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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第8章 イギリス編

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第148話 妖精の里への道

 初陣を終えて、しばらく。浬達は躁状態に近い精神状態だったが、それも時間と共に落ち着いて今は車の中で少しだけ眠りに就いていた。


「何か微妙にその後の方が疲れてる様な気がするな」

「そういうものでしょう、新兵というのは。戦っている間は興奮し、終われば泥のように眠る。それもまた、兵士の在り方なのやもしれません」

「オレは泥のように眠るんじゃなく死んだように眠ってたけどなー」


 何処か苦笑交じりのフェルの言葉にアテネとカイトが応ずる。ヴィヴィアンは魔術を使って後ろで休んでいる面々に疲労回復の為の魔術を展開して、モルガンと二人の少女騎士らは屋根の上で中の一同を起こさない様に魔物を討伐出来る様に警戒を行っていた。そうして進み続けること、更に一時間。とある森の側にまでたどり着いていた。


「おーい、お前ら。全員起きろー」


 車を野ざらしに近い形で設置されていた駐車場に停車させる。ちなみに、野ざらしに見えるが実際には高度な結界が展開されており、下手な町中よりも安全なのだそうだ。

 滅多に来る事は無いがここには妖精達の女王が居る為イギリスの王族が訪れる事もあり、そこらを考えて最高レベルの警備システムが整えられているらしい。


「んにゅ・・・ここ何処?」

「妖精達の里に通じる森の前。ここからは歩きだからな。先、降りてろ。オレは結界展開したり色々と後始末があるからな」


 目を覚ましたらしい浬の問いかけにカイトは森を指し示しながら答えた。答えは見ればわかるが、一応の念のためだ。


「はぁー、懐かしき我が故郷・・・ぜんっぜん帰りたくないんだけどね」

「あはは。仕方ないよね」


 モルガンの言葉にヴィヴィアンが笑う。彼女は基本的にここから出ている事からもわかるが、あまりここに近寄ろうとしないようだ。


「どして?」

「ウチのだめ親父が居るから」

「ダメ親父?」

「私これでもハーフよ? 妖精と人間のハーフ・・・母親がアルトと一緒。つまり、父親妖精」


 モルガンは浬の言葉に肩を竦めて首を振る。本気で呆れ返っていた。


「お父さん居るの? この先に?」

「さぁ? あれガチクズだしねー。居るんなら居るし、居ないなら居ないんじゃない? いっそ消し飛んでくれれても問題ないしねー」

「こーら。一応お父さんなんだからそこまで酷評しない」

「酷評は良いのか・・・」


 ヴィヴィアンの言葉に煌士はきちんと気付いていたらしい。頬を引き攣らせていた。


「あはは・・・」

「って、言うことはお父さんは妖精なわけ?」

「妖精は妖精よ。西暦が始まった頃ぐらいから生きてる結構古い妖精」


 モルガンの言葉に一同はおじいさんの妖精をイメージする。と、そんな風に話し合っていると、ふと煌士が森の中に一つの人工物がある事に気付いた。


「む? 塔?」

「塔?」


 煌士の言葉に一同が彼の見ている方向を仰ぎ見る。するとそこには確かに、なぜ今まで気付かなかったのか、という様な塔があった。


「ああ、あれ? 煌士なら知っているんじゃないかな」

「我輩なら知っている・・・?」


 モルガンの言葉に煌士が眉をひそめる。と、彼はここまでの流れを考えた所、一つの答えが浮かび上がる事に気付いた。


「・・・魔術師マーリンの封ぜられた塔か!?」

「ビンゴ」

「と言っても観光名所になっているんですけどね」


 指差して答えを認めたモルガンの横で、ベディヴィアが笑いながら実際の所を告げる。と、そんな話が出たからか、ふと煌士は気になった事が浮かび上がった。それはマーリンに深い関連のある妖精がこの中に一人、居たからだ。それは、ヴィヴィアンである。


「そう言えば・・・ヴィヴィアン殿。どうしてマーリン殿を封じたのだ?」

「封じた、か・・・あれは私が封じたんじゃないよ。まぁ、間接的には私が封じた、で良いんだけどね」


 煌士に問われたヴィヴィアンは塔を眺めながら答える。それははるか昔を思い出す様子だった。そうして、彼女は一つの聖剣の名を問いかける。


「エクスカリバーって知ってる?」

「それは勿論。おそらく、名前だけなら誰もが知っているだろう名ですね」


 煌士はヴィヴィアンの問いかけにはっきりと頷いた。エクスカリバー。おそらくアーサー王伝説以上の知名度を誇る聖剣の中の聖剣。聖剣の代名詞。欧米で暮らした事がありその名を知らない者はよほど無教養な者ぐらいだろう。

 そして彼は5年ほどアメリカにいたのだ。なので当然、煌士は知っていた。なお、煌士はどうやら真剣に議論に入ったからか、何時もの演技ではなく素の学者モードの口調に入っていた。


「<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>の元となる<<真なる聖剣(エクス・カリバー)>>とその鞘<<異界の鞘(アナザー・ワールド)>>。その二つを、ウーサー・ペンドラゴンは貰い受ける事を望んだの。その対価は、決してあの二人で贖いきれる物ではなかった。それ故ウーサーは滅び、マーリンはあそこに封ぜられる事になった、というわけ」

「<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>の対価? あれは確か・・・ヴィヴィアン殿からアーサー王へと譲られたのでは?」

「<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>ほどの聖剣を無対価に与えられるほど、この世界は甘くないよ」


 煌士の問いかけに対してヴィヴィアンが断言する。<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>はこの地球でも名立たる聖剣だ。その力は誰も知らないが、少なくとも当人よりはるかに有名になるほどには凄い事はわかる。


「<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>・・・その大本となる<<真なる星剣(エクス・カリバー)>>はおそらく、この世で最強の聖剣の一振り。星の鍛えた聖剣の中でも有数の一つ。<<選定の剣(カリバーン)>>は知ってるよね?」

「かの有名な選定の剣。アーサー王が引き抜いた剣ですね」

「そう。あれはマーリンが創り上げた魔法・・・って、この言い方は私達の世界じゃ駄目な言い方だけど魔法の剣。それだけに過ぎない。でもあっちは違う。本当の聖剣。<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>の鞘を考えれば分かるでしょう? あんなとんでもない性能の代物をそう安々と使えるはずがない。しかもアルトは何も対価を支払っていない。本来ならば英雄が支払うべき偉業もなければ、試練も突破していない。本来は、所有者となりえない」

「ふむ・・・」


 煌士は自らの頭でヴィヴィアンの言葉を考える。英雄達は大抵、その聖剣や魔剣を手に入れる道のりで何らかの苦難を乗り越えている。もしくは苦難を乗り越える対価に、その武器を手に入れている。

 それが英雄たちからすれば一番ありふれた在り方だ。例えばアテネを見ればよく分かる。彼女はメデューサ討伐に向かう半神半人の英雄ペルセウスに対して、盾を貸し与えている。他にも北欧神話のベオウルフ。彼はグレンデルという邪竜を退治した対価に、魔剣を手に入れた。他にもシグルドもそうだ。

 が、アーサー王はどうか、というと己の無道の対価で失った剣の代替品として<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>を手に入れている。これは確かに、些か道理を損なっている。

 彼が聖剣を手に入れた理由は、あくまでも彼の失態を補う為だ。その対価として、何も支払っていない。ただ彼はマーリンに案内されてヴィヴィアンから受け取ったというだけだ。そうして、そこらを理解した煌士を見て、ヴィヴィアンが続けた。


「でも、それがもし元々彼の物であるとされていれば、これは話が変わってくる。ウーサーが何を考えていたか、なんて私も知らない。マーリンも語らなかったしね」

「なるほど・・・物語の筋道を見れば聖剣の対価としてマーリンを失った、とはよく学術界で言われる話・・・それは物の道理として、と考えれば確かに合うわけか・・・」


 煌士はヴィヴィアンからの解説にしきりに頷いていた。とは言え、そんな過去の断片に触れて、彼は何処か偲ぶように塔を見上げた。


「一つの王に仕える魔術師として、王の為に全てを投げ打った魔術師・・・その孤独、覚悟の上だったのでしょうか・・・」


 煌士が思うのは、一人塔の中に幽閉されているという伝説の魔術師の事だ。彼は今も、あそこに囚えられている。面会もなく、外に出られる事もない。どれほどの孤独かは察するにあまりあった。あったのだが、そんな煌士達に対して二人の少女騎士は視線を逸していた。


「・・・言い難いですわね」

「と言うか・・・言えないですよね」


 トリスタンの言葉にベディヴィアが同意する。そうして、二人は事実を述べる。


「「実は平然と意識だけ外に出してる、なんて・・・はぁ」」


 二人の少女騎士は揃ってため息を吐いた。実のところ、そういうわけらしい。煌士らはまだまだ、常識に囚われているのであった。と、そんな話をしているとカイトが車から降りてきた。どうやら、作業は終わったらしい。


「終わった終わった・・・ほいっと」


 カイトは車から降りると魔力節約の為に小鳥の姿に戻る。と、そうして場に漂う沈黙に気付いた。


『ん? どした?』

「いや・・・マーリン殿の事に思い馳せていただけです」

『ふーん・・・マーリンねぇ・・・』


 煌士の言葉にカイトも塔を見上げる。が、真実を知っているので感慨もなく即座に前を向いた。


『ま、そりゃ良いか。ほら、行くぞ。こっからも長いんだ。危険は無いけど』

「あはは。ここからだけはね。妖精たちの挨拶があるからね」


 真剣に道理を説いていたヴィヴィアンが一転、何時もの柔和な笑みでここから先を告げる。そうして、モルガンが先頭に浮かんで笛を口に当てる。


「さー、こっから楽しい楽しい森林浴だよー。あ、はぐれたらホントに死ぬ可能性あるから、はぐれちゃ駄目だよ」

「危ないの?」

「と言うより森で迷うのはどんな森でもそもそも危険です。皆様、はぐれないようご注意を」


 浬の問いかけに詩乃が答える。ここらは常識の範疇として答えたわけだが、実際は罠が満載のエリアもある。なので実態はそれ以上になるわけだが、そこは触らぬ神に祟りなし、とスルーされることになる。

 そうして一同は森へと入っていったわけだが、残念ながら森では彩斗達がされた挨拶される事はなかった。というのも、彼らからしてみればより楽しい相手が居たからだ。


『おい、やめろ! 羽根を引っ張るな!』

「わー! なんか楽しい事になってる!」

「こっちこっち! 蒼い人が何時もと違う姿!」

『まだ来る!? と言うか誰かが集めてるのか!?』


 まぁ、カイトである。彼は妖精を相棒として妖精と共に旅をしているわけで、妖精達からは随分と好かれている。そんなカイトが訳ありとは言え小鳥の姿になってやってくれば必然、そんないたずらより当人に集まるのであった。


「・・・なんか羨ましい・・・」

『代わってやろうかぁ!?』

「あ、それは良い」


 カイトからの言葉に浬は手を振って遠慮する。まぁ、楽しそうではあったが、かなり弄ばれていた様子であった。更には妖精達を力ずくで振り払うわけにもいかないだろう。なすがまま、とはこのことだった。と、そんな彼らがモルガンとヴィヴィアンに気付いたのは、少ししてからだった。


「あ、モルガンにヴィヴィアン。今日はどしたの?」

「あのクズなら今日はお留守だよー」

「おっしゃ! 最高! キタコレ!」


 妖精の一人の報告にモルガンが大きくガッツポーズを取る。どうやら、父親は相当嫌いらしい。


「あ、その様子だとお仕事とかじゃないの?」

「そそ。ちょっとティタにご用なんだけど、居る?」

「居るよー。あ、先に行って来たって行ってこよっか?」

「おねがーい」


 妖精たちがモルガンのお願いを受けて、飛び去っていく。どうやら先んじてティターニアに話をしに行ってくれるようだ。と、その一方でまた別の妖精達が何かを祈る様な仕草を始める。


「んー!」

「良し! これで森の結界は通れるよー」

『おう、サンキュ・・・で、上の奴! 人の羽根を毟ろうとするな!』

「えー! 一本ぐらいちょうだーい!」


 礼を述べたカイトと妖精達は相変わらず騒がしい。とは言え、どうやら先程の祈りの様な動作は森に張り巡らされた防備を解除する為のものだったようだ。これで、迷うこともなく森を抜けられる事になったわけだ。


「はぁ・・・相変わらず妖精に好かれるな」

『どういうわけなんだろうな、これは・・・絶対因縁めいたものあるわ・・・』


 フェルの言葉にカイトは羽根を引っ張られながらため息混じりに告げる。と、そこで妖精達は一頻りカイトで遊んで満足したのか、浬達に矛先を向ける。


「やっほ」

「きゃあ!」


 いきなり真上から天地逆さまの妖精が現れて、浬が仰天して飛び跳ねる。本当に唐突に現れた様に思ったらしい。が、実はずっと上に潜んでいて、彼女が気付けなかっただけだ。この点、まだまだ要修行という所だろう。


「あはは!」

「な、なんだったの、今のは・・・」


 妖精は一頻り浬が驚いたのを楽しむと、笑って何処かへと飛び去っていく。それを見て、カイトはどうやら注意が客人達にも移った事を理解して、口を開いた。


『あー・・・始まったか・・・気をつけろよー。油断すると痛い目には遭わないけどひどい目にはあうぞー』

「「「へ?」」」


 カイトの言葉に、全員が首を傾げる。そうして、本格的な妖精達の歓迎会が始まる事になり、数十分後にはある意味でボロボロになった浬達の姿が、妖精達の里の前で見受けられる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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