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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第7章 新学期編

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第129話 本格化

 さて、彩斗達が交渉を進めている一方。浬達もまた、色々な準備を進めていた。


「えっと・・・こうすれば良いわけ?」

『ああ・・・基本的には、そのカードの特性は敵の不意を突ける事にこそある。カードの組み合わせは複雑で、どれが来るかはオープンするまではわからない』


 浬の前にて、小鳥状態のカイトが戦い方の説明を行う。本来はランスロットらがやれれば良いのだが、残念ながら彼らは今、浬達を密かにイギリスに送り出す為の工作で手一杯だ。ならばカイトとフェル、玉藻が主体となり彼女らの鍛錬を行うしかなかった。

 で、今カイトが教えていたのは裏向きにカードを発動させる方法だった。基本的にはカードの絵柄の方向が敵に射出される方向になるのでこちらをすれば良いし、それに茨木童子達にしても茶化す事しか考えていなかったのでこれで良かったのだが、流石に本物の戦闘になってまでそんな事は出来ない。なので致し方がないが、実戦的なテクニックを伝授していたのである。


『基本的な話として、カードの攻撃の出現箇所は己の意思一つで操れる。だから・・・』

「っと。ちょっと貸してみ?」

「え、あ、うん」


 カイトは人型を取ると、浬へとカードの貸与を促す。それに、彼女がカードの束をカイトへと手渡した。


「良し・・・」


 カイトは浬からカードを受け取ると、その中から適当なカードを見繕う。数は『銃』と『剣』は三枚全部、後は種々好きな様に、と言うところだった。


「カード、セット」


 カイトはそれらを全て、一斉に浮かび上がらせる。組み合わせは、6種類。放出する組み合わせが3種に、斬撃として放たれる組み合わせが3種類だ。浬がこの訓練の開始前に聞いた話では、どうやら本来は一度に複数種類発動させる事も出来るらしい。

 確かに原理的には三枚しか使っていないのだし、『銃』のカードも『剣』のカードも全部で3枚ずつあるのだ。どちらも一枚ずつしか一度の組み合わせに使わない事を考えれば、出来ない道理は無かった。コントロールが難しくなるので教えなかった、との事である。


「玉藻ー。悪いけど式神頼むわー。防御はしてくる様に頼む。あ、性能は全力で」

「む? 仕方がないのう」


 鳴海と侑子の面倒を見ていた玉藻が、カイトの求めに応じて鎧兜の式神を生み出す。過日に葛の葉が使った物と同じだ。


「良し・・・さて。まず、今までの浬をオレが実演してみせようか」


 カイトはそう言うと、刀を構えてこちらを見ている式神に対して浬が出来るレベルでカードを使用する。


「放出。斬撃・・・当たり前だが真正面から打ち込んだ所でそれらは全て防御される」


 カイトは解説しながら、雷の斬撃を放ち炎の弾を放射する。それは全て、玉藻の式神によって切り裂かれて防がれていた。一度に一種類だけだと、これが限度だ。他に水鉄砲や風刃を放った所で一緒だろう。


「当たり前だが、真正面からの攻撃は一番的に防がれやすい。真正面だからな」


 カイトが笑う。防御は確かにし易いだろう。なにせ見ているのに対処するだけだ。難易度なぞ、たかが知れている。気にするべきは、その威力一つだ。威力さえなんとかなっているのなら、防ぐ事は出来る。そして威力があろうと、よほどではない限り回避も容易だろう。

 これは浬達だって一緒だ。見えている攻撃に対処するぐらいは出来る。彼女らが対処出来るのに、敵が出来て当たり前だった。それを命中させる為に、この間の千方の時には円陣を組んで方位して全方位から攻撃を仕掛けたのだ。人に後ろに目はない。回避も防御も背中側からの攻撃には難しいのだ。


「さて・・・とはいえ、いつもいつでも敵が後ろを向いていてくれるわけではない」


 カイトは何度も何度も式神に対して攻撃を仕掛けながら、浬の力量では無理である事を提示する。まずは無理である事を提示して、始めて次があるのだ。


「さて・・・じゃあ、こうなるとどうするか。それが、さっきの応用になるわけだ」

「応用?」

「ああ・・・そうだな。基本的には、背後からの攻撃というのに対処出来ないのはどれだけ達人であっても一緒だ」

「お兄ちゃんでも?」

「いや、当たり前だろ。オレの腕は前にしか出ねぇよ。後ろ防ぎたきゃ・・・こうやって大剣を後ろに出して防ぐぐらいしか出来ん。勿論、オレはまだまだ他にも手があるけどな。基本的にゃ、障害物を置いたり回避したりしか出来ない」


 カイトは己の魔力で身の丈程の大剣を創り上げて、それを背負う様な姿勢で後ろへと移動させる。こうすれば、たしかに背後からの攻撃は防げるだろう。が、それは斬撃などで切り払っているわけではなく、単に障害物を置いて防いでいるだけだ。


「これはどんな達人だろうと変わらない事だ。所詮、達人だろうと人だからな・・・いや、まぁ、一応更に上になると、斬撃を後ろに放つとか出来るから不可能じゃあないが・・・そこはそれとして、置いておこう」


 カイトは一度首を振って、浬達は出来ない事、と言及する事をやめておく。彼女らに出来ない事を一気に教えて混乱させる必要はない。今は、一歩一歩先に進めていく事が重要だった。


「とりあえずよほどの達人達でないと出来ない、と思っておいてくれ。そのよほどの達人達でも戦闘中でやるのは困難になってくるしな。とはいえ、攻撃側はそれを突けば良いわけだ」

「後ろからって・・・卑怯じゃないの?」

「戦いでんなの気にしてられっかよ。アロン先生だって普通に突いてくるぞ。勝てば官軍負ければ賊軍、って言い方はまさにそうだ。勝たなきゃ、騎士だろうと悪党だろうと意味がない。どっちも屍晒すだけだ。そもそも真正面から正々堂々立ち会っての斬り合い、って騎士道は中世に出来たもんだ。7世紀前後に活動してた彼らは騎士でもあるが、同時に戦士でもある。普通に後ろに回っての攻撃もやるぞ?」


 浬の問いかけに、カイトは笑う。真正面から正々堂々とした斬り合い、というのは確かに物語で語られる事だ。が、そんなものを実際の戦闘でやる奴はよほどの馬鹿か、場馴れていない初心者だけしかやらない。

 カイトは平然と後ろを取ろうとするし、それは正々堂々を旨としているランスロットだって変わらない。正々堂々と戦う事とその場を動かずただ真正面から斬り合うだけ、というのは別なのだ。

 戦闘における正々堂々というのは卑怯な手――例えば人質や不意打ち――を使わない、というだけなのである。当然、刀以外にも戦場そのものを使って戦う。

 その点、カイトに至っては卑怯な手を使う事にさえ抵抗がない。流石に彼の流儀から人質は使わないが、不意打ちは平然とやる。暗殺にも抵抗はない。と言うか、現在進行系でやっていた。なので悪びれる事さえ無かった。


「で、お前らが足を踏み込んだのは、その戦いの場だ。後ろから攻撃を気にしていられる余裕もない。普通に使え。最悪は援護してやるがな。基本はお前たちが片付けろ」

「は?」

「あほか。オレにとっちゃ見ず知らずの奴数百人の命より、てめぇらの命の方が重要だ・・・なら、迷うかよ。いざとなりゃ、本当に本体呼び出すだけだ」


 カイトは唖然となった浬に対して、笑いながら明言する。彼としては、これだけは譲れない。この戦いは手出し無用だが、同時に手出しをしないつもりもない。そして、祢々の『ぱーぱ』とやらもそこは織り込んで動いているだろう。


「だが・・・お前らだってそんなの嫌だろ? なら、しっかり気張れよ」

「あ、うん・・・」


 呆然と、浬は頷くしかない。どんな状況に陥っても、彼らからは手は貸してもらえないと思っていたらしい。だが、カイトは迷わない。彼にとって一番大切なのは浬達の命だ。それを守る為になら、彼は迷いなく引き金を引く。天秤に乗った数百の命を犠牲にする。

 いや、おそらくランスロットとて引き金を引くだろう。御門やアテネには、カイト達が沽券を掛けて引かせない。彼らは神。その引き金を引いてはならない。その代わり、彼らは迷いなく引く。守る為に、だ。そして彼にとってはそれが当たり前故に、なんら気負いなく普通に続けた。


「さて・・・で、それで必要になるのが、この力だ」


 カイトはそう言うと、再度カードを展開する。


「さっきも言ったが、基本的にこの攻撃の出現場所は任意だ・・・なら、こういうことも出来る」


 カイトはそう言うと、先程と同じように真正面に向けて雷刃を放つ。それに対しては当然、式神は刀を振るって防御を行う。


「次は、後ろだ」


 続けて、式神の背後に水の刃が生まれる。式神はどうやらそれを察したらしく、即座に振り向いて斬撃を放って防御する。が、水刃は雷刃より遥かに式神に近づいており、対処に時間が掛かっている事を浬にも理解させた。

 式神は本当にギリギリ防御出来た、というような感じだ。バランスも大きく崩しており、次に同じ攻撃が来たとて防御出来ない様に見える。


「ほら見ろ。防御は出来たが、大きくバランスを崩した。これで、次の攻撃はもっと防御出来ないだろうな。出来て、次の一撃が限度だろう。が、ここは別の手にする事にしよう」


 カイトはそう言うと、今度は下から打ち上げる様にして土の壁を生み出す。『土』『銃』の組み合わせを使い、式神の足元へと土の壁を小さく生み出したのだ。

 バランスを崩している所にこれだ。壁は壁ではなく、突き上げる一撃へと変貌を遂げた。それに式神は動く事もままならず足を取られて、背中向きに倒れ込む。


「まぁ、これでチェックメイトでも良いんだが、ここはコンボの練習として」


 カイトはそう言うと、背中から地面に倒れ込んでいく式神の背中の部分に風の弾を生み出す。『風』『銃』の組み合わせで創り上げた風弾を式神の背中側で発生させたのだ。

 すると、どうなるか。当たり前の話だが、すでに式神の足は地面にない。どんっ、という音と共に風の勢いに乗せられて、為す術もなく打ち上げられるだけだ。そうして鎧兜の式神が空高く舞い上がった。


「4コン確定だな。さて、では締めるとしようか」


 カイトはそう言うと、最後に残る二組の内、『闇』『剣』の組み合わせを展開する。次に生み出した場所は、打ち上がった式神の進路上。衝突する様なコースだ。


「別にここで切り裂いても良いが、ちょっと別の使い方を見せようか」


 生まれた闇の刃が、打ち上がった式神を叩き落とす。その音は斬撃音というよりも、打撃音だった。


「あれ?」

「刃の薄さもイメージ一つで練り上げられているものだ。より良い斬撃力を求めるのなら、より薄く。逆に打撃を求めるのなら、なまくらを想像してやれば良いのさ。そうすりゃ、今の様に打つ事も出来るんだ」


 落下した鎧兜は強烈な勢いで地面に叩きつけられていて、その身には大きなひび割れが生じていた。


「最後だ」


 カイトはそう告げると、最後に残しておいた『氷』『銃』の組み合わせを展開させる。すると、今度は式神を中心として、巨大な氷の弾が顕現した。それはまるで、式神が完全に氷漬けにされた様な格好だった。そしてその様子に、浬はふと、過日の千方の最後の様子を思い起こした。


「あ・・・」

「わかったか?」


 カイトが笑う。そう、その通りなのだ。別に殺す必要なんぞない。そもそも、祢々自身がルールとして封印すれば浬らの勝ちだ、と明言している。

 そこを曲げれば、『ぱーぱ』はそっぽを向くだろう。ルールの上でこそ、祢々の『ぱーぱ』は動いてくれるのだ。ゲームなればこそだ。それを破れば、カイト達が堂々と出ていける。カイト達が動けないのは祢々の背後にニャルラトホテプが存在するからだ。


「これからの戦いは、お前が肝になる。殺さなくて良い・・・殺す時は、オレが殺す。奴が殺させようとしても、オレが殺す。その場合はルール違反になるだけだ。封じれば勝ちのルールを曲げているんだからな。この手はすでに汚れてる・・・だが、せめて。何も出来ない兄貴としてお前らの手だけは、守らせてくれ」


 カイトは浬へと決意を語る。この戦いは、彼にはどうする事も出来ない戦いだ。出来るのは、フォローだけ。それだけしかしてやれない。だが、出来る限りは万全を期する。それだけは、曲げない。


「うん・・・」


 浬はぽかん、となる。ずるい、と素直に思った。その真摯な顔は兄の顔にもかかわらず、まるで別人の様に勇ましく、そして格好良かった。これが、勇者と呼ばれる者の英雄としての顔だった。妹だろうとなんだろうと関係が無い。その前には、等しく見惚れるしかなかった。それにカイトが笑って肩にぽん、っと手を乗せた。


「ま、頑張れ。出来る事は見せた。後は、これをイメージしろ」

「うん」


 浬はカイトから、カードを返却してもらう。どこかおずおずとした様な感じで受け取ったのは、仕方がない事だったのだろう。


「後は、練習だ。ま、そっちはやってみろ。で、次はー。海瑠ー。そっち出来たかー」


 カイトはそんな浬を余所に、海瑠を見る。あちらはあちらでカイトから教わったと言うか千方に無理やり覚えさせられた<<溜め撃ち(チャージショット)>>の練習をしていた。


「うーん・・・なんとか・・・?」

「破壊力なら、お前が一番だからなぁ・・・とりあえず<<溜め撃ち(チャージショット)>>を習得してもらわないとどうしようもない。この間のあれ、オレも見たが物凄いロスが出てる。本来の力はあんなもんじゃない」

「うーん・・・と言うか、根性論多すぎるんだけど・・・」


 海瑠は銃を下ろした状態で構えて、不満げに口を尖らせる。理論的に話してくれ、と思うのだが、魔術とはそもそも魔力という意思の力を使って行われるものだ。根性論というか精神論が入ってしまうのは仕方がなかった。


「しゃーないんだよ、そこは」

「もうちょっと、やってみる」

「まぁ、あっちが一段落したから、こっち見といてやるよ。とりあえず、朝の座禅の要領でやってみな」

「うん」


 カイトの言葉を海瑠が受け入れる。とりあえず、大まかな方針としてはそれで良い。後は、それをどこまで研ぎ澄ませるか、だ。研ぎ澄ませれば研ぎ澄ませる程<<溜め撃ち(チャージショット)>>に込められる魔力は収束して、威力は上がる。

 封印に対しての切り札になり得るのが浬に対して、戦闘における決定打となり得るのが海瑠だ。天音姉弟こそ、これからの地球の命運を担う存在だった。そうして、浬と海瑠の姉弟は再び、己の鍛錬に戻るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日の21時からです。

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