表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第7章 新学期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/634

第130話 空也達の実戦訓練

 浬達が本格的な修行に入って、数日。この日もこの日で全員が集まって、訓練を行わされていた。


「煌士。援護を」

「ああ・・・我輩はとりあえず足元を払う。詩乃。我輩と空也の援護を」

「かしこまりました」


 浬、海瑠の天音姉弟がただひたすら次の戦いに備えた新たな力を学ばされていた頃。煌士、空也、詩乃の三人組はひたすら実際の戦いに備えた実戦訓練を行わされていた。

 その相手は、フェル。かつて大天使ルシフェルとも、堕天使にして悪魔の王ルシファーと呼ばれた女。彼女はカイトの知り合いの中でも最も甘さがない。それでも非常に甘いが、訓練にかけての甘さであれば一番無い。それこそ、アテネ以上に無いのが、彼女だった。


「さて・・・では、始めるぞ」


 フェルが構えるのは、何処の物ともしれない白銀の細剣。その彼女は黒白の翼も出さず、半径50センチ程の円の中で悠然と立っていた。


「私にとりあえず一太刀で良いから当ててみせろ。やり方はどうでも良い。本気で、殺す気でやれ」


 フェルがとりあえずのルールを告げる。本来は円から出せれば良いのだが、それは高望みしすぎだ。とりあえずは、一太刀で良いので当ててみせる事。それが第一段階だった。

 そして戦い方はどうやっても良いというのが決定だ。要は、何でもありだ。とはいえ、それで覆らないだけの差が、両者にはあった。そして、それはここ数日で彼ら三人も嫌というほど理解した。


「・・・」

「・・・」


 煌士と空也は視線を僅かに交えて、うなずき合う。それが、開始の合図だ。


「はっ!」


 だんっ、と空也が地面を蹴った。それに合わせて、煌士が魔導書を開いた。


「っ・・・」

「ふん・・・一本調子だな」


 肉薄してきた空也に対して、フェルは軽く刃を合わせただけで力を受け流す。彼女は一切、打ち合わない。力を全て受け流してやるだけだ。

 そもそも彼女の剣は細剣。打ち合ったり鍔迫り合いをしたしする様には出来ていない。なお、念のために言っておくが彼女が使う細剣は特殊な品なのできちんと鍔迫り合いが出来るだけの性能はある。

 が、それでも大剣や片手剣などと比べれば分が悪い事は事実だ。なので推奨はされないし、フェルとてあまりやろうとはしない。そして、空也が受け流された後、フェルが迎撃の用意を整える前に詩乃が追撃を仕掛ける。


「はっ」


 詩乃の持つ肉厚な短剣が振るわれる。すでに彼女はフェルに勝てない事を悟っており、安心して容赦なく殺すつもりで一撃を放っていた。


「ふん・・・容赦がないな。良い事だ」


 フェルは唯一詩乃に対してだけは、褒める事が多かった。勿論、技量については褒める所はほぼ無いに等しい。だが、彼女は本当に容赦をしない。それ故、殺すつもりで刃を放ってくる。その点に関しては、賞賛出来る事だったらしい。


「詩乃!」


 詩乃とフェルの交差の次の瞬間、煌士が声を上げる。そうして、詩乃が受け流されてそのまま加速してフェルの後ろを走り抜けると同時に、雷が迸る。


「甘い」


 迫り来る雷に対して、フェルは迷わない。そもそも魔術師とは砲台だ。極まった魔術師は個人で戦略兵器にも匹敵する。近接戦闘を行う戦士の癖に一人でそれら戦略兵器を上回るカイトが可怪しいだけで、戦場では魔術師の方が圧倒的に危険なのだ。近接戦闘を行っている間にでも魔術師から注意を怠るのは、素人のやることだった。


「速ければ届くと思ったか。援護がある状態の時に速度重視の攻撃を放つは愚行と思え」


 フェルはそう言うと、悠々と雷を切り裂いた。よく間違われる事であるが、雷の速度は光の速度には到底及ばない。勿論それでも秒速200キロメートルというとてつもない速さであるが、所詮そんなものは光の速さ――秒速30万キロメートル――という速さには到底及ばない。

 フェルやカイト、ランスロットら超高位の魔術師や戦士の使う極度に達した認識の加速の中では、その程度は悠々と切り裂ける速度でしかなかった。とはいえ、それはこの数日の戦闘の中で煌士達も把握していた。だから、次の瞬間。詩乃がフェルの後ろから襲いかかった。


「ふっ」

「だから、甘いと言った」


 だが、それは意味をなさなかった。そう。フェルはそれを煌士が見切った上での事だと承知していた。


「はぁ!」


 フェルは細剣を左手に持ち替えて詩乃の短剣を軽く受け流すと、そのまま交差する瞬間の彼女の胴体に軽く手を当てて衝撃波を発生させて吹き飛ばす。方向は、空也の方だ。

 それに、詩乃に続いて追撃を仕掛けようとしていた空也が足を止める。受け止めるべきか、それとも回避すべきか。判断が出来ていなかった。


「阿呆。味方がやられて・・・いや、これは藪蛇だな」


 二人纏めて吹き飛ばしたフェルは二人をそのまま纏めて時の歪んだ空間の中に捕らえる。刹那を永遠に偽装した空間ではなく、永遠を刹那に偽装した空間だ。戦闘終了までは、彼らは何が起こったかさえわからないだろう。


「ふん・・・」


 近接戦闘を行う二人を軽く片付けたフェルは、最後に残された煌士へと視線を戻す。注意は一度も彼から離した事はない。それ故、煌士がまだ詠唱を続けていた事を理解していた。


「馬鹿が。すでに戦闘終了だ」

「むぅ!?」


 フェルはそう言うと、呆気なく煌士の詠唱を強制的に中断させて魔術の為に集められていた魔力を霧散させる。彼女にとってすれば、詠唱中で構築途中の魔術を破壊する事なぞ造作もない事なのだ。そうして、煌士が降参を宣言した。


「参った」

「良いだろう」


 フェルの同意の次の瞬間、どさり、という音が鳴り響いた。詩乃と空也が封印から外に出されて地面に落下したのだ。


「結界は解除した。少し休め」

「ああ・・・はぁ・・・」


 煌士はその場に腰を下ろす。その額は汗だくで、たった数分の戦闘に全神経を集中していた事が察せられた。そしてそれは、空也も詩乃も変わらない。

 とはいえ、これは少し可怪しい様に思える。彼らは殆ど動いていない。動いていないのに、疲労困憊。ならば、そこには必然なんらかの理由があった。


「疲れるだろ?」


 カイトが笑いながら問いかける。


「ええ・・・これはかなり疲れます・・・」

「まぁ、ウチの天才様ことティナが作った訓練用の魔道具なんだが・・・本来はウチのバカども向けに作った物のデッドコピー。まぁ、初心者向け、って所か。元々はウチの孤児のガキ・・・主に秘魔族の小僧にせがまれて作ったもんだったんだが・・・まさかそれがこんな所で役に立つとはなぁ・・・」


 カイトはしみじみと空也の胸に吊り下がっているネックレスを見る。これは謂わば空也達が今も着ているジャージの強化版と考えれば良い。いや、正確には完成品というか、ジャージはこれのデッドコピーなのだ。あくまでも初心者向けというか、おためし版だ。

 それ故に性能というか、疲労の蓄積に関しては桁違いに楽なっている。ジャージはある一定量を吸収するだけなのに対して、ネックレスは放つ量を何倍にするか、という倍掛けで計算する。

 なのでネックレスを常用するのは流石にこれの常用者でも避けて、一日に数度、と限定していた。勿論、それでも連続は不許可で使用の後は回復薬で補給も怠らない様に厳命している。時間に関しては、その人の到達度と何倍の出力にしたのか、という事に応ずる。

 ここまで効果が違うのにも、理由はある。あちらが戦う事を考えていない者達の為の物に対して、こちらは純粋に戦う事を考えた者達が使う物だからだ。勿論、効果もそれに見合った物にはなっている。と、そうして疲労に耐えながら、空也が問いかけた。


「こんなのを使って、皆さんはいつも訓練されていたんですか・・・?」

「オレは・・・そうだな。ざっと10年以上はほぼ毎日使ってた。異世界に居た頃に開発したもんだからな。勿論、それじゃなくて戦闘員向けに作られた物だけどな。多分、本体は今も訓練の時には使ってるだろうな」

「私は使わん。そんなものが無くても十分に強いからな」

「妾はそもそもそんなものに頼る事はせん。戦うのも娯楽。強くなる事に意味は無いしのう」


 カイトに続けて、フェルと玉藻が答えた。どうやらカイトぐらいしか今これを使っている者はいないのだろう。勿論、そのカイトにしたってこの使い魔で使う意味は無い。それどころか消費する魔力が増大してしまうので逆に役に立たないぐらいだった。


「基本的に、これを常時で使うのはオレとか馬鹿ども・・・所謂勇者さま御一行とかぐらいだ。大凡馬鹿でもないとこんなの使って訓練なぞせんよ」


 カイトが笑いながら明言する。熟練の戦士達で始めて、このネックレスの本物は使って満足に修行になるのだ。もしそれを今の彼らが使った所で、即座に魔力が枯渇して非常停止が作動する事だろう。そうして、しばらくの休憩の後。浬と海瑠の訓練の監督に戻ったカイトに変わって、フェルが問いかけた。


「さて・・・貴様らの今回の悪い点だが、多すぎる・・・というのはいつもの事か」


 フェルは悪い点が多すぎると何時も通りの言葉を告げて、何時も通りの始まりを告げる。基本的に、彼女はダメ出ししかしない。まぁそれでも褒められる点が無い以上、当然ではあるだろう。そうしてまず矛先を向けたのは、煌士だった。


「まず、煌士。貴様は何度も攻撃をする手数タイプではないと何度言えばわかる」

「むぅ・・・」

「貴様が考えるべきは適材適所。適切な場所で適切な時に適切な攻撃を挟む事だ。それ故、手数重視、発動速度優先は考えるな。貴様は砲台。それも見せる砲台だ。悟られず一撃を叩き込む事になる海瑠と双極を為すもう一つの砲台だ。如何に敵を切り崩すか、にこそ要点が存在していて、援護を積極的にする側ではない事を覚えておけ。援護はあくまでそれが適所であればやるべきことだ」


 フェルは徹底的に煌士をこき下ろす。ここら、彼女は容赦がない。しかもおまけに彼女が現役時代だった頃の天使達はほぼ全員が彼女の教えを受けている為、何処が悪いのか、何が悪かったのか、という所を見抜く事にも長けている。

 その実績としても現在の地球の半数を押さえるミカエルら熾天使を見れば、誰も否定的な意見は述べないだろう。最も煌士が教えを受けるべき相手だった。そしてそこを理解しているからこそ、彼女も重点的に煌士へと指摘を行っていた。


「さて、次は詩乃。貴様はまぁ、実践面についてはあまりとやかくは言わん。相変わらず容赦なく一撃を振るえている。それが訓練の賜物かそれとも生まれ持ってのものなのか、はたまた別の理由かは気にはなるが、敢えて言及はしまい。が、それでもまだ身体能力に貴様の思考の反応速度が追いつけていない。貴様の性能と腕前なら、後二発は多く打ち込めた。ここは少し反応速度を制御する魔術を改良しておけ。何を使っているか知らんが、必要とあらば玉藻かアテネに聞くのも良いだろう。更にはあまりダッシュ突きを多用するべきではないな。相手が受け止めてくれる相手であれば良いが、私の様に打ち合う事をメインとする相手ではない場合、受け流されて今回の様にカウンターを決められる可能性はある」

「ヒット・アンド・アウェイが良いかと思ったのですが・・・」

「そうだな。その方針は短剣使いである限りは変えなくて良い。が、ヒット・アンド・アウェイをするにしても直進以外にも後退も視野に入れておけ。勿論、魔術を使う事を考えれば難しい。要鍛錬だ」


 詩乃の反論に対して、フェルは頭ごなし否定せずに方向性を提示する事に留めた。こちらの悪い所は敢えて言えば、練度が足りていないという根本的な所だ。敢えて彼女が指摘するべき事でもなかった。そもそもその練度を培わせる為に訓練させている。


「さて・・・最後に空也。貴様に言いたい事を言いたいのだが、その場合はどの口が言うのか、となるのだが・・・仕方がない。言う事にしよう。まず第一。仲間がやられて動揺するな。鉄の心を持てとは言わん。が、動揺だけはするな。それで足を止めるなぞ論外だ」

「「「お前が言うな」」」

「言うと思ったから、言いたくなかったんだがな・・・」


 カイト達が一斉に、フェルの言葉にツッコミを入れる。その論外をやった女が、彼らの目の前で偉そうに講釈を垂れていたのであった。

 ちなみに、これは彼女の神への反逆の時の話だ。親友が封ぜられて、思わず足を止めてしまったらしい。そうでもなければそもそも当時の神以上の能力を持っていたと評価される彼女が負ける事は無いだろう。


「はぁ・・・気を取り直すぞ。とりあえず、足を止めるなぞ以ての外だ。仲間を救助に走るのも良いし、仲間が無事だと信じて立ち向かうのも良い。勿論、態勢を立て直すのもありだ。が、決して足だけは止めるな。戦場で足を止めればそれ即ち死だ。決して、迷いだけは戦場で見せるな」

「はい」


 空也はフェルの教えをしっかりと受け入れる。ここらは、真面目な彼だ。素直に指摘された事をなんとか頑張って修正しようとあくせくと努力をする。

 その姿勢についてはフェルも言うことがなかったので、この程度にとどめておいた。さらに言えば剣技を教えるのは流派の問題などで門外漢となる。言わない方が良いと判断していた。

 そうして、この日も彼らは数度の戦闘を行う事になり、その日は、と言うかその日も夜には泥のように眠るのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

*活動報告はこちらから*

作者マイページ
― 新着の感想 ―
[一言] 最新話に追い付こうと、頑張って楽しく読ませてもらっています。1つ気になる点があります。132話に、光の速さは300万㎞とありますが、正しくは30万㎞だと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ