第144話 騎士達の裏話
アルトとの会合を得た浬達だが、彼女らは話し合いの途中からカイトも交えて、普通に和やかなムードで会談が進んでいた。
「そうか・・・っと、そうだった。忘れる所だった」
話し合いがしばらく続いた頃。アルトが思い出したかの様に後ろを向く。そちらにはベディヴィアとトリスタンの二人の少女騎士が立っていた。
「一応、姉上が居るから問題は無いと思うが・・・領土内での道案内にこの二人を貸す。姉上はモルガン・ル・フェイ。指揮系統としてはこちら側にはない。なので、誰かこちら側の使者がいれば話は早いだろう」
「トリスタンです」
「イゾルデではなく、ベディヴィアです」
トリスタンに続いて、ベディヴィアが挨拶する。トリスタンだが、こちらも金髪の少女騎士だ。年の頃はベディヴィアと同じぐらい。武器は腰に帯びた少し細身の短剣がふた振り。
髪型は肩にかかる程度だったベディヴィアに対して、腰まで伸びた長髪を少しだけカールさせていた。ゆるふわカールという奴なのだろう。
ベディヴィアが純真そうな雰囲気があるのに対して、こちらはどこか高貴でお嬢様という様な雰囲気があった。目鼻立ちも柔和なベディヴィアに対して、こちらは凛とした雰囲気がある。同じ騎士でもやはり個性があるのだろう。
ちなみに、なぜベディヴィアがイゾルデと言ったかというとトリスタンと言えばイゾルデだからだ。こちらも金髪――なのでトリスタンは母からの遺伝――なので、一応間違われない様に言及しておいたわけであった。
「あ、ありがとうございます」
「ああ。この二人は先代のトリスタンとベディヴィエールから名を引き継いだ第二世代の騎士だ・・・が、腕は保証しよう」
煌士の礼に対して、アルトは腕を保証する。曲がりなりにも彼の看板を担う騎士なのだ。この言葉は確かなのだろう。
「さて・・・それで、しばらくはどうするつもりなんだ?」
『ああ、それについては一応決めた。この後とりあえず妖精達に会いに行こうかと思う』
アルトの問いかけを受けたカイトがとりあえずの所を語る。どうやら彼が来たのはそこらを報告する為でもあったらしい。
「妖精か」
『ああ、妖精だ』
「羽根、毟り取られるなよ」
『あっはははは・・・怖いな、それ』
カイトは遠い目で答える。一番怖いのは、どんな魔物よりも妖精達だった。彼らには武力行使が不可能だ。カイトはどうにも妖精たちに非常に好まれる――相棒が妖精の為、非常に安心されているらしい――らしく、おもちゃになるだろう事は請け合いだった。
『なんで妖精に好まれるんだろ・・・』
「身体は大人、頭脳は子供だから・・・あいたたたたっ! ちょっと! くちばし上手く使わないで!」
『うりゃりゃりゃりゃ!』
カイトは猛烈な勢いでモルガンの頭を突く。器用にくちばしを利用していた。と、そんな二人を見ながらアルトが問いかけた。
「ははははは・・・さて、兎にも角にも。どうやって行く気だ?」
『とりあえず先生帰って来るの待って車で行くか、って考えてる。親父達が車で先に行っただろ? あれ無いとどうしようもないからな』
「ああ・・・なるほど。確かにそれで良いか」
アルトはカイトの予定を聞いて、それがベストか、と頷いた。残念ながらランスロットはこの後しばらくしたら修学旅行に合流する必要がある――英国系の魔術師を騙す為――ので護衛を頼む事は難しいのだが、彼の使っている車は実はカイト達の所有物だったりする。それを使うつもりだった。
「わかった。では、何時も通り予備の結界を展開する魔道具の補給はさせておこう」
『悪い、頼む』
アルトの言葉にカイトが頭を下げる。基本的に、乗って行った車は妖精達の里に近づいた所で置きっぱなしになるらしい。どうにも妖精達の里は森の中にあるらしく、車では到達出来ない。途中からは歩きにしないと駄目だそうだ。
とは言え、では徒歩で行けば、と思うのだがここから徒歩で行ける距離ではないらしい。なので妖精達の里の付近に駐車スペースがあり、そこに結界を展開して車を放置しておくのが基本らしい。
「ああ・・・トリスタン。準備を頼む」
「わかりました」
『良し・・・じゃあこっちもとりあえず用意始めるか。今日はまぁ、挨拶程度になるだろうけどな』
アルト達『騎士王の城』側が準備に入ったのを受けて、カイト達日本側の面子も行動に入る為の準備を行う事にする。
残念ながら、妖精達の里には寝泊まり出来る宿屋の様な施設は無いそうだ。そもそも妖精達にはほぼほぼ他者を泊まらせるという文化は存在しておらず、気まぐれに彼らの家に誘う程度なのだという。人間用の住居は皆無なのだそうだ。
というわけで浬らが宿泊するならテントになるそうだが、里の中ならまだしも流石に魔物が出るエリアにての野宿はなんの訓練もしていない浬らには無理とわかっていた。
というわけで、最初から何度かに分けて妖精達の里へと入らせて貰って交渉を行う事にしたらしい。なので今日は妖精達へ挨拶だけになる、という事だった。と、そうして執務室をベディヴィアに案内されて後にした浬らだが、その頃には随分と緊張は解れた様子だった。
「なーんか・・・普通のお兄さん、って感じだった・・・?」
浬は随分と緊張が解れた様子で首を傾げる。王様というからもっと近寄りがたい雰囲気があるのかと思っていたらしい。それに、ベディヴィアが頷いた。
「ええ。陛下もそれは一番気になさっているそうです。かつての御世は私はあまり存じ上げていないのですが、陛下はそれは大層近づきにくい方だったそうです」
「へー・・・」
「気を張ってたんだよ、当時のアルトは」
そうなんだ、と思うしかない浬らに対してヴィヴィアンは当時の円卓を外から見ていた者として、当時の事を語る。彼女は『騎士王の城』の末路までおよそを理解出来ていたそうだが、敢えて指摘はしなかったらしい。そんな彼女は、更に続ける。
「みんなを幸せにしなくちゃ、って思ってひたむきに頑張ってたんだけど・・・やり方を間違えたんだろうね、彼は」
「やり方を間違えた?」
「うん。みんなを救うんだ、って全部自分で背負っちゃって苦労を分かち合おうとしなかったの。信頼も信用もしてたけど・・・ね?」
ヴィヴィアンが朗らかに、努めて重くならない様に気を付けながら語る。ここらは他人のトラウマだ。変に気を使わせない様にするように心掛けていたようだ。
「実際、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどねー・・・まさかあそこまで馬鹿とは思わなかったわ、私も」
「でもだから、気に入って気にしてるんでしょ?」
「まぁね」
ヴィヴィアンの指摘にモルガンは笑った。そんな馬鹿だからこそ、彼女はずっと気にしていて、アルトの悔恨をなんとか癒そうと努力していたらしい。まぁ、それは彼女が語らないので横においておこう。その代わりに語ったのは、至極わかりきった話だった。
「結局さ。人が一人で背負い込める事なんて限られてるのよ。それを全部自分一人で背負い込もうとしたのが、あの当時のアルトリウス・ペンドラゴンっていうウチの愚弟になるわけよ。戒めを込めて『アーサー・ペンドラゴン』って皆呼んでるけどね」
「誰ともわかり合おうとせず、誰ともわかり合いたいとも思わない孤独な王様・・・皆彼の事は嫌いだっていうけどね」
「私も嫌いー」
海瑠の肩の上から笑う様に告げたヴィヴィアンに対して、浬の頭の上のモルガンも嫌いと告げる。と、そんな当時を知る二人から寄せられた感想に驚いたのは、アーサー王を偉大な王様として聞いている煌士だった。
「そこまで嫌うのか?」
「そりゃあね。あれ、王様としては満点かもしれないけど、人として見ればろくでなしも良い所よ?」
モルガンは姉として、嫌悪感を隠すこと無く明かす。そうして、彼女は人生の先達として告げる。
「覚えておきなさい? 完璧な人間なんて、それだけで狂ってるの。完璧な人間が居るとすれば、それはそれだけで人として欠陥」
「? どういうこと?」
「失敗したり間違えたりしない人間っているかな?」
理解出来ない様子の鳴海に対して、ヴィヴィアンが問いかける。それに対する答えだが、それは誰もが当然の事を答えた。
「無理じゃん、そんなの」
「そうよねー。そんな子供でも分かる事をわからなかったのが、アーサー王という王様なのよ」
モルガンが呆れ返る。誰だって失敗するし、誰だって間違える。そんなものは当たり前だ。当たり前だが、王の失敗はひいては民草に災いとなる。王であれば、その重責を背負って歩いていくのだ。その重荷の重さは、王ならざる者には理解し得ないだろう。
「で、そんな子供でも分かる事をわかんなかった王様があくせくと頑張った結果が、全員から見放される結果ってわけ。同情の余地は無いし、私も同情はしない。清く正しいアーサー王は単なる出来損ないの王様よ」
「ふぅむ・・・そうなのか・・・」
モルガンからの酷評に煌士は少し寂しそうだった。勿論、彼とて物語のアーサー王伝説は所詮物語だというのは理解している。そもそもアーサー王物語のアーサー王は騎士道精神に満ち溢れた王様として描かれるが、その騎士道精神が興隆したのは10世紀も過ぎた頃からだ。彼らの本来の生誕の時期である7世紀とは大きくかけ離れている。所詮、幻想だ。
が、それが幻想と改めて突きつけられれば寂しくもなるのだろう。とは言え、そんな彼に対して慰める様にモルガンは更に続けた。
「まぁ、それでも皆付いて来てくれてるんだから、あの子は王様で良いのよ。わかんない? 喩え破滅してからも皆一緒に居る、ということは彼を皆が許してる、ということなのよ。もう一度皆で頑張っていこう、って言える程の男だってわけ。アルトは元はアルトリウス・ペンドラゴンという男で、それは物語に伝えられるアーサー王ではないかもしれない。でも、アルトリウス・ペンドラゴンっていう優れた英雄ではある」
「なるほど・・・それはそうなのやもしれん」
モルガンから改めて指摘されて、それはそうだと煌士も思ったようだ。確かに、アルトリウス・ペンドラゴンという男は彼の想像とは違うかもしれない。だがそれでも、物語に伝えられるべき男ではある。それを考えれば、ここで真実を知れた事で失望する必要は無いだろう。
「そういうこと。ま、それがわかったならアーサー王伝説への幻想は捨てた方が良いわね」
「いえ、モルガン殿・・・流石に私の目の前でそれを言われるのは・・・」
モルガンのオススメに対して、ベディヴィアが言いにくそうに告げる。曲がりなりにも彼の父もそこに記されている騎士の一人なのだ。ここまで酷評されるのは少々頂けなかった。が、それにモルガンが真顔で額に青筋を幾つか浮かべた。
「は? 私なんてアバズレ扱いで酷評されまくってんだけど? と言うか、いっそカイトに頼んでジェフリー・オブ・モンマスとかトマス・マロリーとかもう一回ぶっ殺して良い? 今ならアルト、ガウェもおまけに付くよ? なんならランスもおまけで」
「す、すいませんでした・・・」
そう言えばそうだった、とベディヴィアが謝罪する。モルガン・ル・フェイ。アーサー王の姉。姉にして彼の子を孕んだ挙句徹底的に『騎士王の城』を破壊する事になった原因とされた不義にして魔性の女とされる全ての悪。そう記されている。
が、現実はというときちんと三人の子供の母親はやっているし、弟の事もしっかりと面倒を見る良い女だ。一応前夫とは死別しているので妻としての顔は見えないが、それでも義理は通している。彼もモルガンとヴィヴィアンに常日頃から感謝している事を考えれば、そこでも良い関係は築けているのだろう。
カイトの事に関してもモルガン自身が政略結婚なので母も自分も良い年だから自分の幸せを考えて良い、と納得しての事だ。全体的に色々ときちんとやっている。だというのに、この世間からの酷評だ。キレて良いだろう。
「? ランスロット殿がなぜ?」
「ああ、ほら、あの子ギネヴィアと寝てる真っ最中に踏み込まれて、アグラヴェイン殺してるでしょ?」
「ええ、まぁ・・・」
問いかけた煌士は少し答えにくそうに頷いた。ここらは、『騎士王の城』崩壊の所のお話だ。改めて語られる必要もなかった。
「で、それなのにマロリーの贔屓であの子が徹底的に持ち上げられて、逆にガウェとアグラヴェインが徹底的に下げられてるから・・・もう見てるこっちがドン引きするぐらいには大っ嫌いだそうよ。一度真顔でカイトに天使達に頼むなりなんとかしてトマス・マロリーとジェフリー・オブ・モンマスの二人をぶん殴れる機会は無いでしょうか、って言ってたぐらいだし。多分ワンパンするぐらいにはキレてるね、あれ」
「う、うわぁ・・・」
モルガンの様子から、普段は温厚なランスロットが真顔で言うぐらいには怒っている事を理解する。なお、他方アグラヴェインはそこら他人の評価を気にしないからか、どうでも良いらしい。
「ま、そこまで怒ってもらっちゃ母親としてもあの子は許すしかなかったからねー」
モルガンは楽しげに語り続ける。それからは、ほぼほぼ彼女の独演会だった。そうして、そんな語りを聞きながら語られる事のなかった歴史の裏側を彼らは聞く事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




