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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第8章 イギリス編

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第153話 影の国の女王とその弟子達

 時は進んで浬達がティターニアとのやり取りを終えた丁度その頃。彩斗達。彼らはおおよそ外の時間にして17時ごろに、『影の国』の中でも中枢的都市である『七重の影の城(スカイ)』へとたどり着いていた。


「こりゃ・・・でかいな・・・」


 たどり着いた一同を出迎えたのは、100メートルはあろうかという巨大な城壁だ。見渡す限りに壁が眼前を覆い尽くしていた。数キロ先からでも見える城壁だった。


「しばらく前まではさっきの『影の魔物(シャドウ)』共がここらを彷徨いていてな。『七重の影の城(スカイ)』を城壁で覆う事にしたらしい。さしものあの影の化物共もこの壁は越えられん。上には結界が展開されているからな」


 驚く一同に向けて、フィンが城壁で覆われている意味を教えてくれた。と、そうして視線を下に落として、そこが黒い海で覆われている事に彩斗が気付いた。


「ありゃ・・・なんや?」

「ああ、『七重の影の城(スカイ)』の周辺には『影の魔物(シャドウ)』共が屯するからな。あれはそれだ」

「「「え?」」」


 一同は改めて、視線を下に落として城壁の周辺に居る『影の魔物(シャドウ)』達を確認する。その数は無数と言う方が相応しい。数百や数千では効かず、数万や数十万でも足りそうにない。

 一体一体が弱いとはいえ、ものすごい数だ。確実に、こんなものが外に出ていれば今頃国が一つ滅びていても不思議はない様な数だった。


「えっと・・・何体居るんですか?」


 彩斗は頬を引き攣らせながら問いかける。一面を覆い尽くすほどの数だ。出来れば、この見えている一面だけであってほしかった。


「ふむ・・・何体か、か・・・誰か数えた奴は居るか? それとも数えたい奴は?」

「雑魚相手にわざわざ数える奴なんてウチにも赤枝にも居ませんよ!」

「はははは! そりゃそうだ! 雑魚なんぞ一体も百体も千体もさほど変わらねぇや!」


 フィンの問いかけを受けた戦士たちが大笑いしながら誰も数えていない事を口々に告げる。何が面白いのか彩斗達はさっぱりだったが、どうやら彼らにとってこの程度の雑魚は雑魚という一括りにされてしまっているらしい。


「まぁ、どうにせよここに居るだけが全てではない。貴殿らも見ただろうが、この『影の国』全域に『影の魔物(シャドウ)』共は無数に存在している。数えるだけ無駄だ」

「原因は取り除かれたんじゃなかったんですか?」

「ああ、取り除いた・・・が、無限増殖の上に毎分一体のペースで生み出す魔法陣が刻まれていてな。一応、全て破壊したつもりだったのだが残っているかもしれん。そこはまだ調査中だ。が、一応発見したとの報告はないな・・・まぁ、何分1300年分だ。今まで数億体は撃破したと豪語出来るが、後何体居るかまではな」


 フィンは笑いながら、どうなっているかは不明だと明言する。確かに数年前に原因が解明されてその原因となっていたここから南の果てにある洞窟に彼らが突入、その魔法陣を破砕する事には成功したのだが、その際には魔法陣は洞窟全体を覆い尽くすほどにまで大量に増えていたらしい。

 その時にはフェルグス・マック・ロイというクー・フーリンの親友にして伯父の手によって洞窟そのものを破壊して対処したそうなのだが、魔法陣はあまりに多すぎて一つ残らず破壊出来たわけではないらしい。一応調べて増殖そのものは阻止出来ている事は確認したらしいのだが、まだまだ残っている可能性は高いそうだ。後は自然に消えるのを待つだけというわけなのだが、それも何時になる事やら、らしい。当分は――専門家の見立てでは100年ほど先――このままになるだろう、とのことである。


「さて・・・とはいえ、この程度我らが揃えばどうということもない。突破する。気楽に腰掛けていたまえ」


 フィンが槍を構えながら告げる。そこに気負いは一切無く、彼一人だったろうと楽々と突破出来るだろう事を予想させた。


「では、行くぞ!」

「「「おぉおおおお!」」」


 フィンの号令に続けて、戦士達が雄叫びを上げる。そうして、彼らは一塊になって黒い海へと突撃していく。それに、御者を務めていたフードを目深に被った青年が声を上げた。


「揺れます! ご注意を!」


 彼は右手で槍を構えて、左手で竜の手綱をしっかりと握る。そうして、彼は竜へと攻撃を仕掛けようとする『影の魔物(シャドウ)』を対処しつつ、一直線に城門へと進ませる。と、そんな時だ。城壁の上から、まるで雷鳴の如くの大音声が響いた。


「おぉおおおお!」


 雄叫びとともに、揺れが彩斗達を襲う。


「なんや!?」

「フェルグス殿です! 援護に来てくださったご様子!」


 御者の青年が困惑する彩斗達へと教えてくれる。そして見てみれば、城壁の上から一足先に降り立った大男に続けとばかりに無数の戦士達が飛び降りていた。


「よぅし! 我々も赤枝の連中と合流するぞ!」

「「「おぉ!」」」


 フィンの号令を受けて、戦士達がそれに従う。やはり歴史に名を残した英雄達だからか、『影の魔物(シャドウ)』如きでは相手にならないらしい。彼らが一薙ぎするだけで黒い海はまるでモーセを前にしたかの様に簡単に割れて、竜車が通る為の道が出来上がった。


「ディルムッド! 先に行け! 客人は丁寧にな! クー・フーリン殿は一緒に!」

「御意! 陛下はご存分に!」

「くたばるなよ!」

「あっははは! 当たり前だ! この程度万が襲おうとくたばろうはずもなし!」


 御者の青年――どうやらかの有名なディルムッド・オディナだったらしい――はフィンの指示に従って、手綱を引いて竜に指示を送る。そうして、一気に竜が速度を上げた。


「うおっ!」

「きゃあ!」


 速度を上げた竜車は強度的には大丈夫だったものの、舗装されていない上に速度が速くなった事でものすごい揺れが彩斗達を襲う。幸いにして掴まれる所に掴まっていたので怪我をする事はなかったが、まともに立っていられる状況ではなかった。


「おぉ! フリンの奴も一緒か!」

「俺が出迎えてんだからそりゃそうだ!」

「ははは! それもそうか! さっさと入れ! 城門を開くぞ!」


 先程雷鳴の如き大音声を発した大男――フェルグス――がクー・フーリンへと告げる。そうして、城門の周辺を掃討してくれていた彼らの横を、馬車が猛烈なスピードで通り過ぎていった。


「良し! 入ったぞ! 全員戻れ! フィン! 貴様らは城壁を飛び越えろ!」

「了解した!」

「フリン! フェルディアと共に一発でかいのをお見舞いしてやれ!」

「奴も居るか! じゃあ、久しぶりにやってやるか!」


 フェルグスの言葉にクー・フーリンは城門を入る直前に転身して、壁を蹴って城壁を登っていく。そうして、彼が城壁を飛び越えた時、一人の美丈夫と視線を交えた。


「やるか」

「おうよ」


 二人は言葉短に意思の疎通を行うと、城壁に居た男が城壁を蹴った。そうして、クー・フーリンとほぼ同じぐらいの高さまで滞空する。


「「<<鏃の槍(ゲイ・ボルグ)>>」」


 二人は同時に同じ姿勢から、地面に向けて全く同じ槍を投げ放つ。それは二条の真紅の彗星となり、地上から50メートルの所で無数の光の矢へと分裂した。それは避けられる事も許されない『影の魔物(シャドウ)』を貫いて無数の霧へと変えて、地面に激突して轟音を轟かせる。


「こんなものだな」

「こんなもんか」


 そうして、二人の男達が同時に着地する。彼らはそのまま左手と右手で槍を回収して対照的に見得を切ると、同時に空いた腕を突き出してがっ、とぶつけ合う。


「腕は鈍っていないな、フリン」

「お前も随分腕を上げたな、フェルディア」


 クー・フーリンの横に居たのは、彼の終生のライバルにして彼の愛槍をどちらが継承するか競い合った兄弟弟子であるフェルディアだ。二人は同じ笑顔で笑い合い、戦場に背を向ける。すでに、敵は居ない。二人の一撃により、城門の周辺はしばらく――と言っても数分だが――は安全になったのだ。ならば、さっさと撤収するだけだ。幾ら雑魚だからといっても、いや、雑魚だからこそうざったいのである。

 ちなみにフェルディアもまた、伝説が終わってよりここに帰参していたらしい。今はアルスターもコノートも無い為、どちらも同じスカサハの弟子という立場で共闘し、腕を競い合う何時もの仲に戻っているそうだ。と、その一方で城門の中に入った事でディルムッドは竜を宥めて速度を落とさせつつ、後ろの彩斗達の状況を窺う。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ・・・一応、私は・・・お前らはどうだ?」

「俺もなんとか、ってとこですわ・・・」

「いたたたっ・・・こちらは頭を打った」


 桐ケ瀬はどうやら頭を打ったようだ。痛そうに頭をさすっていた。それに、ディルムッドは一度フードを目深に被り直してから、何処からともなく氷の入った皮の袋を手渡してくれた。


「こちらをどうぞ。氷入りの水袋です」

「ああ、すいません・・・」

「お嬢さん方はどうですか?」


 内海と薫が手でこちらは大丈夫と合図を送ったのを見て、ディルムッドは甘粕と渚に問いかける。が、こちらはなんとか椅子に座り直した甘粕はともかく、渚の方がダメそうだった。


「・・・すいません・・・腰が抜けちゃいました・・・あはは・・・」


 照れくさそうに渚が視線を外す。一応、失禁したということはない。ないが、腰が抜けてしまったらしく立てないらしい。


「はぁ・・・すいません、えっと・・・」

「ああ、申し遅れました。ディルムッド・オディナと申します」

「あ、はい。ディルムッドさん。こいつは自分がなんとかしますので・・・妹、ですから」

「そうですか。では、おまかせします」


 兄というのなら、問題は無いだろう。ディルムッドはそう判断すると再び前を向いて竜の手綱を握り直す。そしてその一方で、渚は薫によってなんとか手を貸してもらって再び椅子に腰掛けた。と、そこで渚が問いかける。


「あのー・・・フードってお怪我をされてるんですか?」

「? ああ、いえ・・・少々呪いを受けておりまして。お嬢さん方の前で素顔を見せると良くないですので・・・」

「妖精のホクロって聞いたこと無いか? 見ただけで惚れちまうって便利なホクロ」


 いつの間にか戻ってきていたらしいクー・フーリンが幌馬車の上から顔を覗かせて問いかける。


「便利ではなくて呪いですよ、これは・・・お陰でどれだけグラニア殿が嫉妬してくることか・・・」

「はぁー・・・フィアナ一の美男子に呪いのホクロ。やれやれ、神様ってのは依怙贔屓が好きなもんだ」

「そこらで女を口説きまくる貴様が言うな」


 どうやら、クー・フーリンの横にはフェルディアも一緒らしい。彼の茶化すような声が聞こえてきた。


「あっははは。かわいい女の子居て口説かねぇとフェルグスからこっぴどく叱られたからな」

「おお、そうよそうよ。女を口説かねば男の名折れ・・・で、フリン。中にかわいい女の子はいたか?」

「師匠の客を口説くとぶっとばされんぞー」

「むぅ・・・それもそうか」

「「「あはははは!」」」


 残念そうなフェルグスの声が響いて、周囲の戦士達が笑い声を上げる。あれだけの激闘をやった様に見えたのだが、この様子ではまだまだ余裕なのだろう。そうして、そんな彼らにディルムッドが小さく教えてくれた。


「フェルグス殿にだけは、ご注意を。彼は性欲が強いですからね。変にほいほい付いていくと、腰が抜けるでは済まないですよ・・・まぁ、そこらの性欲だの女たらしだのと言うのは我が騎士団の団長にして王たるフィンもそうなのですが・・・」

「あ、は、はぁ・・・」


 ディルムッドは笑っている様子だったが、甘粕と渚はどういう反応をすればよいかわからず生返事を返す。そんなディルムッドに対して、今度はフィンが茶化すように告げた。


「おい、ディルムッド・・・私から妻を奪っておきながらそれはないではないか」

「おっと、失礼しました。今からのしでも付けてお返しいたしましょうか?」

「おいおい。聞かれて良いのか?」

「おや、ここには彼女はいらっしゃいません。それに陛下こそ結婚しなくて良かった、と仰っていたのではないですか?」

「ははははは! かように束縛されるご婦人とは思わずな! 後ろから刺される心配をしなくて済んだぞ! おっと、要らぬ事を言うから貴様の後ろが・・・」

「なんですと!?」

「「「あははは!」」」


 フィンの冗談に慌てて振り向いたディルムッドを含めて、何も居なかった背後に周囲の者達が笑い声を上げる。そうしてしばらくはそんな雑談を続けながら竜車は今度はゆっくりと進んでいき、しばらくすると城塞の中心らしい場所に位置する一つの城へとたどり着いた。


「ここが、我らの師匠が暮らす『影の国』の中心だ」


 途中でフィンとフェルグス達が離脱した一同――道中に彼らの寄宿舎があるらしい――は、クー・フーリンの声でようやく目的地にたどり着いた事を理解する。


「ここからは、徒歩だ。まぁ、今までに比べりゃさほど時間は必要無い。さ、付いて来てくれ。ディルムッド。お前は竜の返却を頼むぞ」

「わかりました。では、後はお任せします」


 クー・フーリンの指示を受けて、ディルムッドは再び手綱を操って竜を歩かせる。竜車を所定の場所に移動させに行くらしい。そうして、それを背にクー・フーリンが歩き始めて、彩斗達がそれに続く。案内されたのは、城の最上階にほど近い一室だ。


「師匠。客連れてきた」

『おお、そうか。待っておったぞ』


 クー・フーリンがノックをすると、中から声が返って来た。それは良く通る様な女性の声だ。城の最上階に位置する部屋で待つ女性。それはこの状況を考えてみれば、一人しか居ない。女王スカサハその人だ。


「おーう、ただいま」

「おう。お疲れ」


 クー・フーリンが開いた扉の先。そこには何人もの集団で待っていたアルト達とは違い、一人の美女だけが待っていた。が、身に纏う風格はアルト達よりもはるかに荒々しく、圧倒的だった。


「貴様らが、儂に協力を依頼したいという奴らか」


 美女が口を開く。彼女の容姿は、圧倒的だった。身長は170センチほどで、女性にしては高身長だ。プロポーションはそれに見合って抜群で、しかしまるで女豹の様なしなやかさがあった。ここまで色気があるにも関わらず、健康的な色気が見える。

 髪は僅かに腰まである長髪だったが、今はそれをポニーテールに束ねていた。装いは彼女の眼と同じ真紅のドレス。しかし、動きやすさは損なわれていない様子だった。彼女に非常に似合った装いだった。


「儂はスカサハ。まぁ、女王スカサハなんぞと呼ぶ者もおる・・・あぁ、髪が長いのは単に魔術の素材に使うからよ。自在に伸ばして縮められる」


 スカサハはそう言うと、ポニーテールだった長髪をボブカットに変更する。ちなみに、自然に伸びる方が魔力が蓄積されるので良いとのことで、常には長髪らしい。後はその時の気分で魔術を使って短くしているだけだそうだ。

 ちなみに、何故わざわざ言及したのかというと武人で長髪だと戦いにくいのでは、という無粋な質問が時折あるからだそうである。無粋というわけなので、勿論女としての美にもこだわっての事らしい。


「さて・・・で、お主らの名は?」


 スカサハが問いかける。そうして、彩斗達が自己紹介を行い、今回の来訪の目的が語られる事になり、商談がスタートする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時の投稿です。

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