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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第7章 新学期編

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第125話 その頃の彩斗達

 さて、浬達が様々な方面で動き始めていた頃。彩斗達も彩斗達で次なる行動を見せていた。とは言え、その前に一つ重要な案件が持ち上がり、それについての手はずを早急に整えている所だった。


「おう・・・すまないな。この間は迷惑掛けちまった」

「いや、社長。こちらこそ早とちりになってしまったみたいで申し訳ありません」


 覇王の謝罪に対して、彩斗も同じく謝罪する。久しぶりに覇王が本社に顔を出して、その流れでこの間の千方の一件について改めて天道財閥として謝罪をしていたのだ。


「いや、しょうがねぇさ。あの時点じゃ、全員揃って踊らされたからなぁ・・・その点は陰陽師達からも謝罪されたぜ。どうにもその後のブルーの話じゃ鵺という厄介な妖怪が絡んだらしくてな。あいつが化けてたらしい。この間の一件は総合的に見てみれば、陰陽師達が態度を軟化させるきっかけになってくれた」


 覇王はしかめっ面をしながら彩斗に聞いていた所を語る。この間の一件はどう考えても天道財閥に咎はない。と言うか、流石に彼らの領域を越えた所だ、と判断されていた。

 そこでの失態だ。それは陰陽師達の失態に他ならない。それを受けた陰陽師達はこの一件での失態を受けて、天道財閥に対して態度を一気に軟化してくれたらしい。おかげで随分と協力的になってくれた、とはこの後の覇王の言葉だ。そうして、そんな覇王はとりあえずの情報開示を終えると本題に入った。


「まぁ、それで呼んだのは少々また話があってな。ちょいと海外へ出張してもらいたい」

「はぁ・・・そりゃ、構いませんが・・・次はどこです?」

「イギリスだ。と言っても、そう長くはならないはずだ。長くて一週間。短けりゃ、数日で終わる内容だ。裏向きの商談だ。別の奴でも良いんだが・・・まぁ、この理由は後で語るか」


 覇王はそう言うと、彩斗へ向けて少しの資料を手渡した。


「ケルト神話の『影の国』の話は知ってるか?」

「ええ、まぁ・・・そりゃ、知っとります。この間報告した所、ですからね」

「ああ、そういやお前の所からの報告書にも名前が入ってたか・・・」


 覇王は記憶の中から彩斗のチームが上げた報告書の内容を思い出す。そこには確かに、スカサハの名があった。とはいえ、今はそこが重要ではなかった。


「いや、そりゃ横に置いとくか。実はケルト神話の大英雄クー・フーリンが日本で滞在しててな。こりゃ別に何か裏のある話でもなくて、単に日本は異族達が多いからな。強敵が多いってわけで30年程前から滞在してるだけだ。で、今も揉め事を嗅ぎ取ってまだ残ってるってわけだ」

「はぁ・・・」


 覇王の言葉に、彩斗は資料に添付されていた写真を見る。写っていたのは一人の美丈夫。彫刻のような体躯に、隠しきれない程に野性味の溢れた美貌を持つ一人の男性だった。髪の色は黒だが、その髪の中の一房だけ赤色に染められていた。

 彼こそが、ケルト神話の中でも『アルスターサイクル』と呼ばれる物語群において主人公格として名高いケルトの大英雄クー・フーリンだった。どうやら強者と戦うのが好きらしく、それ故地球でも有数の強者達のたまり場である日本に滞在していた、との事だった。


「で、この方がどうされたんですか?」

「ああ、彼と一緒にイギリスへ向かって欲しい。勿論、チームでな。それと今回は三柴も一緒だ」

「三柴さんもですか?」


 彩斗が目を見開く。三柴も一応訓練はしているが、役職や年齢の問題などから本社に待機して常には連絡を取れない覇王や武の代理として指示を与えるのがメインの仕事だった。

 何か調印があるにしても相手の格の問題から更に上の覇王達が出たり逆に彩斗達で済む事が多く、交渉事にしても前に出るのはかなり珍しい。とはいえ、今回はそれが必要な状況だ、という事だろう。


「ああ・・・実は先方との交渉は調印まで向こうで終わらせる事になりそうなんだが・・・土地柄の問題でどうしてもネットが使えないそうだ」


 覇王は顔を顰める。どうにもこれから行く所は特殊な異空間の為、カイト達の様に対処を施さねばそもそも電波が届かないらしい。

 とはいえ、そうなるとそうなったで困るのが、交渉に際して更に上の者とアクセスしなければならなくなった場合だ。かと言って、いちいち聞ける場所に戻る事も難しいらしい。全部をその場で判断しないといけないそうだ。となると、必要性の問題から彩斗達だけでは不都合になったのである。そうして、そこらを一通り覇王が語る。


「と、言うわけで今回は三柴に全権を委任して、現地で全部終わらせてもらう事になった、ってわけだ。日程にばらつきが出てるのはそこらの兼ね合いだ。どうしても今回はな。区切れなかった」

「なるほど・・・そりゃ、仕方がないですわ」


 覇王の言葉に彩斗も納得する。三柴を一人で行かせるのも立場上拙いし、安全面でも些か憚られる。なので三柴と懇意にしている彩斗達にお鉢が回ってきた、というわけであった。幸い彼らの場合はこの間のギリシアの件もある。覇王からも信頼はおける。そうして、覇王が改めて交渉相手の詳細を語り始める。


「交渉相手は女王スカサハとその妹であるオイフェ、更にはクー・フーリンの率いている『赤枝の戦士団』とフィン・マックール率いる『フィアナ騎士団』の面々だ。クー・フーリンについちゃ、一応の話し合いは持ててるし、彼も了承している。こっちは念押しって所か」

「? 戦士達の方ですか?」


 彩斗は覇王の意図が掴めず、首を傾げる。魔術について聞きたいのであれば、スカサハとオイフェ姉妹だけで十分だろう。にも関わらず、彼は今その傘下に加わっているらしい戦士達にまで会いに行く様に頼んだのだ。疑問に思わない方が可怪しい。


「ああ・・・この間の一件で天道財閥も狙われる事がわかった。そこで日本政府と話し合って、何処かに更に援軍を頼んでおきたい、という結論に至ってな。かと言って、ブルーはちょっとアメリカとイギリスから言われて手一杯だ。その点、イギリス政府ともあまり関わりのない彼らなら良いのではないか、という風に陰陽師達から言われたんだよ。ブルーとも懇意にしてるからな」

「有名所やのにイギリス政府とそんな関わり無いんですか?」

「ああ。実は数年前まであそこは土地の異変で周囲と断絶状態にあったらしくてな。ざっと一千年程引きこもっていたらしい。イギリス政府の存在も知らないほどだったらしい。で、数年前にブルーの奴がその事件に巻き込まれてその流れで出てこれる様になった、という事だそうだ。その時英国の上層部が荒れてたから、いまいち注視されていないんだがな」


 覇王はイギリスを介して入ってきた情報を彩斗へと告げる。ケルト神話はイギリスの神話の中でもかなり有名な所に入る。そしてアーサー王はきちんとイギリス政府とのパイプがあったのだが、それ故にそれより更に古いとされるスカサハ達にパイプが無いのが彩斗には不思議だったらしい。


「はぁ・・・で、それでなんの為に?」

「ああ・・・まぁ、さっきも言ったが傭兵ってわけだ。今回の一件然り、今後も時折こちらへの攻撃はある可能性はある。なら、それに対して防備を更に強化しておこう、って算段になってな・・・で、知っての通りアメリカじゃ大統領選の真っ最中。攻撃が怖いってんでアーサー王達の所から増援が派遣されていて、こっちに回せる余裕が無いそうだ・・・で、その代わりにスカサハ殿に持ちかけてはどうだろうか、と言われてな。無類の戦好きが集まっているあそこなら、そう言う話なら乗るかもしれない、とな」


 覇王はこの間の会議――と言っても天道財閥の会議ではなく日本全体の上層部の会議――で出た話を彩斗へと教える。ちなみに、アーサー王達の申し出を断った理由はこれもあるが、同時に交渉の時期的に浬達とブッキングしそうだったからである事も大きい。

 浬達が来て同時期に彼らが来てしまうと、顔を合わせてしまう可能性があったのだ。それは避けたいだろう、と向こう側が気を利かせてくれたのであった。


「ふむ・・・じゃあ、かなり交渉は簡単になりそう、って所ですか?」

「ああ。交渉そのものはさほど難しくはならない、ってのがこの間の会議での予測だ。一応、根回しの方でもかなり上手くいってはいるらしい。まぁ、だから本社の奴らの出番、ってなったわけだ」

「そうなんですか・・・じゃあ、さほど気を付ける事はなさそうですか・・・」


 彩斗は覇王の言葉から、交渉のプランを練る。とは言え、どうやら現在の揉め事盛りだくさんの現状そのものが交渉材料になってくれるらしい。さほど難しくはないだろうな、とは彩斗も思った。


「でだ・・・その際に実は会っておいて欲しい男が居てな」

「はぁ・・・」

「アロン・ベンウィックという男は知っているか?」

「聞いた事・・・あー・・・そう言うや浬の奴がアロン先生がイケメンやらなんやら言うとったような・・・で、それがどうしたんですか?」

「ああ、そのアロン先生で良い・・・実はこれはこの間は黙ってたんだが・・・実は彼はランスロット卿が世を忍ぶ仮の姿なんだ」

「はぁ?」


 御門だけではなく、アロンなる教師もまた世界的に有名な英雄だと知らされて、思わず彩斗が作為的な物を感じる。が、これは作為的なのだから、当然だった。


「事情がかなり込み入っていて、当人にかなり複雑な事情があったらしいんで詳しい事はわからんのだが・・・まぁ、どうにもアーサー王から逃げて、ここに来られていたらしい。その不在の折りに天桜の一件だ。それ故、インドラ殿が見かねて援護に来た、って側面があったらしい」

「あー・・・単に地元で知人の葬儀やその遺族の身辺整理、って浬が妻と言うとったの聞いてたんですが・・・嘘って事ですか?」

「ああ、そうなる。今回のイギリス帰りには天道も絡んでてな。まぁ、これには何の意図も無い。偶然に、本当に偶然に潜んでいたのが、あそこってだけだ」


 覇王はあくまでも偶然だ、という事を彩斗へと念押しする。そしてこれは事実だ。カイトとさえ関係は無い所で、彼は天神市へとやって来て教師になっている。なぜカイトと関係が無いと言えるのか。それは彼の赴任がカイトの転移より遥かに前だからだ。


「ということは、インドラさんとそのランスロット卿との間でやり取りがあって、インドラさんがこっち来られたってわけですか」

「まぁ、そうなるだろう、ってのが俺らの見立てだ。悪いな、これは昔からわかってた事なんだが、言えなくてな」

「ああ、いや。そりゃええんです。で、それが?」

「ああ。彼は元々欧州で活動していて、2年前にアーサー王の所に復権してな。この間のイギリス帰りもその関係だったらしい。アメリカの一件で手薄になるから戻っていたそうだ」

「ああ、そういう・・・」


 彩斗も覇王の言うことは理解出来た。アーサー王は今回、現在人手が足りないという理由で天道の申し出を断ったのだ。その一環としてランスロットを戻していたのなら、筋が通る。そしてそれ故、天道財閥が隠蔽工作に力を貸していても不思議はない。

 現在の日本とアメリカの関係だ。同盟関係を考えても、アメリカの大統領選に合わせてこの人事に助力するのは不思議でもなんでもなかった。そしてそこでの事件でついこの間まで戻れなかったとしても、それは無理のない話だ。


「とは言え、この一件だ。長引くかも、となっていたんだが・・・逆にこの一件等を聞いてかなり教え子達が心配になったらしくてな。アーサー王に申し出て、予定を早めて帰ってこられたそうだ」

「ということはまた教え子の父親、って立場でアポイントを取ってくれ、というわけですか」

「すまん、そうなる。こればかりは、な」


 覇王が苦笑混じりに頷いた。結局のところ、彩斗が選ばれたのはランスロットとの間に縁があったからだ。そしてこれはここまでの流れを知っていれば、なんら不思議の無い事だった。


「でだ・・・アーサー王とケルトの英雄達とは知り合いでな。今度、浬ちゃんがイギリスへ行くだろう?」

「は? そうなんですか?」

「なんだ、聞いてないのか? 修学旅行の行き先がこの間の天桜のゴタゴタでまだ決まってないって・・・こっちにも報告上がってたんだが・・・」

「いや、初耳ですわ・・・」


 彩斗が寝耳に水、というように驚いたような顔をする。これは仕方がない事だったのだが、彩斗は一般家庭だ。更には当分は家に殆ど居ない。というわけで流石にこんな職員室でしか出ないような話題はまだ知らないのであった。


「その様子だと、そうらしいな・・・まぁ、それでランスロット卿が帰ってくるなりアーサー王の経営する旅行会社から少し手を貸してイギリス旅行はどうだ、という話を持ち込んだらしい。2年前のあの会社・・・ってこっちは知らんか」

「なんかあったんですか?」

「ああ。2年前に復帰した、とは言っただろ? そこでちょいと裏向きで仕事と言うか打ち合わせをする必要があったそうでな。表向きフランス旅行にして、当人はイギリスへ向かっていたそうだ。あの当時は担任ではあったが、副担に三枝の子女も居たし、外人って事で万が一の場合の通訳を担ってたらしい。これも天道も隠蔽に手を貸した」


 覇王は表向き知っている事を彩斗へと語る。と言ってもこれが表向きである事は覇王さえ知らない。知っているのはランスロット本人とその周辺、つまりカイト達の周辺だけだった。そもそもカイトの我儘による持ち込み企画なので当然である。


「ということは、今度のイギリス企画も通させて、ランスロット卿を通してアーサー王ってか女王スカサハへとアポイントをとってほしい、って事ですか」

「そういうことだ。その筋で今、ランスロット卿には動いてもらってる。こっちからも後押ししてな。イギリス政府には神宮寺家から通して貰ってる・・・まぁ、浬ちゃん達には、幸運だろうけどな」

「あはは。そうみたいですわな」


 この裏で動いている事態を一切知らない二人は、偶然にもイギリス旅行が決定しそうな浬達についてを笑い合う。一見すれば完全に天道財閥の意向でのイギリス渡航だ。まさかその更に裏にカイト達の思惑があるなぞ、知らなければどの国も見通せるはずはなかった。


「とは言え、良く通せましたね、そんな話・・・」

「勿論、タダじゃ終わらなかった。代わりに、イギリスからは一人名家の子女をこちらに留学名目で調査員として派遣する事を了承させられそうだ」


 すごく上手く行っている様子に見えた彩斗が問いかければ、今度は覇王は少し苦々しさを滲ませて告げる。どうやら、やはり裏で何かの要求を飲まされたらしい。


「イギリスの?」

「ああ・・・神宮寺家の親戚にフィルマってイギリスの伯爵家があってな。御影・・・神宮寺家の当主の妹さんが、現当主の嫁さんなんだよ。そこは外交官であるが、同時に裏向きの調査員でもあってな・・・で、この娘さんを天神市の第8中学校へ留学させろ、って話になった」

「なんであそこですか?」

「ランスロット卿が帰られる時に会ったそうだ。で、アーサー王からのルートで守ってもらう様に依頼してるんだと」

「はぁ・・・」


 彩斗は覇王の話は一応筋が通っているな、と思った。フィルマ家というのは裏方でも知られた名家らしい。それ故、ランスロットと知り合いでも不思議はない。不思議はないが、同時になぜ娘なのか、という疑問も出た。


「なぜ娘さんなんです?」

「ああ・・・実は裏世界で唯一ブルーの正体に繋がる線がエリナちゃん・・・ああ、エリナって名前でな。そのエリナお嬢様なんだよ」

「はぁ?」

「あっははは。どうにもこうにもブルーの奴にもフィルマのジンクスが有効らしくてな。目下、大いに恋に恋する乙女で追っかけやってるらしい。唯一奴の隠蔽の魔術が効かないのが、あのお嬢ちゃんだ。ついでなんでブルーに守ってもらおうって腹積もりだろう。アメリカから言われて、ブルーの奴も日本滞在する事になったらしいしな。その流れを考えれば、妥当だな」


 理解不能な彩斗に対して覇王が大いに笑いながら、奇妙な縁を持ち合わせるらしい少女について語る。そしてこれは本当で、カイトもどうしてか彼女には遭遇してしまうらしい。その流れで口止めは兎も角、姿形については特殊な事情から彼女には見られてしまうのであった。確かに最適な人選と言えた。とは言え、こんな事は彩斗達にも覇王達にも関係は薄い。なので本題に戻す事にした。


「ま、そっちはどうでも良いだろ。とりあえず、こっちに関しては任せた。始業式の後にでも学校へ行って、ランスロット卿と打ち合わせをしてくれ。インドラ殿は先にイギリスとの打ち合わせをされるそうだから、今回は挨拶は不要だ」

「わかりました」


 覇王の指示を彩斗が受け入れる。こうして、全くの偶然を装って父娘は揃ってイギリス行きを決める事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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