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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第6章 藤原千方 決着編

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第112話 追跡 ――魔術対科学――

 さて、浬達が攫われる事は想定内だった。では、どのようにしてその追跡をするつもりだったのか。それは煌士が科学分野においては天才である事を考えれば、すぐに理解出来た。


「衛星へコネクト・・・完了。天道財閥ネットワークシステム・・・掌握。バックドアよりエントリー・・・完了。三角測量法起動・・・終了。GPS認識開始・・・」


 煌士は何時も使うウェアラブルデバイスを使って、天道財閥の保有するネットワークへと裏口を使ってアクセスする。使うのは、彼が言うとおりGPS等の科学技術だ。これらが使えないわけでは、なかった。

 少しだけ、時は遡る。まだ彼がカイト達の存在を知った頃の事だ。あまりに魔術の万能性というか利便性が優れている事を知って、彼はカイトへと問いかけた事があったのだ。


「うぅむ・・・これでは科学技術は形無しでは無いですか?」


 試しに赤外線カメラで撮影しても姿は映らず。高感度カメラも効果無し。サーモグラフィーは言わずもがな、だ。どんな手段を使ってもカイトの姿を撮影する事が出来ず、煌士が問いかけたのだ。


『そら、オレは特別気を遣っているからな。オレの影響力は既に語っただろう?』

「まぁ・・・そうではあるのだが・・・」


 やはり、彼は科学技術の申し子だ。それ故、科学技術を過信しているわけではないが、自信は持っていた。それが魔術に完全に敗北しているという状況は少し承服しかねたらしい。


『まぁ、そう言ってもだな。実のところ魔術師達は科学技術を若干見下している様子はある。勿論、使いこなしている者達も多いけどな』

「そう・・・なのですか?」

『ああ。考えても見ろ。彼らは自分の身一つや魔道具を使って科学技術で為す事を為してしまう。そんな奴らがハッキングだなんだとある種いい加減とも取れる技術を使おうと思うか?』

「むぅ・・・」


 カイトの言っている事は道理ではある。煌士とて確かに科学技術は便利だと思うが、実際科学技術で作られた道具よりも魔術で作られた道具を使いたいと思う。例えば同じ事が出来る道具であっても、何より魔道具は電源が必要ないし、取り扱いも機械に比べればかなり雑で良いのだ。

 携帯電話を例に取れば、簡単にわかる。携帯電話を水に浸ければ、それだけで使い物にはならない。一応防水機能があるものもあるが、それでも限度はある。それに対して100年以上前からある通信用の魔道具は、水深500メートルの深さに沈めようと使えるという。勿論、その代わりに電話帳機能等無い機能はあるが、その代わりに数百年も前から同時通信機能については備わっていた。

 これに限っただけでも、耐久度等が桁違いだ。とは言え、こんな例はザラにあるのだ。煌士でなくても、そう思うだろう。だが、だからこそ、カイトが笑う。


『が、だからこそ、そこに盲点がある。魔術師達はな、所謂文系が大半なんだ。体育会系も多い。あ、勿論この両者を馬鹿にしてるわけじゃないぞ?・・・話がずれたな。まぁ、つまり。オレの様に原理まで把握している奴は珍しいって事だ』

「どういうことですか?」

『簡単に言うと、だ。魔術師の中にはドップラー効果さえ知らない奴が居る、ということさ』

「?」


 カイトが笑いながら言った言葉に、煌士が首を傾げる。ドップラー効果とは波の発生源と観測者の相対的な速度によって、観測される波の周波数が異なる、という物理学でも基礎的な現象だ。

 身近な例に例えると、救急車だ。あれが走り去る前と走り去った後でサイレンの音が違って聞こえるのは、その現象が起きているが故だ。


「知っていて当然ではないのですか?」

『はぁ・・・お前は自分が知っていて当然と思える範囲を少し間違えてるな・・・まぁ、確かに少しドップラー効果は簡単過ぎたか。パスカルの原理は知っているな?』

「勿論・・・あぁ、そういうことですか・・・」


 カイトが挙げたもう一つの例で、煌士はカイトが言いたい事を理解する。パスカルの原理とは流体力学の基礎の一つだ。詳しい理論は省くが、微積分等を用いて計算するのが、この原理だ。

 と、これは高校物理の知識があれば理解可能な原理だが、おそらく多くの一般人はこんな原理の名前さえも知らないだろう。喩えこれを使って作られている機械――例えば自動車等――があってそれを使っていたとしても、だ。


『原理を理解している奴は少ない。だから、対策を取っていない事も珍しくないんだ。いや、取れていない、かな』

「つまり、そこまで対処されているのは稀だと?」

『流石に赤外線やX線なんかの有名だったり基本的な物は対処されるけどな・・・だが、例えば煌士が研究している重力場。その重力波の事には、誰も見向きもしていない。これを使えば、巧妙に隠れた魔術師を見付け出す事は出来るだろう。そもそもこれへの対処をしようとすると、重力場に関する理解も必要だ。まず、現代の魔術師では困難だろうな。物理学の最奥を極めた上で、魔術に応用しないといけない。完全に魔術に敗北しているわけじゃないんだ』

「しかし、貴殿は全て負かしている、と」

『「あははは!」』


 煌士の何処か茶化す様な言葉に、二人は笑い合う。こんな、一幕があった。そしてその時に煌士は問いかけたのだ。他にも何か可能となりそうな対処はあるか、と。すると、カイトはこう答えた。


『そうだな・・・GPSは試していて損は無い。後はスマホの電波を使った三角測量法も損は無いだろうな。最近はスマホの電波に対処してきている奴も多いんだが・・・まぁ、それでも古い奴は対処していない事も多いな。サーモグラフィーは意外と効果的かもしれない。熱源は理解していても赤外線と熱の関係について把握している魔術師はそうはいないだろう。所詮、如何に魔術だろうとその存在を知らないとどうしようもない。かくれんぼするにも、相手に監視カメラがある事を知らなければ対処出来ないのと一緒だ』


 カイトが少し考える様に、そう答えたのだった。そしてその時はこれで終わったが、これを二人は忘れていなかったのだ。

 元々記憶力の良い煌士は覚えていたし、勿論作戦の立案を行ったカイトが忘れているはずがなかった。だからこそ、煌士は浬と海瑠の携帯を借りて少し弄って、更には非常時の為に持ち合わせていた位置情報を示す為の小さな発信機の予備を二人に渡しておいたのであった。

 そして更にそれらを己のパソコンをリンクさせて、更には天道財閥が密かに持っている位置測量の為のシステムをハッキングする事にしたのである。


「・・良し。やはりな」

「やっぱり?」

「うむ。我輩とカイト殿の読み通り、千方は携帯とGPSは兎も角、我輩の三角測量法については対処していなかった。平安時代の者が強引に蘇ったが故に、今の技術に僅かに馴染みが無いのだろうな。携帯の電波にさえ対処すれば良いのだろう、と考えていた様子だ。我輩謹製の発信機には気付いても居ない様子だ」


 煌士は常に送られてくる位置情報を確認しながら、密かにほくそ笑む。天才の面目躍如、という所だろう。実はこの発信機は彼独自の理論に基いて作製されており、携帯電話とはまた違う周波数帯で発信されていたのだ。

 その代わり受信は天道財閥系の受信機が無ければどうしようもないが、今時の日本で天道財閥が扱う基地局の無い場所は皆無と言ってよかった。カイトの言うとおり、知らなければ対処出来ない様子だった。

 ちなみに、それならそれで電波を一切合切遮断出来る様に出来れば、と思うだろう。が、無理らしい。これはこの時に隠形鬼に確認を取ったのだが困難らしい。大した欠点のない様な影にも弱点はあったようだ。

 というのも、彼女の影は水と似たような性質を持っているらしく、隠れるにはもってこいらしいのだが、その代わり音波や電波等の『波』の影響を受けやすいらしい。

 エルザの音波で隠形鬼の影を察する事が出来るのも、それに起因してのことだそうだ。術の性質上、どうしても波を増幅してしまうらしい。

 隠形鬼いわく、影の中はなんら対処も無しでは存在そのものが拡散してしまいかねない為、どうしてもその人の持つ魔力の波形というものを増幅してやらねばならない、との事だ。それ故、影の中では携帯等波を利用する物は使えない、と隠形鬼が隠すこと無く告げていた。


「北上中・・・うむ、追えるぞ。速度はさほどではないな」

「追っ手はありません」


 煌士がウェアラブルデバイスを見ながら移動し始めるのを受けて、詩乃が後を確認して告げる。どうやら、総じてランスロットにかかり切りになったらしい。まぁ、それに。実のところ千方としては煌士達はさほど重要視していない。来れるとも思っていないのだ。

 当然といえば当然だろう。魔術を習い始めて高々数ヶ月の子供が自分の所に迫ってくるなぞ千方は想像さえしていない。普通は無理だし、カイトからの助言と作戦が無ければ無理だっただろう。


「では、行くぞ」


 煌士がウェアラブルデバイスを見ながら、走り始める。千方達には<<隠れ兜(ハデスの兜)>>は見破られたが、それでも周囲の一般市民達には見破られていない。どれだけ怪しい行動だろうと、気にはされない。そうして、一同はゆっくりと移動する浬達を追いかける様に、移動を始めたのだった。




 一方、その頃。彩斗の側でも戦端は開かれていた。ランスロットは陰陽師達の力量を考えて同時ではないだろう、と読んでいたが、それは少し陰陽師達を買いかぶっていたが故だった。

 まぁ、ランスロットと陰陽師は所詮は別組織だし、実は日本の陰陽師の評価は世界的に高い。そもそも千方とて陰陽師なのだ。評価が高くなるのは、仕方がなかっただろう。

 とは言え、それでも現代の魔術師の中でも桁違いの実力を持つ者が居たのも、また事実だった。そしてその一人は、秋夜だった。確かに彼では単独で風鬼にも及ばないが、それでも応戦出来る程度の力量はあった。


「撃て!」

「っ」


 風鬼が飛び上がり、無数の式神達の攻撃を回避する。式神の数は本当に無数と呼んで良い程で、優に百は下らない。それを操っているのは、秋夜一人だった。

 彼の得意分野は、式神の多重召喚。それこそ質に拘らなければ300体程度は同時に操れるし、質に拘った所で10体は同時に操れる。とは言え、今回は風忍と金忍達も一緒なので、数を生み出して対応していた。


「ふっ」


 そんな秋夜の式神達に対して、風鬼は虚空を蹴って風を纏う。そしてそのまま風の如く滞空して、上空から叩きつける様な竜巻を生み出した。


「ちっ!」


 千地に切り裂かれて吹き飛ばされていく式神達を見て、秋夜が舌打ちする。そもそも数には数を、と彼も数を呼び出して相対したわけであるが、残念ながらその場合は圧倒的に質で千方達に及ばない。

 相手は基礎が鬼である上に陰陽師達の使う術とはまた少し違う特殊な術まで修めている。ただでさえ勝ち目は薄かった。それなのに、この上に風鬼まで居る。耐え忍ぶ事が、精一杯だった。


「ったく・・・こんな時に兄ちゃんは向こう行っちゃってるし・・・」


 防戦一方の秋夜が、苛立たしげに愚痴を述べる。兄ちゃん、とは兄である総司の事だ。基本的に秋夜は式神を操る事に特化していて、前線で戦う事は得意ではない。

 その代わり、兄である総司は軋轢から鞍馬山の鞍馬天狗という有名な天狗の下で修行をしているので、後衛としての戦い方が得意ではない。その分、その彼が前線で秋夜の護衛を務めるのが基本だった。

 奇妙な事にこの兄弟は今までの大半を離れ離れで過ごしていたのに、まるでそれが当たり前の様に、得意とする分野が異なっていたのであった。

 そして現在は、その前線で戦ってくれる護衛が居ない。代わりに家の家人達が居るが、どうにも少し心許なかった。ちなみに、総司の方が心許ないだろう、とは言わないのが吉だ。そこらは兄弟としての連携力で補える、とは本人たちの言葉である。


「どうしたものかな・・・」


 秋夜は攻めあぐねる現状に臍を噛む。攻めて勝てる相手でもなければ、守って勝てる相手でもない。まぁ、そこは総司が居た所で一緒だ。


「・・・天音さんは?」

「現在も移動中です」

「ちっ・・・何時襲撃が仕掛けられるか、レベルか・・・」


 秋夜は再度、舌打ちする。こちらは浬達とは違い、捕らえられる事はなかった。千方とて同時に自分の所に招き寄せる可能性のある状況は作ろうとしなかった様だ。勿論、浬達に何かがあった事を悟らせない為の陽動も兼ねている。

 とは言え、これは秋夜が知る事ではない。そして、浬達の始末が終われば次は彩斗だ。あながち、彼の言う所は間違いではないだろう。と、そしてその次の瞬間。秋夜は己の横に蒼い髪の男が居る事に気付いた。


「っ!」

「・・・」

「ああ、あんたの耳にも入ったんだ」

「はっ。入る前に片付けてほしかったんだがな」


 男は勿論、カイトだ。彼は秋夜へと一応の挨拶として、先に顔を見せただけだ。彼は胡乱げな顔で秋夜に己が居る事を示すと、即座に指示を下した。


「式神が邪魔だ。忍者達の相手でもさせておけ」

「はいはい・・・」


 カイトの言葉に、秋夜は仕方がなしに式神達を引かせて、忍者達の相手を行わせる。カイトは使い魔である事を知る由もない秋夜だが、そもそもカイトは公の場で10%も力を使った事がない。なのでこれが使い魔である、と気付く様子はなかった。

 そしてそうであるのなら、圧倒的な強者であるカイトが来たのだから、彼に任せるのが陰陽師達としても最善だった。そうして、式神達が風鬼から離れる様に動いたのを受けて、カイトが消えた。

 次に現れたのは、風鬼の目の前だ。その時には既に、殴り掛かる態勢に入っていた。その顔には激怒を強引に消している為か、何の表情も浮かんでいなかった。


「っ! 貴様は!」

「・・・今のオレはすこぶる機嫌が悪い。いや・・・ここ当分で一番機嫌が悪い。死んでも恨むなよ」

「っ!」


 間一髪。風鬼は完全に風になる事でカイトの殴りを回避する。が、それでも攻撃の余波で大きく吹き飛ばされた。そして、そこへカイトが追撃を仕掛ける。それは為す術もなく吹き飛ばされた風鬼には、どうすることも出来ない速さだった。


『つぅ! 風ごと吹き飛ばされたか!』

「おいおい・・・逃げれたと思うなよ。風が掴めないと思ったか」


 初撃は回避されたカイトだが、次の二撃目は風になった風鬼を完全に掴む一撃だった。原理は不明だが、どうやらカイトには実体の無い風を掴む術があるらしい。


「ぐっ!」


 喉を締め上げられて、風鬼が風から実体を取り戻す。そしてそれを受けて、カイトは投げ落とす様に、頭から地面へと風鬼を叩きつける。そうして、どぉん、という爆音にも似た音が鳴り響き、震度3にも匹敵するだろう振動が、周囲へと走った。


「うぁ・・・やり過ぎだって・・・」

「・・・ちっ」


 風鬼は鬼であった事からか、どうやら死にはしなかったらしい。秋夜は顔を顰めたが、それほどまでに風鬼はボロボロの状態だった。少なくとも、満足に動ける事は無いだろう。

 たった、一発。それで陰陽師達が手をこまねいた風鬼が戦闘不能に陥っていた。そうして、カイトは無数の武器を創り上げて、忍者達を完全に包囲した。


「てめぇら、動くんじゃねぇぞ。オレが勝てる相手かどうか、きちんと見極めろや」

「「「っ・・・」」」


 カイトのドスの利いた声に、忍者達が完全に動けなくなる。彼らにも今のカイトが本物かどうかわからなくなっていた。それほどまでに、10%の出力でさえカイトは強かった。これで、10%。圧倒的だった。そうして、そんなカイトへと一応秋夜が感謝を述べる。


「ふぅ・・・一応、感謝しておくよ」

「感謝している暇があれば、さっさとこいつらを回収しろ」

「・・・機嫌悪い?」

「かなり、な・・・巻き添え喰らいたくなけりゃ、さっさと仕事しやがれ。こちとらインドラのおっさんから事情聞いて、一気に戻ってきたんだ。良いわけがあるか」

「はいはい・・・総員、撤収作業開始。風鬼は封印措置を施して収容。忍者達も連行しろ」


 なぜ機嫌が悪いかはわからないが、秋夜としても巻き添えを食うのだけはごめんだった。そしてそんな光景は、既に次の公園にたどり着いていた彩斗に見られていた。


「なんや・・・あいつ・・・」


 背筋が凍る。圧倒的。実は彩斗も秋夜達が介入するまで風鬼達に追われており、そこから勝てる相手ではない事は悟っていたのだ。だというのに、それが瞬殺。遊ばせても貰えないのだ。彩斗が背筋を凍らせるのも無理はなかった。

 そうして、図らずも父を恐れさせたカイトは、そのまま浬達に疑いが向かわない様に幾つかの隠蔽工作を行う事にして、少しの間、その場に立ち止まる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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