を明言する。これを明言しなければ何も始まらない。
「で、だ・・・まぁ、そうなれば私らだって推測は立てる。お国に雇われてる研究者だからね。ここまでの大事を調べないはずがないし、彼女だって調べないで良いと言うわけがない。で、ここに連れてきたって事は、それを話せって事で良いんだろ?」
「うむ。儂がやっても良いが、餅は餅屋とこれの国では言うそうだ。ならば、こちらが良かろう」
「あんたも並の魔女より遥かに薫陶持ってるんだけどねぇ。攻撃系に至っちゃ私らより遥かに上だし・・・まぁ、そういう事なら構いやしないか」
スカサハの許可と共に告げられた言葉に笑いながら、リアレが少しだけゴソゴソと何かを探し始める。
「えぇっと・・・何処かに・・・あぁ、あったあった。最近の資料で助かった。ほれ、これがあの案件についてまとめた資料だ。欲しかったら後でコピーもくれてやるけど、今はこいつで我慢してくれ」
「ありがとうございます」
三柴はリアレから差し出された数枚の資料を見る。それは一言で言えば、天桜学園の消失についてまとめた物と言えるだろう。そうしてそれを渡してから、リアレは口を開いた。
「まぁ、大抵の内容は書いてあるんだけどね・・・一応、それは私ら魔術に特化した奴ら向けだから、補足はしといてやるよ。何分こっちのスカサハと良い私らと良い、ここの上層部は総じて魔術に長けちまってるからね」
「お願いして良いですか?」
「ああ・・・って、こっちから言ったんだからね。許可も出てるんだから気にしなくて良いよ」
三柴の依頼にリアレが笑って応ずる。というわけで、同じ資料をもう一つ取り寄せたリアレが天桜学園の消失に関しての解説を始めた。が、その前にリアレは一つのことわりを入れておいた。
「さて・・・まぁ、当たり前だけど先に断っておくよ。これはあくまでも推論。こんな大事件は私が生きてきた数百年じゃ初めてだし、おそらく地球の有史上でも初めてだろうね。それこそアトランティスやムー、レムリアを含めても無いはずの大事件さ。故にデータとしてはこの一つしかない。そこだけは、予め断っておくよ」
リアレが行ったお断りとは、これがあくまでも推測という所だ。天桜学園消失に関する説明を受けた浬達でさえ、カイト達からは推測という形で説明がなされている。さらに言えば異世界エネフィアに渡ったカイト達も推測でしかないのだから、これは当然の事と言えた。
とは言え、その推測さえ出来ないのが天道財閥だ。この推測でさえ、有り難いのである。なので三柴が少し急かし気味に先を促した。
「いえ、それでも構いません。ぜひ、お願いします」
「良し・・・じゃあ、言うよ。とりあえず原因だけど、これは世界と世界の衝突によって起きてる、と私らは考えてる。まぁ、流石に他世界の事は私らにもわからないから、何処にあるのか、というのは推測さ。何か持ってるのなら、私らが情報が欲しい所だね」
「あ・・・おい、天音。書類、持ってきてるな?」
三柴はそう言えばそこは公にしていない、と思い出すと、覇王から一任された権限の中に天桜学園の行方の交渉相手への公開も含まれていた事があって彩斗へと指示を飛ばす。親書を持ち歩いていた関係で他の書類も一括して彼が持ち歩いていたのである。
そうして、彩斗がカバンから資料を取り出してリアレへと手渡した。ここら交渉が不思議な形になっていたので色々と行き渡っていないのはしょうがないと思うしかないだろう。
「あ、はい・・・こちら、我々が手に入れた情報になります。拝読ください」
「っと、すまないね。それなら少しだけ時間貰っても?」
「ええ・・・私達は構わないのですが、あの、スカサハさんは?」
三柴は少しだけ手持ち無沙汰なスカサハへと視線を送る。彼女はここまで案内してくれたは良いが、それだけだ。そしてこれからの話が長くなりそうなのはわかった話だ。であれば、拘束して良いものか疑問だった。
「ああ、構わん構わん。と言うか、お主ら気付いておらんが、これ、分身だ。本体は先程暇なので鍛錬に向かった」
「・・・は、はぁ・・・そ、そうなのですか?」
「ま、この部屋はそこそこ暗いからねぇ・・・気付かなくても仕方がないさ」
スカサハの言葉を認める様に、資料を見ながらリアレが笑いながら三柴へと慰めを送る。この様子だと本当にいつの間にか入れ替わっていたのだろう。これが真実か嘘かは彼らにはわからないが、そういう事なら、と安心しておく事にした。
そうして5分ほどリアレは資料を読んでいたが、彼女からしてみればスカサハを通して天桜学園が異世界エネフィアへ行った事も全て既知の出来事だ。なのでほぼ目新しい事は無く読むフリになっていた。
「良し。大体読み込めた。じゃあ、説明しようか。これなら多分私らの推測が正しいね。この異世界エネフィアってのに天桜学園があるってのは正しいだろうね。神様が見立てたんだ。間違いはないね。で、その原因というのが私らの言う世界と世界の衝突だというのも、おそらく正しいだろうね」
リアレは資料から目を離すと、同じく彼女から提供された資料を読んでいた三柴らへと語り始める。
「世界と世界の衝突・・・それは珍しい事なのですか?」
「いや? 私らの推測じゃあほぼ毎日どこかしらで起きてるんじゃないか? まぁ、転移が起きる程でかいのは稀だと思うけどね」
リアレは三柴の問いかけに対して首を振った。ここらは世界が複数ある事を知っている者であれば、至極普通に知られている事だった。まぁ、その常識さえも天道財閥には無かったのは仕方がない事なのだろう。
「で、そのでかいのの一つに巻き込まれたのが、天桜学園って奴なんだろうね。校門を守ってた警備員とその時点で早引きしてた生徒ってのが空が割れたのを見て慌てて逃げ出して助かってる所を見ると、大方転移したのは天桜学園って概念だろうね。学生達は学園の一部、って事になって、逃げる間もなく巻き込まれた感じか。逃げりゃ助かったんだろうけど、流石にこればっかりはね」
リアレは資料を参考に、推測を立てる。ここら逃げられた生徒や警備員の話については彼女も初耳だったらしく、推測を補完するのに一役買う事になっていた。
「まぁ、これはあんたらにとっちゃ朗報だ。つまり世界からしてみればあんたらの家族ってのはほぼ巻き込みで転移させられた様なもんだからね。呼び戻しは出来る。これは推測が当たっていた場合に限るけど、断言して良いだろうね」
「そうですか・・・」
ほぅ、と三柴が安堵のため息を零した。やはり専門家からやろうとしている事に対して太鼓判を押されるのは精神的に安心出来るらしい。それを横目に、リアレは続けた。
「でだ・・・肝心の呼び戻す術だけど、これについては当面どうにかして向こうと連絡を取り合う術を探すべきだね」
「? そうなのですか?」
「あんたらは向こうで子供が定住とかするかもしれない、って考えてないのかい・・・一応こっちからも探してやってる、って希望を与えてやらないといけないだろうさ。親はなくとも子は育つ。それが集団生活でおまけに保護までしてもらえてりゃ、そうなるのは早いよ? 私の生前なんてザラにあった話だからね」
「あ・・・」
呆れる様なリアレの指摘に三柴達は総じて、目を見開いた。そもそも転移した天桜学園の者達が頑張っている事はわかっているが、それを知っているのは――表向きは――こちらだけだ。
つまり、向こうからしてみれば何時見捨てられた、と考えて向こうで定住する事を選ぶ可能性がある事を失念してしまっていたのだ。そしてそれは長引けば長引くほど、定住を選ぶ者は多くなるだろう。
「はぁ・・・その様子だと、誰も気付いていなかったわけだね・・・ま、それはそっちで考えてもらう事だから私は何か言及はしないよ」
「かたじけない」
「でだ・・・これについてだけど、勿論連絡を取り合う事で良い事はある。心理的な効果もそうだけど、実利としてもだね」
「それはどういうものですか?」
一度は呆れるも再び解説を開始したリアレに対して、三柴が問いかける。それを受けて、リアレがとりあえずの見通しを彼らに伝えた。
「ああ・・・そうだね。当たり前だけど、まず第一にあんたらがやるべき事は見えてるかい?」
「と、言いますと?」
「どうやって家族をこちらに引き戻すか、という事さ」
「それは・・・」
「ま、そうだろうね。それについちゃあこうやってわざわざ地球の裏側まで足を運んでるから別に非難したりはしないよ。だから、力を貸してやるって話なんだからね」
「ありがとうございます」
リアレの言葉に三柴が頭を下げる。そしてこれは社交辞令でもなんでもなく、リアレという女の素だった。彼女は彼女の死去した時代の事もあり非常に面倒見が良く、スカサハがここに連れてきたのは一番好意的に受け止めてくれると判断したからでもあったのである。
「さて・・・じゃ、本題。あんたらがやるべきなのは、召喚術ってのになる」
「召喚術・・・ですか?」
「ああ。召喚術。とは言え、実のところこれで難しい所はさほど無かったりする。必要な物は実はあんたらなら、簡単に手に入れられるはずだからね」
リアレが笑う。そしてこれは慰めでもなんでもなく、真実だった。と、そうしてリアレが言いたいことをスカサハは理解したらしい。一人得心が行った様な顔をしていた。
「なるほど・・・その手があったか」
「ま、そういうわけさ」
「簡単といえば簡単な方法か。原理は基礎的な物でなんとかなるのう」
「そういうこと。何も難しく考える必要なんて無いわけだからね」
スカサハの理解を得たリアレが嬉しそうに笑う。そうして、彼女は再び三柴達へと顔を向けた。
「さて・・・召喚術、と言ったけどこれで何が一番必要か分かるかい?」
「? いえ、申し訳ないとんと想像が・・・」
質問された三柴は申し訳なさそうに首を振る。それに、リアレは他の面子にも視線を向けた。どうやら、何らかの答えは言わないと先に進みそうにないらしい。ということで、少しだけ全員首を捻る事になった。
と、そこで彩斗は結局こういう話なのだから何か奇を衒う物ではないのでは、と思ったらしい。おずおずと口を開いた。
「あー・・・月並みですけど、もしかして当人の持ち物、とかですか?」
「その通り。それが一番重要なんだ」
リアレが笑顔で大きく頷いた。それを聞いて、全員がなるほど、と目を見開いていた。言われてみれば、当たり前ではあった。
「だが知っての通り、本来はこれが一番手に入れにくい。英雄とかを呼び寄せる場合にはこれが媒体の役割を果たすんだからね。で、そんな秘宝なんて滅多に手に入るはずがない。だから、一番手に入れにくい、ってわけだ。けどのその点、おたくらは家族を呼び戻したいわけだ。自宅探せばいくらでも手に入るだろ。まぁ、想いのこもってる物であればあるほど良いから、そこらは精査しないといけないけどね」
「なるほど・・・」
そういうことだったのか、と彩斗達が得心が行った様に頷いていた。今まで小難しい理論を考えていたが故に変に深みに嵌っていたのだろう。わかってみれば原理は簡単な話だった。勿論、原理は、であって簡単な筈がないし、そこはリアレも念を押した。
「ま、そのかわり今回はその他の道具が難しくなりそうだね」
「そう・・・なんですか?」
「ああ。距離がね。遠いよ・・・流石に世界を超えた召喚術は媒体ありでもかなり難しいね。誰か専門家は招くべきだろうさ。専用の魔道具を開発したり、専用の術式を開発したり、ってね」
「専門家・・・来ては頂けませんか?」
専門家、と言われた三柴はリアレへと申し出る。まず間違いなく彼女こそが一番の適任者に思えた。そして本来であれば、それも間違いではないと言って良いだろう。
「ああ、それは無理よ。ほれ、こいつは死人よ。それも本来は生き返らぬはずのな。ここが半分死者の国故に現界出来ておるが、流石に外には出られまい。下手に外に出てイギリスとやらに迷惑もかけれまい。そこは、諦めよ」
スカサハが笑いながらそれは無理だ、と首を振る。ここら詳しい事はわからないが、ここまで気前よく教えてくれた彼女らが無理だと言うのだから真実無理なのだろう、と三柴には理解出来た。ならば、無理を通すのは良くないだろう。なのでかなり残念にしながらも、ここで引き下がる事にする。
「そうですか・・・もしよろしければ、誰か心当たりはありませんか?」
「ふむ・・・と言ってもこっちも引きこもりだしねぇ・・・」
リアレが顔を顰める。残念ながら、この国に居る魔女は全員死人らしい。一応この国に来てもらえるのなら話し合えるらしいのだが、外には出れないそうだ。こればかりは無理は通せない事なので、仕方がない、と諦めるしかなかった。
「スカサハ、あんた外に時々出てただろ? 何かしらないのか?」
「儂か? 儂はまぁ・・・多少はおるが・・・出来れば一番は<<異界の姫>>を連れてこれれば、という事になろうがのう・・・」
「<<異界の姫>>?」
聞いたことのない単語に三柴が首をかしげる。とは言え、これは知らなくて当然だ。その人物がこの名で呼ばれていたのは、5000年以上も昔の事だからだ。
「<<異界の姫>>・・・まぁ、5000年程前におったとある人物を呼ぶ呼び名よ。彼女はな、この世界の存在ではない。自由に世界と世界を渡り歩く特殊な種族の生まれだったのよ」
「そんな種族が居るのですか!」
三柴が仰天した様子で問いかける。一応どんな種族がいるのか、とは聞き及んでいるはずの彼らでも初耳だったのだ。
「あっははは。そう驚くな。本来はどこぞの世界に引きこもっておるそうなんだが、あれの兄貴がどうにも何らかの事故で何処かの世界に飛ばされたらしくてのう・・・それを探している折に、この星にもたどり着いたというわけよ。で、色々とあってある者を引き取る事になり、先の名で呼ばれる様になったわけよな」
「そうなのですか・・・ということは、今その彼女はどこに?」
「さてのう・・・儂がバカ弟子より聞いた話では、何らかの理由でその組織に戦いを挑んで封ぜられたという話よ。ほれ、聞いた事はあるか? ルシフェルという天使なのだが・・・有名、とは言うとったな」
「ル、ルシフェル・・・」
幾ら現地に赴く事のない三柴とて聞いたことがないはずがなかった。この世界で触れてはならない存在の一人。魔王の中の魔王。この星最大の勢力に反旗を翻した元天使長だった。というよりも、フェルである。
「それは・・・残念ですね・・・」
「うむ。まぁ、流石に封印を解け、とは言えまいよ。天使達も拒絶しよう。その兄貴とやらが見つかれば話もできようが、その兄貴が地球におるとも限らん故な」
「そう・・・ですね。いえ、とりあえず情報だけでも感謝します」
スカサハに対して三柴は頭を下げる。そういう種族が居る、とわかっただけでも儲け物だ。何か役に立つとは今のところ思えないが、運良く彼女が復活してくれる、という幸運――すでに復活しているが――があるかもしれないのだ。情報を持っていれば何らかの交渉は可能だ、と考えたのである。
そうして、とりあえずの情報収集を終えた彼らは二人に頭を下げて、研究施設を後にすることになるのだった。
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