第149話 妖精の里
初陣を終えて妖精達の守る森に入り、おおよそ一時間ほど。浬達は深い森の中の湖の側にある妖精達の里へとたどり着いていた。
「うわー・・・最悪・・・」
「お風呂どこー」
浬と鳴海がげっそりとした様子で、開けた場所に出て安堵の声を漏らす。はっきり目に見えたいたずらこそなかったものの、気付けば三つ編みにされていたり、と色々やられたようだ。が、そんな彼女らも目の前に幻想的な光景が広がっている事に気付くのに、そうは時間が掛からなかった。
「・・・ごめん。本気でなんて言えばいいかわかんない」
「うん、私もそれで良いと思う」
「私も・・・」
少女ら三人は髪を整えるのも忘れて、うっとりとした様子で目の前の光景に見とれ、見惚れる。ここの住人達が先程自分達にいたずらをしていた者達である事を思わず忘れてしまう光景だった。
「おぉ、これはまさに幻想的。薄暗い森の中に木をくり抜いて作られた家、幻想的な灯り、きのこの椅子などなど・・・これは確かに絵になる様子であるな。木々が深い故にここまでは光も届かん。いや、さしもの我輩もこれには驚いた。このような場所が天然にあるとは・・・」
「ようございました」
「・・・詩乃。少しは少女らしく驚いたり興奮してはどうだ?」
「はぁ・・・それがお望みでしたら致しますが・・・これでも興奮はしているつもりですが?」
詩乃が煌士の苦言に素面で答える。が、よく見れば耳はせわしなく動いているし、視線も結構色々と移動している。興奮していないわけではないのだろう。それが表に現れないだけだ。
「そう言えば・・・あの塔はここにあったんですね」
「ああ、マーリンの塔か。あれはここの畔にあるからな」
塔を見上げる空也の言葉にフェルが頷いた。湖の畔にはマーリンが幽閉されている少し大きな塔に大きな館が対岸に二つ。そしてそれを中心として、幾つもの家が立ち並んでいた。それを見ながら、海瑠へとモルガンが説明をしていた。
「ここが、私達の妖精の里。まぁ、名前はないよ。名前を付ける意味が無いからね」
「モルガン様。我々は一足先にティターニア様に謁見してまいります。どうにせよ皆様の事もお伝えしなければなりませんし・・・」
モルガンに対して、鎧の内側に入り込んでいた木苺を取っていたトリスタンがようやく取り終えたらしく申し出る。残念ながらこの里には外に即座に連絡が取れる様な設備は存在していない。誰かが使者としてやってきて、連絡を送るのが主だ。
基本的に妖精達は自由気ままなので連絡を入れてもその通りに動いてくれるとは限らず、使者を送るのが一番良いとなったらしい。そもそも電話線だろうと切ってしまいかねないのが彼らだ。電話は少し遠くにあるヴィヴィアンの館以外に無いらしい。そしてその主たるヴィヴィアンはここに居る。姉妹達が居るとは限らなかった為、アポイントは取っていないのであった。
「そうね。ティタにはモルガンとヴィヴィアンが客人を連れてやってきた、って言っておいて。客人は古き者の盟友の弟妹とその友人達だ、って」
「かしこまりました・・・エネヴァ。あまりやっても無意味ですわよ」
「わかっているんですけどね・・・うぅ・・・木苺が潰れるとは思っていませんでした・・・」
モルガンの伝言を受け取ったトリスタンは木苺の汁を拭っていたベディヴィアを引き連れて湖の畔にある館の一つへと向かっていく。どうやら大きな館はやはり女王の住居のようだ。二人はこの里の者達とも顔見知りの為、ほぼほぼ顔パスで中へと招き入れられていた。
「さて・・・じゃあ、待つ間どうしよっか?」
「え? あ、ごめん、ヴィヴィちゃん。何か言った?」
「あはは。そこまで不思議な光景かな?」
「うん! すっごいキレイ! それにこれ、絶対見れないっしょ!」
ヴィヴィアンの問いかけに浬は非常に興奮した様子で頷いた。現金なものであるが、彼女は普通の修学旅行に行けなかったのも良かったかな、と思っていたらしい。そして同じように鳴海と侑子も流石にこの幻想的な妖精達の里は見惚れるしかなかったらしく、ツアー観光しかない修学旅行よりも大分良かった、と思っていた。
「あ、いたいた! カイトー!」
「星の人だー!」
「人じゃなくて小鳥?」
「星の小鳥?」
「ぴゅー、って落ちそう?」
と、そんな一同に妖精達が再び寄ってくる。今度はいたずらをする事もなく、普通に話に来た様子だった。そんな彼らを見て、カイトは人型になる。
「っと・・・ほら、金平糖。今回はキラキラの瓶に入れてみました」
「「「わーい!」」」
「・・・あ、餌付け」
カイトの取り出した小洒落た小瓶に妖精達が群がる。ちなみに、それを見た海瑠がふと呟いたが、全員同じ印象を持っていた。
「餌付け言うな、餌付け・・・後モルガン! てめぇもきっちり食ってんじゃねぇよ!」
「えー。私も一応妖精だよ?」
「これは手土産だ手土産!」
「えー」
モルガンは不満げながらも手を引っ込める。が、その際に三つほどきっちりとくすねていたので、やはり彼女も妖精は妖精なのだろう。
「ほらほら・・・とりあえず、どうしよっか? しばらくは暇でしょ? 私の家に行く?」
「ヴィヴィちゃんの家? あるの?」
「私もモルガンもここ出身だからここに家はあるよ。私は役割柄少し離れているけどね。一応、観光名所の一つかな」
浬の問いかけにヴィヴィアンが森の更に奥を指差した。この奥にももう一つ湖があるらしい。
「気にはなる・・・よね。ヴィヴィちゃんのお宅は・・・」
「まぁ、気にならないといえば嘘になるけどね」
「観光名所の一つ、と言われたがどういう事なのだ?」
「アーサー王伝説のほら、<<湖の聖剣>>のやり取りした所だよ」
「おぉ! それは是非とも見てみたい! っと、その前に出来れば一度塔の前にも行きたい所だ。我輩、やはりアーサー王伝説となると興奮が抑えきれん」
煌士は女子達の様に幻想的な光景に見惚れるよりも、アーサー王伝説縁の地である所に心惹かれたらしい。やはりここらは男の子だから、という所なのだろう。
「ああ、それなら通り道だから大丈夫。ついでに見れるよ」
「それは有り難い。他はどうする?」
「ああ、それなら貴様らは好きにしてこい。私は見慣れているから行かん」
「私も、遠慮させて頂きます。二人が帰って来ても問題ですからね」
煌士の提案にフェルとアテネが待機を明言する。フェルはカイトと共にそれなりの回数こちらに来ているし、アテネは彼女の言う通り先に伝令に向かったトリスタンとベディヴィアを待つ事にしたようだ。
それに巻き込まれて修学旅行をこんな事に費やさせてしまった事もあり、少しはそういった事を気にしない自由にさせてやる意図もあったようだ。と、それを聞いて浬が答えを決めた。
「うーん、まぁ、ヴィヴィちゃんのお宅は見てみたいし行こっかな。案内してくれる?」
「うん。じゃ、行こっか」
「はーい、じゃあまた出発しまーす」
浬の決断に一同が頷いたのを受けて、モルガンとヴィヴィアンの案内で再び一同が歩き始める。そうして、まずはマーリンの幽閉されている塔の前にたどり着いた。それは何か大理石の様な石で出来たそこそこ大きな塔だった。
「この奥に、マーリン殿が・・・どんな方なのだろうな」
「マーリン・・・老魔術師マーリンだっけ」
「ああ、それ? それは実際にはウーサーの前で取ってた姿だから本当の姿じゃあないよ」
塔に手を当てて呟いた煌士の言葉に己も読んだ内容を思い出す様に告げた空也に対して、モルガンが真実を告げる。と、それに二人が彼女の方を向いた。
「そうなのか?」
「うん。マーリンは夢魔を父として持っている事は有名だよね」
「うむ」
「ええ」
「夢魔は基本的に若い姿を取るの。人の精気を吸い取って栄養にしているわけだからね。見た目は重要なのよ。ハーフでもそれは変わらない。老人になるのは死の間際だけ。でも若い魔術師なんて信用しないからね、ウーサー。そこら考えて変化したのが、老魔術師というわけ。夢魔だから自由自在に姿は変えられるから」
「ほー・・・さすがはマーリンという所か・・・」
煌士は感心した様に、塔の内側に幽閉されている魔術師を思う。と、そんな所に声が響いてきた。
『いやぁ・・・流石にそこまで絶賛されると照れるね』
「・・・へ?」
「うわ! イケメンが出た!?」
『はじめまして、皆。私がマーリンだよ』
煌士が目を丸くして、鳴海が興奮する。現れたのは、彼女の言葉にそぐわずイケメンだ。それもアルトにも匹敵する様なイケメンだった。
とは言え、あちらとは違い顔には常にいたずらっぽそうな笑みが浮かんでいて、若い事以外は確かに語られるマーリンの姿と言ってよかった。まぁ、そう言っても実体ではないらしく半透明な姿である。
「・・・え? いや、だって・・・幽閉・・・されているのでは?」
『あはは。流石に一千年以上も幽閉されてれば意識だけでも外に出す方法は開発出来るよ』
煌士の問いかけにマーリンは笑いながら出れる事を明言する。とは言え、外に出れるのは意識だけらしい。だからこそ、半透明なのだろう。いわば立体映像と考えて良いのだろう。
「は、はぁ・・・いや、たしかにさすが物語では最優の魔術師と語られるだけはある、と考えるべきなのか・・・?」
煌士はこれは幽閉と言えるのだろうか、と思いながらしかしそれでこそマーリンらしいと困惑する頭で考えていた。と、そんな彼は笑いながらカイトへと告げる。
『ああ、そうだ。異世界の君たちも頑張っている様子だね』
『そりゃな。帰る為に必死だからな』
『うん。それで、一個。向こうの君たちは今、こっちにメッセージを送ろうとしているね』
『らしいな』
「そうなの!?」
カイトが同意したマーリンの発言に、浬が大いに驚いた様子を見せる。そんな事全く知らなかったのだ。それに、ヴィヴィアンが教えてくれた。
「あ、丁度今頃空也のお父さんの所にカイトからのメッセージが届いている頃じゃないかな。多分君たちが日本に帰った後ぐらには、届くと思うよ」
『うん。私の見立てでもそうなっているかな』
『そうか・・・いや、流石にオレもそこらは把握してないからな。これはあくまでも子機。本体じゃあないからな』
『あはは。そうだね。それは仕方がないさ』
マーリンとカイトは笑いながら平然と話すが、これに煌士は思わず慄いていた。マーリンはさも平然と語っていたが、彼は天道財閥が数ヶ月掛けて方々手を回して成し遂げた事をさも平然と成し遂げていたのである。別の意味で驚くのも無理はなかった。
「魔術を使えばそんなことまで可能なのですか!」
『うん? ああ、まぁね。私は何分、魔術と戦略とかの平時じゃあ役に立たない事が得意だからね』
「役に立つのはいたずらぐらい、だっけ」
『そうだね。役に立つのはいたずらぐらいさ』
「それ、役に立てて良いわけないでしょ・・・」
ヴィヴィアンと笑い合うマーリンに対して、モルガンがため息を吐いた。まぁ、こういう人間味があればこそ、彼はこれだけ絶大な力を持ちながら誰からも慕われる魔術師なのだろう。と、そんなマーリンが煌士の方を見た。
『ああ、そうだ。えっと、煌士くんだね』
「え、あ、はい・・・ええっと、なぜご存知なのですか?」
『あはは。私は塔の中に居るけれど、ここから大抵の事は知っているさ・・・私のひ孫にこの事は内緒にしておいてね。彼の才能を無駄に潰しかねないからね』
「・・・はぁ・・・ですがなぜ我輩に?」
『あはは。君、僕のひ孫とメールアドレス交換してたからね』
「え?」
マーリンの言葉に煌士が目を見開く。そんな事をした覚えは無いのだ。そんな彼に、マーリンがいたずらっぽく告げた。
『エドワード・マーリン・マーキュリー・セカンド。エドワードのフルネームはそれさ。あの子こそ、今の宰相にして、私の後を継いだ二代目のマーリン。マーリン・セカンドさ。だから、第一世代の騎士達は揃ってセカンド、というわけだね。彼らからしてみれば私がマーリンだからね。まぁ、彼らなりの激励もあるのだけど・・・気付かないんだよね、あの子は』
「えぇえええ!? そ、それは本当なのですか?」
『ああ、そうだよ・・・っと、違う違う。脱線してた』
マーリンは笑いながら再びカイトに向き直る。ついうっかり脱線したが、そもそもカイトとの会話の真っ最中だったのだ。そして何の意味もなく、出てきたわけではない。それを思い出したのである。
『彼からの伝言だよ。ルルなら途中で回収出来るはずだからメッセージ挟み込めるんじゃね、だそうだよ』
『ああ、なるほど。確かにこっちの秘密のメッセージは組み込んでも良いかもな。モルガン達もメッセージ、送りたいだろ?』
「別に必要無い気もするけど・・・送れるなら送っておきたいよね」
「そうだね。一応、同封させてもらえれば最善かな」
モルガンとヴィヴィアンは頷き合い、出来ればやれれば一番だよな、と同意したようだ。それにルイス達もメッセージを送りたい事はあるだろう。それを考えて、これを良しとしたようだ。
『で、相変わらずあいつはそっちか?』
『いや・・・今は何処かをうろちょろとしている様子だよ。私が時折お邪魔させてもらっても、居ない事が多いね。彼も彼で頑張っているんじゃないかな』
『王様家業が終わっても忙しいもんだ・・・』
マーリンの言葉にカイトは苦笑いを浮かべる。どうやら、この伝言の主とカイトは知り合いらしい。
『じゃあ、きちんと伝えたよ。私はまた戻るね』
『ああ、ありがとう』
カイトへの伝言を終えると、マーリンは映像を消滅させる。どうやら塔の中に引っ込んだようだ。
「さ、マーリンとも会えたし行こっか」
「あ、う、うむ・・・うむ。常識とは捨てる方が良い物なのだろうな、詩乃」
「出来れば、必要な常識は身に付けてください」
「むぅ・・・」
詩乃の苦言に煌士は口を尖らせる。そうして、そんな一同は各々何処か釈然としない思いをしながら、更に奥にあるというヴィヴィアンの館を目指して歩き始めるのだった。
お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時からです。




