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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第7章 新学期編

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第123話 イギリスの諜報員(娘)

 少しだけ、時は遡る。浬や海瑠達が期末試験というある意味学生にとって最大の戦いを繰り広げていた頃。世界はそんな彼女らを他所に動いていた。そしてそれはここイギリスでも、変わらない。


「よし。これで、準備が終わり、と。飛行機のチケットはあるし、旅券は永住権を持っているので大丈夫、と・・・」

「もう出るつもりか?」

「アーサー・・・ええ。曲がりなりにも、教え子ですからね」


 ランスロットがアーサー王の問いかけに頷いた。彼としてはもう少し早めに出て行きたかった所なのだが、抱えていた仕事の性質上と様々な関係上、どうしても、この頃になってしまったのである。


「私の担任としてのはじめての教え子達・・・どうしても、放ってはおけません」

「そうか・・・久しぶりに貴様と過ごせて良かった、ランス」

「ええ、私もです、アーサー・・・遅くとも年末にはまた顔を出します」

「気が向けばこちらから向かうさ。まあ、今度来る時には、奴の弟妹でも連れて来い」


 二人は握手を交わして、笑顔で頷き合う。アーサーとランス。イギリスと来てこの名前で思い浮かぶのは、アーサー王とその騎士・ランスロットだろう。片方がランスロットである以上、それは当然だろう。

 彼ら共に物語で語られる騎士に相応しい美丈夫だ。まさに優男(ロメオ)としか言い得ないランスロットは当然、アーサー王の方は騎士というには少々傲岸不遜な表情だが非常に精悍な顔立ちだった。

 二人共背格好は騎士として鍛えられているにも関わらず筋肉は付き過ぎておらず、身長もあるのでスーツでも着れば一瞬で貴公子に早変わりする様な体格だった。まさに、騎士道物語に語られる礼儀と美しさ、勇敢さを兼ね備えた騎士。そう褒めそやす事の出来る二人だった。


「ええ・・・では、行って来ます」

「ああ、行って来い」


 アーサー王に見送られて、ランスロットが部屋を後にする。と、そうしてランスロットが少し歩いて建物を出た所で、二人の少女に出会った。それはモルガンとヴィヴィアンだ。


「用意、出来てるよ」

「後は飛行機に乗って、日本だね」

「ええ・・・本当に来られるのですか?」

「何か変かな?」


 ヴィヴィアンが、ランスロットに問いかける。それに、ランスロットが首を振る。


「いえ・・・折角授業参観が終わってくれた、と思ったのですけどね」

「あはは」


 ヴィヴィアンが笑う。彼女はランスロットにとって特別な意味のある少女、だった。とは言え、これは恋人だの何だのという意味ではない。


「じゃあ、お姉ちゃん。元気でね」

「うん。そっちも元気でね。メールは送るよ」

「うん、待ってる」


 妹二人に見送られたヴィヴィアンは、二人に最後の別れの挨拶を行う。<<湖の乙女>>は三姉妹で、ヴィヴィアン以外には次女のニムエ、末妹のエレイン、という名だった。そして別れを告げていたのは当然、彼女だけではない。モルガンもまた、別れを告げていた。


「じゃあ、行ってくるね」

「はい、お祖母様」

「ガウェ達以外誰も居ないから、お母さんでいいよ」


 モルガンが笑いながら、一人の姫騎士に対して告げる。なお、ガウェとは騎士ガウェインの事だ。彼の方は今、ランスロットに手荒い別れを告げていた。

 その彼の母親で、その彼女を母親と呼ぶのであればこの姫騎士はかの騎士モルドレッドなのだろう。アグラヴェインらの可能性もあったが、どうにもそんな雰囲気はない。姫騎士である事は可怪しいが、何かあったと見るのが確実だろう。


「はい、母上・・・久しぶりに元気なお姿を見れて嬉しかったです」

「うん。元気でアルトともう一人のお母さんを支えてあげてね」

「はい」


 モルドレッドはモルガンの言葉にしっかりと頷く。そうして、各々の別れを告げた後、三人は歩き始める。向かう先はヒースロー空港だ。そこで飛行機に乗り込んだ三人だが、そこでモルガンがため息を吐いた。


「これからが、長いのよねー」

「あはは。転移術で一瞬、でも良いのですけどね。一応、今回はアーサーに依頼して天道財閥経由で正式な出入国にしていましたので、諦めてください」

「それにセカンドくんが手配してファーストクラスにしてくれたんだから、そこまで疲れないでしょう?」

「ま、それはそうなんだけどね。いっそさっさと一瞬で日本に入っても良いんじゃない、って思うだけよ」


 モルガンとてわかってはいるが、移動の時間は短い方が色々と良い。疲れないし無駄な時間が減ってくれる。なので一緒にここに居るのである。


「あはは。それは思わないでも無いですね。飛行機の中だと何も出来ないですからね」

「あはは・・・あ、ランス。荷物置いててくれる? お手洗い行きたいの」

「はい、ヴィヴィアン殿」


 座席を見つけた三人だが、まずは荷物を置く事にする。そうして荷物を置いた三人は、さっそく各々の暇潰しを開始する。


「ふぅ・・・あー・・・これ、死に覚えゲーかー・・・しくったなー」

「えーっと・・・二学期の授業内容は・・・」

「母さんがー夜なべーをして、てぶくーろ編んでくれたー♪」

「ちょ、ヴィヴィアン殿? 何をされているんですか?」


 楽しげなヴィヴィアンの歌を聞いて、ランスロットが大慌てに問いかける。ちなみに、今まで彼らは英語で話していたわけであるが、ヴィヴィアンは綺麗な日本語で日本の童謡を歌っていた。


「手袋と、マフラーだよ。今から編んどいたら、冬には間に合うでしょう?」

「はぁ・・・それはそうですが・・・そんなに作るのですか?」

「向こうには子供達が一杯居る、っていうお話だからね」

「なんか最近になってほんとにあんた母親に目覚めてるわよね」

「そうかな?」


 モルガンの問いかけにヴィヴィアンが楽しげに首を傾げる。ここは古い馴染みで、昔からお互いを良く知っていた。そしてそれ故に、最近になって妙に家庭的になっている事を把握したのである。


「うん。悪い気はしないかな・・・ランスも期待しててね」

「え、ええ・・・」


 ランスロットは若い見た目に反して、年齢は一千歳を超えている。彼は紀元7世紀ごろに活躍した、と言われているのだ。なのでこの年になっての母親手作りのマフラーと手袋は恥ずかしいモノがあったらしい。とは言え、彼はそれを拒絶出来る様な精神は持ち合わせていない。なので少し照れ臭そうにも、そう言うだけだった。

 と、そうして照れてそっぽを向いたら、偶然立ち上がった同じファーストクラスの乗客と視線があった。視線が合ったわけだが、それに、お互いに目を見開く。知り合いだったのである。


「おや、アレクセイ殿?」

「おや・・・? これはランスロット卿。こんな所で、どうされました?」

「いえ、私は先の一件で居ても立っても居られないので、アーサーに頼んで早めに日本に向かう事にさせて頂いたのです。まぁ、事態が事態なのでアメリカ経由で、と」


 アレクセイという名の男の問いかけに、ランスロットが答える。アレクセイはイギリスの外交官で、同時に世界の裏についても知る名家の貴族の当主でもあった。彼はイギリスの名家フィルマの当主だった。

 彼は柔和なマスクを持ち合わせた美丈夫だった。実際には30代も半ばなのだが見た目は若々しく、金色の髪にはまだまだ艶やかさがあった。

 だが、血筋にどうやらイギリス以外の血筋も入っているらしく、肌は一般的な白人系英国人よりも更に色白で、イギリス人というよりもロシア系統の血筋も感じられた。顔立ちにもわずかだが、それが現れている。名前もそれに合わせてロシア風だった。


「それで、貴方は?」

「ああ、私は娘の公演会とコンクールがアメリカでありますからね。リサが仕事なので、今回は私が、という所です」


 ランスロットの問いかけに、今度はアレクセイが答える。お互いに敵では無い上に同じくイギリスの出身だ。なので会話は和やかなムードだった。なお、リサというのは彼の妻の名で、日本人だった。と、そうして娘の話を出した事で、アレクセイが娘にもランスロットに挨拶をさせておこう、と考えたとうだ。


「あ、少々お待ち頂けますか? エリナを呼んできます。後ろの方々を含めて、挨拶を是非」

「ええ、良いですよ」


 アレクセイの断りを受けて、ランスロットが頷く。アレクセイはもしもイギリスに何かが起きた場合、ランスロットにとっては戦友にもなる相手だ。現に数年前にイギリスで起きた戦いでは、彼の父、即ち先代の当主とは同じ戦場に立っている。その娘であれば、同じく戦友になる可能性はないではない。まだ幼い少女だが、ランスロットにとっても挨拶をしておいて損は無い相手だった。

 そうして少しして、アレクセイに案内された一人の西洋人形の様に愛らしい少女がランスロットの前にやって来た。そこには少しの緊張が見えた。やはり相手が偉大な英雄であるランスロットと知って、緊張していたのである。


「エリナ・フィルマです。ランスロット卿、ヴィヴィアン殿、モルガン殿。以後、お見知りおきを」

「ランスロット・ベンウィックです、リトル・フェアレディ。どうか、お見知りおきを」


 緊張を滲ませるエリナに対して、ランスロットは少しの茶目っ気を含ませながら傅いて、少女の右手の甲にキスをする。その様は騎士であるにも関わらず、一流の貴族にも見えた。

 ちなみに、フェアレディとは『美しい女性』や『淑女』という意味なので、この場合は『小さな貴婦人』とでも言う意味なのだろう。

 確かにエリナはハーフであるにも関わらず顔立ちには日本人の色合いは無く、それどころか血が混ざった事でより一層の美しさがあった。まだ13歳――正確には今年で14歳――という事で幼さが表に出ているが、数年もすれば目を見張る様な美女となる事だろう。

 とはいえ、それは数年後の話で今はまだ幼い少女だ。なので、エリナは茶目っ気のあるランスロットの行動に、思わず顔を朱に染めて、父の影に隠れる様に少しだけ、移動する。


「あぅ・・・」

「あはは、照れてしまわれましたか」

「そのようですね。さすがは名にし負うランスロット卿。お上手でした。これでもエリナは年並外れてこのような応対は受けていたのですけれども、ね」


 照れたような娘に代わって、アレクセイが笑いながらランスロットに賞賛の言葉を返す。先ほどの光景はそれぐらいに、ランスロットに似合っていたのであった。


「あはは。過日にニムエ殿で学んだ生兵法なのですが・・・そう言って頂ければ幸いです。エリナちゃん、私も少しアメリカに滞在する予定ですから、公演会に行ければ行かせて頂きます」

「それは光栄です・・・ほら、エリナ」

「あ・・・はい、頑張ります」


 照れていた事で滅多に無い事に挨拶を忘れたエリナに対して、アレクセイが言葉を返す様に促す。それにエリナは少し上ずった声で答えて、再び少しだけ俯く。恥ずかしいらしい。


「あはは・・・すいません。やはり滅多にない英雄との会合。エリナはまだ慣れていませんので・・・」

「仕方がありません。フィルマ家の仕事に携わる為の訓練は12歳から開始、ですからね」


 アレクセイの謝罪に対して、ランスロットが首を振る。アレクセイは裏を含めた意味でイギリスの王室に使える身として、ランスロットやその主たるアーサー王とも謁見している。なので慣れがあったが、やはり慣れていないエリナでは少々不足があったのだ。

 そしてランスロットもそれを把握している。なので何も気にしなかった。そうして、何時までも長話を、というのも何なので、二人はそれで一度会話を終わらせる事にした。


「それでは、良い旅を」

「そちらこそ、良い旅を・・・モルガン殿とヴィヴィアン殿も、失礼致します」

「ええ」

「うん」


 三人の許可を得て、アレクセイ親子がその場を後にするのだった。




 そんな出会いから、二週間程。アメリカでのコンクールも終わった頃の話だ。その頃に、アレクセイの所へと一つの連絡が入った。


『と、言うわけだ。頼めるか?』

「エリナ一人を日本へ、ですか・・・?」


 アレクセイは直属の上司から言われた事に顔を顰める。この上司は表向きの外交官としての上司ではなく、裏向き、即ち伯爵家としての主だ。色々と詳しい話は省くが、それは英国を裏から統治するもう一つのイギリス王室の女王様だった。


『ああ・・まぁ、ブルーの奴も日本に滞在する、って話だからね。こっちからブルーには頼んでおくよ』

「オゥ・・・」


 アレクセイが非常に沈痛な顔で膝を屈する。もうこの後の流れなぞ見えた話だった。というわけで、女王から同席を指示されて横で話を聞いていたエリナは一気に顔を輝かせた。


「あの方に会えるの!?」

『ああ、エリナ。その予定にはしてる・・・つっても向こうからアポイントなけりゃ、会えないんだけどね』

「心配していません、女王陛下。私ですので」

『そうだな。その通りだよ、エリナ。そこを見込んで、初仕事を頼みたいんだ』


 エリナの言葉に女王が快活に笑いながら理由を告げる。エリナとカイトの縁は最早どこの組織が聞いても大爆笑するしかないレベルだ。放っておいてもカイトの側から来るのが、この少女の因縁だ。と言ってもこの場合はエリナがピンチに陥って駆けつけるのがカイトだ、というだけである。


「エリナ・・・これは遊びじゃないんだよ?」

「知っているわ、お父様。でもアメリカではネルが動いてるんでしょ? なら、負けてられないわ。ただでさえ競争倍率が高いんだから、早々にあの方のハートを射止めないといけないわ」

「あぁ・・・やっぱり・・・」


 やる気に満ち溢れている娘に、アレクセイは非常に疲れたような顔をする。こうなるのがわかっていたからこそ、彼は沈痛な顔をしたのだ。が、それに対して女王の方は大笑いしていた。


『あっははは! アレク、諦めなって。何よりブルーの所だ。この子には危険は無いだろう・・・それに、これは女王としての命令だ。拒絶はない』

「はぁ・・・かしこまりました」


 そもそも、これは勅令だ。拒絶の権利は伯爵である彼にはない。となると、聞くしかないのだ。とは言え、ここらで甘さを見せるのが、この女王が人間味溢れている証だった。否やは無いと言いつつ、きちんと解説も入れてくれた。


『ま、何か危ない事をしてもらうわけじゃあないんだ。基本的な話として、活動は向こうで何があったか、というのを聞いてもらうだけだ。ランスロット卿を介してね。エリナはランスロット卿の庇護下に入ってもらっての活動だ。そこはきちんとしてる。戦闘は考えちゃいない。若い芽を摘む事はあってはならないことだからね。勿論、降りかかる火の粉は振り払ってもらわないといけないけど・・・とは言え、それはこっちの業界じゃ言いっこなしがルールだ。初任務としちゃ、悪くない話だろう?』

「・・・まぁ、たしかにそれはそうですね」


 女王の指摘に、アレクセイも改めて現状を見直す。どうにせよエリナがフィルマの娘である以上、何時かはこういった話に関わらざるを得ないのだ。それを考えれば、ランスロットの庇護下での仕事は初仕事としては非常に良い任務と言えた。断る道理はないのだ。

 それでも頭を抱えたのは、娘がカイトに非常に熱を上げている上に女王その人がそれを推しに推しているからだ。かなり真剣にカイトに対してエリナの婚約話を勧めている程だった。勿論、英国としてその方が利益になるから、という情緒もへったくれも無い理由である。


『まぁ、ちょいと色恋沙汰に突っ込んだ話になるのは、諦めてくれ。フィルマの娘のジンクス。それがあるからね』

「わかっていますよ、陛下・・・だから、嘆いているんですが」

『あはは。フィルマの娘は初恋以外実らない、だからね』

「そして初恋は必ず実り、それが良縁である、と・・・」


 魔術師として因果な話に手を出す以上、ここらのジンクスはある種願掛けにも近いレベルで魔術師達には信じられていた。というわけで、笑いながら二人が話を終える。こうして、イギリス諜報員の娘にして、自身も諜報員の一人に名を連ねる事になるエリナの初仕事が決まったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日の21時投稿です。

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