第152話 影の国へ
少しだけ時は巻き戻って、浬達がヴィヴィアンの家に招待されていた頃。彩斗達はクー・フーリンとの合流ポイントであるとある洞窟の前にたどり着いていた。
「お待ちしていました、ランスロット卿」
一同を出迎えたのは、ランスロットによく似た騎士。彼の息子にして円卓最優の騎士と名高いガラハッドだ。容姿のイケメン度で言えば、こちらの方が高かった。
敢えて違いを言うのなら、ランスロットの方が少し茶目っ気があってガラハッドの方が少し真面目だ、というところらしい。が、根っこは似通っているとは親子や友人達の言葉である。
「お疲れ様です、ガラハッド卿。異変は?」
「ありません。数日前にクー・フーリン殿が入られた以外には誰も」
「そうですか・・・では、クー・フーリン殿はまだ?」
「ええ・・・そう言っても少し前に轟音が響いておりましたので、もうしばらくすると来られるのかと」
ランスロットの問いかけにガラハッドが現状を報告する。どうやら、まだしばらくは待ち時間があるらしい。車が走っているわけでもないし、中には魔物と呼ばれる一種のモンスターもうようよと居るそうだ。
予定時刻に間に合わせる事なぞほぼほぼ不可能だ、という事であった。勿論、予定を大幅に遅らせるつもりで動いているのなら、それも可能だそうだ。
「轟音?」
「ええ、戦っておられるのでしょう」
ガラハッドは漆黒の闇が覆う洞窟の先を見る。この先が、『影の国』へと繋がっているらしい。
「援護しなくて良いんですか?」
「必要はありません。連携にもなりませんし、無意味に手を煩わせる必要もありませんよ」
問いかけを受けたガラハッドは笑って首を振る。後に聞いた話なのだが、どうやら彼ら『円卓の騎士』とクー・フーリンらはあまり交流がなく、戦い方についても大きくかけ離れているらしい。
なので連携が出来ないわけではないが、安易に手を出すとどちらにとっても逆に足手まといになる可能性がある為、よほどが無い限りは手を出さない様にしているらしい。別の指揮系統に属する軍が連携をするには合同演習などの訓練が必要なのだ、だそうだ。勿論、要請があれば別だ。
と、そんな会話をしていると、どうやら引き継ぎの作業が終わったらしい。一度離れていたランスロットが戻ってきた。
「っと、では、ガラハッド卿。私は陛下のご命令により、別任務がありますのでこれにて」
「はい、ランスロット卿・・・父上。今度来る時は、仕事以外でお願いします」
「あはは。そうですね。今度来る時には、日本酒でも持って帰ってきますので一緒に飲みましょう」
「はい」
ランスロットとガラハッドは最後に親子としての会話を交わす。今までは父と息子ではなく、騎士と騎士としてやり取りをしていたらしい。なので、お互いに名前で呼んでいたそうだ。そうして親子の会話になったからかお互いに穏やかな顔をしており、それは非常に似通っていた。
「では、皆さん。また後日。お帰りの際にはまた来ますので」
「あっと。ここまでありがとうございました」
「いえ・・・では、クー・フーリン殿にもよろしくお伝え下さい」
ランスロットは三柴の言葉に頭を下げてそう言うと、一つ頷いて来た道を帰っていった。ちなみに、帰り道も彼に警護してもらう事になっている。『影の国』の者達は一千年の間引きこもっていた為にまだここらの地理に明るくなく、戦力的な意味での不安はなくても道案内がどうしても必要らしい。そうしてランスロットが去った後、ガラハッドが口を開いた。
「さて・・・では皆さんはしばらくおやすみを。ここからかなりの長旅になりますよ。あちらの小屋をお使いください。少々手狭ですが、休むには丁度よいかと」
「あ、はい。わかりました、ありがとうございます。おい、行くぞ」
「良し・・・では、警備隊は一度ランスロット卿が持ってきてくれた補給物資を開封してください。手隙の者は・・・」
三柴の号令で休憩に向かった天道財閥の一同を横目に、ガラハッドは己が率いている部隊への指示を再開する。ちなみに、補給物資というのは名ばかりでランスロットが日本から持ってきた酒などの嗜好品や家族からの手紙が大半だそうだ。物は言いよう、というやつだ。そうして、待つことおよそ20分ほど。暗闇が覆う洞窟の中から、クー・フーリンが現れた。
「よっと・・・待たせたな」
クー・フーリンが平然とそう告げる。どうやらさほど苦戦はしなかったらしく、どこにも傷一つ見えなかった。が、返り血は少し浴びていたらしく、彼のジャケットには少しだけ血が付着していた。
「クー・フーリン殿。右の脇腹の所に血が」
「ん? あぁ、さっき珍しく普通の魔物が出やがったからな。その時の返り血がまだ残ってたか・・・まぁ、こんなもんほっときゃ消えるだろ」
「そういうことではありませんよ。これから道案内というのですから、消された方が良いかと」
「あー・・・わーった」
ガラハッドから差し出された湿ったハンドタオルを受け取って、クー・フーリンは少し胡乱げに返り血を拭う。魔物はその肉体と血の大半を魔素という物質で構成しており、討伐されると時間でそれに戻るそうだ。
なので魔物の返り血であるこの汚れもしばらくすると勝手に消えるらしいのだが、彩斗達を案内するのだから、とガラハッドはきちんと拭わせたのであった。
「こんなの気にしてちゃ、どうにもなんねぇんだがねぇ・・・」
「それはそうですが、こういうのは段階を踏むべきかと」
「やれやれ・・・親父とは違って頭が固いねぇ」
クー・フーリンは日本に滞在している上、カイトの兄弟子にあたる。そして彼の弟子は天神市に滞在している為、普段は京都に暮らす彼はそれなりに東京に顔を出す。というわけで、ランスロットとは結構な回数で顔を合わせているらしい。
「良し。これで良いだろ」
クー・フーリンは少し身体を見回して問題無い事を確認する。一応血は拭えた。体力的にはまだまだ余裕だ。なので今からでも帰れる。
「わかりました。誰か、天道財閥の方々をお呼びなさい」
「はっ」
ガラハッドは部下に命じて、彩斗達を呼びに行かせる。そうして、すぐに彼らがやって来た。
「よ。待たせたな」
「ああ、クー・フーリンさん。お願いします」
「ま、大船に乗った気持ちで居ろ。下手に動かなけりゃ、危険はねぇよ・・・多分な」
クー・フーリンは最後に小声でそうつぶやいた。ここからは実際の戦闘になるのだ。何が起こっても不思議はない。であれば、万が一もあり得るのだ。
「さて・・・まぁ、ここでのんびりしてても始まらねぇか。ついて来い。それなりにゃ遠い。急ぎ足で行かねぇと、フィン達がどうするかわからねぇからな」
「どれぐらい先で合流するんですか?」
歩き始めたクー・フーリンに続いて歩き始めた三柴が問いかける。ここらを打ち合わせる為、クー・フーリンは先に入っていたのだ。魔物の状況などによって安全なポイントが変わってくる為、あまり先んじて決めても意味が無いそうだ。
「あーっと・・・大体30キロ先って所か。ま、魔術込みであんたらの足でも2時間か3時間、魔物の状況によっちゃ4時間って所だろ。そこからは、馬車で移動だ」
クー・フーリンは中空を見つめながら質問に答えた。かなり遠い様に思えるが、実際には魔術を使って歩く為さほど距離はない。現に今の浬達なら、一時間もあれば駆け抜けられる距離だった。
そうして、一同は洞窟を歩いて行く。真っ暗闇だったのでかなり長い洞窟かと思われた洞窟だが、実際にはたった1分ほど歩くだけで外に出られた。
「これは・・・こんな事があるのか・・・」
「こりゃ・・・俺も初めて見ましたわ」
三柴が目を見開いたと同時に、それなりに怪異は見てきている彩斗も同じく目を見開く。勿論、他の者達も大いに驚いていた。洞窟を抜けた先にあったのは、黄昏れが立ち込める大きな空間だ。洞窟の中というわけではなく、空も見える。
外から見えた光景では、洞窟の先にはどう考えてもこの程度の大きさは無い。明らかに、異世界――この場合は異空間というか冥界だが――だった。
「さて・・・驚いてもらえたな? これが、俺が修行してた『影の国』だ。黄昏の支配する夜の無い国。夜も昼も朝もないけどな。大昔にゃ獰猛な獣達や強力な魔物が跋扈してたんだが・・・まぁ、今は色々とな」
クー・フーリンは笑いながら手を広げる。彼の後ろには、雄大な自然があった。どうやらここは少し高台になっていたのだろう。周囲が良く見渡せた。
ちなみに一同の後ろには山があり、そこの洞窟から彼らは出て来たのであった。そうして、笑った彼は一同の驚きが収まった所で、改めて注意事項を説明した。
「じゃあ、改めて言っておく。ここで守るのはただ一つだけだ。俺が動くなと言ったら動くな。それが守れねぇなら、死ぬから注意しろ」
クー・フーリンは少し冗談めかして告げたが、そこにはそれを事実と思わせる獰猛さが滲んでいた。それはかつて<<クランの猛犬>>と呼ばれた男の風格が見え隠れしていた。
「ま、それさえ守れりゃ後は俺が守ってやる。安心してろ。じゃあ、行くぞ」
クー・フーリンはそう言うと、再び歩き始める。そうして、それに一同も緊張を滲ませながら歩き始める。ここは地球でありながら、地球ではないのだ。古来からの常識が支配した古代の地だ。油断が即ち、死に繋がるのである。
「・・・止まれ」
しばらく歩いた頃。クー・フーリンが静かにそう告げる。周囲は草原だが、少し背の高い草が覆っていた。彼の目は真剣で、まるで猟犬の様に周囲を観察していた。
「屈め」
「っ・・・三柴さん」
「っと・・・すまん」
クー・フーリンの指示で、全員が無言で屈む。ちなみに、三柴に注意したのは彩斗だ。三柴はどうやら咄嗟の事で混乱し、初めての状況ということで僅かに反応が遅れてしまったのである。
訓練していても、やはり実戦となると違う。これは仕方がない事だろう。そうして、唯一人立っているクー・フーリンは耳を澄ます。
「そこか」
彼の耳には、何かが聞こえたらしい。そう言うや彼は小石を懐から取り出して、指に乗せて弾いて飛ばした。そうして、次の瞬間。小石が飛んだ方向から、爆炎と獣の吠える様な声が上がった。
「きゃあ!」
それに、渚が悲鳴を上げる。あまりに唐突だったし、かなり巨大な爆煙だった。
「悪いな、姉ちゃん。狼が近づいてたもんでよ・・・正確には狼型の魔物なんだが・・・後ろから忍び寄られても面倒だからな。ルーン刻んだ小石で吹き飛ばさせてもらったってわけだ。ま、ケルト版使い捨ての呪符って所だ」
クー・フーリンが楽しげに小石を弾いて弄びながら、告げる。そうして、彼は渚へと手を差し伸べた。
「ほら。立てるか?」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
「おう」
にかっ、と笑ったクー・フーリンは野性味のある顔立ちと合わせて、よく似合っていた。まるで子供をそのまま大きくしたかのようだった。というわけで、渚が照れていた。
「照れてるな」
「うるさいっ」
耳まで真っ赤に染めた渚がそう茶化す自分の兄に怒鳴る。照れ隠しである。それに、クー・フーリンは楽しげに笑って一同が無事である事を一瞬で確認していた。
「良し・・・じゃあ、行くぞ。まだまだ先は長い・・・けどまぁ、さっきの要領で動いてくれりゃあ、問題は無い。大抵は俺が先に気付く。ここらの魔物よりも俺の方が上だからな。ま、群れが出たときゃ出た時で考えようや」
クー・フーリンはそう言うと、再び歩き始める。それに一同もこの様子ならこれからもなんとかなりそうか、と思い先を進み始める。そうして、数度の遭遇戦の後。問題は起きた。
「あー・・・」
「また魔物ですか?」
クー・フーリンが唐突に立ち止まったのを受けて、三柴が問いかける。流石に三度も四度も遭遇していれば初めは腰を抜かすと思っていた彼でも慣れたらしい。すでにかなり平静を得ていた。
「まぁ、そうっちゃそうなんだが・・・」
クー・フーリンは口調に少し苦味を滲ませる。どうするか考えているらしい。
「群れに遭遇しちまった。俺一人なら逃げられる距離なんだが・・・あんたらが一緒だとな。見つからない可能性もあるが・・・」
クー・フーリンはそう言うと、3時の方角を見据える。三柴だけでなく彩斗達には何も聞こえないが、どうやら何かが迫ってきているのだろう。
「まぁ、一度二度はこういうこともあるか・・・ここで、じっとしてろ。片付けてくる」
クー・フーリンはそう言うと、今度は腰に装着しているベルトに吊り下げていた4つの木の枝を取り外した。それには奇妙な文字が書かれていた。彼はそれを軽く投げると、何処からともなく取り出した真紅の槍を軽く振り下ろした。
「よっと」
彼が槍を振り下ろすと同時に、彩斗達の四方に勢い良く木の枝が突き刺さり、半透明の壁が立ち上がる。
「簡易の結界だ。あいつら程度ならしばらくは防いでくれる。奇襲対策だと思ってくれ」
クー・フーリンは槍をくるくると弄ぶように回しながら、これが何なのか説明してくれた。どうやら、後顧の憂いを断つ為に討伐に出るようだ。
「じゃあ、行ってくるわ」
クー・フーリンはそう言うと、僅かな土煙を上げて消える。そして、その次の瞬間。彼が見据えていた方角で轟音が鳴り響いた。
「あれは・・・」
どうやら、準備をしている間に見えるほどの距離にまで近づいていたらしい。そこには影で出来た様な狼や人型など様々な形の奇妙な物と戦うクー・フーリンの姿があった。
「あれが、『影の魔物』とやらか」
桐ケ瀬が呟いた。あれは魔物と似ているが厳密には違うらしく、なんらかの魔術によって生み出された存在らしい。『影の国』が千年もの間封じられる事になっていた原因だそうだ。
「ほらよっと」
クー・フーリンは迫り来る爪や斬撃を軽々と回避しながら、カウンターの要領で遊ぶように一方的に『影の魔物』を屠っていく。なお、この『影の魔物』は魔物でも生き物でもないらしい。なので血が吹き出る事はなく、彼に突かれた後からはモヤのような闇が吹き出すぐらいだった。
そうして、そんな彼は地面を大きく踏み抜いて、周囲の『影の魔物』達を浮かび上がらせた。その余波で彩斗達の所にまで振動が届くほどの揺れだった。
「はっ! ふっ! はっ!」
クー・フーリンは一息に一突きして、浮かび上がって身動きの取れない『影の魔物』達を突き刺していく。そうして、彼は最後に軽い感じで10メートルほど飛び上がると、そのまま地面へとこれまた槍を軽い感じで放り投げた。
「ほらよっと!」
槍が地面に触れた瞬間。槍が衝突した場所を中心として火炎が上がる。槍の切っ先に『炎』のルーンを刻んで、火炎が上がる様にしたのであった。そうして、『影の魔物』達を軽く片付けた彼は槍を回収すると、再び彩斗達の所へ戻ってきた。
「ま、ざっとこんなもんだろ」
彼はそう言うと、槍を軽く振るって彩斗達の四方に突き刺さった木の枝を回収する。どういう原理かはわからないが、一振りで全て彼の手の中に戻ってきていた。彼はそれを流れる様な手つきで再びベルトに突き刺すと、一同に先を促した。
「良し。じゃあ、行くぞ。まだまだ先は長い。体力に問題が出た奴は言えよー」
「あ、はぁ・・・あ、ありがとうございます」
「良いって。師匠からの命令だし、それが仕事だしな」
三柴の感謝にクー・フーリンは肩を竦める。そうして、一同は再び歩き始め、数度の遭遇戦の後、合流ポイントに到達した。
そこは何かがあるわけではなかったが、見通しの良い草原だった。草の背丈はさほど高くはなく、最大でも彩斗の足首程度だ。これなら、確かに魔物であろうと獣であろうと潜めないだろう。待ち伏せされなくて良い。
「ここらが、合流地点のはずなんだが・・・」
クー・フーリンはそう言うと、少しだけ周囲を見回す。何もないが、その分見通しは良い。確かに合流するには良い場所だろう。が、どうやら彼の目でも何も見当たらなかったらしい。彼は少し考えて、こちらから連絡を取る事にしたようだ。
「・・・打ち上げるか。ちょっと、下がってくれ」
クー・フーリンはそう言うと、二つほど小石を懐から取り出した。彼がそれを大きく放り投げると、それは上空で赤い光を放った。
「ま、信号弾みたいなもんだ・・・さて・・・」
クー・フーリンはそう言うと、周囲を再び観察し始める。そうして、数分。彼が笑みを浮かべた。
「ああ、来やがった」
クー・フーリンはそう言うと、一同に対してある方角を指差した。そちらからは数台の馬車と50人ほどの軽鎧の戦士達がそれに並走していた。
「おーい! フィーン!」
「おお! クー・フーリン殿! そちらは息災変わりなさそうだな!」
「おーう!」
クー・フーリンの言葉に、相手の戦士団の隊長らしい男が声を張り上げる。どうやら、顔見知りらしい。
「フィン・マックールだ。『フィアナ騎士団』の団長だ」
「そんな人物が出迎えてくださるんですか?」
ケルトと関わる以上、天道財閥としても有名所の名前は把握している。なので『フィアナ騎士団』とその団長、フィン・マックールの名は把握していた。団長自らが来てくれるとは思ってもみなかったのである。
「ま、イギリス政府からはそれなりに客があるが・・・あそこは身内みたいなもんでな。あんたらは千年ぶりの外からの客だ。多少は豪勢な出迎えをさせてもらうさ」
クー・フーリンは笑う。勿論、これは表向きの言い訳だ。カイトはここで少しの間修行をしていたわけで、フィンとは酒飲み友達として懇意にしていた。なので彼が直々に来てくれた、というわけである。そうして、見る見るうちに銀髪の偉丈夫を先頭にした戦士団が三柴達の所へとやって来た。
「よう」
「クー・フーリン殿。久しいな・・・と何時もなら言う所だが、数時間前に会ったばかりか」
銀髪の偉丈夫が笑いながら、クー・フーリンへと挨拶する。彼が、フィン・マックールだ。フィン・マックールといえば金髪で知られているが、それは呪いによって失われて銀髪になっていたわけである。
また彼と言えば老雄としても知られているが、聞けば彼の武勇の最後となる戦いの折りに若き日の心境を取り戻した事で肉体も若返った、との事である。
ここら、精神一つで若返ったりするのは神や異族の血を引いている彼らの特権にも近かった。そんな彼は挨拶をそこそこに三柴達を見た。
「彼らが、客人か?」
「ああ。馬車は・・・大丈夫そうだな」
「おうとも・・・っと、失礼したな。我が名はフィン・マックール。『フィアナ騎士団』の団長だ」
「っと・・・三柴と申します。よろしくお願いします」
「うむ・・・出来れば全員の名を聞いて歓迎の宴でもしてやりたい所だが、ここは何分外だからな。申し訳ない。早速で悪いが乗ってくれ」
「は、はぁ・・・」
フィンから言われた三柴だが、馬車を見て少し気圧される。とはいえ、これは彼だけではない。全員が気圧されていた。馬車を引いていたのは、馬ではなかったからだ。
「竜を見るのは初めてか?」
「は、はい・・・」
三柴はクー・フーリンの問いかけに少しの怯えを見せながら頷いた。そう、実は馬車を引いていたのは、竜と言われる生き物だった。と言っても羽根が生えた所謂ワイバーンやそういった類ではなく、どちらかと言えば恐竜にも似た竜だ。
このタイプは地竜と言うらしい。これに対して羽根が生えた竜を総じて天竜と呼ぶのだが、どちらも日本では特定の場所へ行かねば滅多にお目にかかる事はない。どちらにせよ彩斗達も見たことはなかった。
ちなみに、竜は魔物に属している為本来ならば討伐対象になるのだが、このように飼いならす事も出来るらしい。というわけで、今回の様に竜に馬車を引かせる事もあるそうだ。
なおその場合、馬車ではなく竜車と呼ばれるらしい。まぁ、馬が引く荷車だから馬車なのだ。馬が引いていないのに馬車と呼ぶのも可怪しいだろう。
「安心しろ。飼いならしてるからな」
「ははは。足蹴にでもせん限りは、噛み付く事は無い。安心召されよ」
ぽんぽんと地竜を叩くクー・フーリンに続けて、フィンも笑って安全を保証する。それに、三柴達はおっかなびっくりという具合に馬車へと乗り込んだ。
「あれが、あれの父か」
「似てるっちゃあ似てるな」
それを横目に、クー・フーリンとフィンが笑う。見ていたのは彩斗だ。やはり同じ弟子同士として、その父親になると気になったらしい。そうして、そんな彼らに守られながら、竜車が緩やかに発進を始めたのだった。
お読み頂きありがとうございました。




