第136話 イギリス入り
浬達が日本を出発しておよそ12時間。と言っても現地との時差がある為、到着したのは現地時間でおよそ16時という所だ。その頃に、浬達はイギリスに到着していた。
「わー・・・」
煌士・詩乃を除いた修学旅行生のほぼ全員が物珍しそうに周囲を見回す。煌士と詩乃が除かれている理由は彼らがあまりにも海外旅行と言うか海外慣れし過ぎている為だ。
二人の場合そもそも国外での生活が長く、今更国外の空港を見た所で一切驚かない。さらに言えば、煌士の場合はイギリスなぞこれで何度目だろうか、という領域だ。今更物珍しそうに見回す必要なぞ皆無だった。
「おーい、全員ちゅうもーく。眠いんでさっさと終わらせるぞー」
そんな一同に対して、御門が声を上げる。出発したのは午前11時。それからおよそ12時間と少しなので、日本時間で言えば現在時刻はおよそ深夜の0時だ。なので敢えて眠そうに演じていた。演じているだけなので一切眠くはない。
「「「はーい」」」
一方の生徒達だが、こちらは完全に眠そうだった。当たり前だがこちらには魔術は無い。一応機内で寝た者も極少数だが居るので全員というわけではないが、それでもある程度は眠そうだった。
「良し。とりあえずこれからはチャーターしたバスで移動。後はホテルで寝ろ。先生は寝る」
「「「おいおい・・・」」」
生徒一同が御門の言葉にツッコミを入れる。が、こういうずぼらで怠けた所が、彼の味だ。なのでこういった何処でも変わらない所は生徒達からしても好印象をもって受け入れられていた。
「あはは・・・とりあえず、皆さんは本当に今日はゆっくりと休んでください。移動だけだったとはいえ、今日一日だけでも12時間以上も移動していたんです。ゆっくり、休んでください」
「「「はーい」」」
御門の言葉にフォローを入れたランスロットに対して、生徒達が返事する。当たり前だがエコノミークラスでの移動だ。疲れているのは結局全員一緒なのだ。
「はい、良い返事です・・・では、行きましょうか」
「ああ、っと。アロン先生。生徒会の件忘れていますよ」
「あ・・・ありがとうございます、御門先生」
ランスロットは御門の言葉に頭を下げる。これは実は意図して忘れていた。というわけで、ランスロットは改めて思い出した、という風を見せつつ一同の中から煌士と詩乃を探す。
「えーっと・・・天道くん」
「はい」
「生徒会の人員分けは終わっていますか?」
「はい、終わっています。すでに生徒会の一部役員には依頼して、了承をして頂いています」
煌士はランスロットから問われた事へ答えを返す。ここらはランスロットと煌士の今の関係としてすでに何度も密かに打ち合わせていた。が、表向きはそんな事を言えるわけもない。なので、改めてきちんと出来ている、と明言したわけであった。
「そうですか。ありがとうございます・・・それで、先方より先程メールにてご連絡がありまして、18時以降であれば時間が取れる、と言うお話です。ですので17時半頃には集合出来る様にしておいて貰ってください。ホテルから車で20分ほどの所ですから、それで大丈夫でしょう」
「はい、わかりました」
ランスロットの言葉に煌士は――そんな事は流石にTPOを考えて見せないが――多大な期待感を滲ませながら頷いた。これから会うのは、かの有名なアーサー王伝説の主人公であるアーサー王だ。緊張もあるが、同時にものすごい期待感もあったのであった。
「はい・・・では、今度こそホテルへ向かいましょう」
ランスロットはそう言うと、学生達に立ち上がる様に促す。そうして、とりあえず一同はホテルへとバスで移動していくことになるのだった。
さて、到着したホテルだが、それはどうやら今回招いてくれた旅行会社が経営しているホテルらしい。さらに言えばそこに政府系ファンドも入っている為、天道財閥への恩を作っておきたかったイギリス政府も一枚噛んでいるとのことだ。なので見た目はかなり良かった。
「うわー・・・すっごー・・・」
というわけで、見たこともない豪華なホテルの内装を見て、浬が呆気にとられていた。そして呆気にとられていたのは、横の鳴海も一緒である。彼女は平然と置かれていた絵に目をやっていた。
「・・・ねぇ、浬・・・これとか幾らかな・・・」
「あっははははは・・・聞きたくない」
「あっははははは・・・だよねー」
二人は目だけで会話して、絶対にそこらの物を迂闊に触らない、とうなずき合う。ここまで豪華な内装なのだ。さらに言えば、二人はこの裏にイギリス政府とアーサー王が居る事を知らされているのだ。値段なぞ考えたくもなかった。が、ここで聞きたくもない事を勝手に教えてくれる天才という名の馬鹿が居た。
「おぉ。さすが木場くん。目の付け所が違うな。それは中世ヨーロッパはルネサンス期のピエロ・デラ・フランチェスカという画家の絵だ。絵の質から言って、本物だろう。20世紀ごろまでは評価されなかった不遇の画家であるが・・・」
「いーです、そういうの! 知りたくありませんから!」
勝手に話に入ってきた煌士に対して、鳴海がぐいぐいと押してその場から去らせる。有名な、という時点でもう聞きたくなかった。なお、それについては下に名札や解説が入っていたので、後で調べられる様にはなっていた。
「はぁ・・・知りたくないし・・・」
「なんでああも馬鹿なんだろうね・・・」
「この場合感覚ズレてるだけでしょ、あいつは・・・」
鳴海と浬は二人してイマイチ何故自分が追い出されたのか理解出来ていない様子の煌士にため息を吐いた。知らない方が良い事もあるのだ。
「とりあえず・・・部屋、行こっか」
「うーん」
鳴海と浬は部屋の鍵――ツイン――をもらうと、それを使って自分達の部屋へと入る。やはりそこもホテルの格に見合ってそれなりには高級感が溢れていた。
「うっわー・・・」
「あー・・・良いベッド・・・幸せ・・・」
「寝るなー! ここで寝たら死ぬぞー!」
「きゃー!」
鳴海と浬はしばらく、二人でじゃれ合う。高級感ただようホテルの一室。今だけは、非日常を忘れて騒いでも良さそうだった。が、そうは問屋がおろさないのが、この世の中である。こんこん、と窓がノックされた。
「はぁ・・・はい」
『おーう。おつかれー』
入ってきたのは蒼い小鳥。今日も今日とて小鳥姿のカイトである。彼は日本の隠れ家の地下にある扉を通って直接イギリスに入っていた。
『なかなかにいい部屋だな・・・後、鳴海ちゃん。あまり言い難いが、スカートの裾だけは上げておけ』
「きゃ! ごめんなさい!」
じゃれ合っていた上にベッドの上で寝っ転がっていたからか、鳴海のスカートの裾はかなりめくれ上がっていた。とりあえずカイトはそれを注意しておいて、本題に入った。ということで、彼は人型を取ってスマホを取り出した。
「で、何の用事? 確か明日でしょ?」
「まぁ、実際に合うのは明日の朝になるが、一応お世話になる相手の写真を見せておこうと思ってな・・・これが、アーサー王だ」
カイトはそう言うと、スマホに一枚の写真を取り出す。それは二人の男――片方はカイト――が写った写真だ。
「うっわー・・・結構と言うかものすごいイケメンじゃん」
「・・・うおっしゃ! 私、超勝ち組!」
浬が感心し、鳴海がガッツポーズで応ずる。ミーハーな気の強い彼女にとって、相手がイケメン云々はテンションに関わるらしい。そんな鳴海に、カイトが笑う。
「あっはははは。一応既婚者だから、そこまで期待は・・・いや、重婚ありな王様家業だからありなんだがな」
「と言うか、カイトさん。あの、一つ思ったんですけど・・・」
「うん?」
「裏の世界の方がイケメン比率高くないですか?」
目を爛々と輝かせる鳴海がカイトへと問いかける。確かに、そう言われればそうとも言えるかも、とは浬もふと思う。一応根は女性だったがかの安倍晴明もイケメンはイケメンだったし、他にもランスロットは優男風のイケメン、御門もちょい悪オヤジ風のイケメンだ。
命にさえ関わらなければ最高だ、というのは鳴海の素直な意見である。なお、付き合えるかは別だろう、という意見はよしてあげて欲しい。こういうのは気分なのだ、というのが彼女ら平均的な女子中学生の意見である。もしくは夢ぐらい見させてよ、という言葉もあった。
「あー・・・あいつらいろんな種族の血を引いてるからなー・・・ほら、ハーフとかイケメン多いだろ? それと一緒な様でな。イケメン比率は高いぞ? さらに言えばエルフとかイケメン率90%オーバーとかの種族とかあるしな。そこの血引いてると結構美形率は高い・・・見るか? 一応写真結構あるけど・・・」
「お願いしますっ」
「お、おう・・・」
鳴海の剣幕に押されて、カイトは少し頬を引き攣らせながらも己の個人用のバックアップデータにアクセスして、地球で撮り溜めた写真にアクセスする。そしてそれらを見て、鳴海が無表情で浬を見た。
「浬・・・私あんたと友達でほんとに良かったわ。なにこれこの超イケメン軍。これで文武両道金持ちとか超勝ち組じゃん」
「こ、こわひ・・・」
がしっ、と肩を掴んだ鳴海の目は血走っていた。あの浬が少し引くぐらいだった。相変わらず現金な女の子であった。
「あっははは。そのイケメン軍団の中でも有名なラウンズを率いているのが、明日会う事に、ああ、いや。鳴海ちゃんは少ししたら会うのか。まぁ、それがアーサー王だ。性格は想像しているのと少し違うかもしれんが、そこは良いだろう」
うおっしゃー、と一人ガッツポーズする鳴海に対して、カイトは聞いてないだろうなー、と思いつつも言及しておく。
「まぁ、一応王様だから失礼は無い様にな」
「はーい」
鳴海が超ゴキゲンに頷いた。と、そんな馬鹿な話をしていると、部屋の扉がノックされた。
「はーい」
『我輩だ。木場くん。そろそろ時間だが、用意は出来ているか?』
「何時でもいけますっ!」
「う、うむ」
言葉通り完璧なまでに用意を整えた上に気合十分な鳴海を見て、煌士が僅かに気圧される。アイドル・グループを前にしたファンの女の子でもここまで気迫に満ち溢れる事は無いだろう。と、その横から侑子が顔を覗かせた。
「あれ・・・あ、鳴海は確か挨拶行くんだっけ?」
「あ、うん。侑子は?」
「ウチはほら、相方が・・・」
「あー・・・最近付き合い始めたんだっけ・・・?」
「惚気が、ね?」
鳴海と侑子は二人で少しだけ顔を顰め合う。どうやら侑子の相方は最近付き合い始めたばかりの女の子らしく、彼氏の話で少し食傷気味だそうだ。そしてその相方にしても彼氏の所に行ったらしく、彼女もこちらに来たらしい。鉢合わせたのは偶然だったのだろう。
ちなみに、アテネとフェルについては同じ部屋なのであるが、ホテルの部屋に着いて早々二人は転移術で好きな所に繰り出していた。この二人に旅のしおりだのなんだのという工程表――そして教師の存在も――は無意味であった。
「じゃ、私のベッド座っといていいよー。今から出かけるし」
「あ、ありがと。じゃ、いってらっしゃい」
「うーん」
鳴海と入れ替わる様に侑子が部屋に入る。そして閉じられる扉を背に、煌士達はホテルのロビーへと向かう事にした。
「さて・・・これで全員揃ったか」
煌士は挨拶の為の生徒会役員を確認する。今回呼び集めたのは、煌士、鳴海、詩乃のいつもの三人に加えて、何も知らない生徒会役員――庶務――二人の計5名だ。
なお、生徒会はフェルという特例を除いて全員10名でだそうである。人員の内訳は生徒会長一人に副会長・書記・会計が二人ずつ、庶務が3名、という所らしい。
学校の規模からすれば意外と大人数だが、大学での研究の関係で抜ける事の多い煌士と詩乃の補佐をする為に多めにされているらしい。煌士の采配だそうだ。これに時折有志の人員がボランティアで加わる事もあり、フェルはそこに加えられているらしい。こちらも、同じく煌士の采配だ。
まぁ、これには何処に入れても揉めかねない状況だった事を鑑みた結果、でもあるそうだが、今となっては名采配だっただろう。彼女の容姿を考えれば、確実に揉める原因になる事は明白だった。性格については逆にそこが良いと言う者や、時折見せるデレに墜ちる者――主にカイト――も多いので一概には言えない。
「アロン先生。こちらの用意は整いました」
「そうですか。わかりました・・・では、行きましょうか」
煌士の言葉を受けて、ランスロットが頷いて歩き始める。今回、彼がこの旅行の間を取り持った事になっている。なので彼が今回の挨拶も学校側の代表として引率する事になっていたらしい。と、そんな所にケイがカメラを構えた。相変わらずカメラマンの仕事に精を出しているらしい。
「はーい・・・おっけー。じゃあ、行こうか」
「はい」
ケイの言葉に頷いたランスロットは彼と共に歩き始める。そうして、生徒会一同はランスロットとケイに案内されて、一路アーサー王の所へと向かう事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




