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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第8章 イギリス編

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第138話 フィルマ

 英国の裏社会の顔役。こう聞けば素直に怖いイメージを持つ者も居るかもしれない。確かに、これについてはマフィアやスラム街などが絡んでそう言う印象を受けるだろう。

 が、ここでの裏社会はそうではなく、魔術や異族達の社会という意味での裏社会だ。というわけで、今回彩斗達がアポイントメントを取った裏社会の顔役は別に怖い所でもなんでもない所だ。普通に英国王室から叙任された貴族の地位も持つ外交官の家だった。

 違うのは表向きの英国王や首脳に仕えているのではなく、イギリスのもう一つの顔。日本と同じく島国故に大陸の弾圧と排斥から逃れた神秘を隠匿し統率してきた魔術国家・イギリスの伝統を守る裏の英国王室に仕えている、という所だろう。


「はじめまして、皆さん。アレクセイ・フィルマと申します」

「ありがとうございます。私は三柴 康信と・・・こちらは私の部下で天音 彩斗と桐ケ瀬 大和です」

「ようこそ、イギリスへ」


 三柴達三人――若者勢はホテル待機――の前で一人の30代後半の男性が笑顔を浮かべる。彼の名はアレクセイ・フィルマ。表向きは英国の外務・英連邦省に配属されている外交官の一人だ。叙任されている爵位は伯爵。エリザベス一世から続く名家だ。

 裏向きの地位としては『一角獣(ユニコーン)』の獣人を祖とした騎士にして伯爵の地位を持つ家の当主だった。分家も幾つかあるが、彼はその本家筋の人間だった。

 ではそんな彼が何故彩斗達を出迎えたのかというと、それは彼の裏向きの仕事の兼ね合いだ。彼の裏向きの仕事での担当は日本。それ故に日本の客人を彼が出迎えたのである。

 別に妻が日本人だから、というわけではない。彼の妻と言うか神宮寺家は日英同盟の時に交わされた政略結婚の関係でフィルマの血を引いているので、その縁だ。


「ありがとうございます、フィルマさん」

「いえ・・・私の姪も今回の一件には巻き込まれております。皆さんのお気持ちは痛いほど理解しているつもりです」


 アレクセイは差し出された三柴の手を握り、少しいたましい顔で応ずる。これは事実で、彼の妻の兄の娘――つまり義理の姪――が自分の考えから天桜学園に登校しており、今回の事件にも巻き込まれていたのである。そしてそういう理由なので、一番日本に好意的に動いてくれている家でもあった。


「とはいえ、それはそれ。これはこれ、と」

「・・・承知しております。日本政府からも覇王からも、承諾の旨を持って参りました」


 が、幾ら痛ましい顔を見せていようとも、彼にとって日本は他国に過ぎない。故にしっかりと明言した事に三柴は思わず気圧される。身内だろうと公では容赦がないし、遠慮も情けもない。それが外交官として生き抜いてきたアレクセイという男のやり方だった。全ては、祖国の利益の為に。それが、彼の在り方だ。

 そしてそんな相手から利益を引き出すのであれば、こちらからも利益を供与しなければならない。それが、今回の会談に繋がっていた。というわけで、三柴は会食の席に座るとカバンの中から一通の書類を取り出して、アレクセイへと差し出した。


「こちらを。ご息女の件について、こちらで整えた手配になっています」

「受け取りましょう」


 アレクセイは執事に書類を受け取らせると、それを己の目で確認する。それだけ、今回の一件を重要視している、という現れだった。そうして、書類を一読した彼は笑顔で頷いた。


「ありがとうございます。これなら、娘を安心してお預けできそうですね」

「そう思って頂ければ幸いです」


 三柴は内心で安堵を浮かべながら、アレクセイに頭を下げる。アレクセイは今回の一件におけるイギリス政府の担当者の様な感じだ。話が裏社会である以上、表の政治に関する話は考えなくて良い。かったるい会議などを待つ必要がない。彼が許可を下ろせば、それはイギリス政府が許可を下ろしたと同義と捉えて良い。そうして、三柴が続けた。


「住居についてはなるべくご期待に添える様に手配させて頂きました。ご息女お一人にしては少々大きい様な気も致したのですが・・・」

「ああ、それはご心配なく。私としても娘一人で向かわせるつもりはないですし、生活面ではまだまだ子供。一応一通りの事は学ばせておりますが、流石に不安は残ります。ですのでサポートの人員も共に向かわせるつもりなのですよ」

「そうですか。それはこちらとしても安心です。いや、失礼しました。私にも娘が居ましてね。どうしても、人様の娘とはいえ一人暮らしとなると不安になってしまったのです」


 三柴は内心で別口の調査員か、と理解しながらもアレクセイの言葉に笑顔で頷いた。当たり前だが、イギリスとてエリナ一人に調査を任せるつもりは一切なかった。彼女は、敢えて言えば囮だ。

 かと言って敢えて調査員を派遣したい、と明言されている以上、天道財閥としても日本政府としても注視せざるを得ない。どれだけの性能を有しているかわからない以上、もし油断してうっかり目を離した隙に重要な情報を入手されました、では笑い話にならないのだ。

 囮と本命が逆の可能性もあり得たのである。敢えて明言する事でこちらを混乱させるという外交官らしいいやらしくも上手いやり方だった。


「あはは。お気遣いありがとうございます・・・ああ、どうやら来られた様子です」


 歓談を行っていた所に、執事が腰を折ってアレクセイへと何かを耳打ちする。そうして告げられた言葉に、三柴達三人はわずかに身をこわばらせた。

 これから会うのは、正真正銘の歴史上の人物だ。さらに言えば物語に語られる者でもある。こうなって普通だろう。平然としているアレクセイが尋常ではないだけだ。そうして、アルトが入ってきた。


「ああ、すまない。遅れてしまったな。急な仕事が少々長引いて、その後の予定も僅かに押してしまった・・・ああ、立たなくて良い」


 アルトは入るなり立とうとした一同に向けて、手で制止する。遅れたのは事実で、その詫びを含めた対処と言う所なのだろう。が、それでも一貴族である以上、アレクセイは立ち上がって優雅に一礼した。相手は己が仕える相手の同盟者にして、目上と敬う相手だ。対応は最上級でもまだ足りなかった。


「お久しぶりです、アルトリウス陛下」

「ああ、アレクか。久しぶりだ。娘は相変わらずのおてんばぶりの様子だな。こちらにも話が伝わってきている」

「ぐっ・・・陛下、あまりお戯れはよしてください」


 アルトの軽口にアレクセイが思わず照れた様に頬を赤らめる。そうして、そんな恥ずかしげなアレクが手ずから椅子を引いてアルトは椅子に座る。


「ははは。そう言うな。フィルマの娘といえば全世界で有名な情熱的な娘だ。元気で良い事だろう」

「いえ、あの・・・相手が彼でなければ、私も同意したいのですが・・・」

「はははは。いや、存外あれは良い男だぞ。奴の親友として、そこは保証しよう」

「それが困るのですが・・・」


 アレクセイは本当に演技でもなく困った様子を見せる。ここで話題に上げられているのはカイトの事だ。覇王が彩斗に告げていたが、今回の調査員はどうにもカイトに夢中ならしい。そしてそれは裏社会でアーサー王が知る所になるぐらいには、有名なのだそうだ。

 ちなみに、アルトとカイトの事を指して裏社会では類友の実例と言われたりするが、そこは横においておく。周りに振り回されているように見えてやりたい放題やっている連中だそうだ。と、そんなアルトは社交辞令的な挨拶を終えて、改めて三柴達の方を向いた。


「ああ、すまない。身内話に興じてしまい挨拶が遅れたな・・・アルトリウス・ペンドラゴン。貴殿らがアーサー王と呼ぶ者だ」

「っ・・・ありがとうございます」


 三柴はアルトから発せられる王の風格に僅かに気圧されながらも、先程と同じく自己紹介を行う。今回のこの会合はフィルマ家を仲介してアルトと行うものだった。これからが、本番と言える。そうして、先ほどと同じように挨拶が交わされて、三柴から現状の困窮が述べられた。


「ああ。本件についてはランスロット卿より聞き及んでいる。彼より援助を求める事も聞いた。我々としては騎士の名において、援助を拒みたくはなかったのだが・・・申し訳ない。今回ばかりは間が悪かった、と理解してくれ」

「はい、それは理解しております」

「かたじけない。我々としてもすでにアメリカへの支援を行ってしまっている以上、物理的な制約が存在してしまっている・・・ランスロット卿を帰還させられる事が精一杯の支援となってしまった」


 アルトは騎士の王として、手助け出来ない事を詫びる。一応やろうとすれば出来るらしいが、浬達の件と人員という物理的な制約が避けられない事だけは事実だ。なので厳しい事は厳しいのであった。


「いえ、それで十分でした。我が方としても、そのおかげで今回の会合と支援要請を行えました。ランスロット殿のご助力は非常に嬉しく思っております」

「そうか。かたじけない・・・聞けばそちらの御仁の息子はランスロット卿と懇意にしていたらしいな。彼としても気を揉んでいた」

「ありがとうございます」


 話を向けられた彩斗はアルトの言葉に頭を下げる。これは彼も知らなかった事だが、実際に事実らしい。と言うか実情を明かせばランスロットが復帰する事になったのはカイトの縁の結果だ。

 カイトは2年前に少しの理由によりアルトと関わる事になり、その出来事の最終盤にランスロットの正体を知ったカイトが一手打って彼らの再会を成し遂げたのである。


「さて・・・それで、申し訳ないが流石に我々のスカサハ殿の治められる『影の国』へは殆ど行った事はない。これはまだ彼らの地が表に出てきて数年だから、と理解してもらいたい」

「ええ、伺っています」


 アルトの言葉に三柴が頷く。それにアルトもうなずき返して、続けた。


「ああ、助かる・・・とはいえ、実はイギリスの王家から頼まれて、彼の国への出入り口は我々が騎士を派遣して守っていたし、今も出入り口の管理は我々が行っている。もともとの事態もあり第一世代のラウンズから誰か一人が2ヶ月の任期で赴任していてな。今は丁度、ランスロット卿の息子であるガラハッドという騎士がそこに居る」

「そうなんですか?」

「ああ・・・そういうわけだから、そこまでの案内はランスロット卿に任せている。ああ、それと先に『影の国』へと入られたクー・フーリン殿から魔術を使って連絡があり、こちらでの打ち合わせはなんとか終わった、と明日の昼には入り口で合流出来る、という事だそうだ」

「わかりました、ありがとうございます」


 アルトの言葉に三柴は頭を下げる。今回、クー・フーリンには先んじてイギリス入りしてもらって『影の国』での手筈を整えてもらう事になっていた。

 とはいえ、『影の国』に起きている異変の余波で軍勢を出入り口まで動かす事は難しいらしく、彼一人でこちらまで迎えに来てくれて、その後合流ポイントに向かう事になるそうだ。そうして、一同は会食を進めながら、この後の打ち合わせを行っていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。


 ・誤字修正+表現修正

『年を押して』となっていた所を『保証しよう』に変更しました。念を押して、でも良かったんですが、こちらの方が良いだろう、という判断です。

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