第100話 大精霊達への繋がり
カイト達のうっかりミスにより忘れられていた、大精霊というこの世で最も偉大とされる存在。それはどうやら神様達でさえも解呪が不可能と言われる『月影山の鬼』の呪いを解く事さえ出来る力を持っているらしい。なので話は必然、そこへと飛ぶ事になった。
「この世には、8人の大精霊と呼ばれる存在が居る」
浬のお説教から気を取り直したカイトが、語り始める。なぜ彼なのか、というと彼が地球上で唯一彼女ら全員と接点を持ち合わせる存在だからだ。
「それは火・風・土・水・光・闇・氷・雷の8種の属性を司る者達の事だ」
「8種・・・?」
「そうだ、浬。お前の持つカードに描かれた8枚の属性。それは全部、あいつらの力になっているわけだ」
「言っただろう? 貴様の力は兄を模した、とな。こいつだけが全ての世界においてただ一人、全ての大精霊から祝福と言う特殊な力を授かった者だ。それを模したわけだ」
「へー・・・」
浬は自らが貰ったカード束を見ながら、感心した様に頷く。どうやらそう言う意図があっての8種類だった様だ。
「彼女らの権能はこの世全て、それこそ全宇宙規模に渡って力を行使出来る存在だ。この世全ての者達が等しく、影響を受けている。例えば、火が無ければ生き物に体温は出来ず動けなくなり、土と水が無ければ人体は構成出来ない。風が無ければ、これもまた自由に動けなくなるだろう」
カイトの説明は続いていく。どうやら、本当に無茶苦茶偉大な存在であるようだ。と、そんな解説を受けて、カイトへと煌士が問いかけた。
「質問を良いですか?」
「ああ」
「祝福、と言われましたが・・・それはどんな物なのですか?」
「ん、まあ、これは力を借りる権限、という所か。他にも加護と契約という形があって、その最上位がオレが得たと祝福になるわけだ。加護は所謂この人は大精霊のお気に入り、という証の様な物で、地球でも無ければ一般的だっただろうよ」
「地球では無いのですか?」
「残念ながら、最近までは存在していなかった。色々と理由はあるが、そう言う力を知られると排斥される要因になりかねなかったから、が最大の理由だな。それ故、大精霊達も安易に戦闘になってしまう事を避ける為に、人の前には滅多に姿を見せなかったらしい。まぁ、攻撃出来る奴らではないんだが・・・時代的に狂信者とかも多かったらしいからな。万が一の万が一が起きると非常に拙い」
煌士の再度の質問に対して、カイトが少しの悲しさを滲ませる。ここらは、隠していても聡い煌士と詩乃、空也は気付けた。欧州で起きていた異族の排斥運動に纏わる関係だ。下手に与えた場合、逆にそれが目印になりかねなかった、という大精霊達側からの判断だった。
「加護はそういうわけで存在していない。契約は・・・これはまあ、所謂お前ら全員が想像する様なゲームの契約で良い」
「ゲームの契約・・・」
そう言われて、浬達が頭の中で大精霊という単語と共に思い浮かぶ状況を思い浮かべる。大抵の場合、大精霊とは偉大なる者とされていて、主人公達はそれの力を借り受ける為に試練に挑む、というのが古典的なパターンだ。というわけで、浬が想像したままを口にした。
「と、言う感じ?」
「そういうこと。試練を受けて、力を借りるわけだ。どれほど力が借りたいか、に応じて試練の内容や必要とされる力量は変わってくるな・・・が、言っとくけど、ゲームみたいにこっちのレベルに合わせて向こうがレベル落としてくれる、とか無いからな」
「ふーん・・・」
やはり浬達にはゲームで喩えた方が分かりやすかったようだ。それで納得していた。そうしてそうなると、今度は更に上とされる力へと疑問が飛んで、浬が再度重ねて質問した。
「じゃあ、祝福は?」
「内緒」
「えー」
「切り札なんだよ、オレの。教えると思うなよ」
不満げな浬に対して、カイトが肩を竦める。彼一人しかなし得ていない偉業とされているのだ。やはり隠すのは仕方がないのだろう。
「まあ、とは言え。そういうわけで、オレの知り合いってなると比較的ワガママ聞いてもらえる」
「・・・え? それ、良いの?」
「まぁな。それが、オレの本来の立ち位置なんで」
世界で一番えらい奴らに対して、ワガママを聞いてもらえる立ち位置。それは物凄い所なのだろうが、何がどう凄くてどういうメリットがあるのかさっぱりだった。なので凄いのだな、とはわかっても、浬達には何がどう凄いのかさっぱりだった。そんな彼女らの顔を見て、カイトが不満げに口をとがらせた。
「凄いんだぞ、これ。異世界ならまず間違いなくものすっごい尊敬されることなんだからな。おまけにこっちでだって神様達が一目置く程の大事なんだぞ」
「いや、凄いのはわかるんだけど・・・」
「えっと・・・どう凄いの?」
浬の言葉を引き継いで、海瑠が問いかける。やはりどう凄いのだ、とちんぷんかんぷんだった。
「んー・・・オレの本体の話になるが、全属性攻撃無効のチートとか」
「ゲームで言う所のチート装備?」
「んなとこ」
「・・・今ここで役に立つの?」
「・・・ぜんぜん。全く。からっきし。そもそも、この身体は使い魔だしな」
「・・・使えないじゃん」
「泣いていい?」
改めて指摘されて、カイトが涙を流さんばかりに落ち込む。念のために言っておく。これは地球だからこういう反応なのであって、実際にこれが魔術が普通に存在している世界であれば、カイトが物凄い尊敬を受ける様なとんでもない事なのだ。大精霊達とはそれぐらいに本来は尊い存在とされていて、真実尊い存在なのである。
「はぁ・・・貴様らそう貶すな。本来ならば、こいつ一人が出るだけでどの国だろうとどの世界だろうと大抵のワガママが通る様な凄いことなんだぞ? と言うか、事と次第によっては大事になるんだぞ」
「地球では?」
「・・・」
浬の一言に、フェルが黙る。答えはそれで十分だった。
「ま、まぁ、とりあえず偉大な奴らではある」
「その偉大な奴らを忘れてるって・・・それはそれでどうなわけ?」
「・・・」
「・・・」
カイトもフェルも二人して、浬の半眼での言葉に何も言えない。数ヶ月も忘れていた事は事実だ。ちなみに、御門が居ても何も言えなかっただろう。後に聞いた所、大いに焦っていたらしい。
「え、えーっと・・・ま、まあオレは常日頃声してたのがなくなったと言うか色々とあるわけでして・・・」
カイトが大いに照れながら、事情を語り始める。勿論、忘れていたのには忘れていたなりの理由があった。
「いや、ぶっちゃけるとオレの精神世界の中にはあいつらが常駐してるんだよ。で、常にぎゃーぎゃー騒ぐんだが・・・それが無くなってる事ですっかり忘れててな」
「大精霊が・・・ウチに?」
「しかも・・・常駐?」
カイトから言われた事が理解できず、浬と海瑠が首をかしげる。そもそもモルガンとヴィヴィアンに居た事も気付かなかったが、その上で更にそんな多くの者達が居たとは全く気付けなかったのだ。が、これはそもそも気付けない。
「オレの精神世界に、な。オレの頭の中に間借りしてるんだよ、常には」
「え、じゃあ今も居るの?」
「今は、居ない。このオレはだから使い魔なんだ、って。で、声もしないしなんも接触してこないから、完全に忘れてたんだよ」
浬の更なる問いかけに、カイトが己が使い魔である事を思い出させる。どれだけ本人に近かろうと、彼は本人ではない。本人ではない以上、大精霊達も常駐出来ないらしい。
「と言うか、正確には向こうの大精霊達が向こうのオレの精神世界に居る所為でこっちの大精霊達も気付いていないな、多分」
「気付いていない、って何に?」
「忘れられてる事。所詮、オレは偽物の使い魔。オレの分け御霊の様な感じだから忘れちゃいないんだろうが、それでも重点は向こうの本体だ。こっちには顔も見せないし、そもそも顔は出せない」
カイトは改めて、これが偽物である事を念押しする。そもそも本来ならば大精霊達さえ呼び出せるらしいのだが、今ではそれも無理なのであった。そこらが複雑に噛み合った上にここ当分の忙しさだ。忘れる土台は十分にあったのであった。というわけで、カイトはこの辺で解説を止めて、本題に入った。
「とりあえずそいつらの力を借りられれば、どうにでもなる。所詮『月影山の鬼』なんぞあいつらからしてみれば小物も小物。解呪なんぞちゃちゃ、とやってくれる」
「この場合は光の大精霊と闇の大精霊の二人だな。呪いとお前ら本体を分けて、呪いだけを吹き飛ばしてやれば良い。吹き飛ばすだけなら、モルガンでも出来る簡単な話だ」
とりあえず落ち着いた一同へと、カイトとフェルが改めて方法を告げる。
「そっか・・・じゃあ、モルガンちゃん。お願いね?」
「うん。任せといて」
浬から依頼を受けて、モルガンがしっかりと頷いた。これで、解呪までの道のりは立てられた。が、ここで一つ、問題が出た。それは、浬の質問によって、発覚する。
「で、その光と闇の大精霊さんって何処に居るの?」
「・・・あ」
「そう言えば・・・ソルのやつ、常には何処に居るんだ? エネフィアだったらチョチョイのチョイ、で呼び出せるし、光の大神殿に行きゃどうにでもなるんだが・・・」
なるのだが、ということはつまり、地球には無いということだ。となると当然、再び浬が声を荒げる事になった。
「知らないの!? 仲いいのに!?」
「ちょ、ちょい待ち! モルガン! お前、モルと会う前にルナの方と一度会ってたよな! あれ何処!?」
「ああ、ルナ様?」
モルガンがカイトの言葉を受けて、記憶を手繰る。実はカイトの場合は地球では向こう側からアクセスがあったので、こちらから彼女らへと会いにいける場所へは行っていないのだ。必要がなかった事も大きい。
大精霊の祝福は世界を越えても持ち越される為、向こう側が勝手に会いに来てくれるからだ。とは言え、今回は幸いな事に、その片方とも言える闇の大精霊と直に会った事のある者が居た。
一度闇の大精霊を経由して、光の大精霊へとアポイントを取れば良いだけの話だったのだ。幸いにして地球は飛行機に乗れば数日の内に地球上の大抵の所に足を運べる。問題は少なかった。
「えーっと・・・イギリス。<<常春の楽園>>の湖だよ。そこが、闇の魔力の集積地」
「よっしゃ! まず<<常春の楽園>>行きゃなんとかなる!」
「<<常春の楽園>>って何処なんですか?」
「ああ、先生の実家と言うか今の自宅がある所ですよ。アーサー王伝説のアーサー王が治めている土地ですね・・・と言うか、先生達が少し前まで行っていた所です」
侑子の問い掛けを受けたランスロットが、場所を明言する。ここらは彼らの地元というわけで、道案内も必要が無い程だ。
「あの、<<常春の楽園>>ですか? アーサー王が最後に運ばれたという・・・」
「ええ、あそこですね。今はモルガン殿に代わって、アーサーが治めています」
「おぉ・・・ということは、アーサー王と謁見が叶ったりとかは・・・」
「出来るんじゃないですかね。アーサーもカイトの弟妹達となると、非常に興味を抱いていらっしゃいましたし」
ランスロットの言葉には、アーサー王への尊敬と親しみがあった。それに、煌士はやはり彼がアーサー王物語の登場人物のモチーフとなった騎士なのだな、と妙な感動を抱いていた。とは言え、それはそれとして、煌士は一つ気になる事があった。それはイギリスという立地上の関係だった。
「とは言え、イギリスか・・・少し遠いな・・・」
「じゃあ、あの扉使えば良いんじゃないの?」
「おぉ。それはそうだ。使わせてはもらえないのか?」
煌士は鳴海の言葉にそれはそうだ、と思い、カイト達を窺い見る。こういう危急の時に使う為の物なのだ。使わないと損だろう。それに、モルガンが少し考える。
「んー・・・使っても良いんだろうけど・・・」
「そもそも、もっと訓練を積む必要があるんじゃないかな」
「え? それはどうして?」
「だって、力を借りるのであれば、試練に挑んで突破しないといけないんだよ?」
浬の問い掛けに対して、ヴィヴィアンが明言する。それに、逆に一同は疑問を得た。
「え? だって、お兄ちゃんならワガママ聞いてもらえるんじゃないの?」
「オレの本体なら、だ。ここのオレは使い魔。一応、多少のワガママは聞いてもらえるんだろうけどな」
「ちっ・・・使えない兄め・・・」
「なあ、ルイスー・・・妹が酷いー」
「ひっつくな馬鹿。お前は私のなんだ」
「婚約者。恋人。その他色々」
「うぐっ・・・」
一本取られた、という様な顔を少し赤面したフェルが浮かべる。まさにその通りだった。そうして、ちょっとフェルの側からカイトに引っ付いて、改めて話を進める事にした。なお、嫉妬したらしくヴィヴィアンとモルガンもちょこちょこと近寄った事は、全員スルーする事にした。そうしてそんなフェルが、少し照れ隠しの様に先を続けた。
「ま、まあそれは良いだろう。で、仕方がない。彼女らに主体的に活動してもらう為には、多少は試練を突破しないとどうにもならん。まあ、多少口利きをしてもらって、試練の内容を選ぶぐらいが関の山だろう」
「じゃあ、試練はされるの?」
「ああ。そればかりは、世界側が定めた事だからな。現にこいつも異世界の仲間に契約者が居たが、試練はきちんと突破させた。そこはそれとして、仕方がない事だ」
「まぁな。オレは所詮、あいつらを呼び出せただけだ。契約者に足るかどうかは、その人が示さねばならなかった」
カイトはその当時を思い出したのか、少し懐かしそうな顔をする。異世界エネフィアにおいて契約者となれるのは、100年に一人居るか居ないか程度。それほどに本来は難しい事だったのだ。
カイトはそれを自分の友人だから、と少し簡単にしてもらうぐらいしか出来ないのである。しかも試験内容についてはノータッチだ。居場所を探す事さえも本来は試験の内、だったのだ。それを省いた程度だった。そうして、フェルが明言する。
「まあ、そういうわけでどういう試練が来ても良いように、鍛錬だけは怠るなよ」
「・・・ということはもしかして・・・戦闘の訓練やってたのって、回り回ってラッキーだったって事ですか?」
「ああ、そうだな」
侑子の問い掛けを、カイトが認める。場合によっては戦闘が課される事も有り得る。何が試練として出されても不思議はない。それが、大精霊達の試練だ。災い転じて福となす、という事だった。と、そうなってくると気になる事が出たらしい。煌士が挙手した。
「あー・・・それは、我輩達も手伝っても良いのか?」
「ん? まあ、そこは聞いてみるしか無いな。大精霊達は一人ひとり性格は異なる。ソルだと・・・まあ、あいつは人に甘いからな。多分助力を認めてくれるんじゃないかと思う」
「そうか・・・では、是非とも頼む」
「ああ、分かった」
煌士の申し出に、カイトも応ずる。そもそも『月影山の鬼』が蘇ったのは、天道財閥の不始末が原因だ。手伝いたいと思うのは不思議な事では無い。
と、そうして試練へ向けて色々と考え始めたカイト達であるが、そうなるとやはり問題となるのは、どうやってイギリスへ行こうか、何時行くのか、表向きはどういう言い訳にするのか、という所だ。というわけで、ヴィヴィアンが議題を変えた。
「それなら、とりあえずイギリス行きはどうにかするか、だね」
「ああ、それなら・・・えぇと・・・あ、あったあった」
ランスロットは持ってきていた鞄から、一つの資料を取り出す。それは中学校の職員会議で使われている資料のコピーだった。
それは夏休みの間に行われた職員会議に関する物で、夏休み明けから復帰するランスロットに向けて御門が送ってきたものである。とは言え、内容を含めて知っているのはこの中ではランスロットだけだ。なのでモルガンが首を傾げて問い掛けた。
「なにそれ?」
「ほら、今年は天桜学園の転移があって、色々と荒れていましたから・・・修学旅行の行き先を決め兼ねていたのですよね」
「そうだったんですか?」
「ええ・・・本来は皆さんには聞かせるべき事では無いんでしょうけどね」
確かに、三年生に向かって修学旅行がもしかしたら無くなるかも、とは言いにくい。なので今の今までずっと厳重に隠されていたのである。
「これ、使えませんか?」
「まーた、あれをやれ、と?」
「たかだか数千万円じゃないですか」
嫌そうな顔のカイトに対して、ランスロットが笑いかける。とは言え、それではわからないのが、浬達だ。
「あれ、ですか?」
「ほら、彼らの年。修学旅行は海外だったでしょう?」
「あー・・・そう言えば・・・」
ランスロットから言われて、浬達が記憶を手繰る。今から、2年前。カイトがまだ中学3年生の頃の話だ。どこかの国の観光業者が新たに日本に参入したいのだが、と言う触れ込みで天神市第8中学校に接触してきた事があったのだ。そして費用は国内分で良いので、海外への修学旅行はどうだ、となったらしいのである。
「あれ、彼が企画してぶち込んだ物だったんですよね」
「えぇ!? ヨーロッパ旅行5泊6日の旅!?」
「だってイギリスでもギリシアでも北欧でもどこでも観光できなかったんだぞ。イギリスなんてバッキンガム宮殿で大暴れやったのに観光無し、だし・・・いや、その観光名所破壊したんだけど・・・でも、たまには自由に観光したいじゃん。でも状況許してくれないし、でしょうがないから修学旅行でぶち込んでやった。まあ、修学旅行はさすがにフランス一国にしたけどな」
どこか鼻息荒くカイトが事の次第を告げる。ちなみに、その旅行業者というのもきちんと存在していて、今では日本でもそれなりに知られている観光業者だ。そのパンフレットの一環として、カイト達が使われていたのである。
「あれ、楽しかったよねー」
「分身作ってどこにでも行けたから、ブルゴーニュでワイン作ってる農家さんと仲良くなったり、とかしたよね」
「なー。今年も送ってくれるかな」
「楽しみだね」
カイト達三人がその時得られたらしい縁を懐かしみ始める。どうやら修学旅行にふさわしい様な楽しい思い出が出来たらしい。ちなみに、時折フェルが飲むワインは、その農家さんが送ってくれたワインだったりする。何気にワイン好きの彼女が認める程の名酒だった。
「じー・・・」
「何だよ」
「お土産フランスのしか貰ってない!」
「だって表向きフランスしか行ってないし」
「ひどーい! と言うか、ずるい!」
「と、言うわけでカイトくん。ここは一つ、腹をくくって」
「先生は自分がアルト達に会いたいだけでしょ! ったく・・・海瑠と空也の手配なんか色々必要なのに・・・」
どこかうきくき気分のランスロットの言われて、カイトは仕方がなくイギリスへの手はずを整える事にする。幸いにして天神市第8中学校の三年生は総勢でも100人足らずだ。イギリスへの旅費はせいぜい一人10数万。団体割引など色々とやれば、費用はそこぐらいまで抑えられるだろう。昼食などはその時々で考えるとしても、2000万から3000万でどうにか出来る。
今の彼らの財源からすると、取るに足らない額だ。伊達に総資産数百億というわけではなかった。何気にエルザ達の稼ぎもカイトの懐に入ってくる――カイトを含めて各自の稼ぎは共有資産となっている――のだ。本当に今すぐにでもエルザのポケットマネーからぽんっ、と出て来る様な額である。
それに何より、妹たちの命もかかっている。下手に海外で居る所を見られて困るよりも、合法的に行けた方が良いのは良いのだ。悪くはない手だろう。そうして、浬達は修学旅行という名の大精霊に会いに行く為のイギリス旅行を決定する事になったのだった。
お読み頂きありがとうございました。




