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第一話 プロローグ

 ―1―



「ふぁ……ああ、眠いねぇ」


「なら寝ればいいだろう」


「そしたら川にぶん投げて俺達は帰るからよ」


「そういう所外道だよね二人共」


 何故俺もやる側に含まれているのだろうか。いや、まぁもちろんやるんだが。

 そんな考えを飲み込んだまま言葉を否定せずに親友の非難がましい視線を無視しつつ、陸守(くがもり)紫鷹(しよう)は上体を起こし、陽光を斑に反射する川面へと視線を向ける。


 住んでいる家と通っている高等学校の間、いわゆる通学路の最中にある大きな幅を持つ川。

 その川を挟むように存在する草原とさらにその外側にある小高い土手は昔からの遊び場であり、昔馴染みの友人と共にくれば大抵今でも遊び場になる。


 いや、ボールの一つでもあれば、この三人はまるで決定項であったかのようにキャッチボールを始めることも珍しくない。

 教頭のカツラにさえボールという役割を求めてキャッチボールをしようとする三人なのだから、ボールがあればなお行うだろう。むしろ行わないわけがない。野球の硬球でドッジボールすら厭わないに違いない。


 ただ今回は遊び道具を誰一人所持しておらず、流石に高校生になってただの鬼ごっこをする気も起きないのか、三人は土手の傾斜に横になり、柔らかな草を寝床としてゆったりと寛いでいた。


「にしてもまぁ、暇だなぁ」


 そう呟いたのは紫鷹の左隣にて後頭部で手を組み、だらしなく大欠伸をしながら体を大地に投げ出している男――海師(かみつかさ)一葵(いっき)


 不機嫌を露わにしている少年と紫鷹よりも一際大きな体、そもそも男子高校生の基準からしても逞しく巨大なその男は、その無駄な運動神経や巨体を活かすこともなく帰宅部に所属している。


 何かしらの部活に所属すれば持て余している暇さも無くなるのだろうが、紫鷹が入学時に帰宅部を表明すると嫌な顔一つせず「じゃあオレもだな」と言って部活届を破り捨てたこの男に、彼の居ない部活動に参加する気は毛頭無いらしい。

 紫鷹は別にそんなことを求めてはいなかったのだが、その意思は本気であったらしく、現在においても帰宅に精を出している。


 しかし、様々な部活のピンチヒッターとして紫鷹共々、そしてもう一人を加えた三人で呼ばれて遊んでいるためつまらなすぎるという評価に至る高校生活は送っていなかった。


 そして、一葵と同様の理由にて帰宅を共にするもう一人が、紫鷹の横にいる。

 彼は暇だと発言する一葵の言葉を肯定するように頷いた。


「まぁねぇ……ああ、そうだ。この前二組の前田くんが再戦しようぜって言ってたよ。新しいゲーム作ったからって」


「あん? 懲りねぇな、あいつ」


「だねぇ、アオに何回負けてるのかな、前田くん」


 紫鷹越しに一葵へ愛称で語りかけた少年は、先程まで浮かべていた不満げな顔を何処かへ投げとばし、可愛げな――そう、男なのに、男から可愛いと評価される顔で、コロコロと笑みを浮かべていた。


 空伯(からかみ)暁良(あきら)。愛称はリョウ。

 紫鷹のもう一人の親友であり、彼よりも体格が小さく、華奢な印象を受ける少年。


 しかし、それでいて運動神経も良く、学業成績も悪くない。容姿は可愛いと表現されることからも悪くないことが窺えるだろう。

 事実、基本的に異性からの評価が高いこの少年は、今まで多くの恋文関連を異性と僅かな同性から受け取っている。


 本人は至ってノーマルだと公言しているにもかかわらず、一年の文化祭での女装披露により火が付いた男共からアプローチを受けるこの少年は、一歩間違えば笑えない悲劇の主人公と化す。

 それが下手をすれば魔王に攫われるヒロイン枠だというのだから、巻き込まれる側である紫鷹と一葵は面倒なことこの上ない。


 だがそれ以外のことでは大抵がむしろ巻き込む側であるのだから、お互い様というものだろう。


「なら明日にでも早速押しかけようぜ、タカ」


「そうだな。ちょうど休みに入ることだし、向こうも時間があるはずだ。ちょうどいいだろう」


 己の愛称と共に話しかけられた紫鷹は悠々と頷き、明日のことを考える。

 明日は終業式。学生にとっての一年の節目である。


 高校一年生の期間が終わり、少々長い休みを挟んだ一月後には三人共二年生になる。

 式は午前中で終了するため、休みを宣言された生徒達は家に帰るか部活に行くか、それとも遊びに行くかすることだろう。


 ゲーム制作部の前田の今までの行動から考えれば、彼がラストホームルームを終えればすぐに部活に直行することは予想に難くない。

 早めに訪れて部活の物を壊さない程度に遊び倒すことにしようかと、そう紫鷹が考えた時だった。


「……あれ? ねぇ、あれ何?」


「ん?」


「どした?」


 怪訝そうな声に、紫鷹と一葵は同時に暁良の方へと視線を向ける。

 暁良は緑の絨毯に背を付けたまま眉を顰めて空を見据え、空へ向けて手を掲げて指差していた。


 それにつられ、二人も上を向く。

 視界に映るのは澄み渡るような青い空に儚げな柔らかさを思わせる白い雲。

 そして、その二つから逸脱するように異色な存在感を漂わせている黒い球体が、そこにはあった。


「おいおい、あんなんさっきまであったか?」


「いや、無かったはずだ」


 反射的に一葵が体勢を整え、遅ればせながら紫鷹もすぐに動けるように足を立てる。

 暁良もそれに倣うように起き上がり、基本的にお気楽な表情の多い顔を真剣な物に仕立て上げている。


 どうやら二人の反応を見てあの球体が油断できなさそうな存在だと判断したようだ。それくらい見て分かりそうな物だがと考えつつ、それがリョウかと紫鷹は気にしない。


「真上……だな。それに相当でかい」


「そうだね……なんか、周りが全然反応してないから、正直幻覚かと思ったよ」


 幻覚だとしてもあれを見てのんびりする方がおかしいと思うも、周りを一瞥して紫鷹も何故幻覚と考えるのか理解できた。


 確かに暁良の言うとおり、周りはのんびりとしたものだった。いや、あまりにも日常然としすぎていた。

 川辺では子供達が依然として元気に遊んでいるし、土手の上の道を老人がゆっくりと散歩をしている。


 とてもあの異物をきっちりと認識しているようには見えない。

 もしかしたら、警戒している彼らすら、見えていないと思えてしまう程に自然だった。


 そこまで考え、紫鷹は周囲の状態に気を配ることをやめた。球体自体が異物であるということは、無理に周囲に気づかせた時、余計なパニックを生じさせる可能性がある。

 それに、危険な存在ではないと分かれば、周囲に知らせる必要性も無い。得体が知れないことは確かだが、今すぐに何かが起きるという様子は見られなかった。


 黒い球体の表面は、紫鷹の位置から見た限り、とても滑らかな物のようだ。微塵も乱れの無い光沢を生み出し、一種の宝石を彷彿させるその姿は、心の隅で綺麗だという感想を生み出させるも、やはり天空にある時点で違和感を残す。


 しかし、球体はその場から移動するような素振りを全く見せず、一向に消失する気配も見えない。

 動かず、何の反応も見せないというのであれば、一度離れるのが無難かと紫鷹は口を開く。


「おい、ここから離れッグゥッ!?」


 けれど、言葉を遮るようなタイミングで、如何なる予兆も無しに、突如として尋常ではない耳鳴りに苛まれた。


 考える間もなく体をくの字に曲げ、反射的に両手で耳を押さえ、歯を食いしばる。

 だが、手の障壁など関係が無いかのように、そもそも神経へ直接響いているのではないかと思える程に治まらない高調音が、容赦無く脳を蹂躙する。


 揺れる視界の中で暁良と一葵も耳鳴りの影響を受けているのか紫鷹と同様に頭を押さえてしゃがんでいる姿を見るが、それをどうにかできるような状態ではなかった。


 稀に起こる耳鳴りを何倍にも強化し、三半規管を大いに狂わせようと揺らしているかのようなそれは、両手を頭から離そうという気概を強引に引き剥がし、体を起こす猶予すら与えない。


 はっきり言って何かを考える余裕はほとんど無いが、それでも、僅かに回せる頭で考える。視界の端に見える子供達は普通に遊んでいるようだし、土手の上を歩く老人はゆっくりとして穏やかな物だ。

 周辺では耳鳴りが起きているような様子は無く、それはつまり、この災害としか思えないような耳鳴りは紫鷹達三人に対してのみ起きている現象ということになる。


 流石にこれ以上の範囲を見回す余裕は無く、徐々に身体が締め付けられるような痛みさえ感じるようになった所で、とどめを刺そうとしているかのように耳鳴りの威力が増し。


 ふと、音が消失した。


 まさにいい加減止んで欲しいと思い始めた矢先の、完全な消失。

 頭蓋骨が軋むような猛烈な頭痛を伴う程に強化された耳鳴りが最後に襲ってきたが、そんなものはそもそも無かったかと思えるほどに、音は消え去った。その余韻すら一切残されていない。


 体を満たすのは、指一本すら動かすことが叶わない状況下から一挙に抜けだしたかのような、なんとも言えない開放感。

 耳鳴りも含め、一体何が起きているのか把握しきれない現状に愚痴を呟こうかと思いながら目を開く。


 黒の中に、少女が座っていた。


 座した状態で紫を僅かに混ぜる艶めいた黒髪を地面に横たえさせ、闇を赤紫色の花吹雪が彩ったかのような着物を纏い、黒銀の鎖でその四肢、胴体を拘束された少女。


 齢は十程と言った所か。そんな年端も行かぬ少女の服に、体に鎖は容赦無く食い込み、しかし彼女は微塵も苦しみの様を露わにしない。ただそうあることが当然であるかのように、割座の姿勢で、ジッと、赤紫色の瞳を、紫鷹へと向けていた。


 幼くも端正な顔立ち。つぶらな(まなこ)と幼気な輪郭は、紛れも無い童女の物。けれど、その瞳の奥に宿る感情は、心は、無邪気以上に無感情だった。


 何故、この年頃の少女が、こんな目が出来るのかと、紫鷹は仄かな疑問と共に得体の知れない僅かな恐怖が、己が心中に居座ったことを感じ取る。


 刹那。


 鎖により動きを制約されているとばかり認識していた、腿の上に力無く置かれていた両手の内、右手を徐ろに紫鷹の方へと掲げ、掌を上に向けた。


 その緩慢で、それでいて妖艶さを感じさせる仕草に、童子の幼さなど露とも存在しない。意識せずとも自ずと引きつけられる流麗な所作に心を溶かしていると、己の方へと招こうとするように、伸ばされた指が小指から順に閉じていき、最中(さなか)、不意に少女の小さく、赤い唇が動いた気がした。


『来て』


 鼓膜を揺すったとは思えない程の、小さな音。しかし、それでも確かな声として捉えた瞬間、紫鷹の体は、少女の前に跪くようにして目線を同じくしていた。


 何が起きたのか。一切己の体が動いた感覚も記憶も無いにも関わらず、立っていた自分がいつの間にか跪いている。そして、遠かった彼我の距離も、まるで元から無かったかのように、少女の顔を目の前としていた。

 自ずと視線が交差する。


 可愛らしいと思える、童女の顔。それでいて見た目の歳と釣り合わぬ、小さな口から溢れる、何処か艶のある吐息。


 異様に感じる矛盾ながら、幼女の中に感じる艶やかさという認めたこともない代物に、紫鷹はどうしようもないような背徳感と高揚感を、そして湿り気を帯びたそよ風が頬を撫でる度に、何故か恐怖心に駆られていた。


「有り余る白、先の見えぬ未熟さ……そして稀なる資格。〝器〟と〝鍵〟が、やっと、揃った」


 明確に聴覚を刺激し、識別された声音。鈴を思わせるほどに澄み、如何なる色の感情も乗せていないかのような透明感を孕む、小さな音。


 耽美な華の匂いに陶酔したかと思う程に、もう一度、もう一度と心がその声を望む。しかし、同時に聞いてはならないと、精神の奥底が叫びをあげていた。

 けれど、何故か紫鷹は逆らえない。逆らおうにも、考えたその矢先から抵抗という意思が消失していく。


 不意に、少女の襟元がずれ、頭を傾けた拍子に髪の隙間から、陶磁器を思わせるほどに白く、散りかけの花弁を思わせる儚げな柔肌が晒される。

 何なんだと、一瞬の思考が為される内に視線がその白肌へと吸い込まれる。そして、体が勝手に動いていた。


 やめろ。

 止まれ。

 動くな。


 そう心で呟くも、徐々に、そして確実に、それが近づいていた。しかし、生まれるも消えていく想いの残滓が届いたように、ほぼ触れ合うかどうかという寸での所で、動きが止まる。


 握れば容易く折れそうな、白く儚げな首筋。何故、自分が少女へ迫っているのか。それも理解できないままに為していた動きを止められたことに、紫鷹は心中で安堵のため息を吐いた。

 だが、その安心は、鈴の音により打ち消された。


「許す。故に、これを(ちぎり)とする。()め」


 何が起きたのか。


 理解する前に、口腔に広がる鉄の匂いと、至高の甘美な味が思考を痺れさせる。

 耳元で紡がれる、紛れも無い快楽を元にしたかのような、弱々しくも妖美な吐息。

 そして続く、重々しい何かが一挙に砕け散ったかのような、崩壊の音。


 美麗な鈴が、また鳴った。


「……告げる。(わらわ)が名はキオウ。真名は語らず。されど今これより――」




「――其方(そのほう)の魔王なり」



 ―2―



 淡い花の香りが通り過ぎた気がした。


「ん……? なん、だ……?」


 紫鷹は重い瞼を上げながら、ゆっくりと上体を起こす。

 寝起きの妙な気怠さを感じながら、それでも何処か清々しい気分を自覚しつつ、自分が寝ていて、今起きたのだと判断する。


 そして視界に収めた光景に、静かに驚愕した。


「海……は? 海?」


 彼方まで続く濃い青が、水平線の境から薄い青へと色彩を変えるその風景は紛れもない母なる海。

 夏休み、行く度に魚の捕獲数を競い、負けた人間の首から下を支柱にして巨大な城を作るという遊びを幾度と無く敢行してきた、屈辱と情熱の思い出に塗れた場所が、目の前に広がっていた。

 花の香りなど、潮の匂いに満ちている現状で漂ってくるとは思えない。


「……いやいやいや、俺達が居たのは川原で……決してリョウの頭を飾った首里城等が有った砂浜じゃない」


「今僕の醜態を引き合いに出す必要有ったかな!? 有ったかな!?」


「なんだ、居たのか五リョウ郭」


「やめて!? 寝そべらせられて精巧に作られた城と僕の愛称を混ぜないで!」


 イントネーションを変えただけできちんとツッコミを入れてくる辺り幼馴染の理解度が半端ではないとのんびり考えながら、紫鷹は声のした方へと顔を向ける。

 そこでは紫鷹と同じく起きたばかりのように上半身を起こし元気な暁良と、ボリボリと頭を掻きながら呑気に欠伸をして起き上がる一葵の姿があった。

 二人共、何かしらの異常を被っているようには見えない程に、紫鷹にとって常日頃見慣れた姿を晒していた。


「ふぁあぁ……んぁ? ここ何処よ、なんか綺麗な海あんじゃん。砂もむっちゃ綺麗。リョウ埋めて大阪城作ろうぜ、タカ」


「今さらっと無条件で僕埋められる提案しなかった!? 容赦無く支柱にしようとしなかった!?」


「いや……今回は西洋版だな。バッキンガム宮殿で行こう」


「おお、趣向を変えんだな? 乗った」


「乗り気でなんてことを!? ちょ、やめ、本気でやめてぇえええ!」


 砂浜と森の中間のような場所に居た紫鷹と一葵が不幸な少年の両脇を持って建築に向かおうと歩みだす。二人よりも背の低い彼は、抵抗虚しく建築現場へと運ばれる。

 紫鷹は良い砂弄り日和だと、明らかに自分達が妙なことに巻き込まれていることを感じつつ、それを無視して腕を掴む力を緩めずに歩を進める。

 目先の不安よりも今の楽しみ。生贄を礎とし、作り上げるきらびやかな宮殿に思いを馳せた。


 一人の親友への不条理など、微塵も心を揺るがさない。




「うぅ……ほ、本気で埋められる所だった……」


「おいおい、オレ達がそんなことするわけねぇだろ? なぁタカ?」


「当たり前だ、何故親友を無条件で土に埋めなければならないんだ」


「二人共、その穴を掘った形跡を消そうとしてる手を止めて僕の目を見ようか」


「一体ここ何処だよ、オレ達川原に居たよな?」


「そうだな、可能性の一つとして川に流されて浜に辿り着いたという線はどうだろう」


「むーしーすーるーなー! ってタカ、流石にそれはありえないと思うよ、うん」


 喚く女顔少年を無視し穴を埋めながら適当に話をし始める二人。一度声を荒らげる暁良も、すぐに気を静めて話に参加し始めた。

 その気分の浮き沈みの円滑さに中々な熟練度を感じさせるが、それが当たり前になっている三人にそれを言及する意思は全くない。


 紫鷹は暁良に否定された考えを、だろうな、と特に気にした様子もなく内心ですんなりと同意する。彼自身もありえないと思いながら言ったため、却下されることに抵抗は無かった。


 目を覚ました時、潮の匂いはあろうと、海に浸かった後の独特の臭みを衣服からは感じられず、倒れていたのは波が寄せてくる前浜からは遠い、最早森と浜の中間地点。肌の感覚からも海水が乾いた際のベタつきが感じられなかった。


 とても、海から打ち上げられたような状態とは思えない。


「僕達の服は制服のままだし、海は超絶綺麗だし、人気は一切無いし……そもそも人の手が入ってる場所が見えないし」


 ここ日本なの? と首を傾げて問う暁良に一葵がさてなぁと軽く返す。軽い。はっきり言って現在地が分かっていない状態とは思えない程に軽いが、これはこの場所が日本であることを疑っていないが故の物ではない。


 そもそも、透き通るような透明感を持つ海と地平の果てまで続く砂浜など日本には……などと考えている紫鷹の脳裏に、ふと鳥取砂丘の名が浮かぶ。

 日本最大の砂浜であるあそこであればあるいは……と行ったことも無い場所のことに思考を割きながら、紫鷹は現状を加味した上での考えを述べる。 


「学生カバンも無く、身に付けていたケータイも無し。連絡手段が完全に無いとなれば……歩くしかないな」


「うへぇ、当ても無しに歩くってか? 面倒くせぇなぁ」


「ついでに食べ物でも見つかればいいんだけどねぇ。で、どっち行く?」


「浜に沿って……海を真正面に、右に行くか。下手に森の中を歩いていて毒蛇等と対面しても面倒だ」


「だなぁ。まったく、一体ここは何処なんですかねぇっと!」


 勢い良く立ち上がる一葵に倣うように、二人も立ち上がって服についた砂を払う。歩き出す前の軽い準備運動をする三人の顔に鬱々とした物は一切無い。むしろ、広大な海を眺めながら白砂の浜辺を歩くことに楽しみを見出している風さえも感じられる。

 その顔に、これからへの不安などは一切見られなかった。


 歩き出す直前に、一葵がふと何かを思いついたかのように紫鷹の方へと顔を向ける。


「なぁタカ、そういえばここってよ――」


 ボグン。


 唐突に生じた何かが爆発したかのような音が言葉を遮る。

 発生源は歩もうとした方向とは逆、彼らの背後。 

 無論、何の音かを確認しようとして三人は同時に背後を向いた。そして、即座に無言で前へと駆け出した。


 それはもう、風を置いていくように、全力でその場から離れようとするように、脇目も振らずに駆けていく。

 何故彼らがそんな行動に出たかと言えば、理由は簡単。




 人の体など優に超える大きさのハサミを持った、巨大ガニが砂浜から出現したためである。


「何アレ、なにアレ、なにあれ、何あれ! なんかゾウより大きかった! 大きかったんですけど!」


「形状はスベスベマンジュウガニに酷似しつつ、あの巨体。突然変異種だとしても、あそこまでの巨大化は現実的じゃないな。何より全身緑は見たことがない。新種か?」


「何冷静に分析してんだ馬鹿野郎! ってやべぇえええ! なんか大量に出てきやがったぁああ!」


 砂浜を駆けていく横で連鎖的にボグンボグンと砂が巻き上がり、緑色の甲殻が姿を現す。

 紫鷹が軽く背後を一瞥してみると、最初に出現したと思われるカニ、及びそれに追随するカニ達が追いかけてきていた。横でなく縦歩きで。それも尋常でない速度で。オカルト関係なくまさにホラーである。


「スピードを緩めるな、追いかけてきてるぞ」


「マジで!? ってうおっ!? 音的に追いかけてきてんのは分かってたけど縦歩きかよ! てか群れで追いかけてくるとかこえぇなおい!」


「大きいよ絶対あんなの日本にいないよというか命の危機しか感じないよ!」


 最初見た時は五匹。

 もう一度一瞥すれば十匹。

 さらに一瞥してみれば十五匹。

 見る度に五匹ずつ増え、相当な重量があるであろう甲殻類達の歩行に合わせて地響きが起き始める。明らかに普通の人間に対処できる存在かつ数ではなかった。


「なぁやっぱりこれあれだよな! な!?」


「そうだな、やっぱり鍋だな。身がぎっしりと詰まっていそうだ……待て、あの体でミソはどれだけ入っているんだ? それによって事前の調味が変わるんだが……」


「ちげぇよバカ! 誰もどんな風に食うかなんて気にしてねぇよ! てかあのカニ共食う気かよ! いや、食べれそうだけどよ、確かに!」


「え、もしかしてカニミソで作る味噌汁とか出来る!? 気になるよ、実は僕ずっと前から気になってたんだよカニミソ汁! いっぱいあるなら出来るよね!?」


「て め え も か!! 馬鹿野郎ちげぇだろそういうことじゃねぇだろうが!」


「そうだぞ、流石にカニミソだけの味噌汁は生臭いだろう。ん? でも味噌汁にカニミソを入れるのは有った気がするな……材料があれば今度作るか」


「流石タカだね! ほらアオ、タカがカニミソ使った味噌汁有るってさ!」


「誰がカニミソの使い方で議論しようとしたよ!? ちげぇんだよそういうことを言おうとしてんじゃねぇよ!」


「お前、まさか……流石に、こんな所に住んでいるカニを生で食うのは、寄生虫とかがな……」


「なんで俺がそんなかわいそうな子みたいな視線を向けられないといけねぇんだよ! ちげぇよもう一旦カニから離れやがれ!」


「なるほど、エビだな。何やら増えているようだし、ちょうどいい」


「うわ、何あの極彩色エビ! 食べたくない、食べたくないねあれは!」


「食べ物全般から離れやがれぇえええええ!」


 背後に襲ってきているとしか思えない巨大甲殻類二種。それから逃げている彼らからは、微塵の切迫感も見えはしなかった。


 三人の内に漂う、日常然とした空気。数多で巨大な縦走りガニといつの間にか増えていた人間の大人程の大きさを持つ極彩色エビに追いかけられていても、拭い去られることのない余裕という概念。


 全力で走りだしたはずが全く疲労感が無く、彼らは息切れすらしていない。しかしスピードはいつもの最高速度を維持していた。

 最初にそれを不思議に思ったのは、基本的に頭脳労働担当な男。


「ふむ……身体能力が向上している、のか?」


「あん? ……ああ、そうだな、じゃあやっぱりあれじゃねぇのか!?」


「つまりドーピング……どうするの僕達捕まっちゃうよ!」


「てめぇは何の競技に参加してんだよ全世界鬼ならぬ甲殻類ごっこ大会とかですかぁっ!?」


「ということはあのカニやエビは鬼ならぬ甲殻類役かつ審判!? だから追っかけてきてるんだね!」


「真に受けてんじゃねぇよドアホォ!」


「おいアオ、ちょっと出来ると思い込んで今よりも速いスピードで走ってくれ」


「いきなり真面目そうな雰囲気で何言ってんだよオメェはよ!? てかそれくらいのことテメェがやれや!」


「お前だからこそ言っているんだ。大丈夫、お前ならば出来ると信じている。妄想スキルレベル98のお前ならばな!」


「明らかに人聞きの悪いスキルを勝手に習得させてんじゃねぇよてかレベルたけぇなおい!」


「レベル上限は50だ」


「限界突破で上限二倍近くとか俺のレベルやべぇな! そんでお前がオレのことどう思ってんのかちょっと話し合いませんかね主に拳でぇ!」


「まぁあれだ、とっととやれ」


「横暴だなちきしょう! てかそんなことして何が――」


 瞬間、大地が爆発したが如き轟音。同時に猛烈な勢いで砂が背後へと散弾が如く飛び散り、先頭のカニが真正面から衝撃を受けてバランスを崩す。そしてそれに巻き込まれる形で後続の甲殻類達が倒れていき、その穴を埋めるように別のカニ達が並ぶ。

 仲間達が傷つき倒れようと執拗に獲物を狙う、しつこい重装兵である。


 そんな骨無し節足動物の非常さには目もくれず、隣から消えてしまった親友一人の所在を探す二人。その親友は、音と散弾砂を生じさせるとその場から姿を消していた。


「えっと……あ、居たね。なんか前に居る」


「ああ、徐々にスピードを落としているな」


 いつの間にか大分前の方でゆっくり走っている男を見つけ、特に驚きもせずにのんびりと会話する二人。紫鷹は単純にこういう結果になるだろうと考えていたために一葵が前にいることには驚かないが、暁良は単純に速いなぁくらいのことしか考えていない。

 基本的な頭脳労働を誰がしているか、分かりやすい二人である。


「……おう、ただいま」


「うん、おかえりー」


「どうだった、光の世界は見れたか」


「見る余裕なんざねぇよ、なんだあの速さ。しかもまだ疲れてねぇし、なんだこれ」


 スピードを緩めた一葵が普通に合流し、そのまま話を始める。もはや背後の甲殻類のことは誰も気にすらしていなかった。


「予想通り、身体能力を俺達の意識が制限しているんだろう」


「うん? つまり、アオの妄想が意識の制限を振りきったってこと? アオの妄想すごいね! 妄想で自分の限界を超えられるなんて!」


「バカにしてるようにしか聞こえねぇんだよ! 俺の妄想がハンパねぇみたいなこと言うんじゃねぇ!」


「妄想神アオ……イケるな」


「イケねぇよ何を創造神みたいなイントネーションで妄言吐いてやがる!」


「で、まだ出力は上がるか?」


「だからいきなり真面目な話になんじゃねぇよ!」


 はぁ、と一つため息をついた一葵はニヤリと笑う。それだけで回答内容は予想がついたが、一応話を聞こうと紫鷹は耳を傾ける。


「ああ、正直まだ速く走れそうだぜ? ちょっと油断して、歩法が使えなかったけどな」


「そうか……となると、あいつらも倒せそうだな」


「まぁさっきは普通に逃げちゃったけど、正直言って全然怖くないもんね、なんか」


 後ろを見やりながらの暁良の発言に、紫鷹と一葵も無言で同意する。反射的に駈け出してしまったが、はっきり言って三人にはそれほど恐怖は無い。


 すでに追走してくる甲殻類の数が五十を超え始めているが、それでも命の危機は一切感じられなかった。むしろ記憶の中にある人物の方が怖いと、三人の中で意見が一致する。

 そして同時に、その怖い人物があの節足動物を一人で蹂躙する様をも想像する。


「……あれ、なんか、楽勝な気しかしてこなくなったんだけど」


「ああ、あの人がカニを手刀で真っ二つにする姿を想像したら勝てる気しかしなくなったぜ」


「なんだ、お前もあの人のことを考えたのか。俺もエビをアルゼンチン・バックブリーカーで仕留める様を想像してしまった」


「「「……………」」」


 三人が共通して思い出した人物は、笑いながら人間技を超えることを繰り返していた。


 大樹を蹴り切り、クマを殴り倒し、滝を気合で押し返す。

 膂力もさることながら、その戦闘技術も天下一品。

 というか色々と人間としてありえないレベル。


 彼らが密かに考えている人類最強生物が嬉々として巨大節足動物を撲滅していく光景など、彼らにとって想像するに難くなかった。


 そして思い出す。

 三人で挑み、勝てたことのないその人物から学んできた技を。

 そして抱き出す。

 逃走の意思をねじ伏せる、圧倒的な闘争心を。


「……やるか」


「「おう!」」


 紫鷹の言葉を皮切りに、三人は今までの速度が何だったのかという速さで駆け、立ち止まって背後を向く。

 走ることをやめたことで加速により作り上げた甲殻類軍団との彼我の距離が見る見るうちに消えていくが、彼らの顔に恐れはなく、むしろ遊びに出かける子どものように、嬉々とした表情を浮かべていた。


 人間と甲殻類が、ぶつかる。



 ー3ー



 アゼイサル海岸近辺にてヴェラルシオとベリードエギの大量発生の可能性あり。


 その報告はアゼイサル海岸最寄りの街、ナリオレンの冒険者ギルドに緊張感をもたらした。


 Cランカーの冒険者数人で一体を相手するべきとされる巨大な緑のカニ、ヴェラルシオ。

 そのヴェラルシオと同等の脅威とされる、極彩色の巨大エビ、ベリードエギ。


 この二種が大量発生などすれば、瞬く間に近辺の村々が壊滅しかねない。海辺を主な生活区域とするモンスター二種であるため、即座に内陸部へ被害が及ぶとは考えにくいが、アゼイサル海岸から距離を置いた場所には漁村が幾つか存在し、川を辿れば別の村も存在する。


 数が揃えば自ずと討伐ランクがBランク、下手をすればAランクまで上がるモンスターの大量発生。

 被害が出る可能性を、否定しきることは出来なかった。


 報告を受けた国、そしてギルド上層部は、即座に状況確認のための人員を派遣することを決定し、ナリオレンに滞在しているBランカーとAランカーに偵察依頼を申請した。

 そして、その依頼を受けたBランカーの中でも上位に入るソロ冒険者、セリアル・ノレードは、すでにアゼイサル海岸の隣接するアゼイサル森林に歩を進めていた。


(……森にいるはずのモンスター共が鳴りを潜めてやがるな……ちっ、こりゃぁ本当に湧いてやがんのか……ん?)


 周囲への注意を怠ること無く駆けて進んでいたセリアルは、不意に聞こえてきた音に眉を顰める。ソロでの冒険者生活で自ずと鍛えられた聴覚は、森で発せられはしないような、遠方の音を聞き取った。

 硬い物体がぶつかり合うような音が、連続して響いている。いや、それだけではない。重量感のある衝撃音も、絶え間なく轟いていた。


(なんだぁ、この音……ヴェラルシオ辺りの数が増えすぎて、縄張り争いでもしてやがんのか? ……だとすると、ちとやべぇな)


 群れを作っても、さほど争いを起こさない巨大ガニ。それが争ってしまうほどに数が増えているのだとすれば。

 そう考え、詳細な報告を迅速にギルドへ届けるために、セリアルは音が聞こえる方へと足を速めた。


 モンスターの大量発生から長い時間を置けば、そこからさらに数が増えるのは自然の道理である。

 モンスターの繁殖スピードは人間と比べるべくもなく早い。歴史上、脅威とは認識されないモンスターの大量発生を無視していて、その結果国がそのモンスターに蹂躙されたという出来事も存在するのだ。

 故に、本当に大量発生か否か。もし本当に大量発生が起きているのだとすれば、その情報を確実に素早く持って帰れるように、大量発生モンスターを相手にして一時的にでも対処が可能、かつ、逃げ切ることが可能な冒険者が偵察任務を請け負う。


 偵察だけでなく殲滅も任せられることもあるが、殲滅は冒険者を集めての集団任務にした方が冒険者の生存確率が高いため、偵察のみを任務内容とする場合が多い。

 報告が遅れる程に、危険度が上がる可能性があるのだ。下手に殲滅を任務内容に入れて、冒険者がモンスターに対応しきれずに亡くなり、折角入手した情報を無駄にするよりも、ただ偵察だけを任務にして情報を持ち帰らせた方が効率的に、そして人材消費的にも都合が良かった。


 セリアルも偵察任務のみを請負い、出来得る限りの速さで情報を持ち帰ろうと考えていた。考えていたのだが。


(……なんじゃこりゃあ。三人? 三人の……若造? 三人の黒髪の若造が黒い服を着て、次々と素手でカニ共を駆逐してやがる……)


「しゃあっ! 思い出してきたぜぇえええっ!」


 最も体格の大きい男は拳をアッパーカット気味に甲殻へ打ち付け、人の何十倍もの重量を持つはずのヴェラルシオが為す術もなく打ち上げられ、落下する。頑丈であるはずの殻は拳に負け、陥没し、割れていた。もはや、再動の気配は無い。


「これ、で、よし! さぁ、次ぃ!!」


 最も体格が小さい、というか女のように見える男(推測)が僅かに指を曲げ掌を開いた状態でベリードエギの甲殻に高速で押し当て一瞬でその場かた退避する。何故か動きを止めたエビは、一泊置いて内から甲殻と共に肉が爆ぜた。ナニアレコワイとセリアルは呟く。


「……………」


 そして、最後に中間的な体格の男。この男、ベリードエギの物と思われる人の腕程の刃渡りを持つハサミを千切ったのか、それを両手に持ち、黙々と振るって甲殻類達の脚を脆い関節部で全て切り取り、目すらも切り落としていた。


 ベリードエギに関しては首の甲殻の隙間にハサミを入れるなどしているため、神経を断ち切り跳ねて逃げ出さないようにしているのだろう。

 先ずその動きの精確さ、そして身動きを制限された甲殻類の頭部を僅かでも余裕があれば俊敏に容赦無く蹴り潰していく冷淡さ。三人の中で明らかに駆逐数も多く、標的を切り替えていく速さがずば抜けており、熟練の腕を感じさせる。不思議と敵にしたくないという印象をセリアルは抱いた。


 そもそもこの三人、動きが見るからに速すぎた。元来砂上では砂に足を取られるはずが、ほとんど砂を宙に舞わせることなく、一体を葬っては次の一体と流れるように移動し、その動きに翻弄されるようにヴェラルシオもベリードエギも目標を絞ることが出来ない。


 というか、あの速さで移動しているにも関わらず足が砂に取られないというのは、セリアルにも出来ない所業であった。

 少年達はやたらでかい死体が溜まれば動き回れる空間へと少し移動するという行動を繰り返し、徐々に砂浜が無残な甲殻類の死体で埋め尽くされていく。


 その数は明らかに五十を超え、海中や砂浜の下から次々と新たな増援が現れる。しかし、だからと言って気勢が削がれているような気配は無く、その動きに疲れも見せず、むしろその精度は増していくばかり。さらには加速しているようにすら見えてくる。

 齢三十を超えたセリアルは、明らかに年下で種族も同じ人間であると予想される彼らが無手(一人装備を現地調達)でモンスターを蹂躙していく様子に、思わず唖然としてしまった。


「人間か、あいつら……」


「アンタもそう思うかい?」


 不意に背後から聞こえてきた声に、僅かに筋肉を緊張させて振り向く。その際、反射的に腰元に携えたナイフへと手を伸ばしている辺り、唐突な襲撃に対し慣れていることが窺えた。

 ただし、今回はその慣れにそれほど意味が無かった。


「はいはい、そんな物騒なもんに手を伸ばすんじゃないよ。アタシのこと、忘れたのかい?」


「レイデ……お前もこの依頼を受けてたのか?」


 まぁねぇ、と軽く返すレイデと呼ばれた女性は、樹の幹に隠れるセリアルに倣うように移動して木の影へ身を隠す。所々に金属を付属させた革鎧と布の服という軽装なセリアルとは違い、フード付きのローブで首から下を覆い隠しているため服装の全容を見ることは叶わない。


 ただし、長い藍色の髪と栗色の瞳を持つ彼女の容姿は、少なくとも麗しいと言わざるを得ず、ローブを押し上げている確かな母性は、伴侶の居ないセリアルの本能を少なからず刺激する。モンスターと人間の大乱闘を前にしても反応してしまう男の(さが)に、セリアルはため息をついてレイデから目をそらした。


「まさか魔法専門のお前がこの依頼を受けるとはな……なんだ、長年研究してた移動用の魔法でも完成したのか?」


「まぁ、少し目処が付いたって感じかねぇ……ちょっとした試運転にちょうどいいと思って受けた依頼だったんだけど、中々面白そうな子達がいるじゃないのさ。あれ、ほとんど魔力使ってないんだよ? どうなってるんだろうねぇ」


「あん? あのちびっこいのがやってる妙な爆発みたいなのもか?」


「そうさ。まぁでも、なんか別の何かを使ってる気もするけどねぇ。セリアル、あの子達見たことあるかい? この地方の冒険者は粗方顔を知ってると思ってたんだけどねぇ、見たこと無いよ、アタシは」


「俺も知らねぇよ……というか知りたいわ、なんであいつらあんな簡単にあのモンスター達仕留めてんだよ。その上えらい速いし、どっかの山奥で育てられた秘蔵っ子かなんかじゃねぇか?」


「ああ、その線が強いかもしれないねぇ。三人共同じ服を着てることを考えても、何かしらの機関に所属しててもおかしくないよ」


「あー、それは面倒くせぇな……厄介事は好きじゃねぇから、巻き込まれるってのも嫌なんだけど、これはしょうがねぇ。明らかな大量発生状態のモンスターの群れに若造共を置いて帰ってきたなんざ、ギルドの連中に一生蔑まされるぜ」


「何言ってんだい、お人好しセリアルなんて有名な二つ名じゃないのさ。どうせ加勢する気だったんだろう、アンタは」


「やかましい、俺をそんな風に呼ぶんじゃねぇよ」


 けっ、と忌々しそうに唾を吐き捨てたセリアルの手元に、大人程の刀身を持つ大剣が何処からともなく顕現する。刃幅は明らかに三十センチを超えており、常人では柄を握り思うがままに振るうことなどできはしないだろう。

 だがその柄は右手でのみ握られ、下に向けられた刃先すら地面に触れていない。完全に、右腕の力のみで大剣を持ち、それを維持していた。

 それを見て笑みを深くしたレイデの手にも、いつの間にか一メートル程の長さを持つ木の杖が握られていた。


「何笑ってやがんだよ」


「なんでもないさ。そうそう、アタシもソロだけど後衛寄りなんだよねぇ。言いたいこと、お分かり?」


「へいへい、俺が前衛で守ってやんよ、だから好き勝手に暴れな、お姫様よぉ!」



 ――【ヘルデオード】――



 瞬間、小声ながら不思議な響きを孕んだ声が、レイデの鼓膜を揺する。

 それはセリアルが発した、文言。


 魔法の発動詠唱名。


 彼の体を淡い緑色の光が一瞬包み、全身に力を漲らせる。そして響く、大地を割るかの如く轟音。瞬きの間にその場から消えたセリアルは、すでに鉄の大剣を振るって三人の若者の戦場へと参上していた。


 斜め切りの一刀の下にカニとエビを数体切り伏せているその剣技と高い精度の身体能力強化。

 そろそろAランカーに近いんじゃないかしらと呟きつつ、突然の援軍の登場に驚いている様子の若者達の様子を笑みを浮かべながら見つめ、自身も行っていた力の集中を解き放つ。


 魔法を、紡いだ。



 ――【ペルエ・サイ・ラカノエイサ】――



 Bランカー冒険者、レイデ・アルノランスが魔法。

 赤雷の鎗が織り成す弾幕が、砂浜を蹂躙する。




 三人の若者と、セリアルの存在など関係なく。



 ―4―



「おいおいおい、一体何が起きたよ? 赤いミサイルですかこの野郎」


「んー、なんかバチバチっていう弾けた音聞こえたし、雷か何かかな?」


「ふむ……であれば、雷の鎗といったところじゃないか? どうなんだ、中年」


「中年言うんじゃねぇよ、俺はまだ三十一だ!」


「「「え」」」


「本気で意外って顔すんじゃねぇよ若造どもぉおお! というかてめぇら、本当になにもんなんだよ!」


 無差別に降り注ぐ雷の爆撃を軽く避けつつ、湧き出るカニとエビを潰していく四人。

 冒険者として生きてきたセリアルとしては、呑気に会話をしながら飄々と狩れる三人が信じられなかった。


 魔法により身体能力を上げている自分と同等、もしくはそれ以上の身体能力を発揮し、かつ疲労の色を全く見せない。

 その上何時途切れるかも分からない雷撃を避け、着弾後の爆発の余波をダメージではなく勢いとして利用し攻撃し始める始末。


 あらゆる戦闘に対しても対応できるような訓練を経験してきたようにしか、セリアルには見えなかった。


「てかさぁ、オッサンいきなり割り込んできたけど何なんだ? 危ねぇぞ、こんな巨大多足生物の前に出てきちゃぁよ」


「大剣で切れるんだねぇ、この殻。あ、でも僕達壊せるね。同等?」


「まぁ蹴り潰せるからな。至って問題はない」


「魔力無しでその実力というのがあり得ねぇんだよぉおおお!」


「「「魔力?」」」


 キョトンとした表情を返した三人を見て、セリアルは「へ?」と思わず気を抜く。瞬間、その隙を突くように雷撃が足下を直撃、姿を覆い隠すほどの盛大な土煙が上がった。


「オッサァアアアアン!」


「そこまで知った仲じゃないけど一応言っておくね、オジサァアアアアアアン!」


「大剣は墓に刺しておこう、中ねぇえええええええん!」


「てめぇらぶっ潰すぞゴラァアアアア!」


「「「あ、どもっす。次、あっちで」」」


「舐め腐っとんのかぁああああああ!」


 怒りの表情を浮かべながら三人が指さした方向にいる甲殻類を、着弾により生じた砂煙から出た瞬間律儀に狩りに行くセリアル。

 汚れは目立つものの、怪我類は一切見られない。容易に甲殻類を駆逐する雷鎗の衝撃を物ともしない防御力に紫鷹が興味深そうな視線を向けるが、今は気にしても仕方ないと目の前の殲滅に集中する。


「それでよ、マジでこの雷なんなんだよ。オッサン、なんか知ってんだろ」


「オッサン言うな! ああ知ってるさ! こりゃあ俺の知り合いの魔法だよ! てかあいつ、こいつらの実力も知らねぇで何を無差別攻撃してやがる……避けれねぇかもしれねぇこと、忘れてんじゃねぇだろうな!」


「オジサン、そんな怒らなくていいよ。これくらいなら避けれるし。というかこの爆発なんてあの拳圧にも劣るしね、鎌鼬すら作られてないし」


「拳を避けられようと、拳圧を避けなければ身が切られる……あの攻撃を喰らった時ほど、どう対処すればいいのか迷った時は無い。拳自体を避けても、攻撃範囲は拳の及ぶ範囲ではないんだからな」


「お前らその若さでどんな修羅場潜ってんの!?」


「「「って魔法!?」」」


「おっせぇな!? それに反応すんのおっせぇな!? てか見りゃ分かんだろうが、なんで分かんねぇんだよ!?」


 声を荒げながら襲い来る敵を殲滅し、降り注ぐ雷撃を回避していくセリアル。紫鷹達三人も驚愕の声を上げつつも同じことをしているが、その心中では魔法の存在に心を揺さぶられていた。


 主に、使いたいという方面で。


「魔法、魔法……くそ、やっぱりこれあれじゃねぇか。いや、大剣持ってるオッサンがいる時点で分かってたんだけどよ……魔法いいなぁ、おい!」


「炎! 僕炎見たい! 後ほら、龍の形した魔法的な何かとか! 僕にも使えるかな!? 使えるかな!?」


「雷や火、水や土などの典型的な魔法も良い。だがここはやはり毒や腐食関係の魔法が便利だろう。身動きを制限できるし、使い方さえ間違えなければ強いと思っている。中年、そういう魔法はあるのか?」


「見るからにはしゃぎだすんじゃねぇよそして中年って呼ぶんじゃねぇよ! てか一番冷静に見えるお前、考え方が現実的なんだよ! ガキならガキらしく目立つ魔法を考えやがれ! って、くそ、こんな話してる場合じゃなかった!」


 ペースが乱されるぜ、ちきしょう。そう忌々しそうに呟いたセリアルは、付近のカニ達の位置を確認し、大剣を握る手に力が込められる。


「てめぇら、隙を作るからついて来い。文句も意見も質問も後だ、今だけでいいから年長者に従いな!」



 ――【ペルノ・ドルノアイガ】――



 文言と同時に展開するは大地の隆起。

 砂浜から飛び出すとは思えない、鋭利にして強固な土の牙が彼らの周囲に居た甲殻類の装甲を容易く貫き、物言わぬ塊へと変貌させる。

 紫鷹達を器用に避け、それでいて全ての牙が一つも余すことなく現状砂浜に上がっている全ての重装兵を片付けた。

 しかし、新手は尽きない。砂浜から海中から、滞ること無く現れる。まさに切りがなかった。


「こっちだ、ついて来い!」


 それでも、幾ばくかの余裕を見て取ったセリアルは三人へと声をかける。その気勢に一切の衰えもなく、未だ余力を残していることは明らかだったが、それでも引くことを選んだ彼は三人へと声をかけた。

 そして、駆け出す前に辺りを見渡し。


「俺はハサミ、リョウは脚、アオはエビだ」


「よっしゃ、食糧ゲットだぜ!」


「身が詰まってそうなのは、これかな!?」


「俺二回くらいついて来いって言ったよなぁ!?」


 戦利品を漁っている光景に、思わずツッコミを入れる熟練冒険者。

 思わず話を聞いていなかったのかとさらに怒声を浴びせようと口を開くが、その瞬間横を三つの風が通り過ぎた。


「遅いぜオッサン! 道案内してくれよ!」


「どっち行くの!? とりあえず森でいい!?」


「雷は森から来ていた、おそらく仲間が森にいるだろう。置いていっても問題は無いはずだ」


「くっそ、なんだこの切替えの早さと湧き出てくるムカつきはよぉおお!」


 からかい耐性がそれほど無いBランカー冒険者、セリアル・ノレードは若造にからかわれるという現実に思っていた以上の苛立ちを覚えながら顔を逃げ先へと戻す。


 身体能力を強化した状態であれば追いつける速さで先を行く三人と足を並べ、少し前に出て先導して森へと入る。その際、レイデが居たであろう場所を一瞥したが、物の見事に姿を消している様を見て舌打ちして先を急ぐ。

 相も変わらず引き際の判別が上手い女だと、自分に魔法を当てない気遣いを見せなかったことを叱る機会を逸したことを悔いた。


 そして、背後で煮るか焼くか生かという調理手段の相談を普通にしている若者達に、本気でそこら辺に置いていこうかと思い悩み始める。

 何故この三人は巨大なモンスター達に囲まれた状態であそこまで緊張感が無いのか、不思議でならなかった。




「……ここまで来れば、問題ねぇか」


 狭い森の中に追撃が及ばないことを確認し、休むに足るくらいの広さを持つ場所を見つけて立ち止まるセリアルに紫鷹達も倣う。三人からすれば彼の言葉に従う、行動に倣う必要も無いのだが、目の前で大地から巨大な刺を生じさせる魔法を見せられたことで好奇心が刺激され、自ずと追随してしまっていた。

 ちなみに、年上だから言葉に従ったというような事実は、彼らの内に存在しない。純粋なる好奇心の結果である。


「ところで、すでに砂浜からここまで来てなんだが、別に問題はねぇよな? 何かしらの依頼を受けて戦ってたとか、あいつらと戦う必要があったとか、そういうことはねぇよな?」


「単純に追いかけられたから迎え撃っただけだな。別の理由を強いて言えば、食料確保だ」


 美味そうだろう、と収穫物を三人同時に掲げてセリアルに見せる。日本に居た彼らであれば食欲の湧きそうにないゴテゴテの色合いの生物も含まれていたが、どうやらすでに食べ物としての認識に移行しているらしい。

 色々な意味で逞しい少年達である。


 そしてセリアル自身は収穫物には目もくれず、自分の質問に応えた紫鷹に表情を崩さず「そうか」と返す。何かしらの依頼、事情を邪魔してしまったのではないかという考えが杞憂であったことに安堵しつつ、敵意のような物が彼らから感じ取れないことを確認する。

 そもそも敵意以前に緊張感のような物が見られなかったが、これであればコミュニケーションを取ることに問題は無いだろうと判断した。


「とりあえず自己紹介だ。俺はセリアル・ノレード。ナリオレンにある冒険者ギルドでBランカーをやってる。好きに呼べ」


「名乗られたのであれば名乗り返そう。俺は陸守紫鷹だ。紫鷹と呼んでくれ、中年」


「オレは海師一葵、苗字なげぇから一葵でいいぜ、オッサン」


「僕は空伯暁良ね、暁良でいいよ、オジサン」


「呼び方に悪意を感じるぜ……」


 どう呼ばれていたかを忘れ、早くも好きに呼べと言ったことを後悔する。その中でも紫鷹の中年呼びが心に響いていた。

 まだ三十一。中年と呼ばれる年齢ではない。違うんだ。そう己を落ち着かせようとするように心に語りかけながら、肩に横にして担いでいた大剣を地に突き刺して空いた手で目頭を抑える。

 泣いては、いない。


「そこの……あー、シヨウ、だったか? せめて中年と呼ぶの、やめてくれ……オッサンで許容するから」


「分かった、中年のオッサン」


「やめろぉ!」


 顕著にダメージが大きくなった。ひどい。


「冗談だ。俺はノレードさんと呼ぼう」


「さっきの呼び方と差がありすぎるぞ!」


 戦いを終えて体は無傷にもかかわらず、その後の少ないやりとりで心に幾らかの傷を負う。

 助けに入らなければよかった――そもそも助けが必要だったのか疑問だが――と少々後悔しながら、とりあえず話をするために流れを断ち切ろうとセリアルが軽く咳払いする。


「あー、一応聞いとくが、お前らは冒険者か? この辺りじゃ見かけない顔なんだが」


「いや、違う。そもそも冒険者という分類がどんな物か俺達は知らん」


 なぁ二人共、と同意を求める紫鷹の言葉に、横に居た親友達は二者二様の肯定を返す。特に問題があるという様子には見えないその態度だが、セリアルは怪訝そうに眉をひそめた。


「冒険者を知らない……? お前ら、一体どんな田舎から来たんだ?」


「自分から命を絶つ人間が年に数万に及ぶ場所から来た」


「それはどんな地獄だ!?」


 数万の犠牲が出るというだけで尋常な事態ではないというのに、それが自殺で為されてしまう。

 それがどのようなことで生じてしまうのか想像も及ばないセリアルは、あまりの恐ろしさに声を荒らげて思わず紫鷹達から一歩引いた。


 そして同時に、その話が本当であれば三人の強さは納得の行く物だった。

 数万人の人間が自分から命を絶ってしまいたくなるような過酷な状況下で、それに負けることなくこの年齢まで生き延びている彼らは若くとも明らかな猛者。


 己の人生は楽な物だったとは言わないが、命をかける場面に幾度も対面してきた彼でも、過去を振り返って自殺したいと思った記憶は無い。

 どれほどの苦行を目の前の若者達はその歳で乗り越えてきたのか。想像すらできないが、つまりは自分には想像に及びもしないほどの惨劇を見てきたのだろう。

 もしかしたら、そんな地獄から逃げ出してきた、ということも考えられる。


 そういう結論に一人で至った、というか思い込んだセリアルは、「くっ」と苦悶の声を上げる。

 そんな彼を見て、自分達が臓物飛び散る戦場を幾度と無く乗り越えてきたような存在に思われたことを知らない三人は、軽く首を傾げていた。

 明らかにこの場の空気は噛み合っていなかった。


「そう、か……お前ら、苦労したんだな……」


「おい、なんかあのオッサン勘違いしてねぇか?」


「いや、俺もそれを誘発しそうなことを言いはしたが……あそこまで効果があるとはな」


「オジサン、思い込み激しいんだねぇ」


「何をぼそぼそ言ってるんだ?」


「「「なんでもないなんでもない」」」


 三人同時に顔の前で手を振る。見るからに誤魔化そうとしているのが分かる言動だったが、セリアルは踏み込もうとすることなく、むしろ引き下がる。

 聞かれたくない、思い出したくないこともあるだろう。ならば野暮なことは聞かず、自然と話し始めたら熱心に聞くというスタンスがいいに違いない。

 会って一時間も経っていないのだが、世間からお人好し、もしくは世話好きと呼ばれる彼に、紫鷹達の事情に踏み込む気も、彼ら自身を放っておく気もすでに無かった。

 本当に思い込みが激しく気の良いオッサンである。


 そしてそんな気の良いオッサンは、オッサンらしく気を回した。


「……お前ら、行く所無いなら俺と来ねぇか? しばらく分の宿代食事代くらいなら貸してやれる。あの強さだ、条件が良ければすぐに冒険者としても傭兵としても成り上がれるだろうから、貯まった時にでも金を返してくれればいい。良い条件だと思うぞ?」


「え、いいの?」


「いいのかよ、それ。アンタに得がねぇぞ」


「はっ、ガキが損得なんて気にすんじゃねぇよ。それに得ならある。お前らが強くなったり高い地位についたら、そんなお前らとの縁ができんだからな。それで十分だろ」


 にやりと笑いサムズアップ。紫鷹達がオッサンオッサンと言うが、実は老け顔ではあるものの見目が悪いわけではない。イケメンというよりもハンサムという言葉が似合うこの男はガキの二人や三人賄えねぇ訳がねぇと、大きな音を立てるほどに力強く胸を叩く。


 その時、ふとセリアルの背後から声がかけられた。 


「ほんと、お人好しもいい加減にしないと自分の首を絞めることになるよ、セリアル」


「あん? 居たのか、お前」


 紫鷹達にとって聞き覚えの無い声のした方へ顔を向けてみれば、そこには藍色の髪を靡かせる女性。

 杖を持ち、どうしようもない男を見るような目つきでセリアルを見やりながら、彼女はゆっくりとした足取りで彼へと歩み寄る。その口は、とても楽しげに弧を描いていた。


「居たわけじゃないねぇ、アタシが来たのはさっきだから。アンタがその子達をナリオレンに連れて行こうとしてるのを聞いてただけさ」


「そうかよ。で、お前は反対すんのか?」


「しないよ、そんなこと。アタシとしちゃ、こんな若い子達があのむさい男連中みたいになっちまうんじゃないかって心配なだけ。遠目から見ただけでも危険な部類だからねぇ、この子達。正直、本気で向かって来られたら魔法を使う前にお陀仏な気がしてならないよ。即戦力としては十分すぎるんじゃないかい?」


「それに関しちゃ、同意見ってところだな。俺もこいつらに同時に襲ってこられたら勝てるか分かんねぇし……ああ、先に紹介ねぇとな。こいつはレイデ・アルノランス。基本的に魔法系の……ってお前ら、魔法見て驚いたり冒険者を知らなかったりって時点で常識が怪しいんだが、そこら辺はどうなんだ? 例えばこれ、金なんだが知ってるか?」


 レイデの紹介をしようというところでこのふとこの三人が常識に疎い可能性を考え付き、試しにと懐に入れてある幾らかの金銭を取り出して紫鷹達に見せる。


 自分のことを置いておかれて少々不機嫌になった雰囲気を出す人物に気付かず平然としている男の姿に、ああこの人色々鈍いんだな、と共通認識を新たにする三人。

 しかし、後々彼がどのような制裁をされるのかよりも金銭に興味を持った彼らは、戸惑う素振りを見せもせずにセリアルに近づき、手元の硬貨に視線を向ける。


 そして出された三人の回答に、そうかと苦笑を漏らしたセリアルは、教えることが多そうだと、心中で小さくため息をついた。

プロローグ……うん、まぁプロローグってことで(((――)))

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