第156話 魔女との会合
偶然に遭遇したスカサハと共に朝食を摂る事になった彩斗達だが、更にそこで偶然を得てカイトとスカサハが男女の仲である事を知る事となる。その流れで朝ごはんを食べながらという変な形ではあるが、スカサハに今回の商談の意図などを伝える事になった。
「ふむ・・・まぁ、先にも言うたが天桜の事は知っておる。が、なるほど。そういう活動をしておったわけか」
「はい・・・それで、親書も受け取っていたわけなのですが・・・」
三柴は一応朝ごはんを食べながらの形ではあるが、スカサハへと現在の天道財閥の活動などを語る。ここらは非常識かもしれないが、見ようによっては会食の一環とも言える。さらに言えば折角聞いてくれるというのだ。話さないのは損だろう。
「なるほど。ま、ティナの事を知らぬ以上は仕方がない、か・・・」
三柴から事情を説明されたスカサハだが、そうして一人小声で呟いた。彼女は外からの情報はあまり入ってこず、カイトからの情報やクー・フーリンからの情報が大半だ。故にイマイチ事情は把握していなかったらしい。
「ふむ・・・となると・・・」
スカサハは現状のこちらの手を考える。いくらなんでも数年前にカイトその人に頼まれて異世界へ渡る魔術を開発してました、なんぞ言えるはずがない。
そうなると確実になぜそんな魔術を知っているのか、となるしそうなればカイトの事も洗いざらい話さなければならなくなるだろう。しかもこれはカイトやスカサハら英傑達だから使えるものだ。彼らには何の参考にもなりはしないし、参考にする場合は自分達が参考にすれば良いだけだ。教える必要はない。
「どうされました?」
「いや、親心というものよな、と感心しただけよ」
三柴の問いかけにスカサハはそううそぶいた。そうしてとりあえずどうするかを決めた。
「まぁ、魔女については心当たりがある」
「本当ですか!」
スカサハの言葉に三柴が僅かに身を乗り出した。それに、スカサハは落ち着く様に手で指示して、一度水を飲んで使い捨てのハンカチで口を拭って手を合わせる。丁度ご飯を食べ終えたらしい。
「ごちそうさま、と・・・うむ。知っとる・・・というか、この街にも数人暮らしておるよ」
「は?」
あまりにあっけなく終わった魔女探しに、三柴だけではなく彩斗達も呆然となる。確かにここはほぼ陸の孤島状態で外には情報が伝わってこないが、まさか護衛を依頼しに来てその先の魔女を見つけられるとは思ってもいなかったのだ。
「まぁ、後で案内してやるつもりだったが・・・研究施設の方にほれ、お主らの国にある楽園とやら・・・は知っておるか?」
「え、ええ・・・」
「そこの創設者のリアレという奴がおってな」
「・・・彼女は死んだのでは?」
「まぁ、ここらは話すと長い。流せ」
三柴の問いかけにスカサハはため息を吐いた。これが、数年前の事件の余波だった。本来は蘇るはずのない死者が忽然と蘇ったのである。そのうちの一人に、リアレという魔女も含まれていたのであった。
「ふむ・・・それなら実際に見た方が早いか。まぁ、先に飯をきちんと食え。全てはそれからよ。どうにせよ、儂が案内する事になっとったからな」
「え? そうなのですか?」
三柴が問いかける。実のところ彼は先の案内人が案内してくれる事になっていたと思っていたのだ。
「ま、職員には職員の仕事があるからのう。あれは丁度部屋が近かったから朝案内する様に頼んだだけよ。通常、客の案内は儂がやっとるよ」
「はぁ・・・」
王様なので楽が出来るというわけではないのだろうが、彼女は武人でもある為修行はしなければならない。これは彼女の地位と言うか武名を考えれば当たり前の話だ。そして彼女は弟子も多数抱えている。その面倒も見なければならない。
そもそも国を率いる事になったのは他人からの推挙が大きいらしい。というわけで、仕事はよほど重要な物でもない限りあまり回されないそうだ。なので昼間でに片付く事も多いとの事で、書類仕事を数日ほっぽっても問題は無い、との事である。
と、いうわけで彩斗達は少し急ぎ足で朝ごはんを食べ終えると、とりあえずスーツに着替えようと部屋に戻る事にする。が、その直前になってスカサハに止められた。
「ああ、持ってきておるのなら、昨日のあの動きにくそうな服以外にしろ。遠いぞ。動くしな。20分後ぐらいをめどに再び人を遣る。それに従え」
「あ、はい。わかりました」
呼び止められて丁度目があった彩斗が頷いて返事を行う。どうやら、少々歩く事になるらしい。とは言え、そういうことだし、そもそもスカサハの命令だ。それに従うのが一番だろう。
というわけで仕方がないので全員が動きやすい服装に着替えようとして、それなら殆ど着替える必要が無い事に気付いた。一応全員寝間着はあるが、外に出れる服装で出歩いている。
「・・・一応、少々身だしなみ程度は整えておくか」
「そうですね」
三柴の提案を全員受け入れる。そもそもスカサハにだって身だしなみを整える時間は必要だろう。今すぐに、というのは流石に失礼だ。というわけで、一同は一度自室に戻って、20分後に城の一階の大広間の様なスペースに集合する事になるのだった。
というわけで、20分後。彩斗達は指定された場所へと到着していた。そこにはすでに普段着姿のスカサハが到着していた。
「うむ。来おったか」
「すいません、おまたせしました」
「構わん構わん・・・さて、行くとしようか。多少歩くがそこは許せよ」
三柴の謝罪に軽く首を振ると、スカサハは歩き始める。一応彼らに気を遣ったのか、こちらのペースに合わせてくれていた。そうして、スカサハはとりあえず城下町を案内しながら、研究施設がある所へと2時間程掛けてやってきた。
「ここが、その研究施設よ・・・本来は入る予定が無かった故、アポなしで何言われるかわからんのだけは、許せ」
「いえ。こちらも無理を言ってのお話ですので、覚悟の上です」
スカサハのことわりを受けて、三柴が首を振る。そもそも案内をしてくれる、という話はあくまでも町並みの話だ。施設の内部を案内してくれる、なぞという気前の良い話は何処にもない。
それでも無理を言って魔女に合わせてくれ、となったのが今回だ。スカサハの完全な好意である以上、アポなしで魔女達に怒られても文句は言えない。それぐらいの道理は誰にでもわかっていた。
「うむ。ならば良かろう・・・おい、リアレ。起きておるか?」
「あぁ・・・?」
スカサハの開いた扉の先から、気怠そうな声が返って来た。それは女性の声だ。まぁ、魔女族というのはどうやら女しか生まれないらしく、女性の声なのは当然なのだろう。
そうして一同もそれに続いて入った部屋なのだが、かなり散らかっている様子だった。しかもかなり薄暗く、明かりも何らかの実験道具から出ている様子だった。魔女の研究所らしいと言えば、研究所らしいと言えるかもしれない。
「客よ」
「客・・・? 私に? 来客なら後にしてくれ。こちとら3日徹夜して眠いんだよ・・・ん? 4日か?」
「知らん。とにかく客よ」
スカサハはリアレというらしい魔女に対して呆れた様子で会話を行う。と、そうしてガサゴソという音が聞こえてきて、明かりが灯った。
「っ・・・」
「ふぁー・・・で、ああ、あんたらが客か」
明かりが灯った後、そこに居たのは赤毛の女性だ。年の頃は定かではないが、見た目だけで言えばスカサハと同年代だろう。が、今その顔は盛大にしかめっ面が浮かんでいた。服装は白衣を着ていたが、横には魔女が持つイメージの漆黒のとんがり帽子があった。
「若い・・・?」
「あ? なんか文句あるか?」
「あ、ごめんなさい!」
「ああ、いや。こっちも悪いね。駄目だね、どうにも。悪い。眠くてね。寝ようとしてる所の来客だ。多少無愛想になったのは許してくれ」
渚の小声の言葉を耳聡く聞きつけたリアレは少し照れた様にそう言うと、一度頭を振る。無愛想と言うかかなり不機嫌さが滲んでいたが、アポなしの上に彼女の言葉が確かなら寝ようとしてた――朝一という事は横においておいて――所なのだろう。そうである以上、不機嫌なのは仕方がない。
「ああ、いえ。こちらもアポイントメントも取らずに来て申し訳ありません。私はこういう者です」
「まったくだよ。それについちゃ、減点だ。まぁ、もう叩き起こされた以上はしょうがない。何か用か?」
三柴の謝罪にリアレは笑いながら差し出された名刺を受け取る。名刺については、カイトから聞いていた。なので知っているらしい。
「天道の、ねぇ・・・スカサハ、あんたの客じゃなかったか?」
「ああ、儂のだ。が、そこでどうにも魔女を探している、という話があってな。で、日本となればお主だろう、となったわけよ」
「あぁ? 外にゃティナの奴が居るだろ? まさかアイツじゃ駄目とか言うわけじゃないだろう? 私とアイツならアイツの方が腕は圧倒的に上だろう? なにせアイツは<<例外存在>>。こっちより上だ」
リアレが眉の根をつける。それに、スカサハが肩を竦めて呆れ返った。
「色々とあるのよ・・・と言うか、儂の話ぜんっぜん聞いとらんかったな、お主・・・」
「誰かさんにぶん投げられた仕事が忙しくてね」
「そりゃ、すまんのう・・・」
スカサハが肩を竦める。一応、ここは『影の国』が保有する研究施設だ。となると運営費は当然、『影の国』が出している。であれば必然、その仕事をぶん投げたのはスカサハだろう。と、そんな会話を行うリアレだが、彼女が更に手を出していた。
「ほれ」
「?」
「名刺、あんだろ。全員分渡しな」
「あっと・・・おい」
三柴に促されて、他の面子も少し慌て気味に名刺を差し出す。と、そうして名刺を見れば当然、彩斗の所でリアレの手は止まる事になる。
「うん?」
「どうしました?」
急に止まった手を見て、三柴が問いかける。普通に考えて疑問に思われない方が可怪しいだろう。と、その横で何を疑問に思ったか察したスカサハが即座にフォローに回った。
『阿呆。あれは親御にも何も知らせとらん事忘れるな』
『っと、そういやそうか・・・って、もしかしてあいつらも巻き込まれてんのかい?』
『そういうことよな。で、ティナが無理なわけよ』
『あっははは。さすがカイトって所だね』
念話を使ってスカサハがリアレへと事情を説明する。ここら前もって準備が出来ていなかったが、リアレもそれで大凡を理解した。当然彼らもカイトとスカサハの関係性を理解しているだろうし、そうなればティナの事を聞いても不思議はない。が、そこを探られるのは困るのでこちらに連れてきた、という事だった。
「ふむ・・・すまん、スカサハ。目薬取ってくれ。どうにも疲れ目で霞んでる」
事情を理解したリアレは、彩斗の名刺で止まった事を寝不足による目のかすみとして処理させる事にする。
「ほれ。これで良いか?」
「ああ、悪いね」
リアレは笑いながらスカサハより差し出された目薬を目に射す。ちなみに、目が疲れているというのも嘘ではないし、そもそも誰の所で止まったのかわかったのはスカサハだけだ。さらに言えば、4日程徹夜していた、と彼女自身が言っていたのだ。彩斗達はそれが真実だと疑った様子はなかった。
「おし・・・顔と名前は一致させた。いや、悪かったね。ここの所寝て無くてね。目が霞んじまった」
「いえ・・・そんな所に押しかけて申し訳ありません」
「良いって良いって。子供が大切なのは当然の話だからね・・・あぁ、散らかってるけどそこら適当に座ってくれ。人数分の椅子は・・・うん、多分あると思う。まぁ、無ければさっきまで私が寝てたソファ使ってくれ。あ、そこらの荷物退けていいからね」
三柴の再度の謝罪に対して、リアレが笑って席を勧める。そうしてその間に顔と名前を一致させた彼女は、全員が着席したのを受けて本題に入る事にした。
「で、まぁ大凡の事情は理解してるよ。大方聞きたいのは、天桜学園がなぜ飛ばされたのか、どうやればこちらに呼び戻せるのか、という事かい?」
「ご明察です」
三柴が同意する。それこそが最大の疑問点だ。そして彼らだけではどうしてもわかる事が無い所だった。聞けるのなら、ぜひとも聞きたい所でもあった。そうして、リアレによって天桜学園消失の推測が立てられる事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




