第141話 全員集合 ――イギリス編――
さて、朝食を食べた浬達はとりあえずガウェインによってここに滞在する間の彼らの部屋へと案内される事になったのだが、そこにはすでに先んじて入っていたモルガンらが待っていた。
『おーう。遅かったな』
「あ、お兄ちゃん」
待っていたのはカイトもらしい。彼は何時も通りモルガンとヴィヴィアンの椅子になっていた。そして何時も通りに毛づくろいされていた。
「母さん・・・」
「何? 文句あんの?」
「いや、別にもう俺達もいい年だから良いんだけどよぉ・・・」
流石にガウェインもいい年なのでカイトとモルガンの仲についてはどうでも良いらしいのだが、それでも子供っぽく振る舞われるのは少しいただけないらしい。
「はぁ・・・ほんとにスマン。こんな母だがよろしく頼む」
『お、おう・・・』
カイトは頬を引き攣らせた様な様子で返す。ちなみに、どちらも沽券に掛けてお父さん呼ばわりはされない様にしている、とのことである。
「ま、それは良いか。とりあえず、ここから繋がる部屋を使ってくれ。ホテルとは違って個室だ。アルトから各部屋の鍵は預かっているから、好きな部屋を選んでくれな」
気を取り直したガウェインはそう言うと、机の上に鍵の束を置いた。彼女らに与えられた部屋だが、廊下に繋がるロビーがあってそこから幾つもの小部屋に繋がる部屋らしい。モルガンらはそおのロビーで待っていたのである。
ロビーは集団で泊まる者達が使う為の部屋で、ミーティングなどが出来る様にされているらしい。確かに今回の浬達にはうってつけの場所だろう。と、そうなって浬が気付いた。
「あれ? ミナちゃんとフェルちゃんは? 先に入ったんじゃないっけ?」
『あいつらなら、朝の訓練が終わった後だからシャワー中だ』
カイトがそう言うと、ヴィヴィアンが指でどうやらシャワー室らしい扉を指し示す。この先に彼女らが居るのだろう。耳を澄ましてみれば、たしかに水の音が響いていた。
「朝から訓練って・・・するんだ」
「お前らはしないのか? まぁ、今日は俺も迎えがあったからこれからになるんだが・・・」
浬の驚いた様子にガウェインが問いかける。彼も通常は朝一で訓練をしているらしいのだが、今日は仕事の為まだらしい。ちなみに、訓練も彼らにとっては仕事だ。騎士というものの今で表せばそれは軍人だ。何ら可怪しい事ではない。
「そりゃ、部活とかならしたけど・・・そう言えば朝から訓練はしない・・・よね?」
「そう言えば・・・あ、でも思えば海瑠はやってた?」
侑子から問われた浬は自分の事を思い出し、そう言えば海瑠は一時期朝に訓練していた事を思い出す。それが実を結ぶ事はなかったが、していたという事実はある。
『まぁ、こいつらはあまりそういった事に関わらせたくなかったからな。今回の一件までは、という話なんだが・・・』
カイトがため息を吐く。兄としては、どうしても関わらせたくなかった。それ故に朝一から訓練なぞするつもりは一切なかったらしい。なお、そう言う彼自身の本体は朝一から訓練をやっている。ここらが、学生と戦士の差なのだろう。
「なら、そろそろ始めさせるか?」
と、そんな所にシャワーを浴びていたフェルが出て来た。タオルを頭に巻いて非常にさっぱりとした様子で、少しだけ上機嫌な様子だった。
『それも、考えるべきなのかもしれんがな・・・まぁ、どうにせよ三年組は全員先に受験勉強だろ』
「ふむ・・・確かにそれもそうか。まぁ、最悪は最後の手段を使わせるが・・・」
「最後の手段は最後の手段。楽をすべきではありませんね」
フェルに続けて、アテネもシャワールームから出て来た。彼女も頭にタオルを巻いていた。そんな彼女はどうやらフェルの意見に反対らしい。と、そんなアテネに対してフェルが反論した。
「とはいえ、この期に及んで受験勉強なぞに手を取られるのは我々だけではなく人類にとって不都合だぞ? ならば、そちらを割り切って朝と夜の訓練に回させた方がよほど良いだろう」
「それは・・・確かにそうなのですが・・・」
フェルの苦言にアテネも僅かに悩みを見せる。どうやら、楽に受験勉強を終わらせる方法があるらしい。が、それ故にそれをさせて良いのか、といういつもの生真面目さが表に出てきてしまったようだ。
「うーん・・・」
「ねぇ、何の話?」
一人かなり本気で悩み始めたアテネを横目に、浬がフェルへと問いかける。なにげに勉強が楽になるかも、という匂いを感じ取っているらしく、横の鳴海と侑子も密かに耳が動くほどには興味を抱いている様子だった。と、そんな悩むアテネを横目にフェルが教えてくれた。
「受験勉強を貴様らには免除してやるか、と思っただけだ。これから貴様らには何ら語弊無く死ぬ気で事に臨んでもらう。だというのにこの期に及んで受験勉強や期末考査などの試験勉強で手間取られても困るのでな」
「え!? 嘘!? そんな楽な方法あるの!?」
浬よりも先に侑子が反応する。彼女は学力で言えばこの面子の中では一番悪い。なので一番食いつきも良かった。そんな彼女に相変わらず答えを出せないアテネが悩みながらも何を悩んでいるかと教えてくれた。
「とはいえ、一度覚えさせると今後も使えてしまいますから・・・どうするか、と悩んでいるのです」
「え、良いじゃん良いじゃん! ご褒美ってことで! 一生勉強に困らないのならそれ、本気で私やるよ!?」
「調子良いな、こいつら・・・自分の命を賭ける事がわかっているのやら・・・」
俄然やる気を見せる鳴海を見て、フェルが呆れ返る。敢えて言う必要もなくわかろうものだが、一部を除く遊び盛りの学生達にとってすれば勉強というのはこの世で有数の苦行だろう。
これがあるかないかだけで、学生達にとって遊べる時間は大きく変わってくるのだ。それを免除されるとなれば、些か危険が伴おうと食いつきたくもなる。この数年を耐えきるだけで、後に待つのはほぼほぼ半永久的に勉強から解放されるという最高のご褒美だ。学生からしてみれば、どんな金銀財宝にも勝るご褒美だった。
「そう楽する事を考えない! 良いですか。他の皆さんは自分できちんとやっているのです。そこを楽しようなどと・・・」
「無駄だ、アテネ。言った所で無駄にしかならん」
くどくどと説教を始めたアテネに対して、それを遮ってフェルが首を振る。だから、今まで隠してきたのだ。言えば必ず欲しがるからだ。その程度の中学生の思考が読めないほど、彼女らは頭が悪くない。とはいえ、そのデメリットを差っ引いてでも教えるだけの必要があるのも、また事実だった。それをカイトが指摘した。
『うーん・・・でも実際の所、煌士が特に困るんだよな・・・それに戦力的にも有効だし・・・』
「我輩ですか? 我輩、これでも今も勉学は怠っていません!」
カイトから話を向けられた煌士がどんっ、と胸を張る。現に彼はこの間の定期考査でも圧倒的な成績で一位――詩乃が二位――を取っていたし、研究についても怠っていない。二足の草鞋を履く事が出来る稀有な存在だった。が、それに対してはアテネもフェルも思わず思う所があったらしい。
「む・・・」
「そう言えば・・・」
煌士が話題に参戦した事で、二人は煌士の本来の立ち位置を思い出す。彼は現在、この案件以外にも表向きには重力場発生装置の開発についても携わっているのだ。
研究は重力場の制御に目処が付いて実験装置の試運転をしている状態である為、煌士の拘束時間はそこまでではないのだが、やはり彼頼みになっている所はある。彼が手を出さないのはここらが機械屋の仕事だからだ。彼は実験屋。それを実用化する段階まで持っていくのが仕事であって、そこからの改良はまた別の人の仕事だった。
とは言え、そちらが一段落して再び研究が本格化すれば、煌士にはそちらにも注力してもらわねばならないだろう。そこらを気にしなければいけないのもまた事実だった。
「・・・仕方がない。煌士が絡むとなると、覚えさせるか」
「そうですね・・・そもそも彼の頭脳は貴方方にとってすれば一番の大事。記憶が失われるのは避けたい所でしょう」
「何故我輩?」
煌士は大丈夫と言った手前、何故自分になるとアテネさえ折れたのかわからなかったらしい。その一方、このおかげで一緒に教えてもらえる事になった一般家庭の女子勢三人娘は小躍りしていた。
「良し! 煌士、でかした!」
「いやー! いままでずぱずぱ頭叩いてごめんね!? あ、大丈夫? 氷使う?」
「さすが会長だよね! よっ! イケメン天才会長!」
三者三様にハイタッチで小躍りしながら煌士の事を褒めそやす。それに、詩乃が小さくつぶやいた。
「都合の良い方たちですね・・・」
『ははは・・・すまん、詩乃ちゃん』
そんな彼女の呆れ100%のつぶやきは、困惑する煌士と小躍りして喜びを露わにする浬達、そんな彼女らに呆れ返るフェルとアテネには拾われず、ただカイトにのみ苦笑されて風に乗って消えていくのだった。
さて、その一方、ガウェインの所にランスロットが僅かに時間が掛かっているという電話が丁度入ってきた。
「ふーん・・・まぁ、何時もの事だろ」
『ええ。何時もの事ですね』
とはいえ、想定の範囲内だったらしい。お互いに何時もの事と流していた。そして流していた以上、次の手筈を考えていないわけがなかった。
「おーい、カイト」
『おう?』
「ランスやっぱ手こずってるって」
『あ、やっぱり?』
どうやらこの事はカイトにもわかっていたらしい。彼も笑うだけだった。
『じゃあ、ちょっと海瑠達を連れてくるか。ルイス、頼めるか?』
「仕方がない。あれらをどうにかするのは私でも不可能だからな」
カイトからの申し出を受けて、フェルは仕方がない、と言った具合に立ち上がる。なお、先程の話は空也にも習得させるので後にしろ、ということになっている。正確には日本に帰ってから、らしい。
「やれやれ・・・ふっ」
フェルは立ち上がって右手を握り、魔力を溜める。が、それもほんの僅かな間だけだ。彼女が右手を前に振りかざした瞬間、目の前には一つの扉が現れた。
そうして彼女が現れた扉を開けば、そこでは普通に海瑠と空也がリビングの窓際でお茶を飲んでいた。どことなくじじむさいが、この二人なので妙に似合っていた。
「おい、貴様ら。ランスロットの奴が忙しいらしいのでな。迎えに来てやった。さっさと来い」
「む、迎えなのかな、これ・・・」
「さ、さぁ・・・」
頬を引き攣らせた海瑠の言葉に同じく空也も頬を引き攣らせて首を傾げる。その一方、扉を通って簡単にイギリス入りした二人を見た浬達が頬を引き攣らせていた。
「ほ、ほんとに簡単に日本に行けちゃうんだ・・・」
「私達の12時間って一体・・・」
「考えるな、二人共。考えたら負ける・・・」
愕然となる浬と鳴海に対して、侑子が遠くを見つめる。彼女らはここまで12時間近く移動していたのに、海瑠と空也はものの数秒だ。非常にやるせない気持ちになったようだ。そうして、しばらく全員が荷解きをして、一通りの作業を終わらせて再び大広間に集合した。
「これで、全員揃ったか」
「ええ、全員揃いました」
煌士はガウェインの問いかけを認める。一応、これで荷物を全部部屋に置いた。これからはフリーと言える。となれば、まずは主に挨拶に行かねばならないのが、自然な流れだろう。というわけで、ガウェインが再び立ち上がった。
「良し。じゃあ、ちょっとこいつら借りてくな」
「ああ、任せた。その間にこちらは色々と道のりを考えておこう」
ガウェインが煌士達を引き連れていくのを受けて、フェルとアテネが地図を借りてそれで今後の予定の詳細を詰め始める。一応、何処に行くのかはわかっているのだが、そこまでどうやって行ってその後がどうするのか、というのを考えないといけないのだ。なお、モルガン達が先に来ていたのもそのためだ。モルガンしか、その場所を知らないのである。が、そのモルガンが浮かび上がった。
「じゃ、私もこっち付いていこーっと」
「やめてくれ・・・」
「そんな事でお母さんは離れませーん」
がっくりと肩を落とすガウェインに対して、モルガンは非常に楽しげだ。これが見たくてついていくのである。なにげに妹と言われても信じるが、これでも母親である。
「はぁ・・・いや、今は行こう」
ガウェインが気を取り直す。ここでじっとしているわけにもいかない。これからアルトに会いに行くわけだが、そのアルトも忙しい。決められた時間には謁見させなければならないのだ。
そして彼の仕事はこれで終わりだ。出迎えと送迎、そして王の間まで案内する。その後はまたアルトの指示に従う事になっていた。
「良し・・・で、とりあえずそこの坊主とそっちのお嬢ちゃん二人は昨日アルトと会ってるんだよな?」
「あ、はい。昨日は表向きの身分ですが・・・」
「そか・・・ならわかっていると思うが、そこまで緊張する必要はねぇよ。あいつも今は気さくな奴だからな」
一応緊張しているだろう面々に向けて、ガウェインはそこを言い含めておく。変に気にされても困るのだ。そんな気にしてもらう必要もない、というのが彼らの正直な所なのである。
「それにそんな事言ったら私なんて元お妃様だしねー」
だらーんと浬の頭の上で寝そべるモルガンが笑う。彼女の今は亡き夫はオークニーのロット王。というわけで、正真正銘王妃様だったのである。というわけで、そんな事を全く知らない浬が上を向いた。
「きゃあ! 落ちる落ちる!」
「え? あぁ! ごめん!」
「おお、そう言えば」
煌士はそう言えば、とモルガンの来歴を思い出した。ここら面倒な所でモルガン・ル・フェイとモルゴースが混同されたり更にはケルト神話の女神モリガンと混同されたり同一視されたりでややこしく、すっかり失念していたらしい。
実際の所はモルガン・ル・フェイとモルゴースが同一人物で、執筆された時代の時代背景の関係から妖精と人間と分けて書かれる際に分離してしまっただけ、だそうだ。
アーサー王を人間――実際には人工の先祖返り――として書かねばならなかった、という事情も強いらしい。その煽りで姉のモルガンも人間として書かねばならないが、そうなると必要な役割が果たせなくなるので別途でモルゴースという人物を拵えたらしい。
「もー・・・」
「あはは。お妃様だった、っていうのならもう少しお上品に振る舞えば?」
「それももう飽きたしー。面倒なんだよねー、実際。お妃様って言ったってそこらお妾さんとかとのやり取り面倒だしさー。実際、カイトのハーレムって天国。全員自分の事しか考えてないもん。勿論、良い意味で、の話だけど。基本、自分がエッチなことしたーい、とか適当に遊びたーい、とかだもん、あそこ」
ヴィヴィアンの言葉に適当に返事をしつつ、再び浬の頭の上でモルガンが寝そべる。と、そんなモルガンに対して、下の浬が疑問を呈する。
「そう言えば、キリスト教って一夫多妻ありなの? なんか駄目なイメージあるんだけど・・・」
「そもそもキリスト教が影響持ち始めたのは私らの時代よりもっと後だしねー。と言うか、ウチ根っからのキリスト教じゃないしー。そもそも王様が子供作んないとアウトだしねー」
「日本なぞ多いではないか、そういう事例は。戦国時代では普通にあったしな」
だらけまくるモルガンの言葉を補足するように煌士が解説を入れる。そしてそれぐらいは浬も知っていたので、別になんら疑問があるわけでもなかった。
「と言うか、キリスト教で公式に離婚認めたのってイギリスが初だったりするんだっけ?」
「あっはははは。イングランド国教会が作られたのは王様が離婚したいから、って理由なんだぜ?」
ヴィヴィアンの言葉を引き継いで、ガウェインが笑いながら教えてくれる。それに、ぼそっとモルガンが呟いた。
「まぁ、ぶっちゃけるとその頃のゴタゴタなんて見るに堪えないんだけどねー」
「あははは・・・」
ヴィヴィアンは何処か半笑いでモルガンの言葉を笑う。どうやら、ここらものすごい面倒くさいお話があるらしい。そうして、一同はそんなイギリスの昔話を面白おかしく教えてもらいながら、謁見の間へと向かうのだった。
お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時からです。




