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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第8章 イギリス編

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第143話 円卓の王とその周辺

 さて、少しだけ時は前後して、浬達サイド。こちらは昼になる前に、アルトとの謁見が行われる事になっていた。謁見と言っても畏まったものではない。一応客人が来るので王が顔を見せる、というだけだ。そうして案内されたのは、『騎士王の城(キャメロット)』の中心の建物の最上階に近い階層だ。


「おーう、アルト。連れてきたぞー」

『ああ、入ってくれ』


 ノックしたガウェインの言葉を受けて、部屋の中からアルトの声が響いてきた。そうして、アルトの返事を受けてガウェインが一同を連れて扉を開いた。そこは謁見の間かと思われたが、普通に執務室だった。

 なので、浬達の予想に反して玉座があってその周囲を兵士達が整列して、というような仰々しい出迎えがあるわけではなかった。


「ああ、待っていたぞ」


 そこに居たのは、昨日とは違い王としての風格を纏っていないアルトだ。その為社長としての威圧感もアルトリウス・ペンドラゴンとしての威圧感もなく、一人の男性としての風格しかなかった。と言っても精細さを欠いているわけではなく、一目で一角の人物だとは分かる。

 その横には、トリスタンとベディヴィア、数人の騎士達らしい男女が立っていた。中には見たこともある面子が居たので、全員『円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンド』なのだろう。

 なお、彼が呼んだのはトリスタンとベディヴィアだけなので、後は勝手に来たらしい。基本的に、彼らは王命が無い限りは自由にして良いそうだ。


「うっわー・・・」


 というわけで、浬が思わず感嘆を漏らした。ものすごいイケメンだ、と思ったらしい。まぁ、これは写真を見ていたからこの程度で良かったわけで、心づもりが出来ていたからこそだろう。それに対して、アルトが笑った。


「ははは。そう固くなってくれるな。別に王と言っても今は統治者という方が強いし、ここには別に王として居るわけでもないからな・・・ああ、そこに座って待っていてくれ。あと少し書類があってな。セカンドのやつが唐突に送ってきたせいで、まだ終わらん」

「あ、はい・・・」


 浬達はカチコチになりながらも、笑うアルトに勧められるがままに応接用らしい椅子に腰掛けた。と、そこでモルガンが口を開いた。


「あ、モルドレッド。やっほー」

「母上・・・一応仕事中ですし他人もいますので普通に話しかけないでください・・・」


 一人のモルガンと同じ髪色の女性騎士が、ため息とともにがっくりと肩を落とした。この様子だと彼女こそが、かの叛逆の騎士・モルドレッドなのだろう。が、そう言われてびっくり仰天なのは煌士だ。


「モルドレッド?」

「あ、あの子ねー。私の娘ー」


 モルガンはゴロゴロと机の上を転がりながら、先程の女性騎士を指差した。そしてついでにその横のアグラヴェインも指差した。


「その横のがアグラヴェイン。あっち弟で、あっちのガウェインがお兄ちゃん。この三人が、私の子供ー」

「お久しぶりです、母上」

「ほんとにお母さんだったんだ・・・」


 アグラヴェインが頭を下げたのを見て、浬達もようやくモルガンが本当に子持ちの母親だという事を理解する。が、それは良いのだ。煌士が気になるのは、モルドレッドの性別だった。


「いや、それは良いのだが・・・あー・・・つかぬことをお聞きしたいのですが・・・えーっと、モルドレッド殿?」

「なんだ?」


 肩を落としていたモルドレッドが顔を上げる。どこか威圧感があるのは、彼女の元来の性格らしい。


「女性・・・ですよね?」

「殴るぞ」

「し、失礼しました! どう見ても女性でしたので・・・まさか、所謂第二世代という奴なのですか?」

「ああ、それか・・・陛下。構いませんか?」

「ああ、好きにしろ。まだ少し時間がかかる。暇つぶしでもしてやってくれ」


 書類から目を離す事もなく、アルトはモルドレッドの問いかけに許可を下ろす。そして許可が下りた事で、モルドレッドが少し事情を話してくれた。


「私は正体を偽って、円卓に入ったんだ」

「はぁ・・・それは存じ上げております。ですが、それが?」

「元々、私は女だった。が・・・その様子だと、君も私の両親は知っているだろう?」


 モルドレッドは少し苦笑気味に煌士へと問いかける。そして勿論、彼はモルドレッドの生まれは知っている。


「まぁ・・・」

「まぁ、そういうわけでな。妖精の里で育てられた私だが、それでも父の威名だけは聞いていて、かと言って私が望まれた子ではないことは知っていた。顔を晒しては迷惑になるともな。とはいえ、どうしても一助になりたい、と浅はかにも思ってしまった。それで、妖精の里に保管されていたとある魔剣に手を伸ばし、騎士として潜り込んだわけだ」

「魔剣? 『クラレント』の事ですか?」

「ああ、お祖父様の剣の事か・・・いや、これとは別だ。あれは普通の宝剣・・・いや、力がある事はあるがな」


 モルドレッドはそう言うと、腰に帯びたふた振りの剣の内、宝石などで彩飾されたきれいな鞘を叩いた。これが、煌士が言った『儀礼の宝剣(クラレント)』らしい。


「歴史に名を残す事もなく、私を操り続けた因縁の魔剣・・・その名は、『湖影の魔剣(ディス・キャリバー)』。『湖の聖剣(エクスカリバー)』と対をなす魔剣だ」


 モルドレッドは苦笑気味にもう一振りの黒々とした剣を一同に見せる。


「これに、私は手を伸ばした。あの当時は、これがどうしてあそこに封じられていたのかも知らなかった・・・愚かだったよ。父と同じように、と思い剣を抜いた。そして抜けた事に喜んで・・・」


 自嘲気味に、モルドレッドが笑う。ただ、父の力に成りたかった。子供としてなんら可怪しい事ではない。それが、全ての原因だったのだろう。


「これで、力になれると思った。が、全く逆だったよ。いつしか意識を魔剣に呑まれ、私が破壊してしまった、というわけだ」

「ま、つーわけでこの馬鹿で生真面目は愚妹は延々千年もの間聖剣の鞘を求めて彷徨って、俺にぶん殴られてここに居るってわけだ」


 あまり場が重くならない様に配慮したのか、ガウェインが口を挟んだ。


「妹殴ったんですか?」

「あっと・・・あの時は妹って知らなかったんだよ」


 どうどう、と浬から非難混じりの視線を受けたガウェインが手で抑えながら大慌てで釈明する。実際の所、復帰当初は大いに驚かれたそうだ。

 ちなみに、聞ける雰囲気でもなかったし誰も言及しなかったのだが、復帰そのものはアルトが土台を作っていたお陰ですんなりと認められたらしい。らしいが、流石に対外的には拙いので今はモルドレッドの孫という事で通しているそうだ。と、そんなガウェインに対して、鳴海がずっと疑問だった事を問いかけた。


「あのー・・・それならそのお父さんって今は何をされてるんですか?」

「うん?」


 ガウェインとモルドレッドの兄妹が揃って首を傾げる。その様子は確かに、兄妹と言えるだけ似ていた。そうして、そんな問いかけにアルトが書類に目を落としたまま口を開いた。


「ここに居るだろう」

「・・・あれ? でも確か弟なんですよね?」

「そだよー。私の弟。種族違いなのはお父さん別々だからねー」

「ウーサー・ペンドラゴンが母に横恋慕してな・・・まぁ、その際の夫はその直後に戦死されているのだが・・・とりあえず、母は同じだが父は違う。前夫の子が姉上で、私は別というわけだ」

「・・・でもそれ、結局弟じゃないんですか?」

「そだね」

「ああ」


 モルガンとアルトはイマイチ関係が理解出来ない侑子の問いかけに、二人同時に頷いた。が、この時点で耳年増な鳴海は理解していたらしい。


「もしかして・・・お父さんって・・・」

「はぁ・・・ここらは、今の倫理観を持ち出してくれるな。更に言うと父ウーサー・・・ウーザル・ペンドラゴンの策略が入ってくる。姉上は巻き込まれただけに過ぎん」

「実際さー、なんであんな事やっちゃったんだろー、とは思うわけよねー」


 モルガンは相変わらずゴロゴロと転がりながら当時の事を思い出す。実際には彼女も継父の遺した魔術に操られた結果なので、物語に伝えられる様に『騎士王の城(キャメロット)』を破壊しようとして、というわけではないらしい。

 なお、そのウーサー・ペンドラゴンの思惑としては戦乱の中に遺されるアルトの力を出来る限り高めようとした結果、だそうだ。これが親心かそれとも王としての義務かは、当人しかわからない。そしてその当人はアルトが生まれる前に死んでいる。なので、最早それは誰にもわからなかった。

 しかしその結果として今にまで伝わる偉大な英雄としてアーサー王伝説が遺されているのだから、確かに彼の思惑は半分は達成されたと見て良いだろう。半分なのは結局国は滅びているからだ。


「えっと・・・つまり?」

「あんたで言うとカイトさんと寝ちゃった、というわけ。で、あんたが産んだのが、モルドレッドさん、というわけ」

「えーっと・・・」


 言われた浬は、改めてどういうことかを噛み砕いてみる。そうして、即座に理解した。


「・・・え゛!? つまり実のお姉ちゃんとヤッちゃったってわけ!?・・・ですか?」

「そうなる。で、その時に出来た子供がモルというわけだ・・・・ああ、あと敬語は使わなくて良いぞ」

「なーんでかこの男、私との間には結構頑張っても出来ない癖に姉との間には一発で身籠らせてるのかしらねー、ほんとに」

「ぐっ・・・流石にそれは俺に言うな、ギネヴィア・・・俺も頑張っては居る・・・あ、後、結構キマってるぞ・・・」


 ギリギリギリと一人の金髪美女から首を絞められて、アルトが頬を引き攣らせながらその腕をタップする。と、そんな彼女はその態勢のまま、浬達に手を振った。


「あ、私はギネヴィアね。こいつの嫁。復縁済み」

「あ、はぁ・・・」

「あ、あっけらかんとされていますね・・・」


 どういう風に答えれば良いかわからなかった浬は小さく会釈するだけに留めたのに対して、そのランスロットとの経緯を知っている煌士は頬を引き攣らせていた。とはいえ、復縁済みというのだから復縁しているのだろう。

 と、そんな所に懐に手を入れていたモルガンが何かを取り出した。小型状態の彼女が一抱するほどなのでサイズが合っていなかったのだが、そこは魔術を使っているからなのだろう。


「あ、そうだギネヴィア。最近日本の良い化粧品手に入れたけど、使ってみる?」

「あ、使わせて貰います」

「ほいよ」


 モルガンから投げ渡された化粧品をギネヴィアが受け取る。なお、こんな複雑な関係だが小姑との仲は良いらしい。


「ま、その上で言わせてもらえればそこらヤッちゃった私からすれば今更大抵の背徳なんてなんのそのだしねー・・・いや、今からアルトと寝ろとか無いけど」

「と言うか、カイト一人で手一杯だもんね」

「ほんとにねー。本体だったら殆ど寝かせてもらえないしねー」


 ヴィヴィアンの苦笑いに同意する様に、モルガンも起き上がって笑う。が、それに大慌てで浬が耳を塞いだ。


「いやー! 聞かせないでぇ!」

「いや、母さん・・・流石にそれは俺らも聞きたくないわ・・・」


 大声を上げて耳を塞いだ浬に続いて、ガウェインも非常に複雑な表情でため息を吐いた。別に母に恋人が居る云々は最早どうでも良い。ランスロットも言ったがお互いにいい歳なのだ。お互いの時間を過ごすべきだと思っているし、そもそもモルガンは政略結婚だ。自分の恋を得られたのは良い事だと思っている。

 が、それとこれとは話が別だ。母の夜の生活を聞かされて良い事なぞどこにもない。というか、どういう顔をすればよいかなぞわかるものではない。ちなみに、単なる冗談だ。


「えー・・・なんかの参考になんない?」

「なんねーよ! つーか、事あるごとに写メ送るのやめて!? 母親の水着とかどう反応すりゃ良いんだよ!? あれ、あれだろ!? かの有名なスクール水着だろ!? しかも白スクは超珍しいって話じゃん! どこであんなの手に入れたんだよ!?」

「・・・兄よ。何故そんな事を知っているのだ・・・」

「・・・ぴゅー」


 ガウェインがモルドレッドの問いかけに大慌てでそっぽを向く。どうやら、時折彼の所にはいろいろな衣服の写メが送られてきているらしい。ちなみに、何故知っているかというと妻との夜の生活があるからである。こんな彼でも妻帯者である。

 と言うか、私的な場ではやんちゃなだけで騎士としては真面目に仕事しているし、妻に対しても道理を弁えてきちんと振る舞っている。配慮も忘れない。この様子だと良い関係を築けているのだろう。

 と、そんな反応からそこを理解して、モルガンは楽しげに笑って、無言を貫いていたアグラヴェインへと問いかけた。なにげに些細なことから息子達の近況を把握したりするので、彼女はきちんと母親を出来ていた。


「あっくんは?」

「変なあだ名で呼ばないで頂ければ・・・まぁ、母上が元気なのは良い事かと」

「逃げの一手ですか・・・」


 アグラヴェインの言葉にモルドレッドがため息を吐いた。彼は良いとしか言っていない。それも元気なのが良い、と言っただけで参考云々については何も言及していない。口はうまかった。


「うーん。ほら、やっぱり一番ガウェインが楽しいんだよね」

「やめて!?」


 ガウェインが悲鳴を上げる。こういうことは娘にやっても楽しくない。焦ってくれる奴だからこそ、楽しいらしい。


「良し・・・さて、ガウェ。そこら辺にしておけ」

「俺、遊ばれただけだぞ!?」

「ははは・・・まぁ、それは置いておこう」

「置いておくな!」

「とりあえず、仕事が終わったんでな。俺も加わる」

「おっと・・・ありがと、あなた」


 どうやら、アルトは仕事が一段落出来たらしい。ペンを置いて、いつの間にか軽く抱きつくような感じになっていたギネヴィアをお姫様抱っこの要領で抱えて、横に下ろした。そうして、会話の輪の中に彼も入ってくる事になり、しばらくの間は雑談が続けられる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日の21時投稿です。

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