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告白。

作者: 渡辺ころも

このような告白を受けたらあなたならどう答える?笑

 誰かがそれを認識ししてこそ、そのモノが存在していると言うことの証明となる。

 一つ例えるとするならば、宇宙の存在がその良い例である。

 人類が地球の外の空間の存在を証明し、それを人が認識した時、この世界で始めて宇宙が存在することとなった。

 シュレティンガーの猫や重力と言ったものまでそう言うことなんだと思われる。結局存在を証明するためには、誰かがそれを観測してその証拠を見つけなければならないことになる。


 とある部屋で、男女が机に向かって会話をしていた。


「さて本題だ。そこの冷蔵庫の中には何が入っていると思う? 開けて確認してくれないか?」

「え? そうね……」


 男は女の後ろにある冷蔵庫を指差して、ドアを開けて中身を確認するように促した。

 女は男に促され、冷蔵庫を開けてその中身を確認した。


「何本か飲み物が入っているわ。何か飲む?」

 男は頷き、「いや大丈夫だ」と答えた。


「では次だ。俺のこの握った手のひらの中には何が入っていると思う?」


 男は女の目の前に握った手のひらを見せる。

 女は一瞬考えるも、「さぁ、さっぱりわからないわ……」そう答えた。

 男はその答えを聞いて、握った手のひらを開けて相手に手の中を見せた。


「何もないよね」

「えぇそうね」

「それじゃ、もう一度聞く。そこの冷蔵庫の中には何が入っていた?」

「そんなのは見なくてもわかるわ」


 女は当然のようにそう答える。


「あぁそうだな。だが、見なくてもわかるだろうが、念のためにドアを開けて観察してくれないか?」

「何か変化でもあるの? もしかして何かのマジックショーなの?」


 女は男に言われ、冷蔵庫のドアを再び開けて中身を確認した。


「ほら、やっぱり何も変わりはないわ……トリック失敗なのかしら?」


 男はその台詞に静かに笑う。


「うん。どうやら今の間では冷蔵庫の中身に大きな変化はなかったようだね」

「当然ね」


 女の台詞に男は黙って頷く。


「大袈裟に言えば、経年劣化による物質の変化を除けば、今後誰も冷蔵庫の中身をいじらない限り、冷蔵庫のドアを開けてもその中身は変わることはないってことになる」

「えぇ、そうね。冷蔵庫の中が小さな宇宙ってところかしら」

「それを踏まえてもう一度聞く。俺のこの握った手のひらの中には何が握られていると思う?」


 再び男は女の目の前に握った手のひらを差し出す。


「んーと言うことは、あなたのその手のひらの中には先ほどと違って何かが握られている可能性もあるってことになるのね」


 男は頷く。


「そのとおり。では何が握られていると思う? それとも冷蔵庫の中身同様、何も変化はないと思うかい?」


 女はしばらく男の手を見つめて悩む。


「んーダメね。ギブアップ。エックス線でも当てれば別だけど、この状況だけでは手のひらの中身なんて私にはわからないわ」

「あぁ確かにそうだね」

「もしかして何も握ってないんじゃない? ふふ」


 男は女の答えを聞き、手のひらを開けて中身を見せた。


「残念。今回は小さな封筒が入っていたね。要するにそう言うことだ。それを観察、認識するまで、そこに何があるかなんてのは神様以外誰にもわからないってことになる」

「えぇ、そのとおりだと思うわ。でも、全く話が見えないわ? この話、私をあなたの部屋に呼び出してまでしたい話なの?」

「見えないモノを含め、その物の存在を証明するためには誰かがそれの存在を証明し、人々がそれを認識しなければならない。でなければ、道端に生える雑草ですらこの世に存在しないと同義になってしまう」

「うーん確かにそうね。広く言えば新種の発見や、人類の歴史を紐解く行為もその一つよね」


 女は困惑した表情を浮かべる。男はその女の困惑した表情を見て、この話題の真意を語りだす。


「では、本題に入ろう。この俺の胸の中に存在する君に対する感情は何だと思う?」

「……」


 男のいきなりの告白に女は思わず笑ってしまった。


「いきなりなに? あなたが私のことが好きだって以外の感情? そんなの私にはわからないわ。でも、今の話の流れで考えれば、あなたのその感情を証明するために私があなたを観察し、その感情を認識、証明しなければならないと言うことになるのかしら? 要するに今日は人生相談? それとも……」


 別れ話を切り出されるのではないかと思い、さらに女は困惑した表情を浮かべる。

 しかし男は、女のその表情を前に対しても意に介さず、自分のペースで会話を進める。


「ここ最近、俺は自分の胸のうちに宿る君に対する違和感について悩み観察していた。そして最近俺がこの違和感の存在を認識した時、初めてこの感情の存在が証明されたと言うことになる」

「あら、もうその存在がなにか証明され、認識されてしまっているのね。で、私に対する違和感ってのはなんなのかしら? 気になるわ」


 女は少し肩を落とし、落胆の表情を浮かべた。

 それでも男は語りだす。


「既に俺は自分の胸の中のこの感情を証明してしまった……。それにより俺の胸の中にある君に対するこの感情を存在を証明してしまったと言うことになり、君に対するその感情が初めて存在してしまったと言うことになる……」

「えぇそうね。でも、くどいわ。はっきり言って頂戴」


 女は少し苛立っていたのか、少し男に対して言葉尻が強くなっていた。

 女は自分でもそれがわかったのか、少し自戒の念を込めた。

 別れ話なら『飛ぶ鳥跡を濁さず』……と言うことなのだろう。


「他人と築く人間関係と言う不確定な状況においてもそういうことなのだろう……、と俺は思う」

「結局どういうことなの?」

「簡潔に言うとすれば、付き合って五年……どうやら俺は君のことを心のそこから愛してしまったみたいなんだ……。君がよければでいいんだ……、僕と結婚してくれないか……?」


 男は手のひらで握っていた小さな封筒を開け、指輪を取り出しプロポーズをした。


 おわり。


誰かを好きになるっていいよね。

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