第145話 出発
浬達がモルガンの独演会を聞いた後。一度全員が集合して、移動を開始する事にしていた。とは言え、今日は修行は無し、という事で移動する事だけが目的だった。目的地は妖精女王とも言われるティターニアが治める妖精達の里。数時間前に彩斗達が通り過ぎた所だった。
「いや、皆さん。おまたせいたしました。それと、おはようございます」
ランスロットが笑顔で頭を下げる。彩斗達を朝一番で送り届け、たった今戻ってきたのであった。というわけで、車もきちんとあるべき場所に返却されている。
「おはようございます、ランスロット卿」
「お久しぶりです、ランスロット卿」
「おや、これは・・・ベディヴィア卿にトリスタン卿」
ランスロットが目を瞬かせる。なぜ二人がここに、と思ったようだ。そうして、少しの間二人は先程あった事をランスロットへと伝達して、自分達が浬らの護衛兼案内役を任せられた事を伝える。
「ああ、なるほど・・・確かに、それは必要ですね。彼女らをよろしくお願いします」
「「はい、ランスロット卿」」
ランスロットの依頼を二人の少女騎士が受け入れる。と、そうして一段落したのを見て、フェルが口を開いた。
「まぁ、挨拶はそれぐらいにしておけ。貴様も色々と忙しいだろう? それで、向こうの具合はどうだった?」
「そうですね。あちらは、いつも通りですね。彼らは何時も如何なる時もなんら変わりなく」
ランスロットはフェルの問いかけに笑って妖精達がいつも通りであった事を明言する。彼らが何か慌てふためく事がない、という事は少なくとも彼らの世界が平穏であるということだ。
「では、こちらはおまかせを。適度に皆さんの分身を楽しませつつ、隠蔽をしておきますよ」
「お願いします」
しばらくの雑談の後、時間も無いからとランスロットが再びホテルへと戻っていく。そうして一同でそれを見送って、浬がため息を吐いた。
「なんだかなぁ・・・何しに来てるんだろ、私達・・・」
「? 修学旅行ではないか? 一風変わっているが」
「そうだけど・・・あんた、これ修学旅行に見えるわけ?」
「自由行動が出来て良いではないか!」
どんよりした様子の浬に言われて、煌士が堂々と断言する。まぁ、どちらがより良い旅行か、と言われれば浬達の方かもしれない。彼女らはこちらで闇の大精霊に会う以外、予定はオールフリーだ。ツアー状態で自由行動の殆ど無い他の生徒達に対して、彼女らは比較的自由行動は出来る。確かに班で行動していると思えば、まだギリギリ納得は出来た。
「それなら妖精達とでも戯れて旅行気分を味わっておけ。遠くに来た気分にはなれる・・・実際、遠くに来ているわけだがな。幻想的な光景は見られるぞ」
何処かがっかりした様子の浬に対して、フェルが告げる。これから行くのはある意味、観光名所は観光名所だ。妖精達の里。地球広しと言えどもここまで有名なのはイギリスにしかない。
「うーん・・・そう言われると、ちょっと気になるかも・・・?」
「そうしておけ」
「道中から目を背けさせましたね・・・」
フェルの言葉にアテネがボソリと呟いた。彼女は、知っていた。道中には魔物が出るということを。そこにある困難から目を背けさせていた事に気付いていたのであった。
そうしてランスロットを見送って、浬達は車が置いてあるという駐車場へと移動する。と、そこにあったのは、軍用にも使われる様な重厚な軍用のAWDだった。しかも単なる軍用の物ではなく、上部にはガトリング砲が取り付けられていた。というわけで、浬が頬を引き攣らせながら問いかけた。
「・・・これ?」
「まさかスポーツカーで荒れ地だの草原だの駆け抜けるわけにもいかないだろ。普通に街の外だしな。モルガーン、ガトリング確認しといてー」
「はいな」
「が、ガトリング・・・」
モルガンが確認に移動した上部に取り付けられているガトリング砲を見て、全員が唖然となる。と、唖然となっているわけにもいかないので、空也が待ったを掛けた。
「あ、あー・・・カイトさん?」
「なんだ? あ、ガソリン減ってる・・・先生ど忘れしたな・・・給油しとくか・・・」
「えーっと、これから行くのは妖精が居るという里、なのですよね?」
「ああ。つっても今日は挨拶だけだけどなー」
空也の問いかけにカイトはガソリンを給油しながら答える。慣れている所を見ると、それなりに運転していたのだろう。なお、聞けばきちんと教習所には通った、との事である。
「ではなぜ、そんなあの・・・物騒な物を?」
「外出るからに決まってるだろ? 外行くのに非武装とか死ぬ・・・こたぁ無いが、バカか熟練じゃない限りやんない」
「そう言えば私と会った時ってバイク片手に何も持ってなかったなー」
「それは言わないお約束」
モルガンが懐かしげに語った言葉に、カイトは笑って自分は良いと言っておく。まあ、彼の場合は事実として素手で藤原千方を倒したのだ。十分、大丈夫なのだろう。とは言え、装備を整えないのとは話が別だ。というわけで、別行動をしていた少女騎士らがフル装備で合流した。
「カイトさん、用意出来ました」
「おう。悪いな」
「わー・・・なんか物語みたい」
鳴海が目を見開いて、驚きを露わにする。少女騎士らの装いはどうやら騎士として制式採用されている物をそれぞれ個人用にアレンジした物らしく、少女らしさという物が失われていなかった。
なお、騎士ということでフルメイルかと思われるが、実際には動き難いらしいので完全に防御型の戦士でない限りはブレストプレートに篭手、具足という所だ。
顔に兜をかぶらないのは、周囲の音を阻害してしまうかららしい。一応兜を冠る人も居るそうだが、大抵はサークレット状の特殊な防備でなんとかする事が多いそうだ。
「ありがとうございます」
「はい・・・で、カイトさん。一つ良いですか?」
トリスタンの感謝を受け取った鳴海が、カイトへと向き直る。その顔は明らかに聞いていない、という表情が浮かんでいた。そして言う言葉も、そのままそれだった。
「聞いてません」
「言ってないからな」
「ここから先、普通に魔物が出るぞ」
「「「えぇええええ!」」」
フェルの言葉に一同が絶叫する。確かに居るとは聞いていたが、まさかこんな所でそんな存在に会う羽目になるとは思いもよらなかったらしい。
「まぁ、安心はしておけ。少なくとも空也、詩乃ぐらいならば単独で戦って勝ち得る相手だ・・・というわけで、検疫が終わった貴様らの武器を渡しておく」
フェルは異空間から検疫検査を終えた一同の武器を渡しておく。イギリスに入る時は検査していなかったが、こちらに入ってから検疫をしたらしい。
「・・・やれってこと?」
「安心しろ。大昔は皆やっていた事だ」
当たり前だ、と言外にフェルが告げる。これをクリアしなければ、浬らはこれから先の戦いの入り口にさえ立てないのだ。戦わねば、生き残れない。そして生き残りたくば、戦うしかないのだ。
「え、じゃああのガトリングは?」
「使えるのなら使ってみろ。弾は入ってない」
「なにそれ!? なんでそんなのあるわけ!?」
笑うフェルに対して、浬が怒鳴る。ちなみに、弾は入っていないのではなく弾は無いだけだ。これは魔力を弾丸として発射する装置だ。海瑠の持つ魔銃のガトリング砲版だと思えば良い。
「貴様らでは使えないだけだ。我々は普通に使える」
「・・・どして?」
「これは海瑠の持つ魔銃をガトリング砲にした様な物だ。貴様ら、海瑠の魔銃を使ってどうなった?」
「「「うっ・・・」」」
海瑠以外の全員が思い出して、思い切り仰け反った。彼女らは一度、全員武器を交換してみたことがある。これは空也も例外ではない。じじむさい彼だが、根は中学生だ。というわけで魔銃には心惹かれたらしく、貸してもらった事があるのであった。
その結果なのだが、結論だけを先に言えば見るに堪えない状況、と言うに尽きる。全員魔力を絶妙に調整する事が出来ず、ほぼほぼ全力で撃ち込んでしまったわけだ。その後は身体に力が入らなくなりぱったり、というわけであった。実は引き金を引けば良いだけ、というわけではないのであった。
「楽なぞ出来ん。それに竜を相手にすればこんなものは普通に無用の長物だ。あれにこんな物は通用せんからな」
「りゅ、竜・・・それって・・・あの、ドラゴンとかなんとか言うあれ・・・じゃないよね?」
「わかりやすく言えば、ドラゴンだな」
「居るの?」
「居るな」
「本当か! 詩乃! デジカメは持ってきているか!」
「没収されておりますし、流石に危険が見受けられますので撮影はおやめください」
フェルの断言に煌士が興奮を滲ませる。竜だ。やはり男の子の夢と言えるだろう。というわけで、何気に空也と海瑠も少しだけ興味を見せていた。が、それは男子陣だけで、当然女子陣は一気に踵を返していた。
「・・・ここに残る! んなの絶対に行きたくない!」
竜が居ると聞かされた浬が即座に踵を返す。普通に考えて勝てる見込みなぞあろうはずもなかった。が、これにフェルが呆れ返った。
「何のために私達やこいつらが居ると思っている・・・そんなのと戦わせると思うか・・・貴様らは見ているだけで良い」
「・・・ホント?」
「竜殺しなぞ英雄がやる芸当。流石に貴方方に望むほど、私達もスパルタにはしません」
フェルでは信用出来なかったらしい浬がアテネに視線を向けると、彼女も笑いながら当たり前だと頷いた。まぁ、それはそうだろう。竜殺しなぞ英雄達の英雄譚で語られる出来事だ。それを素人の彼女らに望むなぞ高望みも良い所だった。
「さっさと乗れ。貴様らが戦うのはゴブリンという雑魚も雑魚。スライム以下の雑魚だ」
「・・・スライム以下?」
「・・・それ、どんなもん?」
鳴海と侑子が首を傾げる。イマイチ、実感がわかないらしい。それにフェルが告げた。
「きちんと鍛えた普通の兵士が1秒で10体討伐するレベルだ」
「わかんないよ、それ」
侑子が首を傾げる。そもそも1秒に10体討伐出来ている時点で並ではない事がわかっている。初心者が戦わされる魔物が瞬殺というぐらいわかろうものだ。
「・・・ふむ・・・何処だったか・・・大昔に行った世界では子供が勝てる魔物ランキングで殿堂入りした事もある魔物だ」
「どんな世界よ、それ・・・」
今度は鳴海が肩を落とした。とりあえず雑魚だ、と言いたい事はわかるが、今度はその比較対象になる世界が普通ではない様子だった。そんな中学女子達の苦言に、フェルが口を尖らせる。
「ぐちぐちうるさい奴らだ。とりあえず雑魚だ雑魚。そもそも子供が戦いから程遠い世界なぞ、おそらくこの世界広しと言えども地球ぐらいなものだ。他の世界では何かしらの危険に近い。最低でも逃げられる程度の心構えはしておくものだ。この地でもそうだ。貴様らの様な純粋培養の温室育ちに最適な例えなぞあるものか」
「「「うっ・・・」」」
フェルの言葉に浬らは何も言えない。地球が異常である事は口酸っぱく彼女らから言われている。他の世界ではそれが普通だというし、そもそもフェルはその他の世界の出身者だ。他の世界の出身者にそう言われては、何も文句なぞ言えるはずがなかった。が、それでも言いたくなるのが、人情というものである。
「しょ、しょうがないじゃん。んなの私達の所為じゃあないんだし・・・」
「それについては、私が悪い事はわかっている。が、それ故にビシバシと面倒を見てやると言っている」
「私が悪い?」
フェルの言葉に三人は首を傾げる。どういう繋がりがあるかわからなかったらしい。
「私はこの地球の半分以上を統べる神に仕えた元天使長だ。ミカエルの石頭共が不甲斐ないばかりにこんな歪な世界を作り上げた。そういうことだ」
「仕えた、というのは違う様な気もしますが」
「育てた、か。そうしておけ」
アテネの揚げ足取りにフェルが苦笑する。そうして、一度会話が途切れた事でフェルは気を取り直した。
「ほら、乗れ。どうにせよここを突破せねばここから先にも進めん。進めなければ、貴様らは死ぬだけだ。死にたくなければ、貴様らは力を身に付けるしかない」
「「「はーい・・・」」」
三人は渋々、フェルの言葉に従う。結局、わかってはいたのだ。そもそもこれに乗らねば闇の大精霊の所には行けず、そして闇の大精霊の所に行けなければ必然、光の大精霊に会える事はない。
それはすなわち、鬼の呪いに蝕まれている彼女らからしてみれば死あるのみなのである。諦めが悪いのはそこはそれ、と考えてやるべきなのだろう。
「良し、乗ったな? カイト、出せ」
「あいよ」
フェルの指示を受けて、カイトが車のキーを回す。そうして、一同を乗せた車は一路妖精の里を目指して、進んでいく事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時投降です。




