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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第6章 藤原千方 決着編

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第104話 冷や汗

 まぁ、当然と言えば当然の話であるが、フェルの様にさも平然と皇居が襲撃されるから、とスルー出来るわけがない。というわけで、天道財閥も大騒動だった。


「皇居周辺は出入り禁止。ランニングしている奴らは家族にも伝えておけ。一応、周辺はガス漏れで工事が急遽入った、と伝えてある」


 三柴が全体朝礼にて、魔術に関わった社員達全員に告げる。魔力を知り、魔術を知るが故に下手に関わってしまう可能性も無きにしもかな、なのだ。


「はぁ・・・逃げてきたらこれかいな・・・」


 朝礼が終わり、彩斗が疲れた様にため息を吐いた。なぜ千方の騒動があるから、と大阪から帰ってきて今度は千方が復活したから、と東京で出禁だ。笑うしかない。


「どうします?」

「どうするもこうするも無いやろ。こっち当分は書類仕事や。丁度資料も溜まっとるしな」


 内海の言葉に彩斗がため息を吐く。皇居周辺を気をつけろ、と言われたが彼らはそもそも近づく予定も無い。と言うか、そもそも天神市は東京都にあるが、同時に皇居のある東京23区内には無いのだ。しかも、彩斗の場合は家は天神市にある。何ら意味の無い注意だった。


「で、久しぶりに帰ってきて書類仕事やねんけど・・・はぁ・・・いやになる量やな・・・」

「あっははは・・・外回りの仕事に戻りたい、なんて思ったのは初めてだ・・・」

「わっかるわー・・・」

「「はぁ・・・」」


 彩斗と桐ケ瀬の二人は、同時に目の前の書類の山に朝一から疲れた様に弱音を吐く。ここ当分帰ってからというもの、目薬が手放せなかった。

 そんな二人に時折三柴がコーヒーを差し入れると同時に、そろそろ老眼か、と茶化してくるのがここ当分の彼らの常だった。ちなみに、そんな三柴当人は老眼鏡にはまだお世話になっていないらしい。少し自慢が含まれていた。


「っと、そうだ・・・荒垣の奴。来週から復帰だそうだ」

「ちったー落ち着いたんやろな・・・」


 桐ケ瀬の言葉に彩斗が今度は別の意味でため息を吐いた。いくらこんな仕事に手を出しているとしても、会社員である事だけは変わらない。

 そして天道財閥は雇用契約の中に夏休みの確保が含まれていた。流石に世界的な企業である関係でお盆に休みが取れない事はあるが、それでも休みを取らせなければならないことには変わりが無い。というわけで、件の荒垣も無理矢理会社から休みを取らされたのである。

 当人は拒絶したが、契約無視がマスコミにバレてこの部署の存在に突っ込まれると面倒だし、作業にも遅れが出るから、と言う理由で取らせたのだった。なお、彼らが話題に上げるのが荒垣だけで、他にも少数だが、こういう意見で夏休みを取らされた者はそれなりにいる。


「「「・・・」」」


 それからしばらくの間、彩斗組の面々は自分達が大阪から持ち帰った資料を精査していく。勿論専門の解析班もあるが、彼らは世界中から寄せられる情報の解析もしなければならないのだ。なのでこちらに帰って来た者達が解析や調査にも手を出すのはよくあることだった。


「・・・お」

「どうした?」


 渚が何かに気付いた様に思わず声を零したのを受けて、桐ケ瀬が問いかける。周囲が静かだったので尚更よく聞こえたのだ。


「これ・・・どうでしょうか。魔女とも言われる人物、ってあるんですけども・・・」

「王女メデイア?」

「メデイアメデイアメデイア・・・」


 渚の言葉を受けて、一同が資料を漁る。王女メデイア。もしくはメディアとも言われる魔術師の事だ。ギリシアの存在で、かつてカイト達が話題に上げていた名前だ。と、薫がそのメデイアについての記述を発見する。


「あ、ありました・・・王女メデイア。記されているのはギリシア神話のアルゴナウタイですね・・・」


 薫が見付けた部分の記述を読み上げて、一同に伝える。幸い、ギリシア神話の神々とはこの間の一件で縁が出来たと見て良い。手を借りるにしても、悪い選択肢ではなかった。


「ヘカーテ神に仕えていた巫女だったものの、神々に翻弄されて良いように使われて最後は捨てられた、と・・・で、最後はエリュシオンと言う場所を治める、とあります」

「うっわー・・・」


 王女メデイアの来歴を聞いて、一同がドン引きする。時代を考えれば仕方がないとは言え、それでもあまりに酷い、という一言しか無かった。


「で、彼女は生きている、と・・・確かなのか?」

「はい。一応生きている、とどこかに書いてあったはずなんですけど・・・」


 再度全員でガサゴソと資料を漁っていく。基本的には、これが何時ものやり方だ。データベース化されていないので、仕方がない。そうして捜索していたのだが、今度は最後が資料を見つけ出した。


「あ、あったあった。こっちあったぞー。数年前、えーっと・・・女王フィオナの地で生きていた事が確認・・・って、女王!?」


 読み上げていた彩斗が思わず声を荒げる。欧州で一番危険視されている存在の一人が、かつて彼らが謁見したエリザの母、女王フィオナだった。接触するには、少し危険過ぎる相手だった。


「マジかいな・・・ま、まぁ。ええわ。で、なんで王女メデイアなんや?」

「いえ・・・魔女と言われる程の魔術師なら、出来るんじゃないかな、と」

「ふぅむ・・・三柴さんに一回聞いてみるか・・・ま、その前に幾つかやることはやっとこ」

「はい」


 彩斗の言葉を受けて、一同は再度資料の調査を行っていく。基本的に調べるのは、有名な魔術師だ。とは言え、日本の魔術師達は既に無理、という回答を貰っていたので、大半が海外の魔術師だった。

 なお、日本の魔術師達が無理という返答をしたのは、西洋魔術と東洋魔術の方向性の差だ。東洋の魔術は基本的には消音性や隠密性に長けている物が多いし、世界そのものに影響を与える様な物は少なかった。

 対して西洋の魔術はよくファンタジー物で語られる様な結構派手な魔術も多く、世界に大きな影響を与える物も多い。自然と共に生きる東洋と、自然をなんとかコントロールする西洋の考え方の差が表れていた。


「他、考えられるんやとケルトの女王スカサハ、ヘルメス・トリスメギストス、ニコラス・フラメル、カリオストロ、アレイスター・クロウリーやら、か・・・この内、人間っぽいのは除外、と・・・」


 昼前になり、彩斗達はこれと思しい名前を網羅しておいた。まぁ、これらは当然天道財閥に残って調査をしてくれていた者達が調べてもいて、中近世の魔術師についてはほぼ用はない、と判断されて除外されている。一応、彩斗が名前を上げただけだ。


「ということは、この中でやっぱ気にしておくべきなんは、メデイア、スカサハ・オイフェ姉妹、マーリン、トリスメギストス、ソロモン、シモン・マグスあたり、か・・・」

「どこ居るんでしょうね、そこら辺の人達・・・」


 結局、彩斗達の調査で最後に残ったのは、調査班の面々が名前を挙げられつつも一切接触出来なかった者達だ。ここらは隠匿されていたり隠居していたり、で現地の神様達ぐらいでないと知っている者が居ないのである。天道財閥といえども、所詮は単なる一組織だ。アポイントさえ取れない相手は山ほど居た。


「まぁ、一番安全なんは、やっぱ『影の国』の女王姉妹か」

「だな・・・」


 彩斗の言葉に桐ケ瀬も同意する。『影の国』とは、スカサハが治める一種の異界だ。イギリスにあるとされる異界の一つである。ケルト神話の英雄クー・フーリンのお師匠様だった。クー・フーリンはケルト神話の主人公格の一人だ。そのお師匠様なので腕前は信頼出来る。

 更に言えば、現在日本とイギリスは同盟関係にある。しかも有り難いのは、日本は裏の意味でも同盟を結んでいるらしいので、アポイントを取るのは比較的容易だ、という事だろう。そして、これ以外にも気にするべき相手はまだまだ居た。なのでそれを桐ケ瀬が挙げる。


「他、ギルガメッシュ王を筆頭にした知恵者として知られる英雄達か、オモイカネら知恵の神、か。他にもオーディン神も会いたい所か・・・」

「なんか、一度は聞いたことのある名前ばっかりですね・・・」


 渚が疲れた様に苦い笑みを浮かべる。全部、有名所だ。が、それ故アポイントを取ろうとして、取れる相手ではなかった。居場所がわかっているのとて簡単に応じてくれるわけがない。

 なにせゼウスとの面会とて、一ヶ月交渉して、その上に彩斗という幸運が絡んだ結果だ。それを知る由もない彼らには、どれぐらい掛かるかわかったものではなかった。


「はぁ・・・とりあえず、飯行こか」

「ですね・・・」


 彩斗の言葉に全員が立ち上がる。丁度昼時になったのだ。そうして上に上がった一同だが、揃って昼ごはんを食べて仕事部屋に戻ってきた所で、事件が起きた。


「なんや!?」


 いきなり部屋に警報音が鳴り響いたのだ。それは何らかの危機が起きた時に鳴り響く警報だった。そしてそれが鳴り響いた以上、彩斗達は資料室から外に出て、状況を確認する事にした。


「・・・ええ・・・ええ・・・」


 どうやら、事件そのものは天道財閥の本社ビルで起きたわけではないらしい。が、連絡を受けた三柴の顔は険しかった。そうして、しばらくして三柴が受話器を置いた。


「・・・藤原千方が動いたそうだ。皇居へと襲撃・・・と言っても、今回はどちらかと言えば顔見せに近かったそうだ。安々と警備体制を抜いて、皇居正殿の屋根の上に手紙が残されていたらしい」

「手紙?」


 丁度彩斗が近かった事もあり、彩斗が代表して三柴へと問いかける。


「これより我らは日ノ本へと反旗を翻さん・・・だそうだ。天道財閥、神宮寺財閥は名指しで襲撃を示唆されていたそうだ」

「っ・・・」


 一瞬でざわめきが場を支配する。狙われている、とわかればざわつきもする。とは言え、それぐらい三柴にだって理解出来ていたし、その上の覇王達にしても理解している。というわけで、手は考えていた。先程の電話は覇王との打ち合わせだった。


「静まれ。手は考えている・・・天音。悪いが一仕事頼まれて欲しい」

「はぁ・・・俺ですか?」

「ああ」


 三柴はどういうわけか、彩斗を直々に指名する。確かに彩斗の立場や三柴からの信頼を考えればわからない話ではないが、それでもそこらの交渉に関してはこの部では筋ではない。なので彩斗は少し困惑気味だった。


「他の者は少し下がれ。少々、大きな話になる。他は悪いが、今日は泊まりになるかもしれん。防備を確定させて、お前らを帰す事になるだろう。用意だけは整えておいてくれ」


 三柴は集まった者達へ向けて、一応話を聞かない様に指示を送る。どうやらそれなりに込み入った話になるらしい。そうして、彩斗だけがその場に残される事になり、他は万が一に備えて泊まり込みの用意を整える事になった。


「で、なんですか?」

「ああ・・・この街にインドラ神が滞在なさっている事は、承知済みだな?」

「はぁ・・・あんま要らん事するもんやから見かねてアテネ神と共に天神市に滞在なさっとる、とは聞いとります」


 彩斗は首を傾げながら、御門の噂は聞いている事を言明する。と言っても、ここらの話を聞かされているのは彩斗や桐ケ瀬達ある一定以上の階級だけだ。流石に迷惑になる事を避ける為に、居場所を含めて三柴ら上層部だけが詳細を知っていたのである。


「実はな・・・インドラ神は今、ある学校で教師をなさっている」

「・・・はぁ?」

「寝耳に水なのはわかる。が、事実だ・・・それで、実はな・・・どういうわけか、浬ちゃんの担任なんだよ、そのインドラ神が」

「なっ・・・」


 三柴から話を聞かされて、彩斗が絶句する。と言うか、冷や汗が一気に吹き出した。何か下手な事はしていないだろうか、と不安で仕方がなかった。とは言え、そんな彩斗に対して、三柴が笑いながら念押しをする。


「いや、わかっていると思うが、浬ちゃんの通う天神市第八中学校は御曹司も通う学校で、御曹司と一緒に居ると怪しまれるから、と別クラスに編入した結果の偶然だ。あの学校には浬ちゃん以外にもそれなりの数の天道財閥所属の社員の子供が通っている。が、浬ちゃん以外クラスに配属されている子はいなくてな。幸運なのか不運なのか、と言うところだろう」

「ま、まぁ、確かに幸運っちゃあ幸運ですわな・・・」


 今の日本の状況を考えれば、インドラの庇護下のそれも一番近い所に居る、というのは何よりも安全な事だろう。というわけで、冷や汗を拭いながらも、彩斗も自分が呼び出された事情を理解した。


「つまり、天神市ではきちんと守ってくれる事を確約貰ってきて欲しい、という事なんですね?」

「そういうことだ。インドラ神はかなり馴染みやすい神らしいが、それでもやはり取っ掛かりは欲しい所だ・・・悪いが、頼まれてくれるか?」

「はい・・・っと、じゃあ菓子折り持って行かんと拙そうでしょね」

「だな・・・領収書切るのは忘れんなよー」

「はいー」


 三柴に見送られつつ、彩斗がその場を後にする。そうして、彩斗は浬達の通う学校へと、一人歩を向ける事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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