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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第7章 新学期編

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第132話 戦い方の伝授

 訓練が本格化して、1週間が経過していた。その頃になり、一度全員で戦いを見てみるか、と言う段階になった。今までは各々が個別に訓練をしていたり極少数での組み手に近い形での戦闘だけだったので、全員で調子を見た事はなかったのだ。


「うーん・・・随分とジャージもボロボロになってしまった・・・」


 煌士は改めて全員が集合した事で、己のジャージがかなり擦り切れていた事に気付いた。たった数ヶ月の訓練でも相当の努力をした証だった。


「ふむ・・・新しいのが必要であれば、後で取りに来い。が、とりあえずこれから激しい運動をする以上、そのままで良いだろう」

「いや。我輩としては綻びを掴まれて動きを阻害されるのでは、と危惧する所なのであるが・・・」


 確かにボロボロだな、と思い口にしたフェルに対して、煌士はあくまでも実際の戦闘時に危惧すべき事の一端として提示する。それに、フェルがきょとん、と目を丸くした。が、そうしてすぐに笑みを浮かべた。


「ほぅ・・・良いだろう。一時的だが、全員の綻びは修繕しておいてやる。気になった奴は後で新品に替えてもらえ。どうせ魔術的な処理で新品同然に元通りになり、また交換する時にはそれを使う事になる。気にするな」

「うむ、かたじけない」


 煌士はフェルが一時的とはいえ新品同然にしてくれたので、頭を下げた。フェルとしてもまさか煌士がここまで想定しているとは思っていなかったので何も思わず発言したのだが、ここまで想定しているのなら十分だ。

 彼らが戦闘に挑む時は、万全で挑むべきだ。ただでさえ素人の彼らにとって、何か一つの欠けが命取りになりかねない。その万全の中には当然、防具、即ち衣服も含まれるだろう。

 であれば、それがボロボロになっているのは拙いのである。喩え訓練だろうと、そしてジャージが防具としての意味を殆どなさないとしても、防具は完璧にするという考えは決して悪い事ではない。煌士の考えが正しかった。


「さて・・・それで今回の模擬戦の相手だが・・・」

「オレだな」


 フェルの指定を受けて、カイトが立ち上がる。それに、全員がぽかん、と間抜け面を晒した。と、そうしてすぐに復帰した浬が即座に否定を入れた。


「いやいやいやいやいや! 無理じゃない!? と言うか、無理すぎない!?」

「う、うむ。我輩も流石にカイト殿相手の戦闘は・・・ちょっと訓練でも意味が無いと思うのだが・・・」


 大声で否定した浬に続けて、煌士もかなりドン引きしながら二人に告げる。カイトは少し前に彼らが手も足も出なかった千方をたった数発で撃退してみせたのだ。それに訓練といえども挑む愚は悟っていた。が、決してフェルとて無意味に言っているわけではないのだ。


「仕方がない。こいつは非常に器用でな。基本的に、全距離で戦える。今回の様に敵がどういう構成なのかわからない状況でこいつとの戦いで訓練を積むのは非常に良い・・・才能もそこそこだからな」

「まぁ、世界最強と言われつつこの使い魔じゃ10%が限度。おまけ付きでそれは戦闘での限度で、今は更にその1%も使わん。勝ち目はないが、訓練にはしてやれる」


 フェルに続けてカイトは立ち上がりながら一同に告げる。つまり、彼からしてみれば本体の10%の更に1%、都合0.1%しか使わないのだ。とはいえ、それでも最強は最強と言われる男が相手なのだ。しかもそれでも勝ち目はないらしい。なので即座に浬らは代案を考える事にする。


「え、えっと・・・フェルちゃん・・・は、ルシフェル・・・」

「どう考えてもやばそう」

「ヴィヴィちゃんは・・・」

「意外と一番容赦ないの彼女じゃん」

「モルガンちゃんは・・・」

「・・・見なかった事にしない?」

「だね」


 鳴海と浬は二人してモルガンから視線を逸らす。彼女は今、チアコスでぽんぽんをもってカイトの横に楽しげな顔で立っていた。ちなみに、チアコスはヴィヴィアンも一緒である。

 流石に二人が加わっては勝ち目が無いどころか訓練にならない。そもそも相手は一度に一人なのだ。複数と戦う訓練をする意味は皆無だった。というわけで応援もとい茶化すつもりだったらしいのだが、そんなモルガンが不満げに口を尖らせた。


「あ、ひどい。全スルーはひどいよ。折角巫山戯たのに」

「あはは。仕方がないよ」

「いーもん。これガウェにでも送りつけよーっと」

「流石に止めてあげなよ」


 ガウェとはガウェイン、つまりモルガンの息子の事でありランスロットの親友にしてアーサー王の右腕である騎士ガウェインだ。中学生~高校生程度の見た目に反して彼女は母親であるわけで、流石に母親のチアリーダーのコスチューム姿を送られれば息子としては反応に困る所だろう。その反応を楽しみたかったらしいのだが、流石にこれはヴィヴィアンが止めたのであった。


「えー。じゃあなんのためにこんな服着たの?」

「うーん・・・カイト応援する為?」

「いや、あっち応援してやれよ」


 ヴィヴィアンの言葉にカイトがツッコミを入れる。そもそもチャレンジャーは浬達で、敗北は確定だ。なら、応援するべきはあちらだろう。が、それ以前の問題だった。


「でも私、カイト以外を応援ってする気ってあまり無いんだよね」

「うーん・・・このそこはかとなく漂う黒いオーラ・・・恐ろしい子っ!」

「貴様らもう良いか? さっさと始めるぞ」


 巫山戯合うモルガンとヴィヴィアンに対して、フェルが告げる。何時までも雑談をさせておく必要はないのだ。時間は限られている。イギリスに行くまでに、出来る限り土台は整えておきたいのだ。


「さて、今回貴様らはカイトを封殺してみせろ。基本的なステータスは貴様らの中でも最大の空也程度に合わせている。勝てない相手ではない」

「かというて、そのままではなんの意味もない。お主らとて空也一人ならばフルボッコなぞ容易いじゃろう」

「基礎ステータスだけが、空也レベル。武器はお前ら全員が使うものをオレは使う。そして、技量についてもオレそのままだ」

「まぁ、基本は勝てないと考えて大丈夫だよ」


 フェル、玉藻、カイトの言葉を引き継いで、最後にヴィヴィアンが告げる。カイトは空也のステータスにまで落とした上に、たった一人だという。それでも彼が勝てるのだ。それはひとえに、実戦経験値の差だ。


「つまり、我輩達全員と戦っていると考えれば良いわけか?」

「そういうこと。カイトは全部一人でやるけど、普通はそんなの無理だからね。君達は全員で自分達に勝つつもりでやれば良い。カイトは君達が本来為すべき連携を一人でやってくれる、と考えても良いかもね」


 モルガンは煌士の問いかけに頷いて、この戦いでの肝を告げる。カイトは浬達に渡した武器の全てを使いこなしている。そして、彼は一人で連携までやってのけるらしい。その連携こそ、彼らが学ぶべきもう一つの事だった。そうして、カイトが刀を構えた。


「さて・・・じゃあ、始めるぞ」


 カイトが宣言する。そしてそれと同時に、安全に配慮する為の結界が展開された。これで、戦いが開始出来る。まず火蓋を切ったのは空也だ。彼は戦闘開始と共に、地面を蹴った。


「はっ」

「正解だ。まずはお前が接近しない事には何も始まらない」


 自分めがけて一目散の空也に対して、カイトはその場で迎撃の姿勢を見せる。だが、その次の一手は違う。彼は刀を消失させると魔銃を手にとって、空也に向けて魔弾を発射した。


「っ」

「馬鹿野郎! 足止めてんじゃねぇ! 仲間を信じる事を覚えやがれ! そしててめぇらもぼさっとしてんじゃねぇよ!」


 足を止めて迎撃しようとした空也に対してカイトが怒号を飛ばし、更に後ろで逡巡した海瑠らに向けてカイトは怒号と魔弾を一緒に飛ばす。そうして、彼は更に怒鳴りつけた。


「空也! てめぇは援護貰える状況なら足止めんな! 海瑠、侑子! てめぇらが援護しないで誰がやる! てめぇらがぼさっとした瞬間、空也は死ぬんだよ! 突っ込んでく仲間の支援やんのがてめぇらの仕事だ!」

「「あ、は、はい!」」


 全員がびくっ、と跳ね上がって承諾を返す。これは訓練でありながら、実戦を見越した訓練だ。カイトとてフェルとて甘いし優しいが、この場でだけは優しいが故に、容赦はしなかった。


「ふっ!」


 気を取り直したというか我を取り戻した空也が再度、地面を蹴る。先程カイトが放った魔弾は全て消え去った。フェルが強制的に仕切り直しをさせたのだ。

 そうして地面を蹴った彼はカイトから言われた通り、前からの攻撃は気にしない。一切を無視する。そして、カイトの魔弾に対して、弾幕が空也の横を追い抜いていった。


「そうだ。援護をしろ。まずは全員が準備を整えるまでの準備だ」

「はぁああああ!」


 空也が裂帛の気合と共に、刀を振りかぶる。それに、カイトもまた刀に持ち替えて、敢えて防御する。


「っ!?」


 空也の顔に驚愕が浮かぶ。彼は確かに、カイトを攻撃した。が、その攻撃されたカイトがあまりに呆気なく吹き飛ばされたのだ。明らかに、攻撃を利用された風があった。


「馬鹿が。タイマンじゃねぇなら、包囲されりゃ終わりだってのは上の奴らなら誰でも気付くんだよ。てめぇの兄貴はそれをよくわかってたぞ」

「!」


 地面を滑っていくカイトは、飛ばされる直前にカードを空也の前に設置していた。防御したその後すぐに刀を消してカードへと持ち替えていたのだ。絵柄は『銃』と『雷』。直撃コースだ。


「拙い! 詩乃!」


 煌士の声とほぼ同時に、空也を詩乃が蹴っ飛ばす。煌士に言われるよりも前に、空也の援護に回ろうとしていた詩乃が気付いて動いていたのだ。そしてその次の瞬間、空也の居た所を雷撃が迸った。


「それで良い。ダメコン考えりゃ、直撃より脇腹に味方から一撃貰った方がどう考えても得だ。が、空也。てめぇは一撃で、自分が仕留めるという意気込みが強すぎだな。初手はあくまでも様子見に努めろ。相手は格上。どういう事をしてくるかわかんねぇよ。まずは、相手をしっかりと理解する事。それを覚えておけ」


 カイトは詩乃の動きを賞賛しつつ、空也へとダメ押しを入れる。彼は初手に力みすぎていた。これが力に力でぶつかってくる様な相手ならばしっかりと応戦してくれたのだろうが、そうでない場合もあるのだ。それを頭に入れて戦うべきだった。


「はい・・・え?」


 空也は立ち上がって、カイトの言葉を受け入れる。が、その次の瞬間、目を丸くする事になった。カイトの手には、魔導書が握られていたのだ。


「その素直さは兄貴にゃ無いいいところなんだよなー。で、戦闘中だぜ?」


 先程までの荒々しさはどこへやら、カイトは少し獰猛な笑顔で一同へと告げる。そうして、次の瞬間。カイトよりも前に煌士が魔術を放った。


「っと。お見事。今のタイミングはベストだ」


 カイトは魔術の展開を止めて、サイドステップでその場を離れる。そしてその次の瞬間に煌士の放った雷撃が飛来して、彼の横を通り過ぎていった。今回はカイトの動きを妨害する為の速度重視だ。これが、最善の一手だろう。そして、そんなカイトへと次は詩乃が追撃を仕掛けた。


「まぁ、それがベストな行動だな」


 速度であれば、詩乃が最も速い。回避に回った相手を追撃するのなら、詩乃が一番適任だろう。そして彼女に牽制させている間に、再び空也が接近して相手を食い止めるのだ。


「基本は、貴様ら二人はぴったりと相手に貼り付け。動きを食い止め続けろ」


 カイトは二人の攻撃を食い止めながら、為すべきことを伝授していく。


「空也がメインとなり攻撃を。詩乃ちゃんは空也から逃げようとした相手を牽制して、その逃走を阻止。場合に応じては侑子ちゃんも近接に加わる。侑子ちゃん。君は遊撃だ。しっかりと状況を見て動け。何、基本はバスケと一緒だ。仲間を見て、今攻撃するタイミングなら、攻撃に加わる。援護が必要なら、援護を行うんだ」


 カイトは一同へと語りながら、応戦していく。声は魔術を使って玉藻が全員に届けていた。これは訓練だ。どうすべきかを教える為のものである。解説を与えて初めて、意味があるのだ。


「そうじゃない。この一手は間違いだ。鳴海ちゃんと浬。お前らはトリックスターだ。相手の意表を突く行動を行える。特に鳴海ちゃん。君のその筆は敵に描く事でも使えるものだ。もし敵に文字を描く事が出来れば、それはどんな格上の敵だろうと一撃で仕留められる可能性がある切り札にもなり得る。地面に描けばトラップにもなる。それを理解しておくんだ」


 カイトは詩乃が取り逃がしそうになったカイトへと攻撃を仕掛けた浬と鳴海に対して、どう戦うべきかを伝授する。この二人は、普通とは違う戦い方だ。そこにこそ、最大の利点がある。

 この二つの武器との戦いに慣れているものはおそらく、この地球上には存在していないだろう。これはカイト達が創り出した武器だ。地球上に似た物は存在していない。

 そしてこの戦いはどの戦いだろうと一度しか起きない。ならば、ほぼ全ての敵にとってこの武器は初見になってしまうのだ。対策は立てられにくい。

 そこを利用していくべきだ。だが、今の彼女らには状況を見極めて戦う知恵がない。今はまだ、煌士の指示を受けて戦う事しか出来ない。


「煌士、君は司令官。常に全体を把握しろ。君の指示一つで、戦場が書き換わる。仲間が死ぬ事もある。常識を捨てろ。固定観念を捨てろ。敵は君の常識を超えた存在だ。そう言う意味で言えば、敵にとってみれば浬と鳴海ちゃんの二人は敵にとっても常識を超えた相手だ。初手が肝要だ。そこを覚えておくんだ。それを二つも同時に簡単に晒したのは、間違いだ。どちらも意表を突く事が出来る手札だ。なるべく、温存を考えろ」

「っ・・・」


 煌士が自分の見通しの甘さを指摘されて、唇を噛む。まだまだ、なのだ。それは当然だ。戦闘の経験なぞ皆無に等しい。だから、今ここで学んでいる。

そしてそれはカイト達も知っている。だから、最悪の一手を打たない限り彼らは叱責しない。諭すように、教えてやる。そうして、最後に彼は己の弟へと戦い方を伝授する。


「海瑠。お前は絶対に近づくな。お前は砲台。それもおそらく一撃の威力であれば最大の砲台だ。だから、力をセーブし続けろ。常に余力を。出来る所で補給を。お前だけは、疲れちゃ駄目だ。ペース配分を間違えるな」


 海瑠は先の空也の援護で余力を使い果たしてはいなかったものの、それなりに本気で撃ち込んだようだ。少しの疲労が見えていた。それでは駄目なのだ。彼の最大の利点は魔力的な意味での持久力。その持ち味を殺す様な戦い方は避けるべきだった。


「さぁ、打ち込んでこい。粗なら指摘してやる。ただ、自分達が正しいと思う戦い方をやってみろ」


 カイトが告げる。彼ならば、どんな状況だろうと対応してみせる。だからこそ、敵としては最適だ。自分達の穴を突いてくる相手と戦う事は即ち、自分達の弱点を是正出来る手段なのだ。そうして、この日の一同はカイトを相手にただひたすら、訓練を行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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